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『神機』:護りし者  作者: 赤魂緋鯉
外伝 2 『神機』:男爵と姫
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第六話

                    *



 レオンが再び『英雄』として表舞台に舞い戻る少し前、『自由』東部の荒野にあるステーションで、ジェシカ達は深夜に偶然彼と遭遇した。

 見張り番がジェシカのときで、エリーナは彼女の隣で熟睡していた。


「『男爵』、ちょっと話に付き合ってくれるかい?」

「ああ、いいよ」


 眠気覚ましの常温のインスタントコーヒーを(すす)りつつ、ジェシカはレオンへそう返す。

 ちなみにこのとき、浄水器の煮沸と冷却機能が不調で、そのコーヒーはすでに精製していた常温の水で溶かしたインスタントだった。


「僕は傭兵になる前、『大連合(こきょう)』の北西方面軍で中隊長をしていてね。そのときの僕の副官は、レイラっていう、(すご)く生真面目で(うそ)をつけない、優秀なパイロットだったんだ。

 最初は彼女に嫌われていた様だったけれど、修羅場を一つ一つくぐり抜ける中で、やっと信用して(もら)える様になったんだ」

「右腕ってやつだね」

「ああ。彼女がいなければ、僕は今こうやってあなたと話すことは出来なかっただろうね」


 懐かしそうに話すレオンは、上面モニターに映る星を見ながら、もう2度と帰ることのない日々を思い浮かべる。


「その人は、もう?」

「いや、彼女は今も健在だよ。今頃、中央で少将辺りになってるはずさ」


 ジェシカが勝手に死んだ事にしたのを謝ると、僕の言い方が悪かったんだよ、と言って笑って許した。


「じゃあ、なぜこんな所に?」

「僕は、数年前のある事件を引きずっていてね。そのせいで、彼女までダメにしかけたからだよ」


 はっきり言って、ちゃんと向き合うのを止めて逃げただけなんだけど、と自分を責めるように言う。


「まあ、そのままだと、僕はもっと彼女を()()()()わせていただろうし、これで良かったんだ」

「そんなあなたの傍に、その人は嫌々居たのかい?」

「いや。そういうことは全くなかったと思う」

「じゃあ彼女は、それでも良かったんじゃないのかい?」

「まさか。彼女は僕への忠義で居てくれただけさ。仮にも『英雄』だからね」


 『英雄』、という単語の所で、レオンは酷く偽悪的な物言いをした。


 それとは別のものじゃないのか、とさらに訊こうとしたが、 レオンの端末から呼び出し音が鳴って、会話を切られてしまった。


「おっと、呼び出しだ。どうしようもない話聞かせてすまなかったね『男爵』」


 レオンはコアを起動すると、ジェシカにそう言って、返事も聞かずに慌ただしく去って行った。



                    *



「えっ、それでその人となんの色恋沙汰もなかったの?」

「エリーナ、男女がずっと一緒に居るからって、そういうことになるとは限らないよ」

「あっ、それもそうね」


 3人は、その後もそんな年頃っぽい話で盛り上がって、それが一段落した頃には、時刻が22時をまわっていた。


「じゃあ、2時間後に交代ねジェシカ」

「ああ。お休みエリーナ」


 モニターの輝度を最低にして、見張りのジェシカ以外は、座席の後ろのスペースにある荷物をどけて寝袋で仮眠をとる。


「私も代わりますよ……?」

「いやいや、疲れてる人にさせる訳にはいかないよ」

「私達は慣れてるから気にしな――」


 気を遣うアルテミスにそう言ったジェシカの言葉に、寝袋にくるまったエリーナは便乗してそう言い切る前に寝落ちした。


「ま、そういうことです」

「……はあ。ではお言葉に甘えて……」


 これ以上問答をして邪魔をするわけにはいかないので、アルテミスはそう言って目を閉じた。


 だが、下が金属の硬い床なので、アルテミスは1時間たっても眠れなかった。


「……」


 まだ座席の方が良い、と思って、彼女が身を起こすと、


「眠れないかい?」


 周囲に目を向けたまま、砲撃手席のジェシカは口の端を少し持ち上げてそう訊く。彼女の手には、湯気の立っていないコーヒーが入った紙カップがあった。

 


