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エルーダ迷宮追撃中(扉)51

 再開したのは宵の口だった。場所も領主館に移され、屋台で買い漁った料理など霞むほどの晩餐が振る舞われていた。

「あー、腹一杯食べねばよかった」

 長老だけは別ベクトルだった。

 時間は経ったが、そのおかげで今回の一件に必要そうな人材を集めることができた。が、事態が事態なのでおおっぴらにもできず、大体いつもの顔見知りで埋め尽くされていた。

 王宮からは宰相のロッジ卿が、魔法の塔からは爺ちゃんと姉さんが、教会からはロザリアとその父、カミール枢機卿が、ギルドからはギルドマスターとロメオ君親子が、ハイエルフからは長老とアイシャさんとお情けでレオも、獣人からはユキジさんとリオナが、我が家からは僕とナガレとヘモジとオクタヴィアである。座る場所は離れているが要するにエミリーたちを残して全員参加である。迎え入れる領主側も姉さんを外したいつもの面々である。

「教会、並びに魔法の塔に残っておりました前回の資料がこちらになります。それとハイエルフの里からもたらされた資料になります」

 エンリエッタさんが資料をテーブル中央に並べた。

 大事の割に顛末を記しただけの報告書が数枚だけだった。

「事後報告だけか」

 ロッジ卿が呟いた。

「穴の出現位置が遠すぎましたな。前回の空の亀裂の出現ポイントは大洋の真ん中、漁師の噂を記録しただけのものです。ですがこのとき教会から大号令が掛かり、迷宮攻略が指示されております。攻略対象の迷宮は三箇所」

「三箇所?」

「管理者の情報は教会が常に追い掛けているものです。ですが、大戦後、現在判明している場所はありません」

「ないのか?」

「はい。大戦後、人類の版図は縮小の一途、迷宮発見の報も開発もなく、接触の機会に恵まれず、最後に接触した記録は百五十年ほど前、アイシャ殿が関わっていたエルーダ迷宮の改装工事記録だけです。

「教会はどうやって管理者と接触しておるのじゃ?」

 口に料理を頬張ったまま長老が尋ねた。

 なんで一番の年長者は一番幼く見えるかね。

「教会に与えられた魔導具を作動させると後日、様々な形で訪れます。迷宮の全体像を記した地図であったり、双子の石版であったり、ときには言葉を話す魔物であったり。それに対してこちらが希望を発信することで情報のやり取りを行ないます。了承されると教会のみ知る方法で迷宮の管理システムにアクセスできるようになります」

「今回はどうなのです? いつもの方法では駄目なのですか?」

「お手元の資料を」

 教会側の資料では前回の騒動の顛末が記されていた。

「管理システムに行く権限が与えられなかった?」

「はい、このとき管理者が提示してきた内容が次の資料になります」

「これは……」

「『今回は予兆にして急ぐ必要なし、座して時を待て。時満ちれば事態は再び起こる。それまでに我が元に使者を遣わせよ。己が力を持って道を切り開け。入口は常に迷宮にあり』

 王宮で何度か会ったことのあるギルドマスターが溜め息をついた。

「辿り着いた冒険者はおらんのか?」

「出会っていても口外する義務はありませんし、その必要性を感じていないのかも知れません。実際、辿り着く道すら発見されていない可能性もありますし、こればかりは何か合図があるわけではありませんから分かりませんね」

「有志を募って潜るしかないのかの?」

「我らの資料を見よ」

 エテルノ様が串焼きの串で資料を指した。

「申し訳ない。読めないのだが」

 そりゃそうだ、エルフ語のなかでも更に古いハイエルフの言葉なんて目にするだけでも奇跡だ。

 アイシャさんが別の紙を差し出した。

 そちらが現代エルフ語に訳されたものだ。ギルドマスターは見るからに近接タイプだから魔法とは縁遠いのだろう。眉をひそめた。

「道に関する伝承じゃ。神話の時代からある古いものじゃがな」


『正しい道と間違った道、何が違うの?

 出口に扉があるのが正しい道だよ。

 扉が見つかるまで正しい道か分からないの?

 分かるよ。正しい道への扉には鍵があるもの』


「なんなのだ、この詩は?」

「これを詩と読みますか? 意外にギルドマスター殿はロマンチストですな」

「ロッジ!」

「じゃが、これは間抜けな詩じゃな」

 爺ちゃんが発言した。

「そうですね。扉は道の先にしかない。鍵があっても扉まで辿り着かなければ正しい道かは分からない。結局扉を見つけるしかないという話ですよね」

 枢機卿が噛み砕いて問題点を指摘した。

 僕は分かってしまった。

 いやーな重圧が僕の肩を鷲掴みにして地面に押しつけようとしているようだった。

 エテルノ様が僕をじとーっと見据える。

 肩が更に重くなった。背中に汗が流れた。

 この感覚はなんだ?

 恐怖?

 時代の潮流に飲み込まれるってこういうこと?

 僕は知らぬ間にこの事件の当事者になっていたのか?

「こう考えてみてはどうじゃ? 間違った道が幾つもある。だがある者がその道の手前で鍵を拾ったとしたら? 鍵を見つけた目の前にある道が正解へ至る道にはなりはせんかの?」

 僕は目を瞑った。

「『迷宮の鍵』だ!」

 立ち上がったのはロメオ君を初め、僕のパーティーの面々だった。

 オクタヴィアまで二本足で立たなくていいから。

『迷宮の鍵』を拾ったあのときから、すべてはここに通じていたのだろうか?

「正解への道はエルーダ迷宮にある」

 僕は震える声でそう言った。


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