味方参上
(キャラ紹介)
神津速人……怪盗カササギという秘密を持つ。普段は目立たない、無害な草食系男子。ただし、カワイイ動物のことになると目の色が変わる。写真部に属し、得意科目は理数系。体育で本気を出せば超高校級の実力だが、怪しまれるのでそんなことはしない。地元を愛する好青年。
篠木瞬……速人一筋十六年のブラコンという秘密を持つ。ではなく、霊能者という秘密を持つ。速人の前では清楚でお淑やかであることを心がける。でも、素はツッコミ体質。家事を得意とし、良妻を目指している。写真部に属し、成績は大変優秀。トラウマにより人前で除霊できないが、霊能力は非常に高く、すでに速人の父を超えている。
速人が黄色の髪の女について語り終わった時、
「ちょっといいかい」
ドアをノックして父親が顔を出してきた。
「どうしたの、父さん?」
「今日の仕事ならちゃんと私が祓っておきましたよ」
「う~ん、二人とも随分頼もしくなって、父さん心強いよ」
速人の家は鳥治島に昔からある古い神社で、カササギ神社という。速人の父親(瞬の母親の兄にあたる)神津 健が神主をしていて、祖父と母がその手伝いをしている。そして、神社に持ち込まれないものや、超常問題の種類によっては、速人と瞬が怪盗カササギと『神依り』として解決している。それを当然家族も知っているし、たまに協力もする。
「ところで、明日から大切な人をうちに住まわせるから」
いきなりの話に瞬は仰天する。速人だって「え?」と思った。
「ちょ、ちょっと待ってください、伯父さん! うちに他人を滞在させるなんて――」
「大丈夫大丈夫。きっと速人達の味方になってくれるよ」
父はもったいぶって詳しく話さず、とっとと「お楽しみ~」と残していなくなった。そのため、反対意見すら言えなかった。もしかしたら、それを言わせないためこんな直前まで黙っていたのかもしれない。
翌日、瞬は少し豪勢な朝食を用意した。昨日怪盗カササギになった速人を、少しでも労おうと思ってだ。今日もお仕事があるから、スタミナをつけてもらうために肉を焼いた、肉を。
朝食の用意を終えて、瞬は健伯父の話を思い返す。
客間があるから人を泊めるのに支障はない。しかし、場所の問題ではない。滞在させるなんてもっての外だ。この家には『怪盗カササギ』という決してバレてはいけない秘密がある。
鬱屈なオーラをまとって、追い返さなくては。と、可愛い息子を嫁に盗られた鬼姑さながらの結論を出した瞬は、ピンポーンのインターホンの音にピクリと反応した。
そのまま行こうとして、包丁を持って行こうかどうか真剣に悩んだ。とりあえず、置いておこう。これはまだ早い…………機会のタイミングを冷静に見極めようとしないでほしい。
制服の上にしていたエプロンを外して、玄関に向かう。曇りガラス戸の向こうに見える人影は一人。身長はそれほど高くない。もしかしたら女性かもしれない。まとうオーラの色が鬱屈なものから漆黒に変化し、追い出したい理由が一つ増えた。
しかしガラス戸を開ける寸前にオーラが引っ込み、ドロドロとした心情を感じさせないような余所行きで高目の「は~い」という声が出た。見事な取り繕いようだ。
そこに立っていたのは、黄色の長い髪の女性。速人の情報通り、島に一つしかない高校――鳥ノ神島高校の学生服を着ている。そして、耳には赤い宝石のイヤリング。帯剣こそしていないが、おそらくこの女性が、昨夜怪盗カササギの逃走経路を先読んだ秘密兵器!
