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怪盗カササギの超常騒動  作者: 春花
怪盗カササギ推参
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怪盗カササギ推参! 前編

 昔から怪盗もののマンガは好きでした。怪盗キッド、怪盗セイントテール、神風怪盗ジャンヌ、他にも怪盗ダークとかパクリコンとかもう色々。そんなわけで書いてみました。楽しんでいただければ幸いです。

 この作品の主人公は、怪盗カササギです!

 目が覚めた少年――速人は、ぼんやりとしていた。起きるわけでもなく、二度寝するために目を閉じるわけでもなく、ただぼんやりとしていた。

 そんな速人の様子を察して顔を覗き込んできたのは、速人の母親の叶だった。手術後二日目にして目を覚ました息子を見て、喜びに涙していた。

「看護師さんも高年齢化してきてるんだな~」

 花瓶の水をかえに出ていた父親――健は、病室の外で猛々しい音を聞いて、慌てて中に飛び込んだ。

「な、なんだ、今の景気のいい炸裂音は!?」

「さあ?」

 叶は口元に手を当てて「オホホホ」と微笑んでいる。父親はどうして速人の顔面から白い煙が上がっているんだろうと、疑問符をいくつも浮かべる。速人の両親は共に三十代半ば。年相応で特徴が無い平均的な父親と、実年齢よりはいくらか若く見られる母親だ。

 と、その時、速人が呻き声を上げた。

「速人!?」

 父親が心配げに近づくと、速人は息も絶え絶えと言った様子で目を開けた。

「と、父さん?」

「ああ、父さんだ! 大丈夫か、速人!?」

「…………んっん~、なんか、顔がヒリヒリするような……体がダルイような……何でだろう?」

「そうか……分からないのも無理はない。あれほどの大怪我をしていたんだからな」

 神妙な顔の父と顔を背ける母の様子から、深刻さを読み取った速人。でも、

(そうなのか? 体の方はともかく、顔の方は今まさに打撃を受けたかのような新鮮なズキズキ加減なんだけど)

 微妙に納得できない所もあったが、速人は小さいことを気にせず上体を起こした。

 自分が寝ているのが病室のベッドの上だと知り、どうして自分がここにいるんだろうと、記憶をさかのぼってみた。

 そして、大まかに思い出した速人はパンッと手を叩いた。

「父さん! アイムはどうなったの? 瞬は? レオは?」

 矢継ぎ早な質問に、父は「まあ、落ち着け」と水を注いだコップを差し出してきた。それで喉が渇いていたのに気づいた速人は、一気に飲み干した。

「とりあえず、瞬とレオは無事だ。二人とも大した怪我はしてなかったぞ」

「それはよかった。で、アイムは?」

「いや、父さん達は知らないぞ。現場に行ったらすでに気配はなかった。おまえが滅したんじゃないのか?」

「え?」

 父と子が顔を見合わせてキョトンとしている。そして、同時に首を捻る。

「…………ん~? モヤがかかったように記憶にないな~。あれ~? 最後どうなったっけ? なんか……え~っと、夢中だった? ような?」

「そりゃアイムが相手なら、必死になって無我夢中にもなる」

 そういう感じだったろうかと、速人は腕組みをして唸る。なにか…………とっても大切で、彼の常識を覆すような新事実を発見した気がするのに。

「……………………速人」

 ちょっと押し黙った後の父の声に反応して顔を向けると、

「無事でよかった」

 抱きついた父が心底嬉しそうだった。母もハンカチに顔を埋めて肩を震わせていた。

 本人にしてみれば、寝て起きただけでこの反応だから、気恥ずかしくって何も言えず、反応に困って頬をポリポリとかく。

「……に、兄さん?」

 その声に顔を上げると、病室のドアの所に黒髪をポニーテイルにした少女が立っていた。

「瞬。その恰好どうし――」

 だが、速人が疑問文を全て言い終える前に少女――瞬は彼へ、

「兄さ~ん!」

 飛びつ――、

「伯父様、ちょっとそこどいてください」

 先に速人に抱きついている健を引きはがして……あらためて。

「兄さ~ん!」

 飛びついた。

「よかった。目を覚ましてくれて……もう、私、心配で心配で」

「そんな大げさな」

「大げさでもないぞ」

 と、最後に登場したのは祖父の(いくさ)だった。今年で六十五になる祖父は、一五〇を少し超えるぐらいの小柄な体格だが、足腰はしっかりしていて背筋がいい。白袴という現代では珍しい恰好だが、それが大変様になっている。つまりは、祖父にとっては洋服よりもそれが普段着となっているのだろう。

