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怪盗カササギの超常騒動  作者: 春花
ターゲット、封じの本尊
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封じの本尊

(キャラ紹介)

 タマ……百年以上生きているタヌキの妖怪という秘密を持つ。速人と瞬を助ける『護』としてカササギ神社にやってくる。普段は巫女として家のお手伝いをしている。幻覚・幻惑・変身が得意で、除霊だけでなく怪盗の手助けもする。

 休み時間ごとに、桜の周りにクラスメイトが集まった。転校生で帰国子女、さらに怪盗カササギを捕まえる宣言。聞きたいことは山ほどある。

「獅子姫さんって、もしかして島の開発・観光を担っている獅子姫 春菊さんの……」

「娘よ」

「どうして獅子姫さんが怪盗カササギを捕まえるって話になったの?」

「父に頼まれたのよ」

「それじゃやっぱり島としては、怪盗カササギを捕まえる意向なんだ」

「怪盗カササギを目当てに来る人もいるのにな」

「そうね。怪盗カササギは変に人気があり、一部では島の活性化のために捕まえないばかりか、観光客ゲットのために父が怪盗を作り上げたのではないかと囁かれているわ。そんな噂を払拭するため、島は怪盗カササギを捕まえるのに全力を尽くしているとアピールする必要があるのよ。その先頭に立つのが島の有力者の娘となれば、説得力があるでしょ」

「でも、危ないんじゃ……」

「私はすでに大学を卒業しているし、英国から騎士の称号を拝命しているわ。心配ないわよ」

「え!?」

 いきなり飛び出た経歴に、クラスメイトは驚きの声を上げた。だが、桜本人は自慢する様子も無く、平然としている。

「島としては、あんな犯罪者の好事家を放っておくわけにはいかないの」

「でも、今まで一度も捕まったことがないよ」

「昨日も逃げられたし」

 みんな暗に捕まえられないんじゃないかと言っているが、桜は気にした素振りもない。

「逃げられるのも当然よ。警察はカササギについて知らなさすぎるもの」

 と、桜は懐から手帳を取り出して開く。

「怪盗カササギ。三年前から活動し、今年で四年目。一年ほど前から精力的に活動するようになる。推定身長一七〇~一七七ほど。季節問わず黒の学生服と赤いマフラーで、顔のほとんどを白い仮面で隠している。おそらく男。しゃべり方が独特なのは、出身地を悟られないためワザと変えていると思われる。盗む前に予告状を出し、予告した物品以外はたとえ宝石が落ちていたとしても見向きもしない。盗んだ物品についても、今まで九割のものが返却されている。ターゲットとする物品はいわく付きと噂される怪しげなものが多い」

 ツラツラと読み上げてから、パタンと手帳を閉じる。

「これが今の所警察がまとめている大まかなデータ。カササギ本人についてのデータが驚くほど少ないわ。私は相手を捕まえるためには、相手のことを十分に知る必要があると考える。詳細なデータを集められれば、それこそ怪盗カササギの正体を明らかにすることも可能よ」

 怪盗カササギの正体と聞いて、クラスメイトはざわついた。

「諦めずに熱心に細心であれば、果たせないことなんてないの」

「じゃ、じゃあじゃあ、もしかして今日の郷土資料館にも行くの?」

「どうして知っているの?」

 その場所は本日の怪盗カササギが予告状を出した場所だ。

 言ったクラスメイトを桜が怪しむような視線で見るが、相手はその視線の気配に気づかず当たり前のように、

「え? だって、島のホームページに載ってるよ。ほら」

 携帯からホームページを見せると、確かに島の広報の欄に『怪盗カササギの予告状』とあり、『今夜九時、島の郷土資料館に封じの本尊をもらいに行くで』とあった。

 思わず、桜は目元を手で覆った。

「こういうことをするから、怪盗カササギは島が作り上げているとかって言われるのよ」

 捕まえる気はちゃんとあるが、それはそれとしてちゃっかりしている。

 怪盗カササギは今までの実績で人を傷つけない。盗むものは予告したものだけ。盗んだものを後日返すことが多い。などのことが分かっていて危険度が少ないため、島にとってはちょっとしたアトラクション感覚なのだ。

 実際、旅行者数や土産物屋の売り上げは上がっているし、とある経済学者が怪盗カササギによる島の経済効果は八億円に上ると出している。

「あまりネットで怪盗カササギのことをあおらないように。彼がやっているのは間違いなく犯罪行為で、ただ世間から注目されたいだけの愉快犯よ。騒いで盛り上げれば、彼が喜ぶだけよ」