反射的にドアを閉めなかったのは、ただ驚きで体が硬直していただけだ。だが、動かなかったのは体だけ、色んなことが瞬の脳みそを駆け巡る。そして、次に目を走らせる。女の後ろに警官の姿は一人もいない。つまり、速人を拿捕に来たわけではなさそうだ。
何の御用か探るよう女の顔を見れば……大人びた綺麗さに気づいて、人知れず瞬は心にダメージを負った。…………じゃなくて! 容姿はひとまず置いといて様子を探れば、なぜだか気まずそうに顔を俯かせ、チラチラと瞬のことを見ては視線を外している。
この女性は捕まえる側の人間のはずだが、どう見ても彼女の方が職質されそうなほど挙動不審だ。
「あ、あの~、どちら様でしょうか?」
あまりにも向こうがアクションを起こさないものだから、瞬の方から聞いた。それで相手はハッとして、
「あ! 速人は元気!?」
「はい!?」
何の探り!? 健康状態!? なに? 風邪でもひいていたらトドメでもさそうとかって思っているの!? と、瞬は次々と疑問を頭の中に浮かべる。
相手も自分がかなり突拍子もないことを言ったのを自覚したのか、恥ずかしさに赤くなり、顔の前で手を振る。
「違う! あ、違うってことはないけど、そういうことじゃなくって……私が言いたいのはそれじゃなくって、アレで……え~っと、瞬もごめん!」
訳の分からない内に、相手は一目散に逃げていった。
「あなたが逃げるんですか?」
思わず本音でボソッと呟いた。心の中では「逆でしょ、逆」ともツッコミを入れていた。
と、しばらく素で呆けていて、ハッとちゃんとした意識が戻ってきた。
とにもかくにも、まずは速人に報告だ。敵がこの場所に来たことをキチンと伝えて、対応をしなくては。
玄関の鍵をしっかりかけて、廊下を進んで階段を上がって速人の部屋の前に行く。
どうせ起きていないだろうし、ノックはしない。ベッドで丸まっている速人の横を通り過ぎて、カーテンを開けて部屋に日光を入れる。
「兄さん、起きてください! 大変なん――」
瞬の言葉は、そこで途切れた。
声と日光で起きた速人は、ベッドの上で上体を起こした。
「……あ~おはよう」
寝ぼけた声で挨拶するが、瞬は固まったまま無反応。その時、速人の隣で寝ていた人も起き上がった。
「おはよう~ス」
眠そうな声を出し、速人にしなだれかかる。
速人は目を丸くして相手を見る。頭髪は全体的に濃い茶髪で毛先は黒い。安らかな顔で目を閉じ、今にも二度寝をしそうだ。あどけなさで幼く見えるが、大きく育っている胸から判断して幼くはないだろう。ハッキリ大きいと分かるのは、彼女が服を着ていないからだ。柔らかな体を惜しげもなく速人に押し付けている。
しかし、速人の目は彼女の胸や裸体に向いていない。速人の目は、彼女のフサフサで丸めな耳と、黒と茶色の大きな尻尾に注がれている。
その獣耳と尻尾は、タヌキのそれだった。
それですかさず速人は一つのことに思い至った。
「あの信楽焼きが人間に!?」
「なわけありません!」
瞬はツッコミを入れて、少女を速人から引きはがしつつ毛布で包んだ。
「いや、でもほら、付喪神っていう可能性も」
「ありえません。昨日霊視して霊能の残滓がないことは確認しました。あのタヌキの置物とこの子は、まったく関係ありません!」
「…………瞬、何か怒っている?」
「怒っていません! いえやっぱり怒ってます!」
「どっちなんだよ」
そのやり取りをしている間に、ぼんやりとしていた少女の目の焦点があってきた。そして、目の前にいる速人の姿を見ると、
「おお~速人ッス速人ッス~!」
馴れ馴れしく実像を確かめるように、ペタペタと顔から体までペタペタと触っていく。
「そうです。俺が速人です」
どっかの変なおじさんか。な自己紹介に、瞬の頭がガックリと落ちる。
立て続けに起きるおかしな事態に、瞬の頭からオーバーヒートの黒煙が出てきそうだった。
「兄さん! そんな簡単に名前を明かさないでください! 相手が誰かも分からないんですよ! それに――」
「瞬の言いたいことは分かっているから、もうちょっと落ち着こう」
よっぽど余裕がないのか、両肩を掴んで迫る瞬を速人はなだめる。彼女の必死な表情に彼は頭に大きな汗を流して気圧されていた。
しかし、言いたいことが分かっているとは本当だろうか? 朝からの怒涛の展開に、瞬が言いたいことは五万とあるのだが。
速人は落ち着かせた瞬を横に置き、正体不明のタヌキ娘に向き直る。
「一族総出で俺を化かしに来たんだよね? みんながそろった所を写真に撮らせてくれない?」
「ジブリの映画じゃないんですから、そんなわけないでしょう!」
「ここに来たのはタマ一人ッスよ~」
