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エルーダ迷宮ばく進中(メッセンジャー)20

 ピノのパーティーのなかにあっても女の子たちはさすがにおはぎに夢中だった。幻の羊の肉より、目の前の甘いスイーツだ。

 結局、好奇心旺盛なつぶらな瞳に解説する羽目になったが、いい気分転換になった。

 その間、ゼンキチ爺さんはアイシャさんと別の話をしていた。

 四十八層の敵のことである。爺さんにしてみれば対峙してみたい敵ばかりということになるだろうか。

 盗み聞きしているピノは、僕たちが苦戦していると聞いて目を丸くしている。

 破壊モードになれば何でもないことなんだよ、ピノ君。でもね、冒険者はアイテム回収してなんぼなんだよ。そのために迷宮に潜ってるんだから。

 魔石目的の敵より、お肉目的の敵の方が戦いづらいだろ? そういうことだよ。

「でも金の眠り羊の前にヒドラを倒さないとね。そっちの方が大変だと思うよ」とロメオ君が言った。

 そうか、そう言えば眠り羊のフロアはヒドラの次の階だったな。

 それは確かに問題だ。

「年齢以上の階にはおいそれとは行かせてはやれんぞ。ヒドラなんぞ、一般冒険者でも鬼門じゃからな」

 爺さんが釘を刺した。

「倒すのに手間取るようなら、リオナが手を貸してやるのです」

「ほんと?」

「ただし九本首前提なのです」

 絶対呼ばれないから。


 食事が出てくると途端に皆、無口になった。

 それを周りの客たちが笑いながら見守る。

 ピノたちの存在を煙たがる連中も初めの頃はいたが、この歳で初級迷宮を走破していることを知ると、大概反応は一変して、将来有望なルーキー扱いに早変わりする。

 なんと言っても冒険者は成果主義だ。実力だけが物を言う。

「兄ちゃん」

「何?」

「ワカバの村の住人が船が欲しいって言ってたぞ」

「ああ、そんな話してたな」

「依頼出てたよ」

 マルローが言った。

「ほんとに?」

 上級者の依頼をどうやって見た?

「冒険者ギルドの事務所で上級者が話してた。あれって、兄ちゃんたちにしかできない依頼だろ? コモド倒すんだよな」

 ケッチャが言った。

「マルサラ村からの小型飛空艇はいつも満席だからね。うちの父さんもなんとかしたいとは言ってたけど」

「分かった。なんとかするよ」

「そう言えば、検証部隊はどうなった? あれから何も聞かんが」

 アイシャさんが言った。

「確認取れたって言ってましたよ」

 マルローが答えた。

 なんだよ、マルロー、アイシャさんには敬語かよ。

「あくまでマップの確認だけだって言ってました。有料情報の検証はしないって」

「被害が大きくなるからだってさ」

 モモイロとタンポポが言った。

 相変わらず、地獄耳だな。どっからでも情報を引っ張ってくるんだから。

「見学していい?」

「だーめ」

 コモドの肺を回収しようと思ったら、城壁の上のバリスタは邪魔だから、先に潰すことになる。前回のように隠れて見学していれば共倒れしてくれる状況とは違うのだ。

 依頼書の確認だけするために一足先に食堂を出ようと思ったが、庇の向こうは雨が降っていたので止めた。帰りにみんなをゲートまで送ってから、寄ることにしよう。


 扉の数は後五つ。残るは例の正解ルートかもしれない扉だけである。順調に行けばよいが、正解ルートなら、また紆余曲折あるだろう。

 ヘモジが怪しい踊りを始めたので、例の呪文を掛けて扉を開けた。


『出口はない。引き返せ』


「…… おい」

 扉を開けたらいきなりこれか? 

 僕たちは落書きを無視して先に進んだ。

 確かに出口はなかった。ぐるっと一周して元の場所に戻ってきただけだった。

 敵も出ない。完全な肩透かしを食らった。

 質の悪いことに、七割を超える扉を既に攻略しているにもかかわらず、壁の向こう側には敵の反応がまだ残っているのである。神経戦もいいところだった。

 次の扉を開いた。


『出口はない。引き返せ』


「……」

 同じ事の繰り返しか。

 気を抜くな、気を抜くなと自分に言い聞かせながら、見えているゴールを目指す。そして案の定、スタート地点に戻ってくる。

 嫌な汗が流れる。無口になる。

 思った以上にこのフロアは難解だ。

 敵が現われないことがプレッシャーになる。

「ナーナーナ!」

 ヘモジは半分怒っている。ストレスがそうさせるのだ。

 だが、うちにはそうはならない者もいた。

 ひとりはアイシャさんで、もうひとりはリオナ、そしてオクタヴィアだ。

 ハイエルフの集中力は人間の比ではない。その気になれば常時臨戦態勢でいられる強靱な精神力を持っていた。退屈だ、ぐらいにしか思ってはいないだろう。

 一方、リオナは現状に適した探知能力を持っていた。

 つまり臭いで敵を嗅ぎ分ける能力だ。壁が密集し、その向こうに敵がいようとも、騙されることなく、敵を捉えることができるのである。その分ストレスを感じずに済んだのだ。

 オクタヴィアも同様である。

 もっともオクタヴィアの場合、限界が来たら現状を棚上げにして、リュックに収まり、クッキー缶を開けて、ポリポリ言わせながら、現況をやり過ごそうとする。そして変化するときをじっと待つのだ。そうこうしているうちに自分の緊張も取れてきて、気が付いたら側でげっぷしていたりするのである。

 人族だけのパーティーだったら、いがみ合いの一つも始めてしまうかも知れない。

 さすがに三度目も同じ方法でこられると、精神的に耐えられなくなってくる。安全だという無意識が働き、警戒しろという本能とせめぎ合うのだ。

 ロメオ君もロザリアも笑ってはいるがつらそうである。

 魔力探知スキルがなければ、案外簡単に攻略できたのかもしれない。昔の自分のようにリオナに全て任せてしまえれば。

 反応はあるのに、一向に攻めてこない。

 呼吸が浅くなる。

 四つ目の扉を開けたとき、落書きが目に飛び込んできた。

 

『目を覚ませ。死が近い』


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