エルーダの迷宮再び(追跡者)11
「隠れてるです」
鍾乳洞のドームを抜けてさらに進んだ先で、はぐれウツボカズランが石筍の影に隠れていた。
『魔力探知』で今回はすぐに発見できた。
ロメオ君を引き止めて、今回は僕が凍らせた。
そして凍った標本を相手に回収部位の説明を始めた。
「この蔓は根元から切り落とすんだ。こんな感じで。それと毒嚢。高価な品だからできるだけ回収しておきたいんだ。部位の位置覚えておいて」
「薬になるんでしたっけ?」
「解毒薬や麻酔薬になるんだ。もちろん毒にもね」
「相当いやらしい奴みたいですけど、どうやって狩るんですか?」
「ロメオ君は雷使える?」
「お姉さんみたいなのは無理です」
「では一撃必殺で一匹ずつ。ウツボカズランは土属性だから風魔法がいいかも。狩り残すと応援を呼ばれるから慎重に行こう」
「銃使うですか?」
リオナが聞いてきた。
「赤い柄の方は威力があり過ぎるから青い方な」
「分かったのです」
「お互い五匹ずつやったら次に行こう」
先手はリオナ。一番手前にいる一匹を撃ち抜いた。
「むう」
毒嚢がお釈迦になった。『必中』はこれがあるから使い辛い。アバウトにやってもとどめを刺してくれるのがメリットなのだが、ピンポイント射撃には向かない。
ロメオ君が風の刃でウツボカズランの身体を真っ二つにした。きれいに毒嚢を避けている。
魔法の制御も完璧だ。僕ではあそこまで正確にはいかない。
リオナは苦戦していた。ほとんど運任せだから仕方がない。
十匹を倒したところで回収である。
回収は何もしなかった僕がやることになった。
僕はリンクしそうなのを氷槍で数匹排除しながら回収を終えた。
結局リオナの獲物で毒嚢を回収できたのは一匹だけだった。元々、銃の威力があり過ぎるのだ。
収穫は毒嚢六個、触覚二十本である。
毒嚢は五つで二十五枚だが、依頼がない可能性もあるので期待せずにおこう。触覚は全部で金貨二枚だ。こちらも買い叩かれなければの話だが。
しょげるリオナの頭を撫でながら「こういうこともあるさ」となだめつつ、次のフロアを目指すことにした。
鍾乳洞のドームの影の領域に入るために僕は光の魔石を灯した。
そして休憩所の裏手にある小川を越えるために、大きく迂回して橋を渡った。
光を遮られて、辺りは益々暗くなっていく。
「ほんとにこっちなんですか?」
ロメオ君は不安そうだ。
「階段までは行ったことがあるって言ったろ。それにマップにも載ってる」
僕はマップ集をロメオ君に手渡した。
やがて蔓草に阻まれた横穴に辿り着く。
「この先だよ」
横穴を進むと、かつて冒険者が傷付き倒れていた小部屋に出ることができた。
この階段を上ればその先が新たなフロアだ。
僕にとっても未知の空間。ふたりを案内しながら僕は気持ちを引き締め、階段を上る。
でもその前に、脱出ゲートに着いたら一回外に出よう。
ゲートは踊り場兼用の小部屋にあるはずだ。
しょぼくれたリオナを復活させるにはアレしかない。
毒嚢の依頼は早い者勝ちだからとか理由を付けて、僕はふたりを外に連れ出した。
解体屋で依頼を後受けすると、僕たちは即精算を済ませ、宿食堂に向かった。
まだ昼時には二時間早いが、新人のふたりが気を休めるにはいいタイミングだったらしい。
明るい場所に出て初めて、ふたりが思ったより疲労していることに気が付いた。僕には慣れた場所だったが、ふたりにとっては初めての場所だ。気を張り詰めていたに違いない。
リオナは早速、焼き肉定食大盛りを頼んだ。
僕とロメオ君はまだ昼前なのでサンドイッチにジュース一杯を注文した。
とりあえず、報酬の分配をすることにした。
残念ながら毒嚢の依頼は僕がいた頃より大分報酬額が下がっていて、金貨二十五枚の依頼が五枚にまで落ちていた。
狩る人間が増えたせいだ。一匹に付き金貨一枚ではコロコロと変わらない。
それでも一人頭、小兎の分も含めて金貨二枚と銀貨四十三枚、小銀貨五枚になった。余った毒嚢一個は僕が引き取り、水の魔石はリオナとロメオ君が一個ずつ手にした。
ちょうどいいので作戦会議を開いた。僕たちは地下一階の地図を広げた。
「出現する魔物はゴブリンと餓狼、そしてフェンリルだね。トラップはすべて固定で麻痺の罠だよ」
「フェンリルなのです」
リオナは既にやる気だ。
「フェンリルっていくらぐらいになるのかな?」
僕はロメオ君に尋ねた。
「魔石は風の魔石ですね。たまに大が出るらしいです。回収部位は牙と毛皮。毛皮は剥いでいる時間はなさそうですけど?」
僕が預けたマップを見て解説してくれる。