一人荒ぶる瞬をよそに、何だか和やかに話が進んでいく。何でこんなに緊迫感がないんだろうと瞬は頭を抱える。早急に、彼女がしっかりする必要があった。朝から起こった全てのことをいっぺんに何とかするのは無理だ。順番を決めて一つずつ対処していかなくてはならない。
そう思った瞬が最初にやろうと決めたのは、
「兄さん、ひとまずこの子を着替えさせますから出て行ってください!」
速人を部屋から追い出すことだった。
背中を押される速人が何か言おうとしていたが、瞬は聞こうとせず(どうせ獣耳少女から離れたくないとかに決まっている)、強行的に外へ出した。
外に押し出された速人は、ポカ~ンとした表情でドアを見つめる。ここは彼の部屋だ。着替えさせると言っても女物の服はない。
バッと勢いよくドアが開き、毛布に包まったタマの手を引いて、瞬が隣の自分の部屋に入っていった。移動する時、瞬は頬を真っ赤にさせ、速人を一切見なかった。やっぱり動揺は少なくなかったようだ。
和室にある漆塗りの大きなテーブルを速人の家族が囲んでいる。祖父と速人の両親、速人と瞬。全員の前で、ちょっとサイズが合っていない瞬の服を着た(胸の大きさが違うためお腹や背中がチラッと見えるのだが、断じて瞬は認めないだろう)獣耳少女――タマがペコリと頭を下げる。
「はじめましてッス。タマが当代の『神依り』の手伝いに来た『護』ッス。タヌキの妖怪として生まれ、妖怪として生きて百年ちょっと――ええ~っと。あれ? この続き何だったスかね~? じっさまに練習させられたのに忘れてしまいましたッス。まあ、まだ若いけどそこそこ使えるらしいから頑張っていくッス。的な?」
何だか分からない不安にさせる自己紹介だった。ハッキリと分かったのは、彼女がタマという名のタヌキの妖怪だということだけ。
苦笑いしていた父は「ゴホン」とワザとらしい咳払いを一つしてから、
「昨日言っていた速人達の心強い味方だ」
「心強い」という付属品が付け足されている。まったく「心強くない」保証だ。
「伯父さん。『神依り』とは私のことですよね?」
背後に憤りのオーラをまとう瞬の低めで大人しい声に、父は若干頬が引きつく。
「そ、そうそう。鳥治島の平和と住む者達を守るため退魔・破邪をする者だ」
「では、『護』とは?」
瞬も初耳の言葉に疑問を投げかける。
「『神依り』を手伝い、守護する者だよ。昔からうちの仕事を手伝ってくれる方をそう呼ぶんだ。その多くはこの島にいる妖怪で、瞬が『神依り』になった時から要請していて、この前ようやく送るって返信があって……」
「いりません」
両断する瞬の返答に父は固まり、タマは「ええぇ~」と遠慮のない声を上げた。
「まだ何もしでかしてないのに帰されるッスか~? じっさまは「たぶん、あそこの家なら九回ぐらいしでかしても大丈夫だろうから、それまでに取り入って追い返されないようにしておけ」って言っていたスよ」
仏ですら許すのは三度までなのに、その三倍を要求されている。聖人視されているのかたんに舐められているだけなのか。
タマの明け透けな発言に父は汗を流すが、瞬はプチプチと怒りマークを頭にはりつける。
「断固拒否です! クーリングオフを適用してでも送り返します! 大体にして、私達が活動をし始めてもう四年目ですよ! 今さらですよ! 兄さんと私だけで十分やっていけます!」
「瞬」
祖父の一言に、瞬は口を閉じる。
「わしの時もそうじゃったが、『護』には色々と助けてもらった。物の怪の類を相手にしていると、たまに手に負えないような相手と出くわす時がある。そういった時、味方にとんでも技が出来る奴がいると何とかなるもんじゃ」
「とんでも技って」
「あ、タマは幻惑・幻覚・変身が大得意ッス。それも言えって言われてたス」
忘れていたことを少しも悪びれず、笑いながら後頭部に手をやるタマ。このレベルのうっかりをしょっちゅうやられたら、いつか怪盗カササギの正体もポロッとこぼすかもしれない。
やはりいつ爆発するか分からないような不発弾を抱えたくないと瞬は思ったが、
「それに幼い見た目と違って百年生きている経験は必ず助けになる」
「でも、今までは――」
「本当に今までは大丈夫だったと言えるか?」
チラッと速人を見た祖父の言葉に瞬は俯き、押し黙る。
「向こうには速人と瞬のことを伝えていた。それを鑑みてこの者を送ってきた。四年もかかったんじゃない。たった四年で仕上げてきたのじゃ」
そのこと(おそらく速人が怪盗カササギだとばらしたこと)に瞬は腰を上げかけたが、妖怪が警察に通報するとかトンマな事態は想像できないため、文句を言い難かった。
「そうッス。飛んだり跳ねたり走ったり、変な訓練をたくさんやったッス。カラス天狗や河童からやたらに遁法を教わったッス」
