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『神機』:護りし者  作者: 赤魂緋鯉
第三章 『神機』:蒼海の巫女
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第九話


                    *



 戦闘開始から14時間が経過した4時5分。


『大連合』側は、東部・南部両戦域共、増援と『レプリカ』サイズの高性能暗視装置を投入し、夜間砲撃が可能になったことにより、『島国』軍の『レプリカ』が揚陸艦ごと大量に撃破された。


 東部領戦域は接近すら不可能になったため、『島国』軍は撹乱(かくらん)のために特殊部隊を投入した。

 だが、レイラはそこまで読んでいて、白兵戦力を沿岸に配置していたため、作戦は失敗に終わった。


 南部領戦域は『島国』軍の上陸阻止には成功したが、すでに上陸した戦力の排除は全く進められていなかった。


 現在の戦力は、『島国』軍が『レプリカ』67機、『大連合』軍が同82機と、この戦闘で初めて『大連合』軍が逆転した。


 レイラが時間きっかりに目を覚ますと同時に、西部領兵から『グウィール』が南部領戦域近くを通過した、との連絡が入った。


 レイラが起きるまで付きっきりだったレオンは、それを確認してから、自分も仮眠しようと、2人1組の扉の左右に立つ立哨達とすれ違いつつ、将校用の宿舎エリアにやってきた。


 窓の外は新月だったので、空に輝く星々がやたらギラギラしていた。


 それを横目で見ながら、自分の部屋に向かっていると、右手にあるドアがゆっくり開いて、パイロットスーツのままのミコトが出てきた。


『やあ。ええっと……、「レオンさん」』


 彼女は浮かない顔をしていたが、レオンの姿を見ると、無理に笑みを作って彼へ挨拶した。


「ああ、えーっと、『眠れ、ませんか?』」

『ああ。ここに来るまで、少し、眠りすぎたらしい』


 苦労して片言の古代語でそう訊いたレオンに、ミコトはゆっくりとした古代語でそう返す。


「『そうですか』……。こう……、『こういうときは』……、カモミール……、はなんて言うんだっけ……」


 よく眠れるように、と、レオンは彼女へカモミールティーをすすめようとするが、単語が出てこず難儀していた。


 すると、


『彼はカミツレのお茶を飲むと良い、と言いたいようです』


 ミコトの部屋の1つ向こう側にある部屋から、黒のタンクトップ姿のアメリアが顔を出し、レオンに助け船を出した。


『ああ、確かに。カミツレのお茶は良く効くね。ありがとう』


 ミコトはそう言ってニコリ、と笑い、後で持ってきて貰おうかな、とレオンに言う。


「助かったよ」

「何のこれしき」


 なんということもない、といった様子のアメリアへ、レオンは礼を言う。


「すまない、マドック中尉。起こしてしまったかな?」

「いえ、お構いなく。私はいつでも起きられる様にしていただけですし」


 熟睡するエレアノールの方を愛おしそうに、チラリ、と見たアメリアが、レオンにそう説明すると、彼は、なるほどね、と言って頷いた。


 そんな2人の様子を見ていたミコトが、


『……ボクも、あなた方の様に、大切な(ひと)を護れる様になれるだろうか』


 ミコトは半分羨ましそうで半分不安そうな様子で、2人へそう訊ねる。


「大丈夫。あなたには、それを出来るだけの器もあるし、ご先代も力を貸して下さるさ」

『私もその通りだと思います。あなた様は私達よりも偉大な守護者となられるでしょう』


 レオンの言葉を翻訳したアメリアは、それに自分の意見を付け加えた。


「アメリアさーん……」


 そう言い終えたタイミングで、エレアノールが寝言で彼女を呼んだ。


「それでは、私はこれで」


 アメリアは両方の言葉でそう言って、部屋に素早く引っ込んだ。


『では、自分も』


 ミコトにそう挨拶したレオンは、立哨に、後は頼むよ、と言って、自分の部屋へと入っていった。


『やはり『護りし者』の言葉には、不思議な力があるのかもしれないな』


 ミコトは自然と微笑みながらそうつぶやいたところで、シスターと兼職の女性兵士が駆けつけた。


 どうかなさいましたか、と心配そうに言う彼女に、ミコトは、大丈夫、と答え、カモミールティーを注文した。



                    *



 戦闘開始から約1日と18時間が経過した、19日の7時18分。


 前日の明け方頃、『島国』軍の第2陣、第3陣が両戦域に到着し、東部領戦域でもついに数艦と特殊部隊の上陸を許し、南部領戦域でも上陸が再開された。


 だが前者では、増援の旧・北部守備隊の面々が、すぐさま反撃に出てその撃破に成功した。

 後者ではその再度阻止に成功し、南方面軍所属の『レプリカ』が増援に駆けつけ、徐々に『島国』軍を押し始めた。

 また、敵陣地内の橋頭堡が、工作員の活躍によってその一部の破壊に成功した。


 一進一退の攻防が続く中、『大』『帝』国境沖にある監視所から、その南方約90キロ沖の海上に『神機』と思わしき巨大な熱源反応を1つ検知した、という報告が入り、『大連合』軍に緊張が走った。


