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『神機』:護りし者  作者: 赤魂緋鯉
外伝 2 『神機』:男爵と姫
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第三話

「ありがとうございます……。おかげで助かりました……」


 非常に自信のなさげな様子の少女は、ヘナヘナした口調で2人に助けてくれた礼を言う。彼女の顔は長い前髪で隠れ、その奥から髪と同じ金色の大きな目が(のぞ)く。


 そんな謎の美少女感(あふ)れる彼女だが、


「どういたしまして『聖女』様」


 わざわざ訊くまでも無く、そのベールと服の裾に金糸があしらわれた『聖女』の修道服と、首からかけられたロザリオから、『聖女』だということが分かった。


「せ、『聖女』だなんておこがましいですぅ……。アルテミス・ウォーレン・ジョンソン・ランセロッティー・バーデン・ロペス・スタビノア……、あっあっ長いですね……、アルテミスとお呼びくださいです……、はい……」


 小動物の様にプルプルと震え、アルテミスと名乗った彼女は『聖女』呼びを恥ずかしがりつつ、2人へギリギリ聞こえる声でたどたどしくそういう。


「アル……、……なんですって?」

「あっあっ、ああっ、アルテミス、です……」


 ほんのわずかに大きな声で、アルテミスは聞き返してきたジェシカにもう一度そう言う。


「失礼しました。アルテミス様、ご気分の方はいかがですか」

「はっ、はい……。良くは無いです……。あっ、いえっ、あなた方が不快であるとかそういう事では無くてですね……。あっ、あとその普段通りの話し方で結構ですので……、はい……」


 (ひざまず)いたジェシカに社交辞令的な質問をされ、はわはわ、と訊かれてない事まで尻すぼみにそう答えると、アルテミスは顔を真っ赤にして伏せてしまう。


「ありゃ。どうやら怖がらせてしまった様だね」

(こわ)いんじゃなくて、あなたの顔の作りは女の子には刺激が強いのよ」


 ジェシカはそのやたら美少年な顔立ちとワイルドな地黒の肌で、見慣れているエリーナ以外の女性だと、放心状態にさせて話にならない事がある。


「そうかあ……。じゃあ後は頼んでもいいかい?」

「りょーかい」


 適材適所、ということで、ジェシカはアルテミスの話し相手をエリーナとバトンタッチした。


「えっと、所属はどこの国なの?」

「あっ、はい……。北フォレストランドの……、第2師団です……」

「ジェシカ、第2師団ってどこ管轄だっけ?」

「南部エリアだね」


 ジェシカは特に考える様子もなく、さらっとエリーナの疑問に答えた。


 北フォレストランド南部エリアは、西は『公国』国境、東は外海側の海岸線まで、といいう東西に細長いエリアで、傭兵や商人の通り道のため、昼夜を問わずかなり(にぎ)わっている。


「なら通り道ね。じゃ、帰るついでにアルテミスを送り届けるわよ」

「うん。そうしよう」


 トントンと話が進んで、送って貰えることになったアルテミスは、慌てふためいて、迷惑をかけるわけにはいかないので、途中の町まででいい、と言ったが、


「道ばたなんか歩いてたらゴロツキに(さら)われるわよ」

「それに弾とかを買いに、どうせ基地の近くまで行くから気にしないでくれ」


 2人にそう言われて、彼女は厚意をありがたく受け取る事にした。


「よし。そうと決まったら、まずあのダサいペットマーク剝がすわよ」

「了解」


 そう言った2人はアルテミスを連れて、ゴロツキが乗っていた軽装甲車に乗り込むと、


「位置このくらいで良い?」

「もうちょっと後ろかな……、ストップ」


 エリーナの運転で機体の横にそれをつけ、ジェシカが機銃でセンスの悪い髑髏(どくろ)に狙いを付ける。


「えっ、撃つのですか……?」

「その方が手っ取り早いのよ」

「じゃ行くよー」


 エリーナがそう説明すると同時に、ジェシカは実に軽い調子で、髑髏(どくろ)をバリバリやってただの傷にし、もう片方も同じ様にした。


 その間、アルテミスは実にワイルドなその光景を呆然(ぼうぜん)と眺めていた。


 ややあって。


「さてと、始めますか」


 他の2人と共に『レプリカ』のコクピットに移動したジェシカは、楽しそうに舌なめずりをしてそう言い、前列の操縦席の足元にあるコンソールの計器パネルを開けた。


 その中にあるジャックに、腰のポーチから取り出した、ミニチュアのリボルバーの様な形状のコネクタを挿し、自分の端末にその反対側を(つな)いだ。


 コクピットの構造は、前列に操縦席と副操縦席が間を開けて並び、後列の砲撃手席は他の2席よりやや高い位置にあり、その後ろに機体の出入り口に通じるハッチがある。


 彼女は操縦席に脚を組んで座ると、お茶でも飲むかのような優雅さで、自身の端末から『レプリカ』のコンピューターにあるファイルを送信する。


 すると、その正面のメインモニターに、画面左上にカーソルがチカチカと表示される、真っ黒なウィンドウが出現した。

 

 ジェシカは鼻歌交じりに手元の端末に表示されているキーボードを打ち、その画面をまたたく間に文字で埋め尽くしていく。


「ええっと、アレは何をしているのですか……?」

「本人が言うには、ハッキングして機体の識別信号とか諸々(もろもろ)を変えてるそうよ」


 私には何やってるのか厳密には分からないけどね、と、作業をしているジェシカを楽しそうに見ながら、エリーナはアルテミスへそう答える。


「ジェシカさんって……、いったい何者なんですか……?」

「少なくとも私と同じ田舎貴族の第三子で、頼れる幼なじみなのは確かよ」


 エリーナは自慢げな笑みを浮かべ、おどけた様子でそう返した。


 それから数分後、前の所有者の情報を完全に消し去られた『レプリカ』で、機体の全高と樹高がほぼ同じ森の道を北へ進んでいた。


「あのう……、今更なのですが……、他人の物を勝手に乗り回して良いものなのでしょうか……」


 操縦席と後部の砲撃手席で他愛(たあい)ない会話するエリーナとジェシカへ、その2席の間にある副操縦席に座るアルテミスがおずおずとそう訊ねる。


「まあバレなきゃ良いのよ」

「取り締まる人も居ないからね」

他人(ひと)の事言えないけど、商売道具を()られる方が悪いのよ」

「そういうものなんですか……」

「そういうものよ。ね」

「ああ」

 

 自分の住む世界と全く違ったルールで動いている世界に、なるほど……、と、アルテミスは目をパチクリして言った

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