「トンポウ?」
「逃亡の方法のことじゃな」
「説明されたッスけど、いまいちどうして必要なのか分からなかったッス」
「よく分からないものを四年もやり続けたの、あなた?」
「そうッスよ」
元気で素直なのは美点だろう。
「あれ? 怪盗カササギのこと伝わっていない?」
確認のため慌てて父親が聞くと、
「知っているッス、じっさまから聞いたスから。でも、よく分からなかったッス」
知っているが、理解はしていないようだ。
「どうしてわざわざ盗ってくるッスか? 普通に除霊すればいいッスよ」
「ウッ」
痛い所を聞かれた瞬は、自分の秘密をばらしたくなくって黙っていようとしたが、
「盗ってくる理由は、人目につかない場所で除霊するためだよ」
「余計なことは言わないでください、兄さん」
説明を始めた速人に釘をさしたが、
「何で隠れて除霊するスか?」
「瞬は霊能力を持っていることを他人に知られたくないんだ」
タマに聞かれて、あっさりと暴露した。どうやら瞬が釘を打った場所はとんだ沼地だった――釘はズブズブと埋まったらしい。葛藤すらなかった。
テーブルに突っ伏した瞬を、速人とタマ以外がなぐさめる。
「私が『神依り』の代は、島を守れていたとは言えなかったな」
父の自嘲が込められた言葉に瞬は顔を上げる。
「時代かな? 超常のことは胡散臭がられ、信じられなくなっていてね。島外から来た人や若い人相手だと特に。注意をしたら霊感商法の不審者扱い。お祓いをしようとすれば怪しげな宗教勧誘。カササギ神社の者だって言っていたのにね~。瞬が霊能力を隠したい気持ちは分かるよ。…………憑かれているのが分かっていてもどうにもできない、じくじたる思いを随分としたよ。その思いは私の『護』も同じだった。何とかしたいと思って悩んでいた時の……怪盗カササギだ」
後悔と力不足で沈んでいた言葉が最後でパッと華やいだ。
「速人と瞬が強引にでも心霊現象問題を解決している姿を見ていると気持ちいいし、止められないよ。それを助けるために送られてきた子なんだ」
父は瞬に頭を下げた。
「頼む。受け入れてくれ」
さすがに瞬もすぐには声が出なかった。
迷いながら視線は終始黙っていた速人の母に向かう。
「叶お姉さんはどう考えますか?」
「可愛いから可。むしろ推奨します」
微笑みながら親指を立てる。可愛ければ種族を問わず広く受け入れる度量の広さと深さだ。
これでもう決まった。速人には聞く必要もない、ガッツポーズとかしているし。
「仕方ないから、様子見くらいはしてあげるわ。ただし!」
喜びかけたタマに、釘をさすように指を突きつける。
「使えないどころか危ないと思ったらすぐにでも追い出すから覚悟しておくことね」
瞬は脅したつもりだったが、
「は~いッス」
軽い感じの返事だった。この軽さでいっそう不安になったのは言うまでもない。
話し合いの結論が出て、テーブルに朝食が並ぶ。ちゃんとタマの分も用意され、目を輝かせる。
「おいしそ~ッス! いっただっきま~す!」
意外にちゃんとあいさつをしてからタマは食事に手をつけた。
瞬は無関心を決め込もうとしていたが、自分と速人の間に座ったタマが手をつけているおかずを見て、そうもいかなくなった。
「ちょ、ちょっとあなた! 何を食べているのよ!」
タマが箸をつけていたのは、瞬が丹精込めて作ったステーキだった。
モグモグごっくんしてから、
「ん? これはタマのじゃなかったスか?」
平然と聞き返した。まあ、食卓には境界線がないから、どこまでが自分の陣地か初めてのタマが分からなくても仕方がない。が、ステーキは当初速人の前に置かれていたが、いつの間にかタマの前に移動していた。
「違うに決まっているでしょ! これは兄さんのために――」
「あれ? そうだったんだ。てっきりお客さん用に用意したものだと思ってタマにあげたんだけど……まあいいや。食べていいよ、タマ」
「わ~い」
バクバクとタマの口に消えていくおかずを見て、
「あ、ああぁ~、あああ~」
瞬の口から絶望の声が漏れ出た。
瞬以外の家族は食すタマを微笑ましい表情で見ている速人を見て、確信犯的におかずを与えたんだと察した…………間違いなく、餌付けにかかっている。
魂が抜けたまま食事を終えて熱いお茶をすすった瞬間、瞬はハタと思い出した。
「そうだ兄さん! あの人が家に来ました! 昨夜言っていた黄色の髪の女性です!」
色々あってスコーンっと忘れていたが、朝の事態の内、危険度でいったらそれが最上位にくる。
タマと一緒にお茶を飲んでいた速人は首を傾げる。
「え? 何しに?」
「何しに? ……………………」
思い返してみる。何しにだろう?
