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食後、書斎にやって来たレイラは、小難しい顔で背もたれが倒れたソファーにどっかりと腰掛け、深々とため息を1つ吐いた。
どうしてこう、レオンはあそこまで鈍いというか……。
先日のレオンの後ろ姿を思い出しながら、レイラは眉間にしわを寄せて膝を曲げ、クッションを強く抱きしめる。
「入ってもよろしいでしょうか」
どう表現して良いか分からない、モヤモヤした気持ちでいると、サラがドアをノックしてきた。
「どうぞ」
「失礼します」
「何か問題でも?」
「ええ。あなたについての事です、少将」
「私ですか?」
「……気がつかれてませんか。やはり」
全くピンと来ていない様子でそう言うレイラへ、サラはドアを後ろ手に閉めてからいろいろなスタッフが、彼女を心配していた事を伝えた。
「すいません……。また個人的な事で……」
部下に余計な気を遣わせた事を恥じるレイラは、普段より数倍深い沈み込み具合を見せる。
「そこまで嫌なら、どうしてお受けになったのですか」
うだうだしている上司の隣に座って、本心ではない事をした理由を問う。
「レオンがまさかそんな平然と、縁談を取り次ぎしてくるとは、思わなかったものですから……」
「動揺して、柄にもなく試すようなマネを?」
「はい……。少しは焦ってくれるものかと……」
ちょっとむくれた様子で、レイラはボソボソとそう言う。
「でもそれ、婚約しているレベルの間柄じゃないと意味ないのでは?」
「……っ」
「普通に考えて、どう思ってるか分からない相手からやられたら、面倒だと――。あっ」
つい本音が漏れてしまったサラは、今のは失言です。申し訳ありません、とすかさず謝った。
「そんなことより、ど、ど、ど、どうしましょうッ! もしかして私、レオンに嫌われてしまっているのではッ!?」
思いを伝えてもいない上、彼女自身レオンが自分をどう思っているか知らない、と今更思い当たり、レイラの顔が急速に青ざめていく。
「心を鬼にして申し上げますが、たまにはご自身でお考えになってみては?」
「そ、そんなぁ……」
すがりつく様に言うレイラに、あえてサラは突き放すような事を言う。
「嫌われているかはともかく、今からでも断られてはいかがですか?」
「いえ。明後日ですし、そういうわけには行きません……」
「なるほど。また断りにくい日程ですね」
捨て犬の様な下がり眉のレイラを、積極的に助けたい気持ちを抑え込んで、がんばってください、と言って書斎から出て行った。
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「おはようご――、……ざいます」
「おはようございます。……大丈夫ですか」
「ええ……」
ちょっと言い過ぎましたね……。
翌朝。執務室に現われたレイラは、気持ちの沈み具合が完全に悪化していて、初っぱなからドアノブを掴み損ねて、ドアに頭突きをかましていた。
この日は朝から定例の会議があり、いつも通り東方面軍の首脳陣が司令室に集まったが、
「指令、体調が優れないのでしたら、休まれても構いませんよ」
「完全に平時ですしね」
彼らは様子がおかしいレイラを見て、一斉に休むように進言する。
「いえ……。お構いなく……」
「何がお構いなくだい? どう見てもメンタルやられてるじゃないか。休みな」
レイラはそれをはね除けて、いつも通り行こうとするが、中年の女性中尉の一言でやっと折れて、会議は3日後へと延期になってしまった。
ならば空いた時間に他の事を、と書庫に赴いたりなどしたが、どこへ行っても心配されてしまうので、メイン棟から少し離れた兵舎の私室で過ごす事にした。
彼女の部屋は、本来もう少し広い指揮官用の部屋なのだが、狭い方が落ち着く、という事で、一般将校用のものを使用している。
その片隅にあるベッドの上で、レイラは仰向けに寝転がりぼんやりと天井を見つめる。
レオンにかけた方が良いのでしょうけど……。もし、本当に嫌われていて、よそよそしい態度で接されてしまったらどうしたらいいか……。
悶々《もんもん》と良くない想像をしてしまい、彼女は、あああ……、と声を漏らして頭を抱える。
それを押さえ込んで、レオンに通信をかけようと端末を手に取るが、そこから先の踏ん切りが全く付かず、サイドテーブルに戻して唸るのを延々繰り返していた。
一方その頃、
「いったいどういうおつもりですか、レオンさん」
「ひどいぞ」
サラは自身の私室にて、基地内で一泊したマリーと共に、端末越しにレオンをつるし上げていた。
「いやあ。どうもこうも、ベイル中将から直々にお願いされて、断る訳には行かなくてね」
「そちらの事ではありません。「運命の人」の件についてです」
「わかってていうのは、もうただのいやがらせだぞ」
ははは、と苦笑いして逃げようとしたが、2人にすかさず詰め寄られて失敗に終わった。
「……でも僕じゃ、レイラをつい頼ってしまうから、彼女の重荷になってしまうじゃないか。僕なんかのために彼女を悩ませたくないんだよ」
少しの笑みの混じった苦痛の表情を浮かべつつ、レオンは目線を下に逸らす。
「そうだとして、少将があなたを選ばない場合、あなたはそれで納得出来るんですか?」
「そ、れは……」
サラの鋭い質問に、レオンは呻くようにそう言ったっきり、何も言葉を発する事が出来なかった。
そのタイミングでドアがセレナのメイドにノックされ、彼女から昼食が出来上がった事を知らされた。
「じゃあ失礼するよ」
レオンは、今行くよ、と答えながら、逃げる様に通信を切った。
「あれ、どうされましたレオンさん?」
「いや、何でも無いよ」
「そうですか?」
食堂に入るやいなや、セレナにそう訊ねられてヒヤッとしたレオンだが、笑みで隠してごまかした。