「『心臓の方を切り離す』とありますよ。でもそうなると魔石の方がクズ石になりますね」
「そういや姉さんに預けた毛皮どうなった?」
僕はリオナを見た。
「さあ」
リオナは首をひねった。
「帰ったら聞いてみるか。姉さんも忘れているかも知れない」
「毛皮も魔石(大)もいくらで売れるかわからないと判断できませんね。なめすだけでも相当手数料取られそうですし、送り損も考えないといけません」
姉さんの口ぶりでは高価な品ではありそうなんだけど…… 問題は加工賃だよな。ギルドに寄ったついでに解体屋にでも尋ねるか。
「次のフロアへの階段はフェンリルの巣を通った方が近いようですよ」
「それなんだけど……」
僕は食堂の入り口をチラ見した。
「気付いてるか?」
ふたりが頷いた。
「しつこいのです。嫌われるのです」
「お姉さんのことを知ってもなお追いかけてくるというのはどういうことなんでしょう? 馬鹿なんでしょうか? それとも何か目的が?」
何気にひどいね。ロメオ君。
「他人の上前をはねるのが商売なのかもしれないよ?」
あのおっさんの執着は確かにおかしい。いくらリオナにやり込められたといっても、ずっと付けて来るというのは異常だ。
襲う機会を狙っているのか…… 誘拐でも企んでいるのか…… そのためにこちらの実力を探っているのか…… 仲間たちも一緒となると狂気の沙汰というわけではなさそうなのだが。
気を付けよう。
蟹の解体中にリオナが二回も空振りをした。それは何かに気がそがれていた証拠だった。こと戦闘に限り、リオナは普段この手のミスはしない。少なくとも僕はそう信じている。
そこで何に気がそがれているのかと、少し念入りに周囲を探索すると、おっさん連中が隠れているのに気付いたわけだ。
偶然かと思っていたらウツボカズランの巣にも付いてきていた。そして階下にも。
僕は一計を案じた。
理由を付けて地上に出たのも、ここで食事を取ったのも、半分は奴らをやり過ごすためだ。 でも、どうやら逃がす気はないらしい。
他にも気になること満載なのだが……
「この迷宮は上から順番に攻略しなくてはいけない。つまり僕たちの動きは簡単に予測できるわけだ。仮にこちらを襲撃すると考えた場合、それはいつになるのか?」
僕はテーブルに置かれた『エルーダ迷宮洞窟マップ・前巻』の地下一階の頁をトントンと叩く。
「フェンリルとやり合ってるとき? どさくさに紛れて……」
ロメオ君が言った。
「僕たちがフェンリルとやり合うと想定するかな?」
「そうか、子供三人だからね。迂回すると考えるよね」
「だとするとどうなるのかな?」
「ううむ……」
どこで狙ってもさして変わらない気がする。
「たぶんなめてないのです」
リオナが言った。
「お姉ちゃんと一緒にいたのです。リオナたちは只者ではないのです」
「どうも」
僕はリオナの建設的な意見に礼を言った。
「ど、どういたしまして、なのです」
目が泳いでるぞ、リオナ。勢いで言ったら正解でしたって奴か?
「そうか! なめられていたら、とっくに襲撃されていたはずなんだ! 金目的でなければ様子を見る必要なんてないんだ。いや、金目当てだってあの人たち、自分で狩りをした方が遙かに儲かるはずだよ。だったらお金目当てでない理由が……」
ロメオ君が興奮気味にそこまで語ると口をつぐんだ。
「や、やだなぁ、残ってるのは誘拐とか、殺人だけだよ。どうしよう?」
僕に聞かれても…… ね。
「とりあえず、ギルドの窓口に報告かな。転移結晶は肌身離さずだな…… そうか! 転移結晶だ! やつら脱出用の転移結晶を使わせたいんだよ」
「いつでも買えるのに?」
「もし買えなかったらどうする?」
僕はにやりと笑った。
僕たちは窓口に顔を出したついでに販売コーナーに寄った。すると転移結晶売り場にソールドアウトの看板が出ていた。
「確定だな」
「脱出用の転移結晶が売り切れるはずないよ」
「看板を置いただけだろ?」
「ああ、そういうことか」
「納得なのです」
僕たちはがっかりした振りをして掲示板に戻り、フェンリルの毛皮と魔石(大)の大まかな値段を探った。
男の仲間が店員に隠れて売り切れの看板を引っ込めているのが見えた。
「何が目的なんだか」
盗賊、人殺しの類いなら容赦はいらない。でもただの嫌がらせの延長だとすると殺すのは不憫だ。
ちなみに僕たちは脱出用の転移結晶を一人に付き三つ持っている。ロメオ君に散財させるわけにはいかないので、僕が買って余分をストックしているのだけれど。つまり彼らの計画は既に破綻しているわけだが……
「さてどうしたものか」