 ビシッとした正論を、速人と瞬は目立たないよう、クラスメイトに紛れて聞いていた。ただちょっとだけ、瞬が頬を膨らませて機嫌を悪くしていた。



 桜の方から話しかけてくるかと思ったが、クラスメイトに捕まっているせいか、一度も速人や瞬に近づいてこなかった。放課後になったので、あえて速人から近づいた。

「獅子姫さん」

 まだクラスメイトに話しかけられていた桜に声をかけると、彼女の肩がビクッと跳ねた。

 随分と過剰な反応だと思いつつ、速人はいたって普通に、

「今朝うちに来たって瞬から聞いたけど、何か用事でもあったの?」

「いや、あ~その~……」

 先程までのハキハキした態度から一転、随分と歯切れが悪い。まるで、何か後ろめたいことがあるような様子だ。

 その様子に、周りのクラスメイトも不思議がる。速人だって不思議だ。

「……もしかして獅子姫さん。昔――」

「わあぁぁぁ~! ちょっと待って!」

 桜がいきなり叫び出して、速人の腕を掴んで廊下を走って行った。ポカ~ンと見送る者が多い中、速人が連れ去られた瞬間を見ていた瞬は、すぐさま後を追った。追いかけて二人を見つけたのは、人気のない校舎の裏手。

(こんな所に兄さんを引っ張って来て何を…………もしかして、兄さんの正体を知っていて自首を促すとか?)

 瞬は心配で影からこっそり様子を窺う。

 速人の方はケロリとしているが、桜は膝に手をあてて息を整えていた。無茶苦茶なフォームで走った上、動揺もあってかなり息が上がったようだ。

 速人は辛抱強く桜が回復するのを待った。そして、一分ほどで彼女は曲がっていた背中を伸ばし、

「あ、あのさ、昔の話をあんな人前でされると……その、恥ずかしいんだよね」

 そう言われた速人は困った。これを聞いてもいいのかな~っと頭を悩ませる。「え? 昔会ったことある?」。もちろん、聞いたらマズイだろう。だって、彼女は今文句を言いながらも嬉しそうだ。

 速人が悩んでいるうちに、桜は話を進める。

「うん……それで……今朝家に行った理由だったよね。あれは……その~……」

 言い難そうな桜の声は尻すぼみに小さくなり、躊躇いの態度が手や足に表れる。背中の後ろで両手をモジモジさせたり、つま先で地面をグリグリさせたり。

 隠れて窺っていた瞬は、何だか悪い予感がしてきた。

(な、なんなの、あのまるで『告白を切り出せない乙女の図』みたいな態度は。あなた怪盗カササギを捕まえようとしている人でしょ! その人怪盗カササギだから!)

 とかってぶちまけたい衝動を必死に抑える。言い出す内容次第では、すぐさま何食わぬ顔で邪魔してやると、いつでも飛び出せる用意をする。

 そして、覚悟を決めた桜が口を開く。

「速人の裸を見たかったの!」

 予想外にハレンチ!

