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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界
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時を待つ日々(霞の剣が折れたから)10

『神様の休日』が明けて、おざなりな『目覚めの祭典』も過ぎるとパスカル君たちもこちらの生活に慣れ、規則正しい生活を送り始めていた。

 昼間はエルーダを猛烈な勢いで駆け下りつつ、夜は各々好きな時間を過ごした。

 パスカル君たち男四人はこの時とばかりに僕の部屋に入り浸り、書庫の希少本を読み漁っていた。

 魔法学院の書庫にもあるだろうにと言ったら、制限があって読めないと言われた。

 ビアンカたち女性陣はうちの女性陣と一緒に居間を占領して、お菓子を食べならおしゃべりを楽しんだ。傍らにはやはり書庫から持ち出した希少本が積まれていた。

 そして双方、得た知識を昼間の探索で大いに役立てていた。

 探索が休みの日には薬剤官志望のビアンカはリオナの森や中央公園で薬草散策をしながらスケッチを楽しんでいた。たまに訪れる『魔法の塔』の薬剤官とも知り合いになって、いろいろ教えて貰っているようだ。

 おかげで僕の調合部屋はすっかり彼女に占領されて、却って僕の方がお客さんのようであった。

 冒険者ギルドの販売コーナーで売られているような『目くらまし香』や麻痺薬や虫除けなどの調合方法も心得ていて、パスカル君のチームは買わずに自作しているのだそうだ。迷宮攻略でも大いに役立っているらしい。


 一方、僕たちのチームも別行動が多くなっていた。

 ロメオ君とエテルノ様はゴーレム研究のため、別荘との往復を余儀なくされていた。要塞建造中の姉さんと一緒に朝早くに観光用に設置した転移ポータルで移動を行なっている。

 一つの町にしては珍しく、我が別荘地はミコーレ側と二つの専用ポータルがある。勿論、我が別荘地経由で違法な国境越えなど許すことはできないので互いのゲートは町の正反対の場所に設置され、誰でも起動できる物でもなかった。自足型であるとともに、資格を持つ観光ガイドや専属スタッフだけに起動が許されているのである。

 一般のご来場にはスプレコーン発着の振り子列車で移動が可能である。開通したのはつい最近だ。

 リバタニアに向かう貨物輸送路も、今ではゴリアテ目当ての観光客を乗せるため、客車が用意されるまでになっていた。因みに発着はリバタニアからのみである。スプレコーンからだと貨物車両に潜り込まなければならない。

 兎に角、ロメオ君たちゴーレム解析班は別荘までポータルで飛び、そこから工房にまた転移することになっている。

 工房にはロメオ君のタイタンが実験体として鎮座していた。

 姉さんの要塞建造現場では姉さんのゴーレムが大いに活躍しているらしい。

 ドラゴンの実物大を展示しようという博物館の敷地は伊達ではないようだ。


 本来であれば、僕もロメオ君に合流したいところであるのだが、僕にはあいにく資材集めの仕事があった。

 おかげでリオナといることが多くなった。オクタヴィアとヘモジとナガレをお供にタイタンフロアと宝物庫漁りの日々である。

 ロザリアは本格的な教会をいよいよスプレコーンに建てるらしく、掘っ立て小屋の神父と一緒に毎日忙しくしている。

 当初から確保していた土地にロザリアが個人の金で建てるその教会は恐らくアルガスの規模を越えるのではないかと噂されているが、当人は深く考えてはいないらしい。正月に町の人が全員収まればそれでいいのだそうだ。

