『指令官』レイラと新兵 1/5
夏の暑さもすっかり無くなり、非常に過ごしやすい気候が続く、9ノ月の初旬の『大連合』にて。
「――というわけで、皆さん精進して下さい」
以上です、と、横1列にズラリと並ぶ、新兵の『レプリカ』パイロット20人への挨拶をにこやかに締め、レイラは悠然と『レプリカ』のヤードから退出していった。
それを敬礼で見送った新兵達は、2つのグループに分けられて、教官達による基地内の案内が開始される。
「いやあ、最高だなウィル! あんな美女が俺達のボスだぜ?」
「お前も単純だなポール。あんだけ散々嫌がってたってのによ。なあリサ」
「そうね」
一番後に出発したグループの最後尾で、新兵のポール、ウィル、リサの3人は、先頭にいる教官の話を聞かず、小声で楽しげに私語をしていた。
といっても、楽しそうなのはポールとウィルの男2人だけで、リサはその気の強そうな顔を全く動かしていない。
ちなみに、厳つい顔のじいさんの挨拶を長々聞かされる、と思っていたポールは、偶然廊下でレイラとすれ違うまで、ずっとグダグダぼやいていた。
3人は中央にある教育隊時代、入隊初日にチームを組まされてからの付き合いだ。
フレンドリーでいい加減なポールとウィルと、ストイックで人当たりがよろしくないリサだが、何故か馬が合って、それ以降大体3人一緒で行動している事が多い。
そして、そこの教育隊長から、『レプリカ』戦闘においては非常に優秀だが、とにかく素行が良くない、という評価を頂戴していた。
というのも、釣りに行くため座学をサボって無断外出したり、戦闘訓練で他の味方役を含めた新兵達全員を3人で叩きのめしたり、と、とにかくやりたい放題やって、散々教官の胃を痛めつけたためだった。
西方面軍と東方面軍以外からは、その問題児っぷりを嫌がられ、また、ベイルの影響でこれ以上愉快な事になったら困るため、その手の人材の扱いが上手いレイラは、中央に半ば3人を押しつけられていた。
「でもよ、美人だっつっても生真面目そうだし、締め上げがキツいじゃないか?」
そう言ったウィルは、俺達不良扱いされてるし、目を付けられてるかもな、と少し自嘲的に笑って続けた。
「その可能性は考えてなかった……」
ウィルの発言を聞いて、浮かれ気分だったポールは目に見えてションボリする。
2人のやりとりを、リサは少し呆れた様子で見ていた。
「そのくらい考えつけよ。20代で少将まで行ってんだぞあの人」
「まあ、ストイックなのは確定よね」
「あー、そうだよな……。『英雄』レオンの右腕だもんな……」
さっきまでの元気はどこへやら、ポールは昨晩の様な低いテンションでそう言った。
少し前に出たばかりの戦史書の記載に、レオンのストイックさを物語る箇所が大量にあったため、彼の性格がやや硬く解釈されてしまっている。
「そのくらいで良いのよ。半端なまま出て死ぬよりはマシでしょ」
そうリサが正論を言ったところで、先頭の教官からやんわりと注意が飛んできた。
順々に倉庫や屋外運動場、一般兵士用の食堂などを案内され、最後のトレーニングルームの前に来たところで、前方からなにやら小難しい顔をしたレイラが、副官のサラを伴ってやってきた。
教官は止まって敬礼するように言い、やや遅れたリサ達3人以外の全員は、一糸乱れぬ動きで指示に従う。
少し丸まっていた背中を伸ばしたレイラは、にこやかに笑って挨拶を返し、サラと別れてトレーニングルームへと入っていった。
すると、中に居た兵士達がレイラを見た途端、全員が動きを止め、その場で一番階級が高い、参謀官の中佐のかけ声で敬礼した。
さっと手を挙げてレイラが返すと、全員がすぐさまトレーニングに戻った。
レイラの姿が、入り口からみて左奥のロッカールームへと消えてから、
「あんな対応されるとか、いったいどんだけ厳しいんだ……?」
「西の方が良かったかもな……」
「ま、自業自得でしょ」
戦々恐々でそう話すバカ2人へ、リサは肩を小さくすくめながら、半分自虐的にそう言った。
*
一通り見学が終わり、しばしの休憩を挟んだ後、新兵達は戦闘訓練のために、モスグリーンのパイロットスーツを着用して『レプリカ』ヤードに集まった。
5人チームを4つ作って、それを攻撃側と防衛側の2つに分けてローテーションし、実機と演習用武器を使っての演習を行なう、という事を教官を勤める30代の軍曹が告げた。
よりリアリティーを出すために、防衛側は南部領を突破してきた『帝国』軍役の迎撃、攻撃側は奪われた基地の奪還、というシナリオが用意された。
「では、皆の端末に送った指示ファイルに従って行動するように」
「1つ良いですか?」
説明をそう締めた教官へ、リサが人差し指を立てつつそう訊ねる。
どうぞ、と促された彼女は、
「兵装のカスタマイズをしたいのですが、よろしいでしょうか」
遠慮というものを一切せずにそう言った。
教官は少し面食らった表情をしたが、少し待つ様に言い、自身の端末でレイラに指示を仰ぐ。
「流石にそれはダメだろリサ……」
「何でよ。あんな装備じゃ火力が足りないじゃない」
少佐が少し声を抑えてレイラへと説明する中、窘めようとするウィルへ、リサはさも当然かのようにそう返す。




