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エルーダ迷宮追撃中(四十七層攻略・再び)69

 姉さんに凄ーく嫌な顔をされた。お土産にお肉を持参したのだけれど、手放しで喜んでくれたのは使用人たちだけだった。

 朝早くから起こしたのが悪かったか。不機嫌この上ない。

 というか寝ぼけている間が勝負だろう。言いたいことだけ並べて、サッサと逃げ出した。

 コモドの亡骸は生物(なまもの)なので、置き場が決まるまで『楽園』に放り込んでおくことにする。

 迷宮から戻る頃には、重大な案件もけりは付いていることだろう。

 それより、『第二の肺』をどうするか考えないと。もう既にアースドラゴンの肺で小型飛空艇の発注はしてしまったし。あれかな、家からあんまり出られない兄さんのために小型艇を作るか? あれなら領地の視察にお供も乗せて移動できるだろうし。


 帰宅して、迷宮に出かける準備を始めた。皆食事を済ませて、リオナとロメオ君待ちである

 リオナが朝の散歩から帰るとピノが同行していた。

 そうか、今日はレオの初級迷宮デビューの日か?

 週末の予定が前倒しになったのだった。昨夜の肉の試食会でレオがゼンキチ爺さんに懇願したのが功を奏したのだ。便乗する結果になったピノは満面の笑みを湛えている。

 なんだかピノの装備も段々豪華になっていくな。なんなんだ、その腰の幅広のナイフは。初級迷宮じゃやることなくなってアサシンプレイでもやっているのか?

 リオナが感化されなければいいが、と思っていたらヘモジまで感化された。

 今日の攻略スタイルは隠密モードになりそうだ。魔法で倒した方が早いんだけどな。

「ナーナ」

 短剣を貸してほしいだって? 

「これは解体用のナイフだからな」と言いつつ、普段『無刃剣』に取って代わられて全然出番のないナイフを貸し与えた。付与付きだからスパスパ切れるはずだ。

「なんだろうな。ヘモジが持つと、ちょうどいいサイズの幅広の剣に見える」

 嬉しそうにオクタヴィアに見せびらかしている。

 レオの出立の方が早いかと思ったのだが、ロメオ君の方が早かった。

「じゃ、気を付けて」

 レオに手を振って僕たちはゲートに消えた。


 さて、迷宮までの移動中、どこから進攻するかという話になった。

 入り江の方角はもう行き止まりであることは分かっているから、当然、リセットしたからには北上するルートを選ぶことになる。

「じゃあ、まず投石機だね」

 そう言うことになる。なぜリセットになったのか、未だ謎は多いが判断するには情報が少なかった。

 黄色の糸玉に記憶した空き地から始めようと思ったのだが、塔の上の投石機がどうしても邪魔なので、あれをまず壊してしまおうと考えた。

 冗談抜きで隠密行動する羽目になった。

 落書きの仮説を証明するためにも、一つ目の印があった橋の袂の兵士詰め所のポイントに向かい、最初の巨大キメラを出現させて、塔の投石機を破壊させようと思ったのだが。

 詰め所の攻略をするにはまず橋の上の投石機も破壊しなければならず、要するにスタートからやり直しということになるわけで、同じ苦労するなら空き地からという最終決断となった。


 空き地に飛んだ。

「いやー、空が眩しいね」

 リセットされた空は澄んでいた。ミノタウロスが闊歩していなければ最高の気分だ。

 目指すはちょっと城に近いエリアにある教会のような建物だ。

 キメラ討伐のために城壁からバリスタによる攻撃も行なわれていたエリアだ。

「魔物じゃなくて、舞台設定に殺されるエリアじゃな、まるで」

「うまく外側から回り込みましょ」

「では出発なのです」

 城からの攻撃を避けるために外縁から攻略だ。コモドのせいで夜明けとともに城下の内側のエリアを記録するという計画が有耶無耶になってしまった。

 何もかも振り出しだ。

 復活したミノタウロスの集団の網をかいくぐらねばならない。

 空き地を出ると、前回焼けて消失したエリアに入った。焼ける前の町中のアーケードを通りながら進んだ。

 アーケードのおかげで投石機の的にならずに済みそうだ。

 リオナが手信号で『右、対象三、左から回り込め』とヘモジに合図した。

「何?」

 ロザリアが何ごとかと驚いている。

「子供たちがやってるサバイバルゲームだよ。獣人は耳がいいから」

「なるほど」

 頷くと消音魔法を掛けた。

 ふたりは消えた。

 大丈夫かな? リオナは兎も角、ヘモジは隠密スキルないぞ。

 取り敢えず応援に向かう。

 逃げられて増援でも呼ばれては溜まらない。

 案の定ヘモジが敵の索敵に引っ掛かった。敵が路地裏から回り込んでヘモジに接近する反応があった。と思ったら消えた。

「ん?」

 何をした?

