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エルーダ迷宮追撃中(四十七層攻略・コモドドラゴン)67

「コモドドラゴン?」

 アイシャさんも拍子抜けしていた。

『コモド』その名の通り『気楽に』を示す言葉。

「ドラゴン最弱の種。存在したのね……」

 ロザリアも言葉を失っていた。

 飛ぶのが下手で長い間飛んでいられない。皮膚も爪も硬いわけではない。結界は中途半端。アースドラゴンのような潔さがなかったばかりに、都合よく狩り尽くされた種である。冒険者にと言うより、同族種にだが。

 気の毒な奴である。

 その気の毒な勇姿、明るいところで見たかったのだが致し方ない。

「ヘモジやっていいわよ」

 ナガレが言った。

「ナ?」

 ヘモジが僕にお伺いを立てる。

 僕も了解した。

「ナーナーナー」

 ファイアードラゴンとだってガチにやるヘモジだ。『コモド』なんて冠の付くドラゴン、敵ではない。

 ヘモジは魔法の盾を構えるとミョルニルを振り上げ突っ込んだ!

 コモドドラゴンは驚いて羽を広げ、羽ばたいて空に逃げた。

 そして最寄りの宝物庫のある塔に巻き付くように降り立って、また喉袋に炎を溜め始めた。

「ナーッ!」

 塔の根元をミョルニルが粉砕した。

 巻き付いたドラゴンごと塔が崩れて、こちら側に落ちてくる。

 ヘモジは尖塔の頭ごとコモドドラゴンをぶっ叩いた。腹を押し潰されて、喉袋の炎をぶちまけた。

 辺りが一気に燃え上がった。

 僕たちは戦闘より消火活動に勤しんだ。

 ヘモジの容赦ない追撃が障壁ごとコモドドラゴンを押し潰していく。逃げ惑うコモドドラゴン。中庭はもはや猫を放り込んだ鳥籠の如し。ドラゴンの羽を踏みつけながら飛べなくして、かじり付こうとしてくる頭を渾身の一撃で殴り飛ばす。

「ヘモジ凄すぎ……」

 いつの間にか、リュックから頭を出して見ていたオクタヴィアが呟いた。

 お前、あれに肉球キックしてなかったか?

「ゴリ押しか、凄いね」とロメオ君はこらえきれずに笑い出す。

 勝負はついた。ヘモジの圧勝である。

「ナーナナー」

 雄叫びを上げ、飛び上がった。

 ああああっ! またか! 巨人のボディープレス!

 空中でポンと弾けて小さくなって腕のなかに飛び込んできた。

「ナーナーナー」

「あー、心臓に悪い……」

 側で笑っていたロメオ君も青ざめた。

「コモドドラゴンて美味しいですか?」

 一緒にいて気にしてないのもいる。

「食べたことあると思うか?」

 リオナは首を振った。


 話し合いの結果、魔石ではなく、亡骸を持ち帰ることにした。

 心臓をくり抜くところまでは勢いで済ませたが、解体屋に送るべきかは躊躇した。

 解体屋にドラゴンはまずい。できればコモドであっても独占したい。肉が美味いかは兎も角、肺の入手経路として確保しておきたい。

 他に卸していい所も思い浮かばないし『ビアンコ商会』に流すことにする。窓口になっている息の掛かった解体屋に後で持ち込むことにした。

 コモドと言えど、ドラゴンが迷宮に出たと知ったら、皆さぞ驚くことだろう。


 でもなぜと考えたとき、あの何の変哲もない落書きが、実は四十七階層のシナリオを更新する鍵になっているのではないかということに気が付いた。一つ目の落書きで鐘楼を倒した巨大キメラが登場し、二つ目の落書きで僕とロメオ君が倒した、炎を撒き散らすキメラが登場した。

 そして今回で三体目だ。毛色は変わっていたが。落書きを見つける度に町の様相も変わっていく。時間軸とは別に舞台設定が大きく変わっていくのだ。

 今回の件、邪魔しなければ恐らく城壁も何もかも破壊し尽くされていたのではないだろうか? それとも僕たちがバリスタを破壊していなければ相打ちぐらいにはなっていたのだろうか? 案外開かずの扉が壊されて開いていたのではないだろうか?

 僕はみんなに仮説を話した。そして、了承するかは四つ目の落書きを見つけてからと言うことになった。

「城には当分用はないわね」

 ナガレの言う通り、出口への扉が開かない以上、リセットが掛かるか、事態が進行するまでここでの攻略はお預けである。

 北の橋は落ちているので、僕たちは南の門から外に出ることにした。

 南から北東に上って、当たりの入場ポイントがあるという東エリアの外縁に突入だ。


 南門の門番は中庭の騒動に恐れを成したのかもぬけの殻だった。

 一方で何十メルテもある橋を渡ったところで駐屯部隊がキャンプを張っていた。

 城の奪還作戦でも立てているかのようだった。

 出番を終えたヘモジは僕の肩の上で船を漕いでるし、やり過ごしたかったのだが、長く巨大な石橋には脇道は存在しなかった。

 防壁を築きながら殲滅戦を展開した。

 敵側はエリア中の兵隊すべてを投入するかのように、次々増殖していった。バリスタを破壊する前に撃ち込んでおけばよかったと後悔した。

 無数の矢のなかに嫌らしく『結界砕き』を混ぜてくる。貫通してくる可能性も考えて、念を入れて土壁を作って応戦するが、前に出るほど包囲される結果になって、橋の中程に居座る結果となった。

 もう少し近づければ範囲魔法で一網打尽にできるのだが。

 こちらが大きな魔法を発動しようとすると距離を置くことを覚えたから質が悪い。

 粘られている。

 どの道、探索のために倒すのだから面倒だとは思わないが、どうしたものか?

 オクタヴィアも笛を吹くが引っ掛かるのはオルトロスだけ。

「一気に近づいて、殲滅するか?」

「別ルートから行く?」

「東の橋も似たようなもんじゃないか?」

「挟撃されない?」

「もうされてもおかしくないけど」

「夜明けまで後数刻もなかろう」

「ランダムに入場し直します?」

 全員が頷いた。

 僕たちは一旦外に出て、糸玉を使わず入場し直した。


「……」

 僕たちは新天地で呆然と立ち尽くした。

「このタイミングで?」

 世界はリセットされた。

 空には青空が広がっていた。中央の城は何ごともなくそびえている。町中の兵士たちの反応も復活していた。

「参ったな……」

 どこかに納得できる理屈が転がっていないだろうか?

 努力が台なしだ。

「もう少し時間があると思ったのに」

 このフロアに関わって三日、四日? 夜を跨いでいるからよく分からない。リアルで何日経った?


 急ぐ理由もなくなったので一旦休憩することになった。

 食堂のいつもの席で昼食である。

 心なしか、みんな元気がない。

 リセットのタイミングを掌握できないとこんなことが続くことになる。中途半端な嫌な気分だ。

「昼からの攻略、玉座まで行けるかな?」

 ロメオ君が言った。

「入り江から入れば、すぐなのです」

 今度は本物の王様にも会えるだろうからな。

「そうするか」

 本日は日替わりと、温かいこってりスープを飲みたい。

 各々注文を出した。


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