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そしてお見合い当日の午後7時。
ついぞレオンに通信をかけることが出来ないまま、レイラはこの日を迎えていた。
朝から精神から来る頭痛がして、痛み止めを服用してそれを押えていた。
彼女は会場のレストランが入る、高級ホテルの前でハイヤーの車を降りた。東部領都で最も高層なそこは、最近オープンしたばかりだった。
ストッキングなどで露出を抑えながらも、そのスタイルを存分に生かした、膝丈のスカートの裾がゆるく広がる紫系のドレスを纏っていた。
彼女はその圧倒的な存在感で、性別を問わず行き交う人々の視線を集めていた。
しかし、最上階のレストランに向かうレイラは、全くと言って良い程楽しそうではなかった。
やはり、レオンに嫌われてしまったのでしょうね……。
あの後、日取りと場所を記載したメッセージ以外、1度たりともレオンからの通信はなかった。
やはりあのような、察することを強要する真似などしたのです。当然の報いでしょうね……。
直通のエレベーターに乗っている間、レイラは酷く後悔しながら、昔レオンから貰ったヒールの先を見つめていた。
エレベーターのカゴが最上階に近づき、せめて相手に失礼がないように、とレイラは指揮官としての表情を作った。
レストランはブラウンを基調とした、落ち着いた雰囲気の内装になっていて、燕尾服の演奏家が中央にあるステージのピアノで、スウィングジャズを演奏していた。
パーティションで窓側以外の3方が仕切られた、窓際の端の席でお見合いの相手は待っていた。
「どうもシュルツさん」
お初にお目にかかります、と店員に通されたレイラへ挨拶し、立ち上がって一礼する。
軍人の幹部候補生である彼の風貌は、筋骨隆々な体格もあって一見ワイルドであるが、物腰も柔らかくそれと同時に上品さも兼ね備えていた。
「なるほど。休日においても自己研鑽を怠らない姿勢、ですか。流石『英雄の影』と呼ばれるお方だ」
「はあ。どうも……」
席に着いた彼は、レイラを退屈させないように、ユーモアを交えて趣味や休日の過ごし方など、お互いの人となりを理解するための会話をする。
しかし、レイラは必死に平静を装ってはいるが彼との会話も、料理を口にするときも、どこか半分上の空といった様子だった。
「ご気分が優れませんか?」
心ここにあらずなレイラを見て、フォークとナイフを置いた相手は、心配そうに彼女へ問いかける。
「ああいえ……。あまり、こういう所へは足を運ばないもので……」
緊張しているだけです、とは言うものの、彼からは明らかにそれが原因だとは思えなかった。
「すこし、席を外されてもかまいませんよ」
「……すいません。ではお言葉に甘えさせて頂きます」
楽しんでいるようには見えない自身に気を遣う、彼の厚意にあずかって、レイラは1度屋上の空中庭園へ夜風に当たりに向かう。
「何をやっているんでしょう、私は……」
ただでさえ最終的に保留と伝えるつもりの上、過度に気を遣わせるなど、失礼の上塗りではないですか……。
エレベーターホールから外に出たレイラは、ライトアップされた浅い池の上に架けられた木道を歩き、建物の淵までやってきた。
彼女が居るのは、出入り口からだと人目に付きにくい、水辺を模した植え込みの陰だ。
手すり子部分が強化ガラスの板になっている、四角い金属製の欄干をつかむレイラは深々とため息を吐いて俯く。
肘まで欄干に乗せて、ボンヤリと街の灯りを見下ろしていると、彼女から見て左側から茂みを回り込んで誰かがやって来た。
その誰かは先程のレイラと同じ様にして、深々とため息を吐いた。
ふと彼女は、酷く迷っている様な声を漏らす、その彼の方を何気なしに見る。
「――。……レオン?」
「……ん? レイラ……?」
彼の正体は黒ライダースジャケットを着た、今ここに居ないはずのレオンだった。




