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『神機』:護りし者  作者: 赤魂緋鯉
幕間 6-1 『少将』レイラ・シュルツの憂鬱
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                    *



 食後、書斎にやって来たレイラは、小難しい顔で背もたれが倒れたソファーにどっかりと腰掛け、深々とため息を1つ吐いた。


 どうしてこう、レオンはあそこまで鈍いというか……。


 先日のレオンの後ろ姿を思い出しながら、レイラは眉間にしわを寄せて膝を曲げ、クッションを強く抱きしめる。


「入ってもよろしいでしょうか」


 どう表現して良いか分からない、モヤモヤした気持ちでいると、サラがドアをノックしてきた。


「どうぞ」

「失礼します」

「何か問題でも?」

「ええ。あなたについての事です、少将」

「私ですか?」

「……気がつかれてませんか。やはり」


 全くピンと来ていない様子でそう言うレイラへ、サラはドアを後ろ手に閉めてからいろいろなスタッフが、彼女を心配していた事を伝えた。


「すいません……。また個人的な事で……」


 部下に余計な気を遣わせた事を恥じるレイラは、普段より数倍深い沈み込み具合を見せる。


「そこまで嫌なら、どうしてお受けになったのですか」


 うだうだしている上司の隣に座って、本心ではない事をした理由を問う。


「レオンがまさかそんな平然と、縁談を取り次ぎしてくるとは、思わなかったものですから……」

「動揺して、柄にもなく試すようなマネを?」

「はい……。少しは焦ってくれるものかと……」


 ちょっとむくれた様子で、レイラはボソボソとそう言う。


「でもそれ、婚約しているレベルの間柄じゃないと意味ないのでは?」

「……っ」

「普通に考えて、どう思ってるか分からない相手からやられたら、面倒だと――。あっ」


 つい本音が漏れてしまったサラは、今のは失言です。申し訳ありません、とすかさず謝った。


「そんなことより、ど、ど、ど、どうしましょうッ! もしかして私、レオンに嫌われてしまっているのではッ!?」


 思いを伝えてもいない上、彼女自身レオンが自分をどう思っているか知らない、と今更思い当たり、レイラの顔が急速に青ざめていく。


「心を鬼にして申し上げますが、たまにはご自身でお考えになってみては?」

「そ、そんなぁ……」


 すがりつく様に言うレイラに、あえてサラは突き放すような事を言う。


「嫌われているかはともかく、今からでも断られてはいかがですか?」

「いえ。明後日ですし、そういうわけには行きません……」

「なるほど。また断りにくい日程ですね」


 捨て犬の様な下がり眉のレイラを、積極的に助けたい気持ちを抑え込んで、がんばってください、と言って書斎から出て行った。



                    *


「おはようご――、……ざいます」

「おはようございます。……大丈夫ですか」

「ええ……」


 ちょっと言い過ぎましたね……。


 翌朝。執務室に現われたレイラは、気持ちの沈み具合が完全に悪化していて、初っぱなからドアノブをつかみ損ねて、ドアに頭突きをかましていた。


 この日は朝から定例の会議があり、いつも通り東方面軍の首脳陣が司令室に集まったが、


「指令、体調が優れないのでしたら、休まれても構いませんよ」

「完全に平時ですしね」


 彼らは様子がおかしいレイラを見て、一斉に休むように進言する。


「いえ……。お構いなく……」

「何がお構いなくだい? どう見てもメンタルやられてるじゃないか。休みな」


 レイラはそれをはね除けて、いつも通り行こうとするが、中年の女性中尉の一言でやっと折れて、会議は3日後へと延期になってしまった。


 ならばいた時間に他の事を、と書庫に赴いたりなどしたが、どこへ行っても心配されてしまうので、メイン棟から少し離れた兵舎の私室で過ごす事にした。


 彼女の部屋は、本来もう少し広い指揮官用の部屋なのだが、狭い方が落ち着く、という事で、一般将校用のものを使用している。


 その片隅にあるベッドの上で、レイラは仰向あおむけに寝転がりぼんやりと天井を見つめる。


 レオンにかけた方が良いのでしょうけど……。もし、本当に嫌われていて、よそよそしい態度で接されてしまったらどうしたらいいか……。


 悶々《もんもん》と良くない想像をしてしまい、彼女は、あああ……、と声を漏らして頭を抱える。


 それを押さえ込んで、レオンに通信をかけようと端末を手に取るが、そこから先の踏ん切りが全く付かず、サイドテーブルに戻してうなるのを延々繰り返していた。





 一方その頃、


「いったいどういうおつもりですか、レオンさん」

「ひどいぞ」


 サラは自身の私室にて、基地内で一泊したマリーと共に、端末越しにレオンをつるし上げていた。


「いやあ。どうもこうも、ベイル中将から直々にお願いされて、断る訳には行かなくてね」

「そちらの事ではありません。「運命の人」の件についてです」

「わかってていうのは、もうただのいやがらせだぞ」


 ははは、と苦笑いして逃げようとしたが、2人にすかさず詰め寄られて失敗に終わった。


「……でも僕じゃ、レイラをつい頼ってしまうから、彼女の重荷になってしまうじゃないか。僕なんかのために彼女を悩ませたくないんだよ」


 少しの笑みの混じった苦痛の表情を浮かべつつ、レオンは目線を下に逸らす。


「そうだとして、少将があなたを選ばない場合、あなたはそれで納得出来るんですか?」

「そ、れは……」


 サラの鋭い質問に、レオンはうめくようにそう言ったっきり、何も言葉を発する事が出来なかった。


 そのタイミングでドアがセレナのメイドにノックされ、彼女から昼食が出来上がった事を知らされた。


「じゃあ失礼するよ」


 レオンは、今行くよ、と答えながら、逃げる様に通信を切った。


「あれ、どうされましたレオンさん?」

「いや、何でも無いよ」

「そうですか?」


 食堂に入るやいなや、セレナにそう訊ねられてヒヤッとしたレオンだが、笑みで隠してごまかした。

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