エルーダ迷宮追撃中(四十七層攻略)56
「上に登ってみるか?」
全員近くの建物に入った。そして上層に上がる階段を探した。
「敵だ!」
気付かれる前に狙撃して仕留める!
リオナが仕留めた。
窓から外を見渡した。
遠くに橋が見えた。が、物陰に入って投石機は狙えなかった。
「どうしようかな……」
目の前の建物が邪魔だ。
「向こう側に渡るのは?」
「どこか飛び移れそうな場所ある?」
この上の階からなら向こうの屋上に飛び移れるんじゃないかな?
「窓の一枚でも開いてりゃ飛び込めるんだが」
「強引に開ける手もあるけど」
「敵にも見つかるよ。取り敢えず、上から見てみよう」
来た道を大分戻ったところに階段はあった。
「宝箱発見!」
全員を下げて、鍵を使った。
ギイィイ。錆びた音をさせて蓋が開いた。
「籠だ!」
全員が覗き込んだ。
「ちょっと大きいわね」
「籠というより、竹籤で編んだ鞄みたい」
お買い物に最適かもな。
ロザリアは早速、白い糸玉を放り込んだ。片手が塞がるのを嫌がって僕に渡してきた。僕は籠ごと『楽園』に放り込んだ。
「よし、上に上がろう」
そういや、糸玉結構落とすと言っていたけど、まだオルトロスから出た一個だけだな。
三階に登ると窓の外を見た。
「遠くなった」
戻った分だけ向かい側の建物が遠のいた。
「待って!」
「向かいの屋上に何かある」と言ってロメオ君が引き止めた。
「あれって……」
こちらからかろうじて見える横手の壁に張り付いてるのは…… ロメオ君が望遠鏡を取り出す。
「稼働前のゴーレムだ!」
「危なー、知らずに飛び移ってたらゴーレムと接近戦やらかす羽目になってたよ」
「敵にばれてゴーレムごと投石機の餌食になってたわね」
「でもどうする? あっちに渡った途端に戦闘になるよ」
相変わらずカタパルトは見えないし。
「ゴーレムを瞬殺するしかないかな」
「やれそう?」
僕は自分の銃を取り出すと構えた。
『一撃必殺』で見るが、稼働前は分からないんだった。
「稼働させちゃう?」
「いいんじゃない。ばれなきゃ」
じゃ、起こしますか。
銃弾を一撃、ゴーレムの頭に放り込んだ。
でかいゴーレムの相手ばかりしていたせいで、加減を誤った。通常サイズのゴーレムの頭を丸ごと吹き飛ばしてしまった。
「あらー」
「起きる前に昇天してしまったのです」
急所が頭にあったようだ。
「ま、いっか?」
「結果オーライなだけでしょ」
ナガレに怒られた。
「ナーナ」
お前までやり過ぎ言うか!
「どんまい」
オクタヴィア…… お前、さっきまで寝てたろ!
取り敢えず道はできた。
僕たちは三階フロアを橋のある方に戻って、向こう側に移れそうな場所を探した。
飛び移ってもいいのだが、落ちたら死ねるのでゲートを出した。
すぐさま建物の足元にいたオルトロスが反応した。
「反応早すぎ」
「でも、問題ない。屋上に至るルートはないみたいだからね」
ロメオ君は朽ちて落ちた階段を指差した。
どの道、その前にこっちの仕事は終わる。
ロメオ君が投石機に業火をお見舞いした。
投石機だけでなく、操作していたミノタウロス連中をも巻き込んで燃やした。
周囲から敵がゾロゾロと橋の上に集まり始めた。
「敵が来たぞ」と大きな狼煙を上げるようなものだ。
「あんなにいたのね」
結構隠れる場所がありそうだ。探知に引っ掛からなかったということは地下深くまで敵がはびこっていることを意味する。
まあ、谷間の方にも家屋が並んでいるから、そこから上がってくるのかも知れないが。
少し待って、まとめて葬ろうと考えたが、何をやっているのかミノタウロスは次から次へと燃え上がっていった。
仲間を助けようと、あるいは仲間にすがろうとして接近してはもらい火をして、一緒になって業火に巻き込まれて燃え上がっていくのである。
近くに水辺があるわけでもないので、消しようがない。暴れ回って次々、奈落に身を投じていく。
「おいおい、なんでそう回収しづらい所にばかり逃げるんだよ」
取り敢えず残党狩りだ。もう身をさらしても構わないだろう。
橋の上目掛けて総攻撃だ。
敵はバタバタと倒れていった。
累々たる屍だけが残った。
「よし、行こう」
と言っても下りる階段がないので、屋根をぶち抜いた。
ちょうどゴーレムがアイテムに変わった。
小さな宝石を落とした。
ふん、転売だ、転売。
オルトロスが穴の下で吠えまくっていたが、すぐ黙らされた。
足場を作って悠々と下りる。
「糸玉見つけた!」
「なんで闇属性なのに」と思っていたがどうやらそうではないようだ。
このオルトロスたち、どこからかアイテムをくわえてきているのだ。
ミノタウロスの死体漁りでもしているのか?
