↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第15章 踊る世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
991/1072

閑話 陰謀の陰謀は平常3

「事故死か?」

「はい。ですが、怪しい点がいくつか」

 提出された書類には腑に落ちない点が確かにあった。質実なあの老人にはいらぬ物が多過ぎたのだ。

 金回りがよかったというのも気に掛かるが、一方で出て行く金も桁違いに多かった。

「商売をするような男ではなかったのだがな」

「家人に聞いてもそのようなことはなかったと」

「だが明らかに宝飾の類いがあの男にしては多過ぎる」

 子供たちには恵まれた男だったが、あの老人の気質についてこれる者はなく、皆、居を別に構えていた。

「それと気になる証言が」

「なんだ?」

「商人風の男が出入りしていたとか」

「ならそいつがことの子細を知っていよう」

「それがエルネスト・ヴィオネッティーと名乗っていたそうです」

 思わず頬杖を滑らせた。

「誠か!」

「いえ、風体を確認したところ、まるで別人でございました」

「ふー」

 鼻息が出た。

「恨みのある人物の仕業か……」

「あの、わたしの心証なのですが」

「言ってみろ」

「ファーシー卿の偏見はこの男のせいだったのではないでしょうか?」

 執拗な小僧への嫌悪。

「本人ではなく、そのなりすましに対してのものだったと言うのか?」

「はい。部屋にあった調度品の数々。北軍への支援という名を借りた賄賂ということでなら理解できます。北軍のためと言われれば、ファーシー卿でも受け取る気になるやも知れません」

「そのあざとさが気に入らず、不満をぶちまけに毎日ここに来ていたわけか」

「悪いことをしましたね」

「ああ、まさか、このような事態になっていたとはな。さぞ我らを憎く思っていたことだろう」

 ふつふつと怒りが込み上げてくる。

 久しくなかった感情だ。腹の底が煮えくり返りそうだ。

「見つけ出せ! 断頭台に送ってくれる!」

「ガウディーノ様が既に動いています」

「動かしたのか?」

「既に動いておりました」

「目敏いの」

 付き合いづらい御仁だったが、いなくなると寂しいものよ。



「お久しぶりです、父上」

「どこへ行っていた?」

「飛空艇を乗り回して、今まで行きたくても行けなかったところに。いやー、面白かった。エルネストに感謝ですよ。父上もあのごつい船で空を闊歩することをお薦めしますよ」

「そのお前がファーシーの件によく首を挟めたな」

「わたしにも愛国心というものがございます。大戦の前ともなれば戻らずにはおれません」

「まったく、お前の遊興費を出したのは誰だ?」

「そりゃ……」

「エルネストか?」

 指を下にした。

「リオナからせしめたか!」

「仕事も兼ねてですよ。ただでたかったりしません。彼女は獣人の棲息域を知りたいのですよ。どこにどんな種族がいるのか、知っておきたいのです。わたしはそれの手伝いをしただけで」

 唯一の生き残りという身の上が未だ足枷となっておるか……

「貰った鉱石分の働きはしたつもりです。可愛い妹の頼みですからね。それに獣人のいるところには美味い肉が獲れると申しますれば」

「肉か!」

「はい、肉です」

「なんと…… そちらが本命か」

「父上、世界中から集めた酒と肉がございます。今夜はぜひ、先にくろうてあいつらの鼻を明かしてやりましょうぞ」

「ときにブルードラゴンの肉は食したか?」

「カラードですか? まさか出現したのですか!」

「スプレコーンがドラゴンの肉の大幅な価格改定を行なったそうだぞ」

「飛空艇建造のため、だぶついているとは聞きましたが……」

「そうではない。さらに上等な肉が獲れたのだ」

「まさか!」

「恐らく迷宮産だがな。ブルードラゴンの肉が最高ランクに位置づけられたらしい。うちにも食い切れん程送ってきおったわ」

「わたしの情報網もまだまだですね」

「表沙汰になった情報には却って疎いということかもしれんな」

「勉強になりますね。それで、食べたのですか?」

「勿論だ。わしが口にしなければ、この城の者は誰も食えんだろ? 皆に恨まれたくはないのでな」

「今夜は楽しくなりそうですね」

「わしも旅の話、期待しておるぞ」

 ガウディーノが置いていった書類には事細かに真相が記されていた。

「元老院議員を手に掛けてただで済むと思わぬことだ」


 元々ファーシーの仕事はご意見番のようなもので、現場に与える影響はさしてなかった。ただ、西方の前線では資金繰りが苦しくなり、前線を維持することが適わなくなりつつあった。