 現在の戦力は、『島国』軍が『レプリカ』77機・『神機』1機。

 一方、『大連合』軍は南・東両方面軍所属機のほぼ全機に相当する、『レプリカ』142機に膨れあがっていた。

 その『神機』は間もなく稼働状態になる『フレイム』、『グウィール』の2機になった。


 普段はレイラ達高官が使う会見場のデスクで、ミコトは原稿の読み上げの練習をしていた。


 彼女の周囲には、護衛と慌ただしく放送設備の準備をしている通信兵の他は、


『きんちょうしているのか』


 暇だから、と通訳をかって出たマリーしかいない。


 ちなみに、レイラはサラ達と共に、西部領と南部領、それと中央の幹部達と軍議中で、レオン、セレナ、エレアノール、アメリアの4人は、『神機』の起動のため格納庫にいる。


『ああ。何せボクの言葉には、何千万もの同胞達の命がかかってるからね』


 額に冷や汗をかいているミコトの表情は、明らかにガチガチだった。


『あまりきおいすぎるな。ぎゃくにひとびとがふあんになる』

『……ああ。そうだね』


 口の中でキャラメルを転がしながら、キリッとした顔でそんな事を言うマリーに、ミコトの表情が少し緩む。


『それにしても、君は凄い人だ。こんな状況でも誰かを心配できるなんて』

『わたしがしんぱいしたところで、どうにかなるものでもないからな』

『はは……。現実的なんだね』


 マリーと話している内に、ミコトはいつもの様子でそう言って苦笑した。


『それに、れおんがいるから、なにもしんぱいすることはない』


 自慢げにそう言ったマリーは、つかれた、といって、部屋の端っこに置かれた椅子にちょこんと腰掛けた。




 その頃、基地の南にある『神機』の格納庫では、起動の最終行程が行なわれていた。


 横一列に5つも立ち並ぶ『神機』の格納庫は、大型船を建造する造船所のような形状をしていて、天井の金属製の(はり)にオーバーヘッドクレーンが付いている。

 その正面には、20メートル近い高さがある、馬鹿でかい防爆仕様のシャッターが付いている。


 床は強化されたコンクリートで出来ていて、『神機』は下にタイヤが等間隔にいくつも付いた台車に乗せられ、その周りには作業用の高所作業車や、検査機材を積載した大型トレーラーがいくつか()まっている。


 その間を整備兵や警備兵が、慌ただしく往来している。


『グウィール』コクピットの操縦席に座る、パイロットスーツ姿のアメリアは、自分の端末のモニターでコーラリアス周辺の地図を確認していると、


「しかしまあ、あの指揮官さん、よく自分を殺そうとした相手と共闘出来ますわね」


 その脚の間に座るエレアノールは、感心した様子でアメリアにそう言う。


「そういう作戦をとれる方だからこそ、あの若さであの地位まで上り詰めたのでしょう」


 アメリアがそう言ったとき、ちょうどモニター前方に、行程を進めるか否かを確認するダイアログが表示された。


 彼女が、続行、と言うとそれが消え、モニター前方の下部に表示されていた数値が上昇した。


「アメリアさんだって、正当に評価されれば、彼女ぐらいにまではなれますのに……」

勿体(もったい)ないお言葉です。……しかし、それは少々過大評価ですよ」


 アメリアは少し照れくさそうに笑って、見上げてくるエレアノールへそう謙遜しつつ言う。


「あなたはもう少し、自分に自信をお持ちなさい」

「はい。努力は致します」


 ややムスッとした顔でそう言い、アメリアの右膝に頭を乗せたエレアノールに、アメリアは苦笑しながらそう返した。


「まったくもう、返事だけはいつも一丁前なんですから……」


 やれやれ、といった感じで、エレアノールがため息を吐きながらそう言い、笑みを浮かべると、


「申し訳ありません」


 アメリアは悪びれた様子でそう言って、主人に微笑(ほほえ)み返した。



 その数分前。


 隣の格納庫で同じく起動中の『フレイム』コクピット内では、


「ふぁ……」


 前日、緊張でよく眠れなかったセレナは、口を手で覆いながら後部座席で大きな欠伸をした。


 彼女は船を()ぐようにしながら頑張るが、もうほとんど眠っていた。


 ちなみにエレアノールは、戦闘の可能性がある、とセレナ同様聞かされていたが、全く気にも止めずに熟睡していた。


「……眠いなら寝てても良いよ。セレナ」

「はい……、そうし――。すぅ……」


 苦笑するレオンにそう言われたセレナは、全部話し終えるより先に眠りについた。


 座席から伸びるアームのサブモニターで、その様子を確認したレオンは、


 ――()()()も、凄く眠いはずなのに、頑張って起きてたっけ。


 その昔、僻地(へきち)の住民の慰安へ行く際、妹のセレナの指名によって、護衛という名目で自身が彼女に帯同していたとき、長距離移動に疲れて眠くなるも、彼女は何故か必死に起きていようとしていた事を思い出していた。


「さーて、もうそろそろかな?」


 口元に笑みを浮かべてレオンがそうつぶやいたとき、最終確認のダイアログが正面のモニターに表示された。

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