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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第四章 避暑地は地下迷宮
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エルーダの迷宮再び(第一層、腕試し)10

「うわぁ、ここが迷宮かぁ」

 ロメオ君の感激も一入(ひとしお)だった。壁を叩いたり、光の魔石を覗いたりしている。

「一階には罠がないから、魔物だけ気をつけて」

 リオナは説明を聞くまでもなく、自慢の鼻で獲物の場所に僕たちを案内した。

『エルーダ迷宮洞窟マップ・前巻』で調べたところ、一階には僕がかつて調べ上げた以上のことは何もなかった。

 なので、さっさと下の階に行こうと思う。

 でもその前にお互いの実力を確認しておきたい。

 このフロアの魔物はそのためにはちょうどいい相手だ。

 辿り着いたのは懐かしき蟹部屋である。

 相変わらずでかい図体が挟まっていた。

 案の定、まだ誰も来ていない。

「とりあえずあれをやるけど、どうする?」

 僕は緊張気味のロメオ君に尋ねた。

「リオナが行くのです!」

 双剣を鞘から抜いて、いつでも行けるとアピールする。

「堅いぞ、大丈夫か?」

「接近戦です。駄目ならぶっとばすのです」

 答えになってないけど…… なんとなく分かった。

「前に説明した通り、魔石の大きさは残った骸の大きさ、魔力に比例する。切り刻むのは愚の骨頂だ。短時間で急所を的確に。回収部位も傷付けると売れなくなるから注意すること。でも何より命が大――」

 リオナが話の途中で突っ込んでいった。

「釈迦に説法か……」

「シャカって?」

 ロメオ君が聞いてきた。

「異界の神様の名前。『鳥に飛び方を教える』って意味」

「なるほど」

 ロメオ君は感心すると小部屋を見詰め直した。

 リオナは正面から斬りに掛かった。

 蟹もそんな無謀を甘受しない。大きな鋏を振り上げるとリオナ目掛けて振り下ろした。

「危ない!」

 ロメオ君が叫んだ。

 リオナは既に後ろに回り込んでいて、堅い甲羅に切っ先を立てていた。

 大きな鋏が床を砕いた!

 地面が揺れた。

「堅いのです!」

 すぐさま二刀を止めて一刀に持ち換えた。

「賢明だ」

 あの判断の速さはなんだろ。本能? それとも才能か?

 でも状況は変わらなかった。

「ロメオ君、行ってみる?」

「でも『駄目ならぶっ飛ばす』て言ってましたけど」

 僕がリオナに声を掛けようとしたらバーンと音がした。

 蟹の頭が吹き飛んでいた。

 手遅れだった。

 ロメオ君は音に驚いて目を丸くした。

「エルリンの剣みたいなのがほしいのです」

 項垂れて戻ってきた。

「迷宮攻略で稼いだお金で買うんだな。ロメオ君は自分のお金で杖を買うつもりでいるんだから、リオナもがんばれ」

 リオナは頷いた。

「貸してみな」

 僕はリオナの剣を一振り借りると蟹脚を切り離しに戻った。

「『兜割』ッ」

 心で念じて関節に振り下ろす。

 ふたりが目を丸くした。

 僕は難なく十本の足を切り落とした。

 全員で一カ所にまとめて縛り上げると、解体屋の名札に記入して送り出した。

「こうすれば物が解体屋に送られるんだ。これは普段、魔力の高い魔法使いの仕事になるから。覚えておくといいよ」

 ロメオ君は頷いた。

 知っていることと実践は違う。ロメオ君は不思議そうに、興味深げに僕の鞄を見詰めた。

「結晶がでかいから鞄に入れてるんだ」

 僕はそう言って鞄のなかの転移結晶を見せた。

「ほんとだ、手に持つには大きいんですね」

 一方、リオナは残った残骸を一生懸命切り刻んでいた。

 同じことをしていたかつての自分の姿がそこにあった。

 僕も成長してるんだな……

「うぎゃ!」

 リオナが叫んだ。

 骸が小さな屑石に変わったのだ。

 次の蟹部屋に向かった。


 ロメオ君の番である。

「『風の矢』ッ!」

 一撃だった。

 何、今の? 今のが風の矢なのか? 投げ(ジャペリン)の間違いじゃないのか?

「ロメオ君ってさ、凄腕って言われない?」

 ロメオ君はきょとんとした。

「僕、独学だから、人前で攻撃魔法使ったことないんです。どこかおかしかったですか?」

「凄いのです! ロメオ君!」

 リオナが我がことのように喜んだ。

「この間の魔法使いと同じ魔法とは思えないのです!」

 三十一階に落とされたときのアレね。確かに規模も威力も段違いだけど。

「今の何発ぐらい撃てる?」

 率直に尋ねた。彼がこの魔法にどれだけ魔力を注いだのかは大体分かる。彼の魔力総量を逆算するためだ。

「五回ぐらいかな。その辺りから頭が痛くなるんだ」

 さすがに総量は多くないか。でも、この威力なら初級魔法ですら実践レベルだ。

 魔法回復薬…… 彼のために作るか。

「やったです!」

 リオナが脚を一本、力尽くで切り落とした。

 リーチの短い剣でよくやるよ。せめて柄の長い斧かなんかでぶった切ったほうがいい。と言って今、自分の装備している剣は魔法剣だけだ。これを使わせるわけにはいかない。

 ギリギリまでやらせよう。

 三本目を切り落としたところでリオナは断念した。

「残りお願いなのです」

 その場にしゃがみ込んだ。

「僕はこいつを相手にして『兜割』を手に入れたんだ」

 そう言ってリオナの前で実践した。

「それ…… 習得するのです! リオナ最強伝説なのです」

 リオナはすっくと立ち上がった。

「時間切れだよ。殴るならあっちをどうぞ」

 僕は本体を指差した。

「うりゃぁああ!」

 リオナは元気に飛びかかって行った。

 僕はサクッと残りの脚を魔法剣で切り落とした。

「これで金貨二枚と……」

 魔法剣ならスキルも使わず楽ちんだ。最初に適度な魔力消費量を見つければ後は肉を切るより軽い。リオナに魔力さえあれば、使わせてやりたいところだが。

「他のパーティーが来るよ」

 ロメオ君が言った。

「ここは終わりにしよう。新人さんの分を獲っちゃかわいそうだ」

 リオナに声を掛けた。

「うぎゃ!」

 魔石に変化したところにまた斬りかかってずっこけていた。

「力み過ぎだよ」

 男の脚を避けたときの機敏さはどこへ行った?



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