エルーダ迷宮ばく進中(メッセンジャー)19
六つの扉を攻略した。
宝箱は三つ。残りは罠だ。宝箱の中身は推して知るべし。
遭遇戦は二度。但し一回は三連戦だった。
本当に落書きが邪魔だった。罠に誘導する質の悪いものまであった。かと言って正しいヒントが隠れていないこともないので、消すこともためらわれた。
なんにしても半分の扉のチェックが終わって一段落だ。
次は敵がいると分かっている扉を一つずつ潰していく作業である。
今までの戦闘でいくつかの扉は評価を変えることになったが、気にする程の変化ではないので端から順番にこなすことにする。
それより正解ルートだと落書きにあった五つの扉を後回しにすることに決めた。
そして今回から、アイシャさんに代わって僕が初撃担当になった。
アイシャさんはしばし休憩である。
僕はアイシャさん程制御が上手くないのでオーバーキル気味に衝撃波を当てていく。それが功を奏したのか、反撃を食らうことはなかった。が、その分駄目になる回収品が増えた。
三割程攻略が済んで、そろそろ昼だなぁ、ピノたちがおはぎのことをうるさく聞いてくるんだろうなぁ、などと余計なことを考え始めたときだった。
「騎馬だ!」
嵌まった! 敵の術中に見事に!
そこは三本の通路が交差する六叉路だった。来た道を真っ直ぐ行った先と、斜め左右から合流して後方に抜ける道だ。
一本一本が完全な直線! 脇道は見当たらなかった。
そして僕たちは三本の通路が交差する中心に立っていた。
三本の直線それぞれから騎馬が猛烈な勢いで迫ってくる。
考えている暇はない!
全方位に衝撃波だ!
矢だ!
「嘘!」
三方向からほぼ同時に矢が飛んできた。
近距離で衝撃波に反応した魔法の矢が炸裂した!
爆風で衝撃波が相殺された。
結界がなかったら外の乱流に巻き込まれて相当酷いことになっていただろう。
「弓兵がいる?」
爆風から現われた騎馬の後ろから弓兵が飛び降りるのが見えた。
「二人乗りか!」
敵は三方向、三体じゃなくて六体だった。馬を入れると九体だが。
既に次の矢を番えている。
アイシャさんが衝撃波の二発目を叩き込んだ。
遅れて敵も二発目を放った。
僕は更にもう一度、衝撃波を噛ました。
魔法の矢の爆発が立て続けに三度。そこで起きた爆風を次の衝撃波で押し戻した。
敵の足は止まった。
アイシャさんが今度こそ、とどめの一撃を加えた。
馬の反応も含めて八つの反応が消えた。
残り一つは?
重装騎士。馬を下りた兵士が長いランスを構えて迫ってくる!
「障壁持ちだ! 気を付けろ!」
僕たちの立て続けの衝撃波を潜り抜けるとは、ぜひその装備いただきたい!
リオナが消えた。
ヘモジは正面から突っ込んだ。
ナガレが雷を落とすと障壁の形が一瞬見えた。
ヘモジが盾を構えて踏ん張った。
そこへ敵のランスがヘモジの盾目掛けて突き出される!
魔法の盾の障壁が発動して、敵のランスを食い止めた。
体格差だけ見ると信じられない光景だが、うちのヘモジはちょっと違う。
「ナーナーッ!」
おはぎが功を奏したのか、元気モリモリのヘモジのハンマーがランスを弾き返した。
突撃用のランスは狭い通路では取り回しが効かない。横殴りにされた先端は床に突き刺さった。
敵の肩の上にリオナが忽然と現われた。
そして剣先を敵の襟元に垂直に突き立てた。
「反応が消えた」
リオナが敵の肩の上から宙返りを一回決めて飛び降りた。
立ったまま大往生と言いたいところだが、単に長いランスが支え棒になっているだけだ。
「肝心なところにヒントがないんだから!」
「この通路、完全に嵌める気満々じゃないか」
「こんな狭いところに六体で、挟撃とはね」
ソウル品の大盤振る舞いだ。
脇道がないと思われた三本の通路は奥の方で一つに繋がっていた。
「正面切って戦うからよ」とロザリアに言われた。
振り返れば理由は一目瞭然だ。
交差点を何歩か下がればよかったのだ。そうすれば正面の敵だけを取り敢えず相手にすることができたし、斜めから来る通路を塞いでしまってもよかった。
防御に徹し、やり過ごして、旋回にもたついているところを狙い撃ってもよかった。
衝撃波を何発撃ち込んだ?
「それだけ、冷静さを欠いていたということじゃろうな」
疲れた。
僕たちは奥まったところにある詰め所のような場所で、隣りの部屋へ行くためのごく普通の扉があることに気付いた。
コメントは見当たらない。
それを開くと別の通路に出た。そのまま進むとまた扉があって、元の扉のある部屋に出た。
「お昼にしようか」
一回気分を入れ換えないと。
雨を凌ぎながら、食堂にちょうどいい時間に入ることができた。
さすがに今日みたいな日は店も空いていた。
ピノたちは温かいスープを飲んでいた。
「うまそうだな」
僕にしては珍しく、ステーキ定食を頼んだ。
「兄ちゃん!」
そら来た! おはぎの話だな。
「金色の眠り羊知ってる? 普通の羊じゃないぜ、眠り羊なんだ」
「え?」
「何?」
「羊?」
「ああ、アレね」
「昔見た」
地下十階ぐらいだったか。僕たちの知ってる金色はさすがに生きてはいないだろう。リセットが掛った段階で消えているはずだが。
「金鎚。今どこに?」
ロメオ君がこっそり聞いてきた。
金鎚とは『羊の金槌』のことだ。ピノたちに意味が分からないようにぼかしているのだろう。
「リオナだろ?」
「ナガレなのです」
「そう言えば、預かってたわね」
スプレコーンで飼育されている金色羊は順調に成長していた。生憎、子供を産むところまで、まだ育っていないが。
「あれから使ってないわよ」
ピノたちの聞いた噂というのは、一人歩きしたものか?
「噂なら知ってる。激レアだって噂だな」
「やっぱうまいのかな?」
「え?」
「どんな味がするんだろう?」
ええ?
「兄ちゃんたちは食べたことあるのか? 今度、獲ってきてくれよ」
そっち? 羊毛じゃなくて?
「兄ちゃん?」
「まず小豆を流水で洗って…… 鍋に火を……」
「金色の眠り羊は地下十一階だからな。俺たちも頑張るからさ」
たぶん食べても普通の羊の味だと思うぞ。
『羊の金槌』を手に入れたどっかの冒険者が僕たちと同じことをしたに違いない。
もし、万が一、リセットされずに生きているのなら、ピノには悪いが見逃してやりたい。
「ところでおはぎは食べたですか?」
「おはぎ?」
「おにぎりなら食べたぜ」
「おにぎりはもっと大きいのです」
大きさが基準じゃないだろ。
「あれがおはぎなのです」
「……」
おはぎの味も分からない程、金色羊の話に夢中だったらしい。