「あ、はい……」

「ひとまず目を閉じておくといいよ。少しは寝た事になるはずさ」

「はい。……あっ、ありがとうございます……」


 腰の辺りを撫でながら副操縦席に座ったアルテミスに、音を立てないように下に降りてきたジェシカが自分の上着を貸す。


 そのまま戻るかと思いきや、ジェシカは硬い床でもお構いなしに熟睡する、エリーナの頭元でしゃがみ込んだ。


 何をしているんだろう、と、思ってアルテミスが後ろを見ると、愛おしそうに自らの相棒を見つめ、そっとその顔に掛かった髪をのけるジェシカの横顔があった。


 エリーナの額にそっとキスをした彼女は、また音を立てないようにそっと元の場所に戻った。


「その……、あまり詮索(せんさく)するものではない、とは思いますが……」

「ボクとエリーナの関係、かな?」

「あっはい……」


 先回りしてそう答えたジェシカは、別に不快では無さそうな顔をしていて、アルテミスはホッとした顔で前を向いて目を閉じた。


「1番の親友であり1番の相棒である幼なじみさ」


 ジェシカは少し照れた様子で鼻の頭に触れてから、


「それらと同時にボクは、彼女の大ファンでもあるんだ」


 いつもよりもさらに柔らかな声色で、エリーナを見やりつつそう言った。


「幼なじみの、ですか?」

「ああ。こんな地の果てまで追っかけする位の、ね」


 暇つぶしにでも、少し語らせて貰ってもいいかな? と、ジェシカは凄く話したそうな口振りで訊いてきたので、少し苦笑しつつ、どうぞ、とアルテミスは答えた。


「彼女はね、どんなに否定されてもお構いなしに、どんどん前へ突き進んでいく人なんだよ」


 ボクはそんな彼女に付いて行くのが好きでね、と、遠い目をして愉快そうにジェシカはそう言う。


「常にそんな感じだから、近所の(やぶ)をかき分けて通って傷だらけになったり、別荘近くの深い湖で溺れかけたり、とまあ、トラブルに遭遇しがちなんだよね。もちろんボクも一緒に巻き込まれてたよ」

「と、止めたりは、しないんですか?」


 困ったもんです、と全然困ってなさそうに肩をすくめるジェシカに、アルテミスは困惑した様子でそう言う。


「いや? 多少酷(ひど)い目にあっても、エリーナはボクが見たことの無い景色を見せてくれるんだ。それを止めるなんてとんでもない」


 ジェシカは声を抑えて笑い、心底楽しそうにアルテミスへそう言った。


「薮に突っ込んだときは、野生の珍しいスイセンの花畑を見られたし、湖で溺れかけたときは、湖面に映る夕日に照らされた名峰を見られたんだよ」


 むしろもっと引きずり回して欲しいぐらいさ、という発言に、アルテミスは声に出さずに若干引いていた。


「エリーナはどこまでだって行ける人だから、ボクはどこまでもついて行って、彼女を(まも)ってあげたいんだ。例え、彼女が世界の全てを敵に回してもね」


 最後の言葉に、ゾクリ、と危険なものを感じたアルテミスが振り返るが、ジェシカはいつも通りの柔和な表情のままだった。


「あ、これだとファンというか狂信者だね」


 あっけらかんとそう言って、ジェシカはケラケラと自虐的に笑う。


「あはは……」


 どうリアクションしていいか分からず、アルテミスが苦笑いした所で、


「んん……」


 エリーナがモゾモゾと動いて、悩ましげな声を出す。


「ジェシカぁ……」

「おっと、起こし――」

「私達、ずっと一緒よ……」


 ムニャムニャと名前を呼ばれ、猫にでも話しかける様に訊こうしたジェシカの言葉を遮って、エリーナがやたら甘い声でそう寝言を言った。


「――ッ」


 特大の不意打ちを()らったジェシカは、思いっきり赤面して(もだ)えていた。

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