 もっと早く適地に橋頭堡を確保しておくべきだったと現場の指揮官たちは後悔し始めていた。

 金の切れ目が縁の切れ目とばかり、冒険者たちは次々資金繰りのいい南方の隊に鞍替えしていった。

 魔物狩りなど冒険者でなければ、最新の武器でも持たなければやっていられない。だがその最新の武器も今の北軍が運用するには金食い虫でしかない。

 わしの命令が半月を待たずに現実のものとなった。

 北軍は規模を縮小し、反対に肥大化し始めた三軍が勢力を広げつつあった。

 ようやく血の巡りがよくなったが、このままでは北軍が壊死してしまう。

 なぜこのような事態に発展したのか。



 翌日、『ダングラール商会』の幹部が全員逮捕された。抵抗した約半数がその場で手打ちとなった。

 スプレコーンでかつて薪騒動を起こしてヴァレンティーナとエルネストに手痛いしっぺ返しを食らった商会だ。

 反省はしなかったようだな。



「『ダングラール商会』 まだあったですか?」

 リオナに言われてはこの国有数の商家も形無しだな。

「美味いな、このパイ」

 宮廷で食べるパイほど煌びやかな物ではないが、一人前用に作ってあるから食べ易い。それに味付けが絶妙だ。試行した跡がある。

「ドラゴンの肉を使ってるのです。それと遠い砂漠の向こうから輸入している香辛料も入ってるのです。いい匂いが食欲をそそるのです」

 ステーキの後に頼む物ではないがな。

「それで商会はお取り潰しですか?」

 小僧の皿の肉が消えた。

 リオナが口に運んだが、その肉は凍っていた。

 こやつらまた強くなったか。長老の影響か? ファーシーが生きていれば案外意気投合していたやも知れんな。王宮の執務室などより、ここでなら老後の楽しみができたやもしれん。

 わしがもっと気を効かせてやるべきだったか。今となっては何もかもが遅すぎた。

「さすがに規模の大きな商会だからな、そこまでは。だがさすがに二度目ともなれば目こぼしはできんならな。まして王宮の重鎮を一人殺めたのだから、温情の掛けようもない。事態を把握していた幹部連中は死ぬまで牢獄暮らしだ。王宮への出入りは禁止したのでな。他の連中もそれに倣うことだろう」

 この手で殺してやりたい気持ちは山々なのだがな。

 こちらの気を察してか、目の前のふたりが黙ってしまった。

「ファーシーは利用されたのだ。戦争を長引かせる道具としてな。戦線を維持できるだけの金品を前線に送るためだけのな…… 戦争が長引けば、各領主たちの資金繰りは悪くなる。ダングラールはそこに目を付けた。大量の金を貸し付け、結果的に領地の利権をすべて吸い上げる。北部の名だたる貴族が手当たり次第に餌食になっておったわ。軽微な者から土壺に嵌まった者までいろいろだがな」

「北軍はどうなりますか?」

「担当区域を狭めて今まで通りだ。第三軍が北上して、それから西を目指す予定だ」

「二方面に対応しなければならなくなりますが?」

「南部の方はけりが付いたのだろ?」

「そうなんですか?」

「お前たちが造った橋頭堡から目的地までほぼ制圧完了したと知らせが来たぞ。今、地下壕と防壁造りにまいしん中だそうだ」

「思ったより早いな」

「さすが義兄上なのです」

「アンドレアか?」

「兄さんがいれば濠を掘るのも簡単ですからね」

「手が空いたら遠慮なく三軍の手前まで掘って貰えるよう頼んでみるか」

「もうやってるんじゃないですか。現場の意見交換は盛んにしているようですし、三軍が北上する横を攻められて行軍が滞ると困るのは南部や教会も同じですから」

「たぶんやってるのです」

「ならば三軍も安心だ」

「山脈越えをすることになれば自然と三軍の西側を攻略することになりますからね」

「北軍は間に合わんか」

「東に突破されなければ問題ありません」

「敵も山越えするなら低い山から攻めるでしょうから」

 地上の主戦場はその辺りになりそうだな。

「待たせたな。別荘を離れるのが遅れてしまってな」

 振り返るとハイエルフの長老が立っていた。

 このわしが気付かなかった?

「例の物、使えるそうだぞ」

「ほんとですか!」

「食事は?」

「移動中にな」

「ではレッスン会場に移動するとしよう」


 それからわしたちはエルーダ迷宮に潜り、砂漠フロアでレジーナとロッジと合流し、ゴーレムとの契約の儀を執り行った。

 なんとわしの契約したゴーレムの数は四体に増えていた。

 二体は攻撃に特化した『古のゴーレム』という新種だった。

 長老から正しい発音を学び、一通りの命令が通じることを確認するとレジーナから所有権を移譲され、その場でレジーナに送還させることができた。

 一件落着と共に別れの時が来た。

 ロッジが帰り支度を始める。

「では頼んだ」

 レジーナがロッジに言った。

「なんだ?」

「要塞ができれば飛行石の錘は無用になるので、その処分を」

 錘というのは…… 金だと聞いていたが。

「無償で助ける必要はないでしょうが、救済は必要かと思いまして」

 小僧が言った。

「相当の量があると聞いたぞ」

「当分、貨幣の鋳造には事欠かないと思いますよ。純度も上げてありますからね」

「大金だぞ? よいのか?」

「重鎮さんの冥福と、今後ともお目こぼしをよろしくと言うことで。それでも余るようでしたら、税金の免除で帳尻を合わせて貰えれば」

「税金の前払いか、いいだろう。北軍の支援に充てよう。だが、一応言っておくが――」

「自重します!」

 リオナとふたり、嬉しそうに声を揃えた。

「期待せずにおこう。ではな、次に会うのは祝勝会だ。達者でな」

 ロッジがゲートを開いた。

 我々は地上に戻り、転移結晶でポータルへ。そして王都へと一足飛びに帰還した。

「子供の成長を見るのは、こんなにも楽しいものだったか?」

「老いたと言うことでは?」

「確かに少し背が伸びておったな……」

「元気そうで、よろしゅうございました」

「次の戦、ファーシーのためにも必ずや勝利しようぞ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。