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『神機』:護りし者  作者: 赤魂緋鯉
幕間 6-1 『少将』レイラ・シュルツの憂鬱
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                    *



 そしてお見合い当日の午後7時。


 ついぞレオンに通信をかけることが出来ないまま、レイラはこの日を迎えていた。


 朝から精神から来る頭痛がして、痛み止めを服用してそれを押えていた。


 彼女は会場のレストランが入る、高級ホテルの前でハイヤーの車を降りた。東部領都で最も高層なそこは、最近オープンしたばかりだった。 


 ストッキングなどで露出を抑えながらも、そのスタイルを存分に生かした、膝丈のスカートの裾がゆるく広がる紫系のドレスをまとっていた。


 彼女はその圧倒的な存在感で、性別を問わず行き交う人々の視線を集めていた。


 しかし、最上階のレストランに向かうレイラは、全くと言って良い程楽しそうではなかった。


 やはり、レオンに嫌われてしまったのでしょうね……。


 あの後、日取りと場所を記載したメッセージ以外、1度たりともレオンからの通信はなかった。


 やはりあのような、察することを強要する真似まねなどしたのです。当然の報いでしょうね……。


 直通のエレベーターに乗っている間、レイラはひどく後悔しながら、昔レオンからもらったヒールの先を見つめていた。


 エレベーターのカゴが最上階に近づき、せめて相手に失礼がないように、とレイラは指揮官としての表情を作った。


 レストランはブラウンを基調とした、落ち着いた雰囲気の内装になっていて、燕尾えんび服の演奏家が中央にあるステージのピアノで、スウィングジャズを演奏していた。


 パーティションで窓側以外の3方が仕切られた、窓際の端の席でお見合いの相手は待っていた。


「どうもシュルツさん」


 お初にお目にかかります、と店員に通されたレイラへ挨拶し、立ち上がって一礼する。


 軍人の幹部候補生である彼の風貌は、筋骨隆々な体格もあって一見ワイルドであるが、物腰も柔らかくそれと同時に上品さも兼ね備えていた。


「なるほど。休日においても自己研鑽けんさんを怠らない姿勢、ですか。流石『英雄の影』と呼ばれるお方だ」

「はあ。どうも……」


 席に着いた彼は、レイラを退屈させないように、ユーモアを交えて趣味や休日の過ごし方など、お互いの人となりを理解するための会話をする。


 しかし、レイラは必死に平静を装ってはいるが彼との会話も、料理を口にするときも、どこか半分上の空といった様子だった。


「ご気分が優れませんか?」


 心ここにあらずなレイラを見て、フォークとナイフを置いた相手は、心配そうに彼女へ問いかける。


「ああいえ……。あまり、こういう所へは足を運ばないもので……」


 緊張しているだけです、とは言うものの、彼からは明らかにそれが原因だとは思えなかった。


「すこし、席を外されてもかまいませんよ」

「……すいません。ではお言葉に甘えさせて頂きます」


 楽しんでいるようには見えない自身に気を遣う、彼の厚意にあずかって、レイラは1度屋上の空中庭園へ夜風に当たりに向かう。


「何をやっているんでしょう、私は……」


 ただでさえ最終的に保留と伝えるつもりの上、過度に気を遣わせるなど、失礼の上塗りではないですか……。


 エレベーターホールから外に出たレイラは、ライトアップされた浅い池の上に架けられた木道もくどうを歩き、建物のふちまでやってきた。


 彼女が居るのは、出入り口からだと人目に付きにくい、水辺を模した植え込みの陰だ。


 手すり子部分が強化ガラスの板になっている、四角い金属製の欄干をつかむレイラは深々とため息を吐いてうつむく。


 肘まで欄干に乗せて、ボンヤリと街のあかりを見下ろしていると、彼女から見て左側から茂みを回り込んで誰かがやって来た。


 その誰かは先程のレイラと同じ様にして、深々とため息を吐いた。


 ふと彼女は、ひどく迷っている様な声を漏らす、その彼の方を何気なしに見る。


「――。……レオン?」

「……ん? レイラ……?」


 彼の正体は黒ライダースジャケットを着た、今ここに居ないはずのレオンだった。

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