エルーダ迷宮追撃中(報酬)28
姉さんが来たので余分な在庫をすべて『楽園』に放り込んだ。加工した宝石も持っていこうと思ったが、雲行きが怪しいので置いていくことにした。
事務所の地下に降りると装備品をすべて外され、目隠しされた挙げ句に、囚人にも使う魔法拘束用の手枷をされた。
「普通の人間にはここまでしないんだが、お前は普通じゃないからな」
音まで遮断されずに済んでよかったよ。
姉さんに手を引かれて長い廊下を歩いた。小さい頃を思い出した。
「ここで待て」
大きな音がした。
重い扉のロックが外れる音だ。
扉を跨がされた。
「よし、外せ」
扉が閉まる音がした。
僕が目隠しを外している間に、魔法の拘束も解かれた。
そこは大きな空間だった。壁も床も天井もすべてが真っ白だった。
触ると柔らかかった。
「傷が付かないように柔らかい素材で覆っているんだ」
「ガラガラだね?」
「オークションの前日になればここも満杯になる」
「へー」
松明の類いもないのになぜか明るい。この感じ、爺ちゃんの執務室に似てる。
「取り敢えず、この辺りに全部置いておけ。専門の担当が後ですべて調べるから」
「ほほほっ、こりゃ珍しいお客さんだ」
誰もいなかったはずなのに突然、目の前に小柄な老人が現われた。
「ウンベルトこそ珍しいな」
ウンベルト?
「紹介しよう。わたしの弟だ。こちらはウンベルト・カステッラ。先々代のギルドマスターの頃からいる古株だ。ここのお目付役だ」
「は、初めまして。エルネスト・ヴィオネッティーです」
えー、まだこんな人が身近にいたんだと感心した。というよりこの老人どこから出てきたんだ?
「ああ、噂は聞いとるよ。うちの売り上げを倍にしてくれた子じゃな。いや、もっとかの」
「ちょうどよかった。一つ教えてやってくれないか?」
そういうと先程の石を出せと僕をせかした。
僕はポケットから二つの青い石を取りだして老人に見せた。
「どっちが貴重な石か教えてやってくれないか? こいつ、宝石を卸してるくせに分かってないみたいなんだ」
「はははっ、まあ、値を付けるのは鑑定士の仕事じゃからな。鑑定士がしっかりしておれば問題ないことじゃ。それより、お得意様なんじゃから、こっちが鑑定のイロハぐらい教えてやらんといかんじゃろ」
「窓口に言っとく」
「お前さんにもじゃ」
そう言って二つの石を取り上げると片目用のルーペという拡大鏡を使って覗き込んだ。
「ほー、珍しい石じゃの。こりゃ、凄い。どこで採った? 迷宮か?」
「はい。タイタンから」
「ははははっ、あのデカブツか。道理で気前がいいと思うたわ。なるほど。君はこっちがいい石だと思っておったんじゃな?」
そう言って色の濃い石の方を摘まみ上げた。
「はい。色が鮮やかな方がいい石なのかなと……」
「こっちはなぜ透き通っておる?」
「少しいじったので」
「この子『鉱石精製』とかいうスキルを持ってるらしくて」
「ほお、姉弟揃って恵まれとるの」
姉さんの『紋章記述式』のことを言ってるらしい。一応研鑽の結果なんだけどな。発現すること自体確かに恵まれているのかも知れないけれど。
「そうか、これができるなら、次からは皆こうしてくるがいい。買い取り価格が上がること間違いなしじゃ。こちらも儲かるしの。ただし天然物には手を出すなよ。あれは天然であることに価値があるんじゃからな」
「まあ、どちらにしても高額すぎて値段は付かんのじゃがな。はははははっ」
値段が付かない?
僕は姉さんを見詰めた。
「いい取引だったろ? また売れずに残るところだったんだ」
肩の荷が下りたところで、ヴァレンティーナ様に持っていく宝石の加工をすることにした。執務室に行く用事ができたので、姉さんと別れると地下に戻った。
「金庫どうだった?」
オクタヴィアが聞いてくる。オクタヴィアは入れて貰えなかったので興味津々だ。
「すごく大きな部屋だったぞ。壁は真っ白で。クッションみたいに柔らかかった」
「ユニコーンの休憩所より?」
「うん、あれよりでかいぞ。端が見えないくらいだ」
「凄い……」
「ちょっとだけやったら出かけるからな」
「分かった」
ヘモジをフィデリオに取られて暇そうだな。
「こんにちは」
執務室を訪れた。
「いらっしゃい、倉庫整理は終わったのかしら?」
「はい。おかげさまで」
一緒に来るはずだったオクタヴィアは薄情にも、フィデリオから解放されたヘモジと早々に市場に出かけてしまった。
「久しぶりね。おにぎり大盛況よ」
ドナテッラ様も来ていた。
「ほんとに?」
「あんな見た目なのに、リピーターが多くてね。終了しなきゃいけないのが残念だわ」
「終わるんですか?」
「お米がもうないんですって」
「そうなんですか?」
「ココ…… お母様がそう言ってらしたわよ。来年は田畑をもっと広げるそうだけど。今年の分は今ある在庫だけなんですって」
うちの在庫大丈夫かな?
「それでなんの用かしら? 書類整理を手伝いに来てくれたわけじゃないでしょ?」
と言いつつもう胸元を開けている。
「これをお持ちしました。それと秋祭りの予定を聞かせて貰えないかと。凧の件があるので」
ヴァレンティーナ様は木箱を受け取るとサッサと蓋を開けた。
「まあ!」
ドナテッラ様が言葉を失った。
選んだ宝石は全部で五種類。どれも変わった珍しい色をしているし、大きさも王女様にふさわしい。
「光の加減かしら? 地下で見たときより数段輝きが増してる気がするんだけど」
「いつも通り、加工した物ですけど。方向性がちょっと変わったというか……」
「どうかしら?」
聞いちゃいない。
石を胸元に当てて見せた。
いろんな意味で眩しい。お代なくてもいいです、もう。お釣りが来ました。
「ドナテッラもこれなんかどうかしら?」
黄緑がかった青い石を服の上から宛がった。
「わたしには大き過ぎます」
「こっちの方が合うかしらね? もっと明るめの方がいいわね。服を替えてみる?」
僕のことを忘れてはしゃぐこと十分。
書類の束が追加されて、ようやく我に返った。
「お祭りの件は明日告知しようと思ってたのよ」
そう言ってドナテッラ様は明日告知するための貼り紙を見せてくれた。
その間にヴァレンティーナ様は即行で使用人に細工師を手配させた。
「平日なんですか?」
「他の領主たちと話し合ったんだけど、週末の順番待ちをしていては冬になってしまうという話になってね。いっそそれぞれ祭日を設けないかという話になってね。うちはその日を祭日にすることにしたのよ。前日がアルガス、翌日がリバタニアよ」
まだ十日以上あるな。
「じゃあ、この日、週末に学校の授業を入れて貰っていいですか? 強制じゃなくて、希望者だけ募って」
日にちが決まれば、竹籤やら布やら道具の手配ができる。
僕は勇んで『ビアンコ商会』を訪れた。
すると工房は大変なことになっていた。