 リオナは順調に敵の後ろに回り込んでいた。

 残された敵ふたりは戻ってこない仲間を心配して細い路地に足を踏み入れた。

 リオナが路地の闇のなかから現われてひとりをテイクダウン。

 二人目も成功した。

 その間、僕たちは敵の索敵範囲ギリギリで待機。

 この辺りの敵は片付けたみたいなのでヘモジの元に向かった。

 何をしたのかと聞いたら、僕のナイフが敵の眉間に刺さっていた。

「投げたのか?」

「ナ?」

「それ高いんだぞ」

「ナーナ」

 絶対外さない、じゃないんだよ。

「しょうがないな」

『楽園』に放り込んである材料で投げナイフを大量に作って渡した。

「ミョルニル投げた方がいいんじゃないのか?」

 そう言ったら音が大きくなると断わられた。確かにミノタウロスを倒せるほどの衝撃を与えようと思ったらそれなりの質量を持たないといけないからな。

 ちょっと待て。

 ただの投げナイフじゃ、ミノタウロスの皮膚を貫通しないんじゃないのか?

 一本取り上げて亡骸に投げてみる。

 カン、と跳ねて落っこちた。やっぱり硬い皮膚は貫通しなかった。

 じとーっとヘモジに見られてる。

「なくすなよ」

 僕は自分の解体用のナイフをヘモジに持たせた。

「そっちは妾が貰おう」と言って投げナイフをアイシャさんが持っていった。

 何やら呪文を唱えて、投げナイフを投げた。するとミノタウロスの皮膚を見事に射貫いていた。

 これには絶句した。まだまだ知らない魔法の使い方がある。

 さて、マップ作りにご協力を。手分けして周囲の情報をメモに記録していく。ふたり一組、必ず仲間の視線が通る場所で行動する。

「糸玉発見!」

 オクタヴィアが見つけた。

 今度の糸玉は青色だ。

「籠もあったわよ」

 ナガレが見つけた。

 売らずに余っていた水色の糸玉を放り込んだ。

 走り回って周囲の概要を掴むと次の角に移動する。そしてまた調べるを繰り返して段々尖塔に近付いていく。

 外縁を制覇するのに半日掛かった。敵の数は明らかに増えていた。

「ナーナ」

「見つけた!」

 ヘモジとオクタヴィアが何かを見つけたらしく、僕たちを手招きした。

 僕とロメオ君はふたりが指差す部屋のなかを覗いた。

「あー」

 落書きだ。もうしばらく見たくなかったのだが。まだ見てない印だった。丸の外に点が二つだ。

 地響きが起きた。

 仮説は当たりか? 急いで外に出た。

 するとリオナとナガレがアーケードの上へと続く階段を登っていくところだった。僕たちも追い掛けた


 アーケードの上に登った僕たちが見た物は新種の大きな魔物だった。二体のキメラが発生した場所よりさらに北のエリアだ。

「三体目のキメラなのです」

 今度のキメラは首が三つあるケルベロスのような奴だった。北の城下町を無頓着にただ破壊している。

 そこに別の場所から投石された大岩が撃ち込まれ、外れて煙が舞い上がった。


『ケルベロスキメラ レベル六十七 オス』


 そのまんまじゃないか。俊敏そうなどす黒い獣の胴体。鱗のある鰐か何かの尻尾が一本。頭は獰猛そうな犬の頭が三つ、ただ長い牙が下顎から上に伸びている。ここからはよく見えないが足も犬の足ではなさそうだ。

 でかさは先の二体に引けを取らない。

 投石機の攻撃で内へ内へと誘導されて行く。

 そこで突然のハウリングだ。

 衝撃波が投石機を破壊すべく、大気を震わす。

 リオナは溜まらず耳を塞いでロザリアの影に入った。ロザリアは咄嗟に消音結界を張った。一拍遅れて強烈な風が僕らを襲った。

 そっちは僕の結界で防いだ。

 が…… 町がまた瓦礫へと変貌を遂げてしまった。

「またか……」

 なんだろう、あのキメラたちが進行を邪魔するためのトラップに見えてきた。

 だが、威勢がよかったのはここまでだ。キメラはミノタウロスの術中に嵌まっていた。城から無数の杭が降ってくる。

「あーあ。あの辺りも探索できなくなるね」

 ロメオ君がキメラの発生地点を大まかに記した。

 何本かの杭を余裕で避けていたキメラだったが、地面に次々刺さる杭が動きを邪魔し始めるとどうしようもなくなった。一本目が尻尾に突き刺さるともう動けなかった。

 全身を抉られ事切れるまでそう時間はかからなかった。

「柔らかかった?」

 違うな、無数の矢が飛び交っていた。ミノタウロスの捨て身の攻撃だ。あれで結界を剥がしていたんだ。

 あっという間に前方のエリアにいた、たくさんのミノタウロスの反応が消失した。

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