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エルーダ迷宮追撃中(ミラーマター)22

「ここは?」

 ロメオ君が懐中電灯で影を照らす。

「馬鹿みたいな穴掘ったと思ったら、こういうことだったのね」

 ナガレ…… 人をなんだと思ってやがる!

 ゴーレムを構成していた大量の砂が流れ込んだはずの床に巨大な水晶が生えていた。

「何?」

 ロザリアが照らす。

 僕たちの身長より大きい塊だった。

「よく見えないな。ロザリア」

「ちゃんと当ててるわよ。見えないって何よ」

 光源を見ると確かに光が当たる位置にあった。なのに……

「なんだこれ?」

 光沢はあるがミスリルじゃなさそうだ。

 恐る恐る触れてみる。

「なんでこう見えにくいんだ?」

「光を吸収してるんだよ。人の目は物に反射した光を捉えることでその物を見てるんだから」

「光を吸収? だったら真っ暗闇になるはず…… これ、もしかして」

 ナガレが呟いた。

「何か知ってるのか?」

「これ、鏡像物質(ミラーマター)かもしれない」

「何それ?」

「光の性質を反転させる物質。物質だから触っても大丈夫だけど……」

「物質なの?」

 既に触ってますけど……

「精製しないで。純度を上げると人の目では捉えられなくなる」

「回収していいのか?」

 沈黙が続いた。

「究極の隠遁装備ができるかも知れないわ」

「凄いのです!」

「でも……」

 ロメオ君は躊躇する。

「こんな物がこの世に存在するとはね」

「泥棒が喜びそうだよね」

「アサシンもね」

 ロザリアも否定的だ。

「目には見えないから通常の加工はできないけど、魔法でなら形にはなるかも。でも実際はどうかしらね。革や紐とか他の素材は見えたままなんだから」

「参ったな……」

 こんな物売り捌いたら、姉さんにどんな目に合わされるか分かったもんじゃないよ。特定の職業には高く捌けそうだけど、存在自体隠しておきたい代物だ。

「これって闇属性と何か関係あるのかな?」

「あくまで鉱石だから違うと思うわよ」

「で、どうするの?」

 一斉に僕を見る。

「アイシャさんならどう言うかなと思ってね」

「放棄するわね」

「『世に出すものじゃなかろう』とか言って」

「悪用されたら困るのです」

「必要になったらまた採りにくればいいんじゃない? もう一度出る保証はないけど」

「じゃ、挙手を求めます。放棄することに賛成な人」

 全員が手を上げた。

「ちょっとだけ欲しいかも」

 リオナが蒸し返す。

「なんに使うのよ」

「見えない剣、格好いい」

 オクタヴィアが同調する。

「ん、もう。そんな物騒な物、世に出せないでしょ! 剣先と柄の区別もできないんだから」

 柄は別に金属でなくてもいいと思うが。

「じゃ、後学のために精製の練習だけでもさせて貰おうかな」

「えーっ」

 リオナが口を尖らせる。

「『見えない剣』てのは研鑽して腕を磨いて手に入れるものだと思うぞ」と、格好良く言いくるめる。

 僕は精製がしたいだけだ。

 なんとなく大きな結晶だった物が恐ろしく小さくなった気がした。

 地面に転がる音がした。想像より軽い音だった。

 その代わりに巨大な不純物が残った。

「金だ……」

 僕たちは呆然と立ち尽くした。

 こっちの方がいいかもしれない。

 我が家の財政事情は一気に回復だ。

「この金は純金かな?」

 僕はもう一度精製を掛ける。

 皆、興味津々で僕の手元を見詰めている。手品師じゃないから何も出ないぞ。

「不純物はないみたいだ」

「てことはこれ全部?」

 ロメオ君が一歩下がって塊を見上げた。

「もう働かなくていいんじゃないか?」

「それ前に聞いたよ」

 ロメオ君、突っ込みきついよ。

「どうやって分ける?」

「あんたがやんなさいよ、リーダーなんだから」

 ナガレ、貴様…… 変な物質の名前は知ってるくせに、知恵を貸そうと思わないのか?

「ミスリルのときみたいに小さな塊にしたら測りやすいんじゃないのかしら?」

 さすがロザリア。て言うか普通の意見だな。帰ったら延べ棒にするか。

「そうしよう。作業は帰ってからな」

「うちの宝物庫凄いことになるのです」

 凄いというかひどいというか。冒険者やめて金属と宝石の卸でもやれと言うのか?