「アイムを相手にしておまえは精も根も使い果たした。そして見事にアイムを滅したが……その代償に、力を失った」

「へ?」

「力を……失ったのじゃ」

 沈痛に俯く祖父に、か細い声で「ごめんなさい」と呟き続ける瞬。速人はと言うと、手をジッと見下ろす。

 いつもなら潤沢に感じるほどの内なるエネルギーが、今は欠片も感じられない。

「…………本当だ。霊能力が無くなってる」

 突然なことで速人はショックを受けるよりも、「そんなこともあるんだ」と不思議な感覚を味わっていた。

「それで……あの、兄さん……」

「ん?」

 躊躇っていた瞬は意を決して俯いていた顔を上げる。

「私、あの日からすでに修行を開始しています! 兄さんに比べれば頼りないかもしれませんが……私! 必ず『神依り』になってみせます! そして、今度は私が兄さんと、島を守ってみせます!」

 決心を固めている瞬は鼻息を荒くするが、速人は顔を急接近されて頬を強張らせる。

「うん。分かるよ、その瞬の気合いは。でもだよ、なんでナース服?」

 登場した時から指摘しようとしてここまでかかったが、瞬は薄ピンクのナース服を着ているのだ。不思議さ満点な服装なのだが、彼女は当然と言った様子で、

「今日の修行は終えたので、兄さんの看病をしようかと思いまして。叶お姉さんにお借りしました」

 出所を聞きたくなかった速人は、そこをまるっと聞かなかったことにして話を続ける。

「そんな形から入られるのはちょっと……本職の方がいる所で紛らわしいし。というか、決意表明するんなら、巫女装束の方があってるような……」

「ま、兄さんったら」

 瞬はほのかに赤くなる頬に両手をあて、恥らいながら、

「巫女装束で看病されたかったんですね。それは気が利きませんでした」

「違うよ!?」

 たまに理解できない行動をとる従妹はひとまず置いといて、速人はまだ顔を見ていない人のことを気になって聞く。

「ところでレオは? 瞬は今日もう会ったの?」

 その人物の名を聞いて、瞬が静まり返った。病室内にも微妙な空気が流れ、速人は小首を傾げる。レオにも大した怪我はないと父から聞いていたから、そんな重苦しくなる理由が分からなかった。

「…………兄さん。レオは……レオに……」

 瞬は速人の足にかかっているシーツをシワになるほど強く掴む。しかも、そのシーツに涙が落ちる。

「?」

「嫌われちゃいました」

 小学四年生の夏休みに速人は霊能力だけでなく、親友まで失ってしまった。あの事件を境に、速人と瞬がレオと会うことは二度と無かった。


 そして、七年の歳月が過ぎた。




 怪盗カササギ。神出鬼没で大胆不敵、予告状を出して狙った獲物は必ず盗み出す百戦錬磨の大怪盗。赤いマフラーをなびかせ、白い仮面で顔を隠し、その正体は謎に包まれている。(ちょう)()(とう)を中心に活動しており、毎度警察も手を焼いている。そして、カササギが狙う物品にはある共通点がある。それは――



「『壊滅の信楽焼き』、確かにもろた!」

 怪盗にむざむざやられたというのに、警備をしていた警官達は複雑な顔で屋根にいる怪盗を見送っていた。

 黒い学ランに学帽、赤いマフラーをなびかせ、顔の半分以上を白い仮面で隠した者。彼(性別が男かどうかは分からないが)が――、

「怪盗カササギ!」

 呼ばれて、屋根の上にいたカササギは下に目をやる。

「なんや、警部さん。今日はお仲間が随分少ないやんけ! もしかして、仕事の失敗続きで本土からの予算を削られたんか!?」

「余計なお世話だ! それより貴様の目的は何だ!? この前は有名な絵画を盗んでおいて、今日はどうしてそんな持ち主も処分に困っていたようなものを盗む! しかも、盗んだもののほとんどを後日には返すって、毎度毎度目的が不透明過ぎるぞ!」

