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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第四章 避暑地は地下迷宮
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エルーダの迷宮再び(ゴブリン砦)12

 引き下がる手もあったが僕たちは計画通り次のフロアに向かうことにした。

 リオナは兎も角、ロメオ君も意外にいけいけだったのには驚いた。

 人は見かけによらないものだ。

「悪党に容赦は必要ありません!」

 さすがギルド職員の末裔。公明正大さは血筋か。これで寛容さを身につければ完璧だ。

「奴らはなんらかの方法でこちらに結晶を使わせようとするだろう」

 でも、結晶がなくなったとして、僕たちが迷宮にまた入ると思っているのだろうか? そこまでこちらが愚かだと想定しているのか? いや、実際に結晶を持たずに三十一階に落とされた身としては否定できないが……

「あ! そういうことか!」

 脱出用の結晶がなくなった状態でゲートを出た僕たちを、巻き込んでさらに下の階に転移する。後は煮るなり焼くなり、放置するなりできるという訳だ。

「数日前のあれを今度は故意に引き起こすということか……」


 あああッ! まさか! あいつらあのときのプレートメイル男に雇われた口かッ!

 そうか…… そういうことか…… そういうことだったのか!

 冒険者資格三年停止と賠償金だけではまだ足りないというのだな、あの馬鹿男は…… 

 そうか…… そうなのか…… そうなんだなッ!

「只では済まさん!」

「壊れた?」

「壊れたです」


 僕たちは解体屋で用を足し、再び地下に潜った。

 フェンリルの皮の値段は加工代とほぼ同額だと教えられた。別の場所に、つまり金持ち相手の商会などに持って行けば、高く買って貰えるらしいのだが、運搬費用を考えると足が出るとか。

 という訳なので今回は魔石に変えることにした。魔石(大)が出れば、属性にもよるが一つ金貨五十枚ぐらいにはなる。

 ゲートから出るとそこはついさっき脱出した小部屋だった。


 小部屋を出た先には地下とは思えない景色が広がっていた。

 そこには空があり、若草色の草原が広がっていた。草の匂いのする風が吹き、降り注ぐ光も暖かい。

 どういう仕掛けになってるんだ? というかどういう酔狂だ? 他のフロアもこうなのか? マップをよく見ると、フロア属性という項目があった。そこには地下一階は草原とあった。

