エルーダ迷宮追撃中(四十七層攻略・とりあえず)68
「反応が違うな」
僕たちは入り江から縦坑を通り、玉座の後ろにある隠し部屋にいた。玉座の間にいる連中の反応を見る限り、やはり前回の敵は王ではなかったようだ。
僕たちは前回同様、ボスを引き付ける役、周囲を殲滅する役に別れた。避雷針を破壊する必要はないのでいきなり全力で倒しに掛かって構わない。正面扉はロメオ君に任せた。
「三…… 二…… 一……」
範囲魔法をぶち込んだ。まずは衝撃波の三連発だ。
次にヘモジ、リオナが玉座を襲った。
アイシャさんとロメオ君がまだ息のある敵を黙らせる。
ロザリアと僕は部屋の中央に躍り出て、結界を展開、反撃に備える。
衝撃波三連発にたえるだけでも前回の敵のレベルではない。恐らくその殆どを結界で防いでいる。
だが立っていられたのは玉座の両隣にいた二体だけだった。アイシャさんが対峙したのは魔法使いタイプのミノタウロスだ。杖の先端には例の『魔石モドキ』が装備されて怪しく光っている。案外掘り出し物かも。
アイシャさんは『無刃剣』で結界再生より速く、敵を切り刻んだ。
魔法使いの杖を握る腕を切り落とし、結界が消えたところで首を刎ねた。
そして正面扉の前に、増援を入れないための壁をロメオ君に代わって作った。
ロメオ君は剣士風の敵と対峙した。ミノタウロスにしては細身で明らかにスピード重視だと思われた。ロメオ君も『無刃剣』で腕を切り落としに掛かった。が、鎧の付与がそれを防いだ。
すかさず凍らせた。だが敵は物ともせず剣を振り上げる。
ロメオ君は赤色が抜けないトレントの杖を掲げて更に呪文を強化した。
間一髪のところで『氷結爆裂』魔法が炸裂した!
剣士は爆裂の花の中央で真っ白に凍ったまま果てた。
ロメオ君は衝撃波を加えてとどめを刺した。
そしてふたりは玉座を振り返る。
問題の王様は多重結界を張った、まさにタイタンを小さくしたような奴だった。噂のでかい錫杖も持っている。
王はヘモジとリオナの波状攻撃に一度はたえた。だが、衝撃波とふたりの攻撃で、もはや結界は消失していた。
僕とロザリアが援護で一瞬、王の回復を止めてやると、ふたりは王の頭と心臓にそれぞれ容赦のない一撃を加えた。
よし!
リオナとヘモジが手を合わせるところをわざと空振りしてみせた。
生存者がいないか部屋を見渡し確認する。
敵の反応はなかった。
王の身体をリオナとヘモジがまさぐった。
「あったのです!」
リオナが高々と鍵を掲げた。
僕たちは王族の居住区への扉を開いた。
「それなりに豪華だな」
宝物庫を覗いていなければ、居住区の装飾品だけでも充分満足できる成果だった。
魔石を回収して、一階下の食堂から上に向かって、居住区の部屋を漁りながら王の寝室に向かった。
気になった魔法使いの杖は結界を張るために特化した物で、『魔石モドキ』さえあればまだまだ使える代物だった。が、如何せん人が使うには重過ぎた。
目の前の白磁の壺の方が高く売れそうなので放置することに決めた。
目的の寝室は二階ほどフロアを上がったところにあった。
手狭な部屋にでかい天蓋のあるベットが置かれていた。
ミノタウロスにこのベットはどうなのだろう? 却って威厳を失うのでは?
「どこかに秘密の通路があるはずだ」
手分けして探した。
ベットを起こして絨毯の下まで調べた。
「ないのです」
すぐ見つかると思っていたので意外だった。
もっと細かくマリアさんに聞いておくべきだった。
破壊しようとしても壊れなかった窓枠から外を見る。
これはもしかして……
壁の厚みを逆算するとベットの向こう側の壁だけが分厚いことが分かる。
いつぞやの砦を思い出す。僕は壁を念入りに調べた。
天井から垂れる装飾用のカーテンに隠れて天井から飾り紐が延びていた。
恐らくこれだ。
僕は紐を強引に引いた。
ガクンと歯車の枷が外れる音がした。
壁の半分が化粧柱を境に向こう側に折れた。
「おおおっ」
皆、感嘆の声を上げた。
ちょっと優越感。を感じる暇もなくノコノコとヘモジとオクタヴィアが空いた隙間に入っていった。
こ、こらッ! 罠があるかも知れないんだぞ!
