エルーダ迷宮ばく進中(管理人はかく語りき)81
未だかつてない長台詞(自分比)W
行数短いけど文字数普段と変わらず(ちょっと短いか)
「あるとき、時をほぼ同じくして、それぞれの種族のいた世界で異変が起きた。それはそれぞれの世界の次元を突破してきた侵略者たちによるものだった。彼らの名は『空間を切り裂く』という言葉の頭文字を取ってタロスと名付けられた。その容姿はミノタウロスのようであり、彼らの世界の生物もまた魔物たちのそれに近いものだった。幾つもの世界が蹂躙された。君の先祖たちがいたミズガルズも例外ではなかった。容赦なくタロスの手に掛かり滅びの時を迎えていた。唯一対抗できたのは、魔力という対等の力を持ったエルフ族が支配するこの世界だけだった。滅び行く世界を救済すべく、彼らはこの世界そのものをシェルターとして、異世界の種族の救済を図ることにしたのだ。勿論、それはエルフにとっても必要なことだった。人口のほとんどを戦いで失い、次の襲撃に備えるには余りにも脆弱になり過ぎたからだ。そこで彼らはタロスから次元を越える術を盗みだし、世界を繋ぐ試みを始めた。そして、そのための試験段階で次元境界面を突破してきたのが、君の知る勇者たちというわけだ。彼らがこの世界に残っていたタロスの残党の討伐に大きく貢献したことはエルフたちにとっても希望になったのだ。やがて世界は繋がった。君たちの先祖の世界のことだけを話すなら、世界が滅びるその前に、十二万三千四百二十四名を救い出すことに成功した」
「それだけ?」
「左様。それだけだ。我々の活動にタロスが気付いたのだ。故にエルフたちはこの世界を守るために世界を閉じなければならなかった。残念なことだが、それが双方の限界だった。外の世界がどうなっているか、もはや知る術はなくなった。空間を開いて確かめるしかないが、それは余りにリスクの多い賭けだった」
「つまり空に空いた穴というのは――」
「当時の名残だ。正直、なぜだか分からない。互いの技術が干渉し合っているせいなのか、世界の理か…… 兎に角、空間の歪みによって外界と繋がることがある。それが次元断層の穴だ」
「それがまた開く?」
彼は頷いた。
「我らは長い年月を掛けてこの問題に取り組んできた。そしていくつかのことを知ることができた。まずタロスについて。彼らは魔法生命体であり、魔力を糧にすることによってのみ生きていられることが分かった。故に魔力のない世界では彼らは長期間生きられない。ミズガルズがまさにそうだ。彼らはすべての資源を食らい尽くすが、満たされることはないだろう。彼らは次の世界に移動することもできず、彼の地で果てることになる。満たされぬが故に、最後の一体になるまで互いを食らい続けるだろう。だが、そのとき君たちの種族が生き残っている公算はないに等しい」
「魔力のない世界ではタロスがいなくなっているとして、この世界のように魔力がある世界ではどうなんです?」
「答えは同じだ。なぜなら彼らには生産性がないのだから。ただ食べるだけだ。故に何もかも食い尽くしたらそこで終わりだ。共食いを始め、絶滅する。だが、そうなる前に彼らには新たな地平を目指すという機会が与えられる。一時的に増えた人口と蓄えられた魔力を使って、別の世界に到達するチャンスが与えられる」
「行き着く先は闇のように思えますけど」
「だが行き着くまでどれだけの世界が犠牲になることか。話が逸れてしまったか」
本の頁をめくった。
「兎に角だ。この世界の外には彼らが待ち構えていると考えられる。ただ、前回の状況を見る限り、敵勢力は限界に来ていると思われる」
「あの、穴の向こうにミズガルズがあると?」
「それは分からない。なぜ穴が開くのかも分かっていないのだから、どこに続いているかなど知りようもない。勿論、エルフたちが最後に繋いだ世界がミズガルズである以上、その可能性は高いと言えよう。穴に関して分かっていることはその程度だが、個人的な見解としては、穴の発生はこの世界にまだタロスの影響が残っているからではないかと考えている」
「いるんですか?」
「君たちが日々見ている魔物がその子孫たちだ。元々この世界の生態系には存在しないものだ」
「確かに闇蠍とか足長大蜘蛛なんかはどこか違う気がする」
「大き過ぎる魔物は大概この世界にはいなかったものだ」
「召喚獣は! あれも?」
「ヘモジたちのことを心配してるのかね?」
「あいつらは仲間なんです」
「安心したまえ。彼らは別のものだ。その話は後にしよう」
僕は頷いた。
「話を戻すが、結局、救済できたのは人族、獣人族、ドワーフ族、その他の少数の種族だけだった。彼らがまとまったところでタロスに対抗するには弱過ぎた。だからタロスに対抗できるだけの力を身に付ける必要があったのだ。まずは時間を稼ぐこと。これは既になった。穴の問題があるにせよ、それは達成されたと言ってよかろう。次に増強すること。それは時間が解決すると考えた。人口が増えれば、力が生まれる。進化という名のな。最も当初は人口減と環境に慣れないせいで、どの種族も相当文化レベルを落としてしまったが。あのハイエルフですら例外ではなかった。兎も角、敵が衰退することも考えると、時こそが最大の武器と言えた。そして敵の力を削ぐこと。そこで誕生したのが迷宮である」
「迷宮が?」
「迷宮こそがタロス打倒の鍵なのだ!」