糸玉が好きなのは犬ではなく猫だと思っていたのだが。
理由はどうあれ、二つ目ゲットである。色は水色だ。何も記録してないのでそのままリュックに放り込んだ。
一階まで降りてきて、石橋へ通じる道に出たが、このまま先に進むべきか振り返って考えた。
記録は取っているが、進んできた道さえあやふやだったので、一旦戻って正確を期すことにした。もっとも投石機のせいで村は大分破壊されているが。
兎も角、二つ目の糸玉が役立つときが来たようだ。
一旦外に脱出し、水色の糸玉に橋の側の記録を残しつつ、籠のなかの白い糸玉と取り替えて
スタート地点に戻る。
随分見晴らしがよくなった見張り小屋に降り立った。
「よし! うまくいったな」
上書きされないように白い糸玉も籠に戻して、『楽園』に回収した。
迷宮と違って歩数を頼りにする必要がないので、ロメオ君は一つ一つ景色を絵にしながら、付箋を量産していった。
岩が空から降ってこないだけで随分周りが静かになった。
「反対側に進むと折り返して谷底に行くみたいだね」
稜線を上がるルートではなく、下りるルートを進むと陥落させた橋の真下に出ることが分かった。
魔石は時間的に回収できそうにないが、結構な数をまとめて葬れたので、下調べに行くにはいい機会だった。
「下見てから上に向かおうか?」
全員の賛同が得られたので、橋の下を見て回ることにした。
なだらかな坂道に廃墟が点在していた。
僕たちは一つ一つ確認して回った。
「こういう場所に宝箱はあるんだよね」
宝箱の位置も記録した。碌な物が入っていないのだが。
「避雷針だ!」
「げっ」
嘘だろ? 四十階層にもあった魔法除けの魔導具が、坂の途中にある廃墟のなかで見つかった。確かスイッチもあったはずだ。
今のところ実害はないのでスイッチだけ切っておく。
奥に宝箱があった。鍵は掛かっていなかった。
四十階層にも出てきた睡眠薬が出てきた。相変わらず容器がないので、寝不足の魔物のために転売することにする。
渓谷に細い川が流れていた。僕たちはそれに沿って谷間を進む。
また矢がこちらを狙っている。
目の前の絶壁に張り付いた建物からだ。石橋に上がるための階段でもあるのだろう。
しばらく隠れていると建物のなかにいた残党が姿を現わした。
「弓兵、二人」
低位置にいてもこちらの射程にまだ分があった。
接近する弓兵を銃で葬ったら、残りは魔法で殲滅だ。
合わせてミノタウロスを七体葬った。
ここでまた選択だ。石橋に上がるルートか、このまま谷を進むルートか。残念ながら糸玉がない。
「正規ルートは石橋みたいだけど」
「脇道進む?」
糸玉を見つけたい。けど粗方仕留めてしまったので、敵を探しに行かないといけない。
「あそこから再開して下りてきて、脇道を進んで今日のところは終わりにするかな」
水色の糸玉で入り直すことにして、お昼にすることにした。