 取り敢えず金塊を『楽園』に放り込んだ。

「ようし、上にあがったら休憩にしよう」

 ここの探索はその後だ。


「下で休んだ方が涼しかったのです」

 嵐が晴れた空は眩しかった。太陽がさんさんと輝いていて、焼けたフライパンの上にいるようだった。

 イフリートのフロアとは別の暑さだ。くそッ、嵐がなくなったら風もなくなった。

 それにこの鬱陶しい眩しさ……

 空が急に暗くなった。

「なんだ!」

 僕は慌てて立ち上がった。ロック鳥の襲来か?

「暗くなったです!」

「何?」

 しゃがんでいたリオナもロザリアも立ち上がった。

「敵?」

 ロメオ君も周囲を警戒する。

「あんたじゃないの?」

 ナガレが頭上を見上げて言った。

「ん?」

 僕も上を見上げる。

「なんで空が暗いんだ? さっきまであんなに眩しかったのに」

「あんたさっきのことでまたおかしなスキルを身に着けたんじゃないでしょうね?」

「ええっ?」

 冗談はやめて欲しいもんだ。

 僕のせいではないことを証明するために、この日陰を払って元の空になるように試しに念じた。すると……

「晴れた!」

「まさか、天候を!」

 馬鹿な男ふたりが空を見上げながら口をポカンと開けた。

「なわけないでしょ! 結界よ。あんたの結界が差し込んでくる光を調節したのよ!」

「へー」

「へーじゃないわよ!」

「ナー?」

「結界に色ついた」

 オクタヴィアとヘモジが面白がった。

 よく分からないが、日陰を作れるなら越したことはない。

 僕は再び空を暗くした。

「涼しくなったのです」

「気持ちよ、気持ち。風吹いてないんだから」

「よく分かんないけど、後で確認するよ」


 後で覗いたら『光学操作』なるスキルが増えていたが、よく分からないので放置することにした。因みになんとか物質を作り出すことはできなかった。


 休憩が終わると再び地下に降りる。

 既に貴重なあの物質はどこかに消滅してなくなっていることだろう。

 石室の周囲を念入りに調べた。一度見て回ったが、なんの意味もない部屋が地下にあるはずはないので再確認している。

 やはり何もなさそうだと諦め掛けたとき、リオナが叫んだ。

「空気が流れているのです!」

 全員が集まって光に照らされた空気中の埃の動きに目をやった。

 それは時に停滞し、時に素早く流れた。

 石壁に隙間があるようだ。

 念のために先を見通すと、敵はいなさそうだった。

 僕は『無刃剣』で適当な大きさにくり抜いて、向こう側に吹き飛ばした。

「通路だ」

「何もなさそうだな」

 ロメオ君がマッピングしているマップ情報と方角を照らし合わせる。リオナとオクタヴィアがアドバイスをするために地図に寄る。

 その間僕たちは通路の先を照らす。

 どこまで続いてるんだ?

「日時計のある方角に向かってるみたいだ」

 ロメオ君が呟いた。

 さて困った。上を行くか、下を行くか二者択一だ。

 飛んだ方が楽なんだがな。

「このまま確かめないのも気持ち悪いわよね」

 いつもの好奇心である。冒険者の性だろう。

「行ける所まで行こう」ということになった。

 ひたすら前進あるのみである。


 何もないのに風がある。

 これだけ長い通路の端まで風が流れているということは結構強く吹き込んでいると言うことだ。

「分岐だ」

 どっちだ?

「風はこっちからなのです」

 リオナの耳がピクリと動いた。

 僕の結界に何かが当たった。

「明かりを!」

 僕はリオナをこちらに引っ張った。

「何かいる!」

 光を投げ込むと闇が見えた。

「闇の結界だ……」

 風のない通路側に何かが蠢いている。

「闇蠍か……」

 僕が仕掛ける前に蜂の巣になった。

「……」

 みんな手が早いよ。

 結界が解けてなかから案の定、蠍が出てきた。

「うわっ」

 見るからにやばそうだった。黒く、巨大な身体に今までなかった真っ赤な模様が浮き出ていた。

 以前会ったときより更に十程レベルの上がった闇蠍だ…… 足長大蜘蛛を完全に超えたな。

 相変わらず闇属性は何も落とさない。

 ここは土属性のフロアなのに何しに出てきたんだか。


 その後も闇蠍は頻繁に出てきた。一体何があってこんな所に屯しているのか。

「こんなことなら上を飛んだ方が早かったのです」

 分岐の多さに辟易とした。

 分岐ごとに闇蠍と一戦繰り広げなくてはならなかった。

 戦うのはロザリアなのだが。

 強化された闇蠍も光魔法の前ではただの蝉の抜け殻のようだった。

「闇蠍戦用の対毒装備じゃなきゃ、普通のパーティーがここを通るのは無理だね」

 ロメオ君が振り返りながら言った。

「擦っただけであの世行きだよ」

「それにしてもこうまでして守っている物ってなんなのかしらね?」

 ナガレが言った。


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