「いえ、よく分かりませんでしたけど、兄さんの体調を聞かれました」
「え~謎すぎる。まさか昨晩呪ってみたから効果が出たか確かめに来たとか?」
「そういうのでもなかったような……何か用があったのは怪盗カササギにではなく兄さんにあったようです。兄さんの名前を言っていましたし、私の名前も知っていました」
「俺に? それに瞬の名前も知っていたの?」
黙って速人は脳内であらためて昨日の女性を検索にかけた。速人は一度会った人の顔を忘れない特技を持っている。が、やはり引っかからない。一名だけ髪色が酷似している人物がいたが、数年前に別れた親友で性別が違う。
謎の女性の心当たりがない速人は、う~んと唸りつつ手持無沙汰でついつい傍らにいるタマの頭を優しくなでる。
「兄さん、何をやっているのですか」
「え?」
言われて初めて、自分がタマの頭を撫でていることに気づいた。完璧に無意識だった。
撫で方がよっぽど上手いのか、タマは気持ちよさそうな顔で身を任せていた。
気づいてもしばらくやめず、ムカついた瞬はタマを押し退けてその場に自分が居座りたい想いを懸命に押し殺し、
「退場!」
「一発レッドってどんなファールしたの、俺!?」
「ファールどころかもう完璧アウトです!」
「せめて一つのギャグ内では競技を統一してくれ」
などと他愛のないやり取りをしている間に、登校しなくてはいけない時間帯になった。
玄関に速人と瞬が並んで立ち、母とタマが見送りに出る。
「速人、タマもついて行っていいッスか?」
「ダメです。学校に無関係な人を連れて行くわけにはいきません。というか、あなたは目立たないでください。説明がややこしいですから」
「よし、今日は休もう」
「兄さん、ふざけないでください」
不機嫌のため、瞬は速人の耳を引っ張って注意をした。
「なら、これでどうスか?」
ボンッと白い煙が上がってタマの姿が隠れ、晴れた後に現れたのは、可愛らしい小柄なタヌキだった。
その瞬間、速人の姿がこの場から消え、くしゃみだけが遠ざかって行った。
「あら、可愛いわね~」
母がタマを持ち上げ、胸に抱いて頭を撫でる。瞬とタマはしばし呆然としていたが、
「あ、妖怪は霊体じゃないから」
気づいた瞬がポンッと手を叩いた。
「速人は病気ッスか?」
タヌキの姿のままでも、明るい声は変わらない。
ある意味病気だと瞬は思ったが、黙ったまま答えなかった。
登校した速人と瞬は、教室がにわかに盛り上がっているのにすぐ気付いた。
昨日出た怪盗カササギの話でもしているのかと思いきや、なんとこのクラスに転校生が来るというのだ。しかも、その転校生はヨーロッパからの帰国子女らしい。
盛り上がるほど転校生への期待値は高くなり、チャイムがなってホームルームの時間になった時は、みんな待ち遠しくってソワソワしっぱなしだった。
ただ、速人と瞬は何だかとってもイヤな予感を覚えた。
朝のホームルームで、担任が転校生をクラスに招き入れた。ドアを開けて入って来たのが女子の時点で、男子が活気づいたが、速人は心の中で呻いた。
歩くのに合わせて、長い黄色の髪がなびく。
担任が黒板に書いた転校生の名前は「獅子姫 桜」。
大人びた落ち着いた視線でクラスを見回し、頭を軽く下げて会釈する。その時、耳にある赤い石のイヤリングが揺れた。
「獅子姫桜です。鳥治島生まれですが小学校は本土の学校に通い、十歳の時にヨーロッパへ留学しました。ですので、初対面の方がほとんどだと思います。二日前に七年ぶりに帰ってきたのは、怪盗カササギを捕まえるためです」
その挨拶というより、決意表明の言葉にクラスがざわついた。瞬は内心で動揺したが、速人に視線をやるようなことはしなかった。
速人は机に頬杖をついて、揺るぐことなく自己紹介を聞いていたが、
「みなさん、よろしくお願いしますね」
桜が微笑んだ時、視線を合わしてきたような気がした。
当然と言えば当然ですが、主人公のクラスに転校生は来ますよね。うん。
それと怪盗ものといえば、マスコットキャラ。ハリネズミだったり、ウサギっぽい生物だったり、天使だったりね。カササギにはタヌキです。
これでキャラが出揃いました。あとは、近くて遠くにいるストーリーを楽しんでいきましょう。