 きっといい物ができるに違いない。


「今日は誰がやるですか?」

「ナーナ」

「自分はタイタンやるから譲るって」

 オクタヴィアが通訳する。

 サンドゴーレムを目の前にして、獲物の譲り合いを始めた。

「じゃ、僕が貰うぞ」

 僕が煽るとリオナとヘモジが慌てた。

「それは反則なのです!」

 何が反則なんだよ。

 ふたりは慌ててじゃんけんを始めた。

 リオナは出した拳をそのまま天に突き立てた。

「ナーナーナ!」

 ヘモジが負けた怒りをサンドゴーレムにぶつけた。

 僕の能力が移ったかのように、ヘモジの動きもまた以前に増して加速していた。

「楽できていいじゃない」

 ナガレは欠伸する。

 堅い装甲もなんのその、何やら新しいスキルを手に入れたようで、衝撃貫通で防御を無視してコアを粉砕していた。外傷は軽いひびだけだ。

「ナーナーッ!」

 空に向かって雄叫びを上げるが、何分にも小人サイズだから迫力などまるでなく、かわいいだけだった。


 タイタン部屋に潜ると今度はリオナが俄然やる気になっていた。

「オクタヴィア、急所、分かるですか?」

「んー…… 胸! 左胸!」

 髭をひくつかせて答えを導き出した。

「当りなのです!」

 オクタヴィアもこっそり努力していたようだ。

「僕には見ただけじゃ、てんで分からないけどな」

『一撃必殺』を使えば簡単に分かるからいいのだが。こいつらの野生の観察眼はどうなっているのか?

 リオナは間髪入れずに飛び出した。身体強化と相俟ってもはや風である。

 が、ここで問題が起きた。

 愛用の『霞の剣』が折れたのだ。ゴーレムの堅さというより、リオナの打ち込みの強さに耐えきれなかったようだ。

 咄嗟にもう一方の双剣の片割れで無双を使ってコアを破壊したが、勝利より落胆の方が大きかった。

『霞の剣』は『近接二百五十。魔法攻撃力プラス四百。魔力消費、十。魔力貯蔵量、三百』のドロップ品のなかでは掘り出し物だった。そう簡単に代わる物は見つからない。

 が、早急に探さなければならなくなった。

 探すといったら、あそこしかない。クヌムの武具屋だ。

「相変わらず高いな……」

「ソウル品で剣だと…… あの辺りか」

 魔法剣がずらりと並んでいたが、『霞の剣』に代わるような物はなかった。

「魔法攻撃力プラス四百は最低でもないとな。それに材質はミスリルかそれ以上じゃないと」

「それ、国宝級」

 べしっとオクタヴィアに叩かれた。

「でも、リオナが使うならそれぐらいでないと、腕の持ち腐れになる」

 でかい相手でなければリーチの短い短剣でも充分だ。だが、やはり急所の深い相手には長物に越したことはない。

 ドロップ品でなければいくらでも金で解決できるのだが。

「ソウルフロアに潜るか」

 四十八層に潜ることにした。日課が増えた。

 宝物庫漁りは後にして、僕たちは四十八層に向かった。


「落書きフロアなのです」

「じゃ、罠に気を付けて慎重に行こう」

「ナーナ」

 アイシャさんがいないのでファーストアタックは僕からだ。


 午前中の戦利品はソウル品装備が六つ。回収したのは四つで、武器はなかった。ミスリル装備も、傷や凹みがない限り、ギルドハウスで売り払うためにすべて回収した。


 昼食はいつもと変わりなく皆、食欲旺盛だった。

「ナーナ」

「おいしい、おいしい」

「身体強化使うとお腹空くのです」

「ミートパイ頼むか?」

「ナーナ」

「食べる!」

「貰うのです!」

 通り過ぎる店員にふたり分頼んだ。


 充電を済ませ、ソウル戦を再開するも、結局、目的の物はでなかった。その分ミスリル装備が大量に手に入ったが。ソウル品はクヌムの武具屋で改修を頼んで、翌日、受け取りに来ることにした。

 ギルドハウスに寄って通常装備で使えそうな物を、本部でミスリル品を投下して帰った。

 武具の値段が上がっているようで、高級品ほど高値が付いていた。


 帰宅すると早々にアイシャさんの部屋を訪れた。

 例のなんとかいう雑誌の最新号に掘り出し物が載っていないか尋ねるためだ。

 なんとアイシャさんはハサウェイ・シンクレアの次回作の準備をしていた。タロス戦役を舞台にした物語を書くようだ。

 残念ながら、掘り出し物コーナの記事にもリオナ好みの剣はなかった。


「明日また行くか。こればかりは運だからな」

「頑張るのです」



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