「え? はだか?」

 聞き返した速人の言葉で、自分が何を口走ったか自覚した桜は、首から顔までみるみる真っ赤に染まっていく。

「ちょっと待って! タイムタイム! ノーカン! やり直させて!」

 とは言っても、もう時間は巻き戻せない。

 テンパり過ぎた桜は目をグルグルさせ、パニック状態はより深刻になっていく。

「ごめん! 今日は帰る!」

 そして、逃げた。さすがに追うのは可哀想なので二人とも追わなかった。

 怪盗カササギのことを疑われているかどうかハッキリさせたかったが、さらに何だかよく分からなくなった。



 学校を終え、帰ってきた速人と瞬をタマが出迎えた。

「おかえりッス!」

 速人に飛びつこうとしたタマを、間に入った瞬がペシッと額を叩いて押し留めた。

「初日から馴れ馴れしいわよ」

「う~、だって速人ッスもん~」

「何が「だって」なのよ」

 基本的に敬語の瞬だが、タマ相手にはしない。しっかりと使い分けをしている。

「私だってここ数年、兄さんに抱きついたことなんてないのに」

 欲求に素直なタマを羨むかのようにポツリと呟いた瞬の横を、影が素早く通り過ぎた。

「タマ! 大丈夫!?」

「ふえ?」

 慌てた速人に肩を掴まれ、驚きで目を見張るタマは呆けた。

「いえ、兄さん。そんなに強く叩いていま――」

「どうしてタヌ耳と尻尾がないんだ!?」

 瞬は言われて気づいた。確かにタマの頭とお尻に獣耳と尻尾がなくなり、見た目はどこから見ても人間になっている。

「あ~。じっさまに人里ではちゃんと隠して生活するように言われたッス」

「それを隠すなんてとんでもない!」

「いや、兄さん。願望出過ぎです」

「それに秘密を抱えて生きていくのは大変だぞ」

 すごい説得力! 思わず瞬がサッと速人から視線をそらしたほどだ。

「でも実際、そんな隠さなくても堂々としていれば問題ないと思うよ。どこの世界にタヌ耳娘を見つけてアクセサリーだと思う前に、タヌキの妖怪って思う人間がいるんだ?」

「そうかもしれませんが」

「おお~、目から鱗ス。耳や尻尾を隠すのって気疲れするから出来れば出していたかったんッスよね~」

 言うが早いかタマはぴょこんとタヌキの耳を頭上に出す。すると、速人の顔がご満悦に輝いた。正直すぎる様に、瞬は頭痛がしてきそうな額を手で押さえる。

「ふふふ、お困りのようね瞬ちゃん」

「叶お姉さん」

 いつの間にか現れた母が、壁に寄りかかって腕組みをしていた。

「私にかかれば瞬ちゃんの難題も華麗に解決よ!」

 言うやいなや、後ろ手に持っていた白と赤の布を取り出し、タマを包み込んだ。

「はいっ!」

 掛け声の後に現れたタマは、巫女さんの姿でタヌキの耳と尻尾が生えていた。

「こうすれば要素を盛り込んだコスプレだと思われるわ!」

「カササギ神社は伝統ある古風で真っ当な神社ですよ、叶お姉さん!」

 しかも問題も解決していないことから……はは~ん。この人、タマに着せたかっただけだなっとすぐ分かる。

「母さん、グッジョブ」

「速人、似合う? 似合うッスか~? 今度の服は窮屈じゃなくって楽ッス」

「悪かったわね!」

 元の服を貸していた瞬が、声を荒げて突っ込んだ。

「とりあえず、写真を一枚」

「兄さん!」

 瞬の叱責が飛び、携帯で撮らせてもらえなかった。



 夕食後、予告した時間が近づいて、速人は学ランに着替えて赤いマフラーを巻く。

「兄さん、獅子姫さんのことですが」

「う~ん……あの調子で今日来るのかな?」

 自宅で悶えていても不思議じゃない。

「いえ、まあ……どうなんでしょうね。ただ、来ていたら少し心配ですね」

「大丈夫だって。怪盗カササギは――」

 最後に白い仮面を装着する。

「簡単には捕まらへんって」

 声の感じだけでなく、全身から感じる雰囲気まで一変した。

「速人~!」

 無断で部屋に入ってきたタマに飛びつかれて、カササギは前にたたらを踏んだ。

「俺は速人やない。怪盗カササギや。間違えんな」

「ん? どういうことッスか?」

 おんぶをしたままやり取りを続ける二人に、瞬はむす~っとした視線をやる。

「カササギさん。やっぱりタマは追い出しましょう。危ないです」

「そう目くじら立てんなや。眉間にシワできるで」

 軽く眉間をカササギに押されて、瞬は顔を赤くしてそこを手で押さえる。

「賑やかになって面白くなりそうやんけ。俺もテンションが上がるし、毎日に張りが出るわ」

 毎度大変な思いをするカササギに労いになるものが出来たのはいい。喜ばしいことだ。しかし、ちょっとイチャイチャし過ぎではないだろうか。

 そう思う瞬は、タマをカササギから引きはがす。それであらためて、カササギはタマと顔を正面から合わせる。

「タマ、俺が怪盗カササギや。今からいわく付きの物品を盗んできて、瞬がそれを除霊するんや」

「おお~、ついに仕事ッスね」

 一応『護』という役割上タマも無関係ではないので、瞬が今夜の説明をする。

「今日の一品は郷土資料館にある『封じの本尊』です。内部によくないものが封印されています。かなり邪気が集積していましたので、あと数か月もすれば何か異変を起こすかもしれません。ですから、今の内に邪気を祓っておきたいのです」

「了解や」

「は~いッス」

 と、調子よく返事をしたタマがカササギについていこうとしたので、すぐさま瞬は後ろ襟を掴んで引き留めた。

「どこに行くつもりなの」

「え? カササギのお手伝いッスよ。タマはそのために来たッス」

「そんな心臓に悪いこと言わないで」

「確かにいきなり現場っちゅうのもアレやな。ほならあれや。説明がてらタマを郷土資料館に連れて行ってや。口で説明するより、野次馬の中でも実際に体感した方が分かりやすいやろ」

 カササギの提案に、瞬は雷で打たれたような衝撃を受けた。

「タマと一緒にですか!? 嫌ですよ! クラスメイトに会ったら何て言えばいいんですか! こんなのと一緒にいるなんてカオスですよ、カオス!」

「そんなん、新しく住み込みで入った巫女さん言うとけばええやろ」

「カササギ神社の威厳が……伝統が……」

「柔軟にやっていかんと、世の中に取り残されるで。とにかく、頼むわ」

 カササギはタマを瞬に託して、姿を消した。彼がいなくなった後も、彼女はタマを連れていくか悩んだが、頼まれちゃったしな~と渋々受け入れる。

「それじゃ、先に玄関に行ってて」

「は~いッス」

 と、邪魔者を部屋から追い出した瞬は、自分が畳んだ速人の服に熱のこもった視線をやる。速人の体温が残っている内にとそれを手に取り、胸に抱きしめて顔を埋める。

「どうして服を抱きしめてるッス?」

「ぅぎゃぁ~!」

 口から心臓を飛び出させ、断末魔の叫びを上げた瞬が振り返ると、キョトン顔のタマが立っていた。

「なに戻って来てんのよ!」

「瞬が来ないからどうしたのかと思ってッス」

「先にって言ったでしょ!? 私にはやることがあるのよ!」

「服を抱きしめることがスか?」

「うっ」と、瞬は面白いように言葉を詰まらせる。

「これはあれよ。え~っと、除霊に向けて英気を養っている……は違くて……あ! 臭わなかったら兄さんにはもう一日ぐらい着てもらおうかな~って! ほら、洗濯物を少なくすることで節水するっていう――」

「速人が好きなら本人に抱きついた方がいいッスよ」

 直情的な言葉にズバッと斬られた瞬はのけ反って速人の服を手放した。床に手をつき、震える瞬に、

「速人の背中は広くて暖かいし――」

「自慢か! ってってってって、っていうか! 私が兄さんを好きとか、分かってんなら何を聞いてんのよとか! そういう色々~!」

 動揺して一杯一杯の状態で、言語が間に合っていない。真っ赤な顔で騒ぐ瞬を見て、タマは笑いつつパタパタと手を動かす。

「見てたら分かるッスよ」

「あんたの目は節穴よ! どうでもいいからもう行くわよ! あんたはさっさと着替え……なくていいわ!」

 また窮屈だと言われるのが癪なので、結局瞬は巫女姿のタマを連れて家を出た。



 建物が古い郷土資料館には、本格的な防犯装置などはない。定点の監視カメラぐらいで展示物が入っているケースのガラスも普通のものだ。

 そのため、今回頼りになるのは警察の警備だ。

 出入り口は当然。建物周辺も警戒し、情報を聞きつけてやって来た野次馬や記者、カメラは近寄ることもできない。

 二階建ての建物で、カササギが狙う『封じの本尊』は一階の隅っこに展示されている。そのターゲットの近くには、怪盗カササギ担当刑事の富良野警部と帯剣している桜がいる。

「『封じの本尊』。その昔、島の高僧が漁場を荒らす化け物をこの仏像に封印したという話があります」

 桜は学校でのテンパりさを感じさせないぐらい真剣に『封じの本尊』を見つめている。

「それで、これの価値は?」

「歴史的価値も美術的価値もほとんどありませんよ。郷土資料として大切にされているものです」

 目に留まりやすい位置にある鎧兜や刀、価値のある巻物は監視カメラで見られているが、隅っこのここは監視カメラの死角になっている。ケースの鍵もちゃちなもので、予告状なんて出さず、人目のない時を狙えばそう苦労しないで盗めそうだ。

