第二話
「乗っていたのはお前だけか?」
「ああ。そうさ」
アサルトライフルをこちらに向けてくる男達へ、両手を挙げるジェシカは、ごく自然にそう嘘を吐いた。
「ちっ。見間違いかよ」
「いや、よく見ろ」
「へへっ。たまにはああいう嗜好も悪かねえ」
男達は、ジェシカの事を男だと思って顔をしかめたが、慎ましやかだが確かに存在する彼女のそれを確認し、ニヤリと粘着質な笑みを浮かべた。
「よし、そのまま腰の物を捨ててゆっくりこい。下手な真似するとぶっ殺すぞ」
先頭の1人はそうジェシカに言いながら、掌を上にして手招きをする。彼女は諦めた表情を作って、言うとおりに銃を地面に投げ捨てて歩みを進めていく。
全く抵抗しようとしないので、『レプリカ』の乗員が油断して、鼻の下を伸ばしながら降りてきた。
作戦通りに行ったことを確信したジェシカは、突然糸が切れたように仰向けに倒れる。それと同時に、軽装甲車の機銃が、ぐるん、と彼女の奇行にざわつく男達の方を向き、
「ギャアアアア!」
ものの数秒でジェシカに欲情していた全員を蹂躙していった。
「ふふっ、流石エリーナだ」
銃撃が止むと、ジェシカは身体を起こして、完璧な仕事をしてくれた相棒へサムズアップした。
その後ジェシカは、地面に落ちている自分の銃を拾って、一応肉片達の生死の確認と、他の仲間が居ないかチェックしてから、エリーナの待つ車両へ戻ってきた。
「やあ。ただいまエリ――」
ジョギング帰りみたいな気楽さでそう言って、ジェシカは助手席に乗り込んだ。
「……もうああやって、命を投げ出すようなマネしないで……」
すると前に来ていたエリーナが、思い切り彼女を抱きしめて、潤んでいる声でそう言う。
「ごめんよエリーナ。もうなるべくしないからさ」
「なるべくじゃなくて絶対!」
「よっぽどの事じゃなければね」
「なんでそういうとこだけいつも曲げないのよ……」
「知っての通り、そういう性分でね」
不安から解放されて、ビービー泣きだしたエリーナの後頭部に触れ、逆の手で抱き寄せたジェシカは、その抱き寄せる方の手で彼女の背中を撫でた。
ややあって。
「さてと、ひとまず商売道具は手に入ったわけだ」
「ちょっと旧式だけど、まあ無いよりはマシよね」
ゴロツキ兵士が乗っていた『レプリカ』は、OSも含めて世代的には1つ前のものだ。
しかし、3人乗りのおかげでパイロット1人当たりの負担が少なく、また製造・運用コスト共に最新式よりかなり割安なため、『自由』諸国全てで数的な主力になっている。
「ところで、あのペットマークどう思う?」
「うーん、ダサいわね」
ハッチの空いた『レプリカ』を見上げつつ、2人はそれに近づいていく。
「じゃあジェシカ、いつも通りハッキングお願いね」
「お任せあれ」
腕が鳴るなあ、と、無駄にストレッチしながら、ジェシカが梯子型のタラップに足をかける。
「――おっと」
「きゃ……っ」
すると、頭上から縦長の布袋が落ちてきたので、彼女はとっさにエリーナを抱きかかえつつ、身を捻りながら飛び退いて地面に伏せる。
「何だ?」
ジェシカはエリーナに覆い被さったまま、その布袋の様子を覗う。それは中に何者かが入っていて、高めのモゴモゴという声を発しながら、芋虫のようにジタバタしていた。
油断させて自爆するつもりなのか……? いや、それなら今頃ボクは背中が抉れているだろうし……。
明らかに痛がっているそれを隙無く観察しつつ、そう考えを巡らせるジェシカの一方、
「ちょ……っ、ジェシカ……。近い……」
「おっと。ごめん」
引き締まったジェシカの身体に下敷きにされているエリーナは、普段よりもかなり紅潮した顔で身体を縮こまらせていた。
それで、自分達がかなり刺激的な体勢な事に気がついたジェシカは、そそくさとエリーナの上からどいた。
「で、なんなのアレは……?」
ジェシカの手を借りて立ち上がったエリーナは、背中をパタパタと払いながら、明らかに助けて欲しそうな呻き声を出す袋を見つつ相棒へ訊く。
「ボクの耳が間違いないなら、多分あれは人間だね」
「ええっ、じゃあ出してあげなきゃ」
駆け寄ろうとしたエリーナをジェシカは、まず袋の彼女に確認したいことがあるから、と制止した。
「あー、もしもし。傭兵のジェシカとエリーナという者ですが、二、三ほど質問よろしいですか」
はい、の時は1回、いいえ、の時は2回声を出して欲しい、とジェシカに言われ、袋の彼女は、んー、と1回声を出した。
「えー、じゃあまず、お怪我はありますか?」
「んんー」
「次に自分の事が誰か分かりますか?」
「んー」
「じゃあ最後に、どこかにば……、じゃなくて硬い物とか巻かれてないですか?」
「んんー」
その答えを聞いたジェシカは、おっかなびっくりなエリーナを連れて、なんだか疲れた様子を見せる彼女の方へとゆっくり近づいていく。
すぐ隣にやってきたジェシカは、袋の口に手をかけて慎重に中を確認する。
「開けますよ」
中に入っていたのは、切らないとボッサボサになる自身のくせっ毛とは違う、真っ直ぐで艶のある金髪を持った、十代前半ぐらいの少女だった。
彼女は革ベルトと布で簀巻きにされていて、目隠しと猿ぐつわを噛まされていた。ジェシカは逐一確認をとりながら、それらを全て取り払った。




