魚祭り?
僕は焚火を大きくして、皆が座る椅子もこしらえた。
それから予備の薪を集めに森に入った。
その間、岸辺は魚に気付かれない程度に大騒ぎしていた。
その内ロメオ君も、イチゴに呼ばれたのか、飛んできた。
イチゴもチョビもサイズを大きくしてくれるように、僕たちに催促した。
僕たちはチョビとイチゴを川の流れに負けないだけの大きさにしてやった。
ふたりは川の中程まで行くと、とんでもなくでかい魚を掴み取った。
「塩焼きにはでか過ぎるだろ!」
「鍋にしよう、鍋に」
有志が材料を取りに戻った。
噂を聞き付けた暇な連中が次々、川辺にやってくる。
あっという間にバーベキュー会場ができあがった。焚火はかまどに進化して、鉄板やら網を乗せ始めた。
酒樽まで持ち込まれて、どんどんおかしな状況になってくる。
親子連れもやって来たので、子供が溺れないように入り江をこしらえてやったり、椅子を追加したりで大忙しになった。
チョビたちも背中に子供たちを乗せて、水上クルーズを始めた。
その片手間に大物を捕まえるのだから、釣り人はたまったものではない。
騒ぎは昼を過ぎるまで続いた。
『何しに来たんでしたっけ?』
イチゴとチョビが顔を見合わせた。
『塩焼き』
「違うだろ、石を採りに来たんじゃないのか?」
『ああ、そうでした! さすがはご主人』
子供たちがチョビとイチゴに手を振りながら帰っていく。
チョビとイチゴがごつい鋏を振って応える。
「帰ろっか」
ロメオ君が苦笑いする。
「姉さんたちにばれたら怒られるかな?」
「昨日の今日で川遊びだもんね。普通じゃないよ」
すべてを更地に戻し、僕たちは町に戻った。
そしてチョビたちの家を完成させる手伝いをした。
「火の魔石で暖かく過ごせるようにしてやろう」と言ったら、温泉のパイプがすぐ下を通っているから、大丈夫だと言われた。なるほど地面に触れるとほんのり暖かかった。
積み上げた石の隙間を土で埋めて完成だ。こんもりとした山ができた。
午後になって姉さんたちが帰ってきても、お咎めはなかった。
むしろよくやってくれたと褒められた。
これで橋ができれば、マルサラ村とも陸路で繋がることになる。上流から迂回する手間がなくなり、益々人の往来で賑わうことになるだろう。獣人特有の生活必需品も荷馬車が通れば、手に入り易くなるに違いない。
リオナたちが帰ってきた。
ケラケラ笑いながら自分たちのいたずらを自慢した。
金色の眠り羊を見て呆然と立ち尽くす冒険者の顔を思い出しては笑い、追跡劇の滑稽さを思い出しては駄目出しをした。
追いかけ回しても一向に捕まらず、最終的に複数のパーティー合同での捕獲作戦となったが、それすらもすり抜けたらしい。
金色になると俊敏にでもなるのだろうか?
騒ぎが大きくなり、ギルドの調査員が入ってきたところで逃亡を決め込んだらしい。
思わず溜め息をついた。
次の『エルーダ迷宮洞窟マップ』や『魔獣図鑑』に金色の眠り羊が載ったらどうする気だ。
テトがドック行きのゲートから出てきた。
「あれ、みんなと遊んでたんじゃないのか?」
「忘れないうちに、棟梁に報告書出してきた」
「報告書?」
「今回の航行での改善点とか不備の報告」
「何かあったか?」
「雷対策。結界で防がなくてもいい方法の模索。魔石もったいないよ」
天然の雷はやはり大変だ。船も全体が金属ならいいだけど、甲板だの結構木製部分があるからな。
「それとワカバの件なんだけど」
「ん?」
「小型飛空艇のなかで結構、老人や女子供が困ってるみたい」
「そうなのか?」
「ギルドの職員が運航してるせいだと思うんだけど、あの船が冒険者の送迎専用だと思ってる連中が多くて、一般の人たちが乗り込むと厳しい目で見られるんだって。ワカバも子供はもっと遅い便に乗れとか言われてるって」
「次の便って昼だろ?」
テトが頷いた。
「それで二隻発注掛けたのか?」
魔石を入手し易い、冒険者こそゲートを使えと言いたい。
「新造艇が完成するまで、一般優先の貼り紙でもしておくか」
「知らせてくる!」
「え?」
テトがギルドに飛んで行った。まあ、船主は僕だし、いいけどね。
「まったく、無頼漢の面倒まで見る気はないぞ」
「よい決断じゃ」
「うわっ!」
アイシャさんが後ろにいた。
「今、何時じゃ?」
「今? 三時ぐらいかな」
「もうそんな時間か?」
「レオはどうした?」
「ピノたちと一緒じゃないかな。見てないけど」
「昨夜の反省を踏まえて、稽古を付けてやろうと思ったのじゃが……」
食い物を求めて食堂に入っていった。
「なんでわたしを誘わないのよ!」
ナガレが中庭から戻ってきた。
「何?」
「魚祭りしたって聞いたわよ!」
魚祭りってなんだよ。肉祭りと対じゃないぞ。
「いなかったんだからしょうがないだろ? それに川魚獲って食べただけだぞ」
「魚尽くしだったんでしょ!」
「食材のメインが魚だったからな」
ナガレは自分も川遊びをしたかったと、珍しく駄々をこねた。でもナガレが元の姿に戻るには川の水深は浅すぎる。
「最近、海行ってないのか?」
「寒くなると足が遠のくのよね」
海洋生物の言う言葉か。
夕飯後、久しぶりに書庫に籠もり、文献を漁った。
高層の建物、王宮や魔法の塔などがどの様な雷対策をしているのか気になったからだ。
船に応用できないか?
だが、生憎我が家の書庫には建築関係の書籍は置いていなかった。
棟梁がなんとかしてくれるだろうと諦め、自室に戻ると、少し早いがベットに潜った。
そして僕は夢を見た。西の空に再び亀裂が入った夢を。