「そんなら警部さんは、返さずに売れ言うんか?」

「そうじゃねえよ! てめぇの暇つぶしに付き合わされるのはごめんだ! ってことだ!」

 現場を指揮する中年の刑事は、カササギが背負っているものを指さす。

 それは一五〇センチぐらいある、中々大きめのタヌキの置物だ。長い間風雨にさらされていたせいで汚れや日焼け、色が剥げてひどくみすぼらしい。誰が見ても、価値なんてないと分かる。

 しかも、そのタヌキには噂がある。テナント募集をかけている店の軒先に置かれているのだが、入る店入る店が必ずすぐ閉店する。あのタヌキのせいじゃないだろうか? あのタヌキは呪われている。処分したら祟られる。などなど、いわゆる『いわく付き』というやつだ。

 カササギは黒い手袋を装着している指を左右に振り、

「警部さんも男なら分かるやろ」

「なに?」

「他人から見れば全く無価値でゴミだとしても、好きならどんだけ労力と金をかけても集めずにはいられないコレクター魂や!」

 警官や見物人の中にいる男の大半が、納得したように頷く。

「俺はいわく付きに目が無いんや!」

 カササギは身を翻し、けっこうな重さがあるはずのタヌキを背負っていながら、素早く屋根伝いに移動していった。

「富良野警部! カササギが逃げましたよ!? 本当に追わなくっていいのですか!」

 部下からの訴えに、富良野警部は苛立たしげにボサボサの髪をかき上げる。

「仕方ないだろ。ここを管理しているじいさんは原因不明の体調不良でダウン。代わりに怪盗カササギの予告状に対応した息子は、「あのタヌキはうちでも持て余しているから、いっそ持っていってほしいので捕まえなくていいですよ」と言い出す始末だ。所有者がそう言ってんだから、地の果てまで追いかけるわけにもいかねえだろ」

「はぁ」

 納得しきれていない部下の返事に、富良野警部はポンッと軽く肩に手を乗せた。

「それに、今日はお嬢さんのデビュー戦だ。ヨーロッパ帰りのその手腕を見せてもらおうじゃないか」

 富良野警部はそう言って、カササギが消えた方に目をやる。そして、お嬢さんが予測した通りだなっと呟いた。



 現場からかなり離れた所で、走っていたカササギはいきなり跳躍し、脚を胸につけるほど畳んだ。その跳躍力はタヌキを背負っているのに、人の身長を超えるほどだった。

 カササギの足元を素通りした風切り音が、今度は宙にいる彼を狙う。

 闇の中でもきらめく白刃が、カササギを両断した。

 はずが……。

「なんやなんや? 随分過激な挨拶やな~」

 バッチリのタイミングで斬ったはずのカササギが、無傷で立っていた。しかも、すでに間合いの外にいる。

「……よく今のを避けられるわよね」

 高い声が闇から聞こえる。バサッと音を立てて黒い布が取り払われると、暗がりでも光って見える黄色の髪の女性が現れた。

 右の耳にある赤い石が入ったイヤリング。それに似合う大人びた雰囲気のある女性だが、島で唯一の高校の制服を着ているので学生だろう。

 カササギは思わず、彼女に向けて口笛を吹いた。

「えらい美人さんやんけ。俺のファンか?」

「ある意味、熱烈なファンね。誰よりもあなたのことを知りたいわ」

 カササギの目は彼女が握る両刃の剣を眺める。

「美人のアクセサリーにしちゃ~、ちょい物騒やな」

「護身用よ」

「さよか」

 カササギは左の袖に隠してある器具からワイヤーを射出し、眼下にある木の枝に巻きつけた。そしてすぐにワイヤーを巻き上げ、屋根から飛び降りて枝を支点に弧を描き、ワイヤーを切り離して地面に着地する。