 ほとんどの階は表記なしだったが、たまに砂漠だとか海洋だとか熱波だとか極寒だとか信じられない表記がされていた。

 僕たち三人はあるはずもない空を見上げた。

「左の岩山がフェンリルの巣ですね」

 ロメオ君が現実に引き戻してくれた。

 僕たちは二股の道を右に進んだ。

「見晴らしがよ過ぎるな」

「この先に高台があります。そこがゴブリンの砦です。お宝も眠ってるみたいですよ」

 罠付きの宝箱だけどね。

「罠解除できる?」

「魔法でなら。罠のレベルが低い物なら、ですけど」

 多才だ。

「そういう魔法ってどこで仕入れるの?」

「やだなぁ、土魔法ですよ。錠の穴に合う鍵を成形するんです。簡単なものにしか僕にはできませんけど」

 そう言うと鞄から手のひらに収まる程度の粘土の塊を取り出した。

「なんだ、力業か」

「ひどいな。結構繊細な作業なんですよ。でもアンチ魔法結界が掛かった錠は無理ですからね」

「なるほど、今度試してみよう」

 操作系の魔法に確か鍵開けの魔法があったんだよな。

『鍵開け(ピッキング)』のスキルがあれば鍛え甲斐ありそうなんだけど、トレジャーハンターになるわけじゃないしな。

「何が入ってるですか?」

「ん?」

「宝箱の中身です」

 ロメオ君はマップを確認した。

「小金とか鉱石とかボロボロの武器ですかね」

「中級ダンジョンなのに?」

「『中級の人たちにとっては』じゃないですか?」

「開けてみれば分かるよ」

「開けてみるのです」

 しばらく行くと草原に怪しい影がちらほら見えてくる。

 高台はまだ遠くに微かに見える程度だった。

 このフロア、思った以上にでかいぞ。


『餓狼、レベル二十、オス』


「餓狼だ!」

「先制攻撃なのです」

 リオナが発砲した。

 一匹が草原に倒れ込み、周りにいた仲間が一斉に振り向いた。

「その武器、音大き過ぎない?」

 ロメオ君が苦笑いしながら言った。

 ライフルと違って消音してないからな。

「明日からは弓も持参だな」

 リオナは接近する敵を連続で仕留めていった。六匹中、三匹を早々に葬った。

 ようやくロメオ君の射程になった。ロメオ君は風の刃を突風に吹かれた木の葉の様に広範囲にばらまいた。

 足の速い敵に直撃させるのは難しい。そういうときは範囲攻撃だ。足が止まったところで止めを刺していく。

 戦い慣れしてる。昨日今日の僕とは年期が違うみたいだ。

 残った一匹がリオナを襲った。が、リオナは迎え撃ち、すれ違い様首を刎ねた。

「餓狼って…… 金になんないよね?」

 僕は周囲を見渡しながら愚痴る。

 追撃はなさそうだ。

「餓えた狼ですからね…… 萎びた皮も売り物にはなりませんし、魔石も小さいですしね」

「戦い損なのです」

「戦端を開いた奴が言うな」

 リオナが弾を補充している間に僕たちはマップと周囲の景色を照合した。

「なるほど、広くは見えるけど移動できる範囲は限られてるんだ」

「これなら上の階と余り変わらないかな」

 僕は来た道を振り返った。

「いなくなったな」

 追いかけてきていた怪しい連中が姿を消した。

「準備完了なのです」

 リオナが鞘に双剣を収めた。


 ゴブリンの斥候が茂みのなかを徘徊していた。

 僕はライフルで一匹ずつ仕留めていく。草原に散らばっていた六匹を倒して、装備品を回収する。結構いい武器を使っている。中級ダンジョンに見合うレベル相当の武器だ。

「これは解体屋には送れないよね?」

「どちらかというと鍛冶屋ですね」

 もちろん鍛冶屋にもそんなシステムはない。

「いいものだけ見繕っていこう」

 僕は『認識』スキルを働かせる。と一つだけ魔法装備を見つけた。

『ゴブリンの弓(風)、魔法付与、射程増加。魔力消費、三。魔力貯蔵量、三十。魔力残量、ゼロ』

「これがいい。魔石で補充できるタイプだ。面倒だけど屑石が使える」

 直接体内から魔力補充される生産品より、リオナには合っているだろう。

 魔物の装備品はこの手が多いと聞いたが本当のようだ。

 でもゴブリンは馬鹿だから補充の仕方を知らない。消費したら消費しっぱなしである。したがって、魔力残量はエンプティーだ。

 僕はゴブリンの骸が変化した屑石で貯蔵量を満タンまで補充する。

 ふたりが矢筒ごとゴブリンの矢をすべて回収してきた。

「リオナ、使ってみ」

 リオナは易々と弦を弾いて矢を最寄りの樹木に打ち込んだ。さすが狩猟民族。止まっている的は外さなかった。

「弦が緩い割には飛んだのです」

 どうやら付与魔法も効いているらしい。

「ゴブリンと餓狼相手なら使えますね」

 リオナは余り嬉しくなさそうだ。

「どうせ持って行くんだから使ったら?」

「むう」

 むくれたフリしても駄目。可愛いだけなんだから。

「無理にとは言わないよ。その代わり見てるだけになるけど、いいのかな? 接近してくる前に僕とロメオ君が全部倒しちゃうぞ」

「…… 面白くないのです」

 魔力消費を押さえるために、双剣の消音効果を省いたのが裏目に出た。中近距離用だからなくてもいいと思ったんだけど、人がやってりゃ、自分もやりたくなるものだ。特に青い柄糸の方は付与のせいでほとんど遠距離攻撃可能になってるし。

「分かった。姉さんに今度、消音効果入れて貰おう」

「やったのです!」

 リオナは飛び跳ねて喜んだ。

「姉さんにお礼考えておきな」

「分かったのです」

 急に元気になりやがった。でも何か引っかかる。



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