「ナーナ」
隙間からヘモジの顔が覗いた。
「階段があるって」
ナガレが通訳した。
隙間を押し開け、光をかざした。
なるほど。木製の階段が、果てしなく続く手彫りの空洞の斜面に架かっていた。燭台掛けが壁に等間隔に並んでいる。
建物の数メルテもある分厚い石壁の内側に掘られた穴のなかを、左回りで螺旋状に回りながら降りて行く。
ひたすら歩くとようやく平らな床が現われた。
こちらも手彫りの跡が残る坑道だった。
潮の香りがする。
しばらく行くと天然の洞窟に差し掛かり、外の光も見えてくる。
「波の音なのです」
崖っぷちに出た。
周囲を見渡すと崖の向こう岸に祠があった。
人ひとりが通るのがやっとのペンキの剥げた吊り橋が架かっていた。
全員息を吐いた。
ようやく出口だ。
吊り橋の強度を確認しながら、僕たちは向こう岸を目指した。
振り返ると見上げる位置に先日突破できなかった橋が見えた。
ここは南だ。入り江の対岸にある岩棚の陰だ。
祠に入ると見慣れた階段が見えてきた。
脱出ゲート発見。
本日の攻略ここで終了である。
何を置いてもまず肉である。
リオナが心臓を切り離すときに出た肉片を帰宅早々、要求してきた。
いつものことだし何も言うまい。代わりにアンジェラさんが溜め息をついてくれるだろう。
塊を取り敢えず浄化して丸ごと渡した。
塊がでか過ぎてリオナが尻餅をついた。
三等分して、ヘモジと僕と三人で台所に持ち込んだ。
「なんの肉だい?」
早速アンジェラさんが大きな溜め息をついた。
「ファイアーコモドドラゴンなのです」
リオナが耳元で呟いた。
「はあ?」
さすがに元冒険者はコモドと聞いてさらに呆れ返った。
「出たのかい?」
アンジェラさんは『迷宮で』という言葉をあえて音にせず言った。
だから僕たちも黙って、神妙な顔をして頷いた。
「はあ…… 姉さんたちには詳細は兎も角、話しておいた方がいいだろうね」
飛空艇製造に関わる重要案件だ。ドラゴンを狩らなければ増えないというお題目の下、抑止が効いていたわけで、これが迷宮で簡単に狩れるとなると一気に量産化が進む可能性がある。
冒険者個人の問題じゃなくなる。肉を取る分には構わないだろうが、肺はまずい。
王女様に助言とご助力を賜らなくては。まずは飛行が苦手なコモドの肺がどこまで使えるか確認しないといけないのだが。
「にーく、にーく、にーく」
リオナが食堂の椅子に座って分厚いステーキが出てくるのを待っている。
ほんと嬉しそうだ。
「コモドって毒があるらしいんだよね」
ロメオ君もコモドの肉に興味があって居残っていた。
「でもファイアーだったのです」
「焼けたよ」
アンジェラさんが塩胡椒しただけの肉一枚が載った皿をテーブルに置いた。
まずは毒味である。担当はスキル的に毒に強いはずの家主の僕である。
万能薬をテーブルに並べて、認識スキルを働かせて確認する。肉を切り分ける。特に警告もないようなので口に放り込む。
軟らかい肉だ。
こりゃ…… 毒があっても食べたくなるほど美味い肉だ。
「美味しいよ。食べてみなよ」
リオナには歯ごたえがなさそうだが。それでもこの肉の柔らかさは今までで一番だ。
「美味しい!」
「美味しいのです! でもリオナはもっと噛み応えが欲しいのです」
そう言うと思ったが、残さずぺろりと食べた。
しばらく時間を置いて遅効性の毒もなさそうだと判断した。
「やっぱりこのコモドは毒ないのです」
「どうやら毒ではなく火を吐く亜種であるらしい」
しばらくすると匂いを嗅ぎ付けたいつもの連中がやってくる。
「にーく、にーく、にーく」
「軟らかい肉なら食べられそうじゃ」
ピノたちと長老たちである。
テトが飛空艇の整備の帰りにこちらのゲートに飛んできたのが運の尽きだった。
「新しいドラゴンの肉?」
匂いを嗅ぎ付けて発した一言で、芋蔓式に集まってきてしまった。
長老たちはいつもの如く道場の離れで酒盛りを始めるところだったらしいが、呆けた足が勝手にこちらに向いてしまったのだそうだ。
ゼンキチ爺さんも獣人たちの肉への執着には苦笑いするしかなかった。
レオは食べ掛けの肉を前に固まっていた。余りの美味しさに過去の自分を呪っていた。ドラゴンは全種類食べただろうに。大袈裟な。
「毒でも当たったですか?」
「伯母さんは――」
「ずるいッ!」と叫びたかったのだろうが、アイシャさんの拳が鳩尾にめり込んでいた。
子供たちはびっくりして毛を逆立て、目を丸く見開いた。
近いうちにまた肉祭りかな。
僕は空いた皿を返しながら、自分の分の肉を少し厚めに焼いてくれるようにエミリーに頼んだ。
エルーダ迷宮追撃中、61話と62話に跨がって原稿が一部前後入れ替わっておりました。寝ぼけてコピペ操作していて知らない間にずれたようです。時系列がおかしなことになっていたかと思います。悩まれた方、申し訳ございません。m(_ _)m