「悪いんやけど、斬ったはったは専門外や。ってぇ~……ちょい待て!」

 慌てるカササギの目の前で、彼女は出窓や換気扇の傘を使って、四階建ての屋上から道具も使わず下りてきた。そして、また二人は対峙する。

「怪盗が自ら重りを背負ってくれている。この絶好のチャンスをそう簡単に逃すわけがないわよね」

 ニヤリと嬉しそうに笑う彼女を見て、カササギは思わず口の端を引きつらせた。

「熱烈過ぎて火傷しそうやわ……」

 この子との関わりはちょっとご遠慮したいな~っというカササギの思いが、少し下がった右足に表れた。それを見逃さずにすかさず、

「無駄よ!」

 彼女の後方とカササギの後方に現れた警官達が、二人のいる道を塞いだ。

「あれ? 変やな。今回の所有者は大げさに警備をせんでもええって言ってへんかった?」

「そうよ。私達はたまたまあなたと出くわしただけよ」

「う~わ、そうきよったか」

 カササギは笑うしかなかった。

「たまたまならしゃ~ないわな。でも、一つ教えてくれへん? ど~して俺達はここでたまたま会ったん? 運命?」

 答えてくれないかなっと思ったが、意外に彼女はアッサリと答える。

「今回のあなたの逃走経路は限られていた。ターゲットが建物外にあるため、路上はあなたの手際を間近で見ようと見物人でひしめき合い、タヌキを背負って逃げるのは無理。近くに川はない。だから、お得意の屋根を移動する手法に限られる。そして、重量のあるタヌキを背負っているから、足場がしっかりしている屋根を選ぶ。その時点で三通りまでに絞られたわ。あとは警察の配置に偏りを作って、こっちに逃げてくるように誘導するだけよ」

「なるほど。頭ええんやな。それに警察も動かせるって、お嬢さんなにもんや? 今後の円滑なコミュニケーションのため、自己紹介せえへん? 礼儀として俺から名乗るけど、怪盗カササギや」

「あのね、怪盗カササギだって知らないとでも思っているの? 私のことなら連行の時に教えてあげる。そんなタヌキを背負ってたんじゃ、警官に変装して逃げることもできないわよね。観念したら」

「そやな。近年まれにみる、ちょこっとピンチや」

「……分からないわね。その一銭にもならないタヌキを投げ捨てれば、何とかなるかもしれないのに」

 カササギは得意げに学帽のつばを指で弾き、

「女に男のロマンは分からへん」

「あらそう。放て!」

 彼女の号令で、後方の警官達が構えたネットランチャーから一斉に網が放たれた。それらはカササギの背後から覆いかぶさり、

「うわあぁ~! やられた~!」

「かかった!」

 喜んで警官が近づくと、網の中には怪盗カササギをデフォルメしたぬいぐるみがあっただけ。一つ千円ほどで、島のお土産屋で絶賛販売中。

「残念賞や。とっとき」

 彼女が声の方を振り仰げば、先程立ち回った建物の屋上にカササギがいた。

「俺はテレポートが使えるんやで」

「あなたってそう言うこと平気で言うのね。盗む理由もいわく付きって……私はそんな超常現象は信じない。テレポートが使えるならもっと遠くに逃げればいいじゃない。それなのにまたそこに戻っている。下りる前に何か細工でもしたんでしょ」

「つまらんやっちゃな~。そんな頭固くしとったら人生おもろないぞ。摩訶不思議な世の中や、満喫せんと損やで。ほなな!」

 彼女に軽く手を振って、カササギは今度こそ闇の中に姿を消した。

「逃げられたわね……まあいいわ。こっちも欲しいのは取らせてもらったし」

 校章のワッペンがついている胸ポケットからボイスレコーダーを取り出し、停止ボタンを押す。

「相手のことを知りもせず捕まえられるなんて思っていないわ。見ていなさい。科学的にデータを集めて、必ずあなたの正体を暴いてやるわ」

 彼女はボイスレコーダーを握りしめ、

「明日も会えるのを楽しみにしているわよ」

 静かに闘志を燃やす。

 プロローグ前編おしまいです。小説大賞に送って落選し、もらった批評に連作短編ぽいので、長編としての面白さも意識しましょうと書かれていたので色々手直ししています。

 初っ端のあれは何なの? と思われたでしょうから、さっさと後編ものせますね。ほとんど出来ている作品だから、更新が楽でいいな~。

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