 だから桜は、カササギは目立ちたがりのバカだなっと思う。

「今回はどうするので?」

 富良野警部は桜にお伺いを立てる。組織に属するゆえ上が決めたことには従うが、桜を頼りにしていないのは表情や態度から分かる。だが、彼女はそんなこと気にもせず、

「あまりその仏像に近づかないでください」

「え?」

「もう特殊な塗料を周囲の床に塗りましたから」

 富良野はじっくりと『封じの本尊』のガラスケース前の床を見るが、薄暗いのもあって何かが塗られているようには見えない。

「特殊なライトを使わないと見えません」

 桜が取り出したライトの光を床に当てると、塗料が塗られた部分だけ青く発光した。

「さらに人には分からないほどの臭いをつけました。たとえ盗まれたとしても、警察犬でカササギを追うことができます」

「……盗まれることが前提ですか」

「いえ、これは念のためですね。カササギがこれほどの警備を突破できるとは思えないですし」

 桜が振り返れば、二人一組でたくさんの警官が常に館内を見回っている。これでは気づかれずに侵入するのは不可能だろう。

 富良野警部は年季が入った腕時計に目を落とし、

「もうそろそろ予告時間か」

「あ、もうそんな時間ですか」

 桜も時間を確かめる。予告された時刻は九時で、現在の時刻は八時五四分。

「三回に二回は五分前行動という、ふざけた奴なんです」

「時間に律儀なのか、撹乱しようとしているのか迷う割合ですね」

 五五分になった瞬間、

「怪盗カササギ、推参や!」

 という声と少し遅れて歓声が外から上がる。

「まさか外とは!」

「落ち着いて下さい。どこに現れようとも奴の狙うターゲットはここにあります。むしろ厳重な警備を見て、私達を外へ誘導しようとしているのでしょうね」

「なるほど」

 考え無しに外へ出そうになった警官達が、桜の言葉で足を止める。

「外にいる警官にカササギの様子を逐一伝えるように」

 桜の指示に頷いて、富良野警部は外の警官に無線で連絡を取る。

「おい、カササギに何か動きがあったら……え? なに? 電柱の上でマフラーなびかせて、両手に花火を持って打ち上げている? …………何で今日に限ってそんなやたらテンション高いんだ、あいつ」

 窓から外を覗けば、確かに花火が打ち上がっていた。

「落ちた? って、落ちたってカササギがか!? あのカササギが電柱から落ちたっていうのか!?」

 富良野警部は桜に視線をやると、さすがの彼女も悩むように口元へ手を当てる。

「……外のG地点にいる警官を三名確認にやってください。出入り口を担当している人は決して動かないように」

「そら遅いわ。もう入っとるし」

 展示物が日焼けしないよう照明は主に通路に落ちているが、それをスポットライトのようにしてカササギが立っていた。

「いつの間に!?」

 驚く富良野警部にカササギは手袋をしている手で指を立て、軽く振る。

「煙のように現れて、煙のように消えるのが怪盗や」

「気づかれないよう入って来たのは流石だわ。でも、あなたは完全に包囲されているのよ」

 カササギは嘆息して肩をすくめる。

「今日は随分ノリが悪い思ったら、お嬢さんがおったんか。せっかくパフォーマンスしたんやし、ぎょうさん見に来てほしかったわ」

「中の警備を手薄にさせようっていう魂胆が見え見えなのよね」

 桜の指示のおかげで、館内には警官が最初と変わらない人数がいた。カササギを遠巻きに包囲し、ジリジリと距離をつめていく。

 桜は剣を抜刀し、眼前に立てる。

「民を煽り、世に混乱をもたらす怪盗カササギ。ついに最期の時よ。かかれ!」

 号令一つで、警官はカササギに飛びかかった。

 カササギは予備動作なく垂直に跳び、警官の背中を踏み台にして囲いの外に出た。警官はゴチャッと山積みになり、上の人から動こうとしたが、

「あ、動かへん方がええよ。下手すりゃ切れるで」

 カササギがピンッと張ったワイヤーを左手首の装置から切り離した。倒れた警官達はいつの間にか体にまとわりついていたワイヤーにもがいて、立てなかった。

「カササギ!」

「ぬおぉ!」

 桜の一刀を、カササギは体をのけ反らして避け、そのままの勢いでバク転して距離を取る。

「危ないやんけ! 殺気あったやろ、さっきの攻撃!」

「生半可な攻撃ではあなたを捉えられないことは前回で学習済み。手加減は無し!」

「スルーすなや! 寂しいやん!」

「知らないわよ!」

 話している間も、桜の斬撃は続いている。それなのに、カササギは軽口を言う余裕がある。それが桜のプライドを刺激する。高速の突きを外側に体を開いてかわされ、剣を引き戻さずに横薙ぎに振るう。空気が鋭く両断されたが、そこにカササギの姿はなかった。

 桜は頭に羽毛ほどの重さを感じた。カササギは高く跳び上がり、桜の頭に置いた一本の指を支点にして体をひねり、彼女の背後に着地した。

 そしてカササギは、着地の時に曲げた膝を推進力に使い、矢のように飛び出した。もうターゲットの前にいる守護者は富良野警部だけだ。問題なくやり過ごせる…………はずだった。

 激しい音と共に、ケースのガラスが中からぶち破られた。

 順調に仕事をこなしていたカササギ。しかし、何やらおかしなことが起きてしまった?

 しっかり者の桜が速人の前だとあたふたし、カササギ相手には容赦がない。こういうのって楽しいです。

 次回で第一話が終わるので、話の感じは次回ぐらいで掴めるかと思います。

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