第八話
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レオン達が出撃してから3時間後の午前7時17分。
「あれだね」
「不気味な感じですね……」
『232年7ノ月戦争』時の戦場であった奇岩地帯から山を1つ挟んだ盆地にて、『フレイム』は『王国』の『ホースフット』と呼称される『神機』と相対していた。
見た目はビームブレードになっている2本の腕がある、藤色の四足歩行するカブトガニで、頭に鋭く伸びる巨大な衝角がかなり目立つ。
その左右に重装甲砲塔から突き出すレーザー砲が1門ずつ覗いている。
斥候兵からの情報では、その2門の一段後ろに同じ構造のもう2門、後方に伸びる尾の付け根にさらに2門装備されていた。
レオンは一応、通信で降伏を呼びかけるが、当然相手からの反応は一切無い。
「仕方ない、か」
まず牽制に、とガンモードにしたガンブレードで、レオンは敵機真正面を狙って3発砲撃した。
すると敵機は素早く頭を下げて、その少しばらけて飛んでくるビーム弾を全て衝角で弾き飛ばした。
「なかなか機敏に動くね。衝角はビームシールドが出るのかな?」
「それ、当たったら危ないですよね……?」
「ああ。間違いなく貫かれるね」
声に怯えがにじみ出るセレナへ、レオンは余裕すら感じられる至って冷静な様子で返した。
敵機も小手調べとばかりに、頭を目一杯下げて『フレイム』の紅蓮の機体へ4門の斉射をし、レオンは事もなげにバックステップして回避すると、ビーム弾は横一列に着弾した。
その際、空中で敵機のレーザー砲に向けて砲撃したが、全く先程と同じ要領でそれは弾かれてしまった。
「うーん。これは厄介だな」
さらに敵機が砲撃を返してきて、レオンはバックステップして空中でスラスターを吹かしつつやや右後ろに着地すると、そのまま下がった場合の位置に着弾した。
「パイロットの腕が良いね」
鎧の様な装甲があってもなお細身な『フレイム』へ、そこまで正確な砲撃をする実力にレオンは感心した様子でつぶやく。
何度か砲撃の応報を繰り返すが、お互いに1発たりともかすりもしなかった。
うーん。このままだと埒があかないけれど……。
レオンはセレナの負担も考えて、接近戦で早めに相手を無力化したかったが、彼の勘がそれを躊躇わせていた。
そんな中、それまで絶え間なく砲撃を加えてきていた相手が、ピタッとほんの数秒だけ動きを止めた。
「――ッ」
ほとんど本能的にレオンが『フレイム』を後方フリップジャンプから空中ジャンプさせると、ほんの一瞬前にいた場所を敵機が衝角でなぎ払っていた。
「――えっ?」
「前方の左右に溝があるだろう? あそこにスラスターが付いているんだ」
全く何が起こったのか理解出来ていないセレナに、レオンはヘルメットのバイザーの下で冷や汗をかきつつ説明した。
なるほど。持続的な速度より瞬発力に特化しているわけだ。
冷静に分析しながら、ビームブレードを振るって突っこんできた敵機の攻撃を、レオンはブレードモードで捌いて距離を空ける。
「見た目通りの装甲だ。まさか通らないとは」
引く際、反撃で右の逆袈裟斬りを入れたが、装甲に弾かれてほとんど通用しなかった。
「ちょっと長引くかもしれない。ごめんよセレナ」
「いえ。頑張ります」
申し訳なさそうに言うレオンに、セレナはロザリオを握りながらそう言って気丈にふるまう。
それと同時刻の『大連合』東方面軍司令部。
「……少将、そこでお休みになっていたんですか?」
『レプリカ』16機を含む支援部隊の指揮を行っている司令室で、サラはふと一段高い司令官席の片隅に寝袋が畳んで置いてあることを発見した。
その脇には、1週間分ほどの糧食等が入った段ボール箱が積んであった。
「はい。ここが1番安全ですから」
「いやまあ、そうですけど。……それは良いとして、少々気になる情報が」
「なんでしょう」
レオンが戦闘中とあって、一見そうは見えないがソワソワしている様子のレイラに、サラはついさっき届いたばかりの紙書類を渡した。
「やはり国王は亡くなっていましたか……」
そこには『公国』諜報員が警備の目を掻い潜って撮影に成功した、棺に入った『王国』国王・ストームス4世の遺体の画像が印刷されていた。
国民には未だに一切公表はされておらず、4人の王位継承者とその各人のバックに付いている公爵達が、王都内で後継者争いという名の暗殺合戦を繰り広げている、という報告が付いていた。
「事実上の内戦ですね。つまり、今回の戦闘はキャクストン公の予想通り、この泥沼の争いから目を逸らすための戦闘行為で確定ですか」
すでに継承権1位と4位が暗殺されていて、2位派と3位派の公爵の手勢が王宮内で戦闘中、という部分を見てレイラは思わず顔をしかめる。
そのタイミングで、マリリンの送った密使が『公国』に届けた情報が、暗号通信で幹部に共有された。
「国際犯罪組織が後継者争いに干渉しようとしていると」
ブレットから情報を得たマリリンは、実の長男すら知らない独自の諜報網でその裏取りを行い、継承権第5位で生きていれば7歳の、失踪した王女の存在を突き止めていた。
その他にも、残った1人が国家転覆を企てた賊軍であると国民を騙し、国の実権を握るためにその王女を担ぎ上げて、英雄譚仕立ての物語で指示を得る計画の実行案などや、
バック役となるのは公爵から格下げされた老貴族で、その衰えない野心につけ込んだ国際犯罪組織が国を牛耳ろうとしている証拠まで、アナログ盤の音声ファイル付きで記されていた。
「一体彼女、どのような手を使って?」
「我々が触れない方が身のためでしょう」
底知れ無さに青い顔をするサラへ、レイラは至って冷静な調子でそう言って、マリリンの但し書き通りにそれらをシュレッダーにかけた。
「……しかし、ストームス4世はそれなりに高齢のはず」
「7歳の実子は――、これは偏見ですね」
「……それはまあ置いておくとして、この『王女』は一体どこの何者なんでしょうね……?」
だが、『大連合』『王国』の諜報部とも、該当する年齢層の人物は誰も把握できておらず、マリリンの報告書ですら写真付きの出生記録以外は何もなかった。
「あの少将。これは完全に私の想像なのですが、その王女はもしやマリーでは?」
「彼女の年齢と不明な出自からの予測ですね」
「はい」
レイラはすぐに、その場合はマリーの母親かそれに近しい人物が、彼女が闘争に巻き込まれないように隠遁させるも、発見されて『公国』に逃がされた、というシナリオが思い浮かんだ。
「あのパイロットが何か知っている可能性はありますね。彼はまだ『公国』に?」
「捕虜としてまだ。……ですが言うでしょうか」
「捕虜としての価値を証明する必要がありますからね。恐らくは」
そう言って、レイラはひとまずベイルに一見それと分からない様なメッセージで、マリーが発見された『神機』のパイロットに繋げて貰える様に話を振った。
「おう、だいたい分かった。レオン君が気にしてるんだろ? ちょっと待て」
すると秘匿回線で通信が来て、時差によりまだ西部領は夜も明けてないが、ベイルは嫌な顔1つせずにそう言って来た。
「諸々なんとか出来そうだ。繋いで貰うぞ」
「お手数おかけします」
「良いって事よ。息子の迷惑料って事にしといてくれ」
数分もしない内に、『公国』中央政府内にいるベイルの友人を通して、件のパイロットと通信が繋がった。
「なんだ『ローンウルフ』。こんな朝っぱらから嫌がらせか? 勘弁してくれ」
蛍光オレンジの繋ぎに身を包んだ男は、レイラに向けてかなりの渋面で嫌みったらしく言う。
ちなみに『ローンウルフ』は、レイラが北方面軍にいたときに呼ばれていた二つ名のことである。
レイラはそれを無視して、単刀直入に男とマリーの関係がどの様なものかを問いただした。
「正直に答えると私の有用性の証明になるのかな?」
「そこは手配済みだ」
通信で同席しているベイルが、やや不愉快そうな様子で男の問いにすかさず答えた。
「ほう。『ローンウルフ』ちゃんは愛しの『英雄』サマにでも頼んだか?」
「あなたと私は対等な関係ではない事をお忘れ無く」
男のイヤミに対して、レイラは眉をピクッと動かしただけで、真顔は崩さないままややドスの効いた声で返した。
「おお、怖い怖い。まあ言ってやっても良いが――」
その反応を見た男はレイラを貶す様に半笑いでそう言って、目線をマジックミラーの小窓をチラリと見た。
「安心しろ。記録は最高機密扱いだ」
「そいつはありがたい」
ベイルはその様子で意図を察して答えると、椅子にどっかり座っていた姿勢を正した。
「証言する条件はただ1つ。マリアンナ殿下の無事が約束されているならば、だ」
表情をいきなり儀仗兵の様な畏まったそれに一変させた男は、凄まじく強い意志の宿る目をしてそう要求した。
「彼女自身が現状を望むならば、変わることはありえません」
「レオン・ルイスの意思か?」
「彼はもちろんのこと、キャクストン公のそれでもあります」
「そうか。ならば、ご出生とその先の話をしようか。と、その前に言っておく。私を外道から再評価などという事は絶対にするなよ」
「はい」
「その程度は受け入れよう」
「はいよ」
良いな、とかなり強く念押しをして、レイラとベイル、その友人の3人からの同意が取れると、
「あれはあまりにも酷い偶然だった――」
男は自分がこれから話す内容へ顔をしかめながらそう切り出した。




