エルーダ迷宮追撃中(タイタンを探せ)23
「扉だ」
扉があった。それも二つ。
扉のある通路の突き当たりから強い風が吹いてきていた。
天井に吹き抜けがあった。
「どうやらゴールのようだけど」
「罠部屋は勘弁して欲しいかも」
ロメオ君が扉の取っ手を警戒している。
そういや、最近その手のトラップなかったな。
結界を張りつつ取っ手に手を掛けて、体重をそっと掛けて押してみる。
砂が擦れるような摩擦を感じながら扉は開いた。
こっちの扉は鍵が掛かっていないようだ。
ロメオ君が調べた扉の方は押し込めなかったようで、僕に首を振った。
「こっちは開かずの扉だね」
鍵穴を見る。
僕が近づくとカチャリと音がした。
腰鞄に仕舞い込んでいた『迷宮の鍵』が反応したようだ。
「どっちから行く?」
安全だと思われる扉から行こうということになった。
元から開いていた扉の方に皆並んだ。
開けた途端に蠍の尻尾とかはやