第七話
その数日後、ついにアメリアの審判が始まった。
読み上げられる罪状に、彼女は何1つとして反論をしなかった。
そのせいで、即刻銃殺刑が言い渡されるのは、火を見るよりも明らかだった。
出廷していたパイロット3人は、内心ほくそ笑みながら見物していた。
裁判長が判決を読み上げようとしたとき、にわかに法廷の外が騒がしくなり、直後、勢いよく出入り口のドアが開いた。
「その判決、ちょっと待って下さいな」
家の私兵を従えたエレアノールを先頭に、虐殺されかけた住人の代表や、素直に罪を悔いた歩兵達40人強が法廷内になだれ込んできた。
「『聖女』……、様……?」
証言台の上にいたアメリアは、彼女の姿を認めると、目をわずかに見開いてそうつぶやいた。
裁判長がエレアノールがやってきた用向きを訊くと、彼女は場を乱した事を謝罪した後、
「マドック軍曹の罪のほとんどは! そこの3人のでっち上げですわ!」
裁判官や傍聴席の軍関係者へ向かって、高らかにそう宣言した。
「いくら『聖女』様とはいえ、証拠も無しにその様な侮辱を――」
「お黙りなさい!」
証人席から立ち上がって、白々しく反論しようとした『神機』パイロットへ、エレアノールは鋭く睨み付けてそう叫んだ。
なおも、彼は話し続けようとするが、裁判長から静粛にするように言われ、渋々矛を引っ込めた。
「証拠が欲しいんですのね? ならば、今からとくとお見せいたしますわね」
エレアノールは出入り口のドアの方を見て、お願いしますわ、と言った。
すると、ホログラム表示式の映写機と、一抱えほどの大きさスピーカーを担いだ数人の私兵が入ってきて、それをセットアップした。
法廷がざわつく中、浮かび上がった仮想スクリーンに、鮮明に記録された証拠映像が流れ始める。
映像の中には、『神機』パイロットのエレアノールへの暴言や、通信で虐殺することを煽る発言の数々、
「これは……」
「おお、なんと惨い……」
『レプリカ』パイロット2人が虐殺する様子や、歩兵達がエレアノール諸共殺害しようとした様子が映っていた。
その中で、正義感溢れるアメリアの言葉が流れた事により、彼女に向けられていた侮蔑の目が、パイロット3人へと突き刺さった。
「こっ、これは偽装だっ! このような鮮明な映像がっ! 記録用カメラで残せるはずが無いっ!」
「ええ。そうですわね」
見苦しくそう訴えた『神機』パイロットは、エレアノールの発言に少し笑みを浮かべた。
「――でもこれは、全て『神機』からの映像ですのよ」
だがエレアノールは、刺すような視線で彼を見て、どこまでも冷たく言い放った。
『神機』のカメラに収められた映像は、右下に薄らと機体番号が表示されるようになっている。
流れた映像には、ずっとそれが表示されていた。
「ああ……」
『神機』パイロットは、放心してがっくりとうなだれた。
ただでさえ分が悪かったのに、『聖女』を嘘つき呼ばわりしたせいで、逆転の目は完全に断たれていた。
エレアノールが証拠を持ってきたおかげで、アメリアの審議は、事実関係が整理されるまで休廷になった。
裁判長のその宣言と共に、ルザ地域の住人の代表達は大喝采を上げた。
1つ息を吐いたエレアノールは、アメリアへと近寄って彼女へ視線を向ける。
「『聖女』様……。なぜ……」
彼女は呆然とした表情で、そんなエレアノールに問いかけた。
「あなたが好きにしたんですもの。私も好きにしたまで、ですわ」
すると、エレアノールは少し拗ねたようにそう言い、
「それに、魔を払うのが『聖女』の役割ですもの」
直後、柔らかな笑みを浮かべた。
「……」
そんな彼女の美しさと神々しさに、アメリアはすっかり魅了されていた。
「刑が確定したら、一緒にお茶でもいたしましょう」
楽しみにしていますわ、と言って、エレアノールが振り返ると、
「お前さえ……、いなければ……ッ!」
連行される所だった『レプリカ』のパイロットの1人が、隠し持っていたナイフを抜いて、憤怒の表情で彼女へ突っ込んできた。
「あ――」
明確に自分への殺意を向けられ、エレアノールは棒立ちのまま動けなくなった。
「お嬢様!」
法廷内の騒ぎのせいで、私兵達はそれに気がつくのが遅れ、誰も止められなかった。
「エレアノール様!」
手錠をはめられたままのアメリアは、素早く目の前の柵を飛び越え、
「が……ッ」
エレアノールの前に立ちふさがり、彼女の代わりに刃を受けた。




