エルーダ迷宮追撃中(四十七層攻略開始)55
木の板壁ごと吹き飛ばしてやったら、下まで落ちた。
見張り小屋だけでも三階建ての屋根より高いのにオルトロスは丘の下まで落ちて即死していた。
周りにミノタウロスが集まり始めて警戒を強めている。
「あそこまで回収には行けそうにないな」
辿り着く頃には消滅していそうだ。
「飛んでいけばいいのです」
「転移の方が安全じゃない?」
リオナとナガレが言った。
「完全ルート無視か?」
「未開拓領域ならマップ作っておいてもいいんじゃない?」
「完全走破のためにゼロから作ってもいいくらいだよ」
ロザリアとロメオ君はやる気満々だ。
「どれくらいの石を落とすのかも情報として知っておきたいんだけど」
僕が言うと「オルトロスは闇属性なのです」とリオナに突っ込まれた。
「そうだっけ?」
「そうなのです」
「じゃ、現在地の確認を優先しようか?」
僕たちは周囲を見渡した。マップの縁にいるとしたら、そのうち一面は侵入できない地形になっているはずだ。
探すまでもなく一面を覆うように絶壁がそびえ立っていた。
やけに閉塞感が漂っていると思ったらこの壁のせいか。
振り返るととんでもなく大きな城下町が見える。どれもミノタウロスサイズの大きな町並みだ。
「一直線に飛んだらすぐっぽいね」
ロメオ君が城の方角を捉えた。
「あっちがマップの中央か……」
中央が分かっただけでは現在位置は特定できない。せめてもう一つ目印がなければ。
「取り敢えず現在位置をキープしたいよね」
「やっぱり糸玉を最初に回収したいな」
「さっきのオルトロス何か落としてるです!」
「え?」
「は?」
望遠鏡でリオナが落下地点を覗いていた。
確認すると、確かに亡骸が消えた跡に何かが落ちているのが見えた。
「ちょっと行ってくるか」
ロメオ君たちには周囲の記録を続けて貰って、その間に取ってくることにした。
僕たちの現在地は両側を谷に挟まれた稜線の上にできた廃村の、家々の屋根から少しだけ突出した塔の上にあった。
オルトロスの亡骸が消えるとミノタウロスも興味を失ったかのようにちりぢりになっていったので好都合だ。
一気に転移して、アイテムだけ拾うとそのままゲートに戻った。勿論結界は張った状態でだ。
この乱雑さのなかではどこに敵が隠れているか分からない。
僕は持ち帰った物を側の朽ちかけのテーブルに置いた。感触だけでも当たりだと分かる。
「糸玉だ!」
白い色の糸玉だった。
一旦ロザリアに糸玉を持った状態で外に脱出して貰った。
そして再びゲートは開かれた。
「記録完了」
「お帰りー」
「お帰りなのです」
「ナーナ」
「おかえり」
熱烈歓迎である。糸玉はそのままロザリアに預けた。
「もういいよ」
ロメオ君の記録も終わったようなので、僕たちは見張り小屋を下りることにした。
地図情報と照らし合わせた感じだと類似する地形は何カ所かあった。外敵を警戒しての町作りなら似た地形になることはよくあることだ。取り敢えず目印になる物を探しに行く。候補のなかで一番近い目印は中央方面に高台を降りて行った先にある城門だ。それがあるかどうかで候補が一つ消えるか確定することになる。勿論、未到達エリアの可能性も否定できないが。
衝撃を突然食らった。
「なんだ?」
見張り台の小屋の壁が吹き飛んだ。
僕たちは落ちてくる瓦礫を避けながら急いで階段を下りて物陰に隠れた。
「何? 何が起こったの?」
「何か飛んできた!」
二発目が見張り台を素通りして先の木造家屋の天井を破壊した。
煙が舞い上がった。
「投石機、カタパルトだ!」
「冗談でしょ?」
攻城戦兵器だ。
「どこからだ?」
それは最寄りの石橋の上からだった。
橋は村のある稜線と中央へ向かう大地を繋ぐために谷を跨いで架けられていた。町の地形は中央に向かう程隆起しているので、石橋は見張り小屋とほぼ同等の高さを持っていた。
元々橋の下の谷底を狙って配備されているようであった。
「あのルートは不味いね」
「空から飛んでいくにも厄介よ」
「あんな分かりやすい目印はないけど」
マップ情報にその手の記録はない。
「未開拓エリアかな」
「そうみたいだね」
「取り敢えずあれを潰さないと安心して歩けないよ」
建物や欄干の影に隠れて投石機の姿は見えてこない。
「魔法が届く距離でもないし、橋を落としてしまっては元も子もない」
「隠れながら接近して、やるしかないよ。どの道中央に行くにはあっちに行かなきゃならないし」
僕たちは砲撃を回避するためのルートを探した。
稜線伝いに建っている建物の裏手に回り込んで移動することにした。でも途中、何もない広場を突っ切ることになるが。
「転移だね」
「ナーナ」
「そうしよう」
目視さえできれば移動は可能だ。
転移先にいる敵の確認だ。
砲弾がまた近くに落ちた。瓦礫が飛んでくる!
「闇雲に撃ってくる」
オクタヴィアは早々にリュックのなかに退避した。
足場が腐りかけの木の板だったりするので隙間から間違って落ちられたら救いようがなかったりするのでいい判断である。
それにしても容赦ないな。ミノタウロスたちまで巻き添えになってる。
「敵はいないのです」
「よし行くぞ」
いないと言われてもカタパルトのような物まであるからな。どこから攻撃されるか分からない。
全員一気に雪崩れ込む。
潜り抜けると結界を張った。
全員が姿勢を低くして周囲を警戒する。
矢が飛んできた。
やはりいたか!
「建物の中からだ」
リオナが銃弾を放り込んだ。
「やった!」
裏手を見るに断崖絶壁で進行不可能だ。建物のなかから行くしかない。
建物のなかに廊下のような小道が延びていた。稜線を跨いで左右に多層構造の長屋のような建物が続いている。
ミノタウロスが引っ切りなしに巡回している。
さながらミノタウロスの村だな。
村ごと破壊してやってもいいが、それをするとカタパルトの餌食になる。いくら結界があるからと言っても地形を抉るような攻撃に晒されるのは御免である。
僕たちはスキルを駆使して警戒しながら小道を上っていく。
「いた! そこの角に二体いる」
リオナが物陰に身を隠した。
「面倒だな」
なるべく静かに処理したいのだが。
ヘモジに行かせるか。
「ヘモジ」
「ナーナ」
ヘモジは頷くと前に出た。
「ナーナーナー」
そして鼻歌を歌いながら小道を進んだ。
「敵が掛かった!」
ミノタウロスが二体、立ち塞がるように飛び出してきた。
「ナーナ」
後から来た一体をリオナが銃撃して倒した。倒れた仲間に視線をそらした瞬間、残ったもう一体がハンマーの餌食になった。
「うわっ、痛そう」
「やっぱり土の魔石かな?」
「呪われてなきゃね」
そういや、四十階層には呪われたバーサーカーがいて、そいつらは火の魔石を落としたんだったよな。
土の魔石(中)だった。
「成長してないんだな」
「立派になったのは装備だけなのです」
「二束三文だけどな」
今の僕たちの収入源に比べると些末な装備だった。特殊な付与効果でもなければ回収する気にはなれない。
「武器が斧だけではなくなったのです」
両刃の大斧じゃなくなったのは確かだ。目の前に転がっているのは槍持ちと、剣と盾持ちだ。さっきは弓だったしな。
「小手先だけ成長したのかな?」
それからミノタウロスと戦うこと三回。オルトロスの襲撃を受けること二回。難なくこなすと小道が断崖で途切れた。
「行き止まり?」
周囲を見回したが、見える範囲では行き場はなかった。




