第九話
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戦闘開始から14時間が経過した4時5分。
『大連合』側は、東部・南部両戦域共、増援と『レプリカ』サイズの高性能暗視装置を投入し、夜間砲撃が可能になったことにより、『島国』軍の『レプリカ』が揚陸艦ごと大量に撃破された。
東部領戦域は接近すら不可能になったため、『島国』軍は撹乱のために特殊部隊を投入した。
だが、レイラはそこまで読んでいて、白兵戦力を沿岸に配置していたため、作戦は失敗に終わった。
南部領戦域は『島国』軍の上陸阻止には成功したが、すでに上陸した戦力の排除は全く進められていなかった。
現在の戦力は、『島国』軍が『レプリカ』67機、『大連合』軍が同82機と、この戦闘で初めて『大連合』軍が逆転した。
レイラが時間きっかりに目を覚ますと同時に、西部領兵から『グウィール』が南部領戦域近くを通過した、との連絡が入った。
レイラが起きるまで付きっきりだったレオンは、それを確認してから、自分も仮眠しようと、2人1組の扉の左右に立つ立哨達とすれ違いつつ、将校用の宿舎エリアにやってきた。
窓の外は新月だったので、空に輝く星々がやたらギラギラしていた。
それを横目で見ながら、自分の部屋に向かっていると、右手にあるドアがゆっくり開いて、パイロットスーツのままのミコトが出てきた。
『やあ。ええっと……、「レオンさん」』
彼女は浮かない顔をしていたが、レオンの姿を見ると、無理に笑みを作って彼へ挨拶した。
「ああ、えーっと、『眠れ、ませんか?』」
『ああ。ここに来るまで、少し、眠りすぎたらしい』
苦労して片言の古代語でそう訊いたレオンに、ミコトはゆっくりとした古代語でそう返す。
「『そうですか』……。こう……、『こういうときは』……、カモミール……、はなんて言うんだっけ……」
よく眠れるように、と、レオンは彼女へカモミールティーをすすめようとするが、単語が出てこず難儀していた。
すると、
『彼はカミツレのお茶を飲むと良い、と言いたいようです』
ミコトの部屋の1つ向こう側にある部屋から、黒のタンクトップ姿のアメリアが顔を出し、レオンに助け船を出した。
『ああ、確かに。カミツレのお茶は良く効くね。ありがとう』
ミコトはそう言ってニコリ、と笑い、後で持ってきて貰おうかな、とレオンに言う。
「助かったよ」
「何のこれしき」
なんということもない、といった様子のアメリアへ、レオンは礼を言う。
「すまない、マドック中尉。起こしてしまったかな?」
「いえ、お構いなく。私はいつでも起きられる様にしていただけですし」
熟睡するエレアノールの方を愛おしそうに、チラリ、と見たアメリアが、レオンにそう説明すると、彼は、なるほどね、と言って頷いた。
そんな2人の様子を見ていたミコトが、
『……ボクも、あなた方の様に、大切な民を護れる様になれるだろうか』
ミコトは半分羨ましそうで半分不安そうな様子で、2人へそう訊ねる。
「大丈夫。あなたには、それを出来るだけの器もあるし、ご先代も力を貸して下さるさ」
『私もその通りだと思います。あなた様は私達よりも偉大な守護者となられるでしょう』
レオンの言葉を翻訳したアメリアは、それに自分の意見を付け加えた。
「アメリアさーん……」
そう言い終えたタイミングで、エレアノールが寝言で彼女を呼んだ。
「それでは、私はこれで」
アメリアは両方の言葉でそう言って、部屋に素早く引っ込んだ。
『では、自分も』
ミコトにそう挨拶したレオンは、立哨に、後は頼むよ、と言って、自分の部屋へと入っていった。
『やはり『護りし者』の言葉には、不思議な力があるのかもしれないな』
ミコトは自然と微笑みながらそうつぶやいたところで、シスターと兼職の女性兵士が駆けつけた。
どうかなさいましたか、と心配そうに言う彼女に、ミコトは、大丈夫、と答え、カモミールティーを注文した。
*
戦闘開始から約1日と18時間が経過した、19日の7時18分。
前日の明け方頃、『島国』軍の第2陣、第3陣が両戦域に到着し、東部領戦域でもついに数艦と特殊部隊の上陸を許し、南部領戦域でも上陸が再開された。
だが前者では、増援の旧・北部守備隊の面々が、すぐさま反撃に出てその撃破に成功した。
後者ではその再度阻止に成功し、南方面軍所属の『レプリカ』が増援に駆けつけ、徐々に『島国』軍を押し始めた。
また、敵陣地内の橋頭堡が、工作員の活躍によってその一部の破壊に成功した。
一進一退の攻防が続く中、『大』『帝』国境沖にある監視所から、その南方約90キロ沖の海上に『神機』と思わしき巨大な熱源反応を1つ検知した、という報告が入り、『大連合』軍に緊張が走った。
現在の戦力は、『島国』軍が『レプリカ』77機・『神機』1機。
一方、『大連合』軍は南・東両方面軍所属機のほぼ全機に相当する、『レプリカ』142機に膨れあがっていた。
その『神機』は間もなく稼働状態になる『フレイム』、『グウィール』の2機になった。
普段はレイラ達高官が使う会見場のデスクで、ミコトは原稿の読み上げの練習をしていた。
彼女の周囲には、護衛と慌ただしく放送設備の準備をしている通信兵の他は、
『きんちょうしているのか』
暇だから、と通訳をかって出たマリーしかいない。
ちなみに、レイラはサラ達と共に、西部領と南部領、それと中央の幹部達と軍議中で、レオン、セレナ、エレアノール、アメリアの4人は、『神機』の起動のため格納庫にいる。
『ああ。何せボクの言葉には、何千万もの同胞達の命がかかってるからね』
額に冷や汗をかいているミコトの表情は、明らかにガチガチだった。
『あまりきおいすぎるな。ぎゃくにひとびとがふあんになる』
『……ああ。そうだね』
口の中でキャラメルを転がしながら、キリッとした顔でそんな事を言うマリーに、ミコトの表情が少し緩む。
『それにしても、君は凄い人だ。こんな状況でも誰かを心配できるなんて』
『わたしがしんぱいしたところで、どうにかなるものでもないからな』
『はは……。現実的なんだね』
マリーと話している内に、ミコトはいつもの様子でそう言って苦笑した。
『それに、れおんがいるから、なにもしんぱいすることはない』
自慢げにそう言ったマリーは、つかれた、といって、部屋の端っこに置かれた椅子にちょこんと腰掛けた。
その頃、基地の南にある『神機』の格納庫では、起動の最終行程が行なわれていた。
横一列に5つも立ち並ぶ『神機』の格納庫は、大型船を建造する造船所のような形状をしていて、天井の金属製の梁にオーバーヘッドクレーンが付いている。
その正面には、20メートル近い高さがある、馬鹿でかい防爆仕様のシャッターが付いている。
床は強化されたコンクリートで出来ていて、『神機』は下にタイヤが等間隔にいくつも付いた台車に乗せられ、その周りには作業用の高所作業車や、検査機材を積載した大型トレーラーがいくつか駐まっている。
その間を整備兵や警備兵が、慌ただしく往来している。
『グウィール』コクピットの操縦席に座る、パイロットスーツ姿のアメリアは、自分の端末のモニターでコーラリアス周辺の地図を確認していると、
「しかしまあ、あの指揮官さん、よく自分を殺そうとした相手と共闘出来ますわね」
その脚の間に座るエレアノールは、感心した様子でアメリアにそう言う。
「そういう作戦をとれる方だからこそ、あの若さであの地位まで上り詰めたのでしょう」
アメリアがそう言ったとき、ちょうどモニター前方に、行程を進めるか否かを確認するダイアログが表示された。
彼女が、続行、と言うとそれが消え、モニター前方の下部に表示されていた数値が上昇した。
「アメリアさんだって、正当に評価されれば、彼女ぐらいにまではなれますのに……」
「勿体ないお言葉です。……しかし、それは少々過大評価ですよ」
アメリアは少し照れくさそうに笑って、見上げてくるエレアノールへそう謙遜しつつ言う。
「あなたはもう少し、自分に自信をお持ちなさい」
「はい。努力は致します」
ややムスッとした顔でそう言い、アメリアの右膝に頭を乗せたエレアノールに、アメリアは苦笑しながらそう返した。
「まったくもう、返事だけはいつも一丁前なんですから……」
やれやれ、といった感じで、エレアノールがため息を吐きながらそう言い、笑みを浮かべると、
「申し訳ありません」
アメリアは悪びれた様子でそう言って、主人に微笑み返した。
その数分前。
隣の格納庫で同じく起動中の『フレイム』コクピット内では、
「ふぁ……」
前日、緊張でよく眠れなかったセレナは、口を手で覆いながら後部座席で大きな欠伸をした。
彼女は船を漕ぐようにしながら頑張るが、もうほとんど眠っていた。
ちなみにエレアノールは、戦闘の可能性がある、とセレナ同様聞かされていたが、全く気にも止めずに熟睡していた。
「……眠いなら寝てても良いよ。セレナ」
「はい……、そうし――。すぅ……」
苦笑するレオンにそう言われたセレナは、全部話し終えるより先に眠りについた。
座席から伸びるアームのサブモニターで、その様子を確認したレオンは、
――セレナも、凄く眠いはずなのに、頑張って起きてたっけ。
その昔、僻地の住民の慰安へ行く際、妹のセレナの指名によって、護衛という名目で自身が彼女に帯同していたとき、長距離移動に疲れて眠くなるも、彼女は何故か必死に起きていようとしていた事を思い出していた。
「さーて、もうそろそろかな?」
口元に笑みを浮かべてレオンがそうつぶやいたとき、最終確認のダイアログが正面のモニターに表示された。




