エルーダ迷宮ばく進中(メッセンジャー)18
くねった通路をしばらく進む。
罠はなく敵も出ない。おちゃらけた落書きもない。
メリハリを付けているのか、ようやく現われた扉は殊の外怪しく見えた。
「罠部屋か?」
ゆっくりと扉を開き、なかを確認する。
「これは…… 鎧像の次は扉か?」
敵はいないが、扉が部屋の壁一面に五つずつ。入場してきた扉も合わせて、四方に二十個の扉があった。
念のため入ってきた扉は開けたままにして入場する。
戻ったところで一方通行の行き止まりなのだけれど。
反応がある。
部屋に入ると途端に敵の反応が見つかった。
この部屋の扉が魔力を遮蔽していたようだった。一旦扉を出て確認すると、なるほど敵の反応が消えた。
移動中に探知されまくって、扉を開けた途端に一斉に襲撃されるなんてことにならないように、障壁が展開しているのかもしれないと、僕たちは勝手に理解した。でないと火蟻のように探知スキルの高い連中のフロアだと、フロア中の敵が一斉に襲ってくるなんてことになりかねない。
特にこの部屋の扉の数から察するに、相応の数の敵が控えているに違いない。
「注意が必要じゃな」
逆に敵に気付かず、突然遭遇するなんて事態にもなりかねない。
まずは反応が感じられない扉を開ける。
約半分の扉が開いた。
すぐ行き止まりだと確認できたのは四つ。宝箱も四つだ。
中身は、いろいろ。どうでもいいアクセサリーと、お宝の山。
感動するレベルの物は皆無だった。
地図でも出てくるかと思ったのだが…… よくよく考えてみると今地図が出てくるというのは、問題と答案が一緒に出てくるようなものである。
敵はいない。閉所恐怖症にでもなって、病院通いをしたくなりそうな狭さしかないので、探す必要もない。
残りの六つには奥があった。敵の反応はあったりなかったりではっきりしない。隣りの部屋のものかも知れないし、こればかりは行ってみないと分からない。
確定している扉より可能性が低いことだけは、保障しよう。
順番に突入すると、それぞれに一体、ないし二体のソウルを発見した。
「面倒臭い。まとめて一網打尽にしたい」
個別対応で、おまけにルーティーン化してしまって、すっかり気が緩む。おまけに反応が壁の向こう側だったりすると余計におかしくなる。
どこかで一息入れないと、大きな失敗を犯しそうだ。このままでは何か敵の策に陥る気がする。
そう思ったところでアイシャさんが声を発した。
「取り敢えず残り三つじゃ。集中せんと痛い目にあうぞ」と。
皆も気付いていたようで、素直に頷いた。
僕もいいタイミングだと思った。
僕が深呼吸をすると、オクタヴィアも息を吐いた。それのどこがおかしかったのか、ヘモジが笑った。
飼い主ではないけれど、長くいると仕草が似るようだ。
「それにしても、厄介な部屋ね」
ロザリアも感じているようだった。ひたすら繰り返される展開は、冒険者を惑わす罠ではないかと。
「こう言うときにはあの魔法なのです!」
リオナに言われてはっとした。
いつの間にか効力が切れていたのだ。最初の長い通路に落書きがなかったことで、すっかり忘れていた。
リオナが呪文を発した。が、反応はなかった。
ヘモジがまた無謀なチャレンジを仕掛けたのでロメオ君に止められた。
ロザリアが、リオナに教えようと呪文を口にしたら発動してしまった。
リオナがほっぺを膨らませて、ロザリアに抗議した。
もう苦笑いするしかない。
それにしても…… コメントのゴミ捨て場か、ここは。
壁中にコメントがある。
全員が部屋中を見渡した。
『正解はこちら→』
ネタばらし、やめろ! 集中力が削がれる!
幸い正解をちらつかせたコメントは五つもあった。助かった……
期待があるから頑張れるのに。はずれだと分かっていて進むのは苦痛でしかない。
広い目で見ると、このルートは全部はずれなのだが。
でも、どこまで続くかは行ってみなけりゃ分からない状態がいいのではないだろうか?
「やっぱり、これ邪魔ね」
「消す魔法はないのですか?」
気が削がれるし、ミスリードも山程ある。
「これこそがこの部屋の最大の罠だったりして」
ロメオ君がそんな冗談まで言う始末だ。
取り敢えず「三つ調べたら、休憩にしよう」
そうだな、序盤にして僕たちは結構疲れてきている。
僕たちは部屋の安全を確保するとお茶にした。
外に出て手頃な所で休憩してもよかったのだが、今日は雨が降っているので、外に出るのはやめた。
でも落書きは見たくないと言うので、四方を壁で覆った。ついでに椅子やらテーブルやらも。
本日のお菓子は……
「おにぎりなのです!」
「えええ?」
おにぎりはデザートじゃないって……
リオナが保管箱を開けた。
「?」
小さい。それに海苔じゃない。それにこの甘い匂い! これは小豆だ! 粒あんだ。
「母さん来たのか!」
「レジーナ姉ちゃんがお土産に持ってきたです」
へー、実家に帰ったんだ。珍しい。って! そうじゃない!
「これはおにぎりじゃない! おはぎだ!」
「黒いのは全部、おにぎりじゃないですか?」
「おかか、鮭」
オクタヴィアが嬉しそうだ。
「そんなの入ってないから!」
凄く残念な顔をされた。だからそれは猫の顔じゃないって。
「いいから食え。手で持ってかぶり付け」
オクタヴィア以外は手に取った。オクタヴィアの分は皿に載せてやった。
「甘い!」
「ナーナ」
「これは!」
「美味しい」
「ほんとだ! これデザートだよ」
「これ、神様の贈り物」
あ、オクタヴィア。天に掲げるのはいいけど、お腹周りがあんこだらけだぞ。
「ナナーナ」
ヘモジが嬉しくなって踊り出した。
踊りながら保管箱の前まで来ると、堂々と蓋を開けて二個目を物色した。全員に見られながら、豪快に盗み出した。
「ヘモジ……」
ヘモジは嬉しそうな顔をしながら振り返った。
すると「何してるのかなぁ?」という顔でみんなに覗き込まれた。
「ナナーナ!」
踊り出してももう遅い。ヘモジはみんなが食べ終わるまで一個お預けを食らった。
お茶は渋めにして、ちょうどよい。
「これピノたちにも?」
「レオの分だけというわけにはいかないでしょ? 当然、持たせたんじゃないかしら」
ロザリアが言った。
お昼の議題が決まったな。
うるさくなりそうだ。
「そうか、餅米収穫したんだな……」
「お餅食べれるですか!」
「母さんに頼んでおかないと」
いい気分転換になった。
休憩を終えると僕たちは続きを始めた。
オクタヴィアはこっそりお腹に付いたあんこを削ぎ落としては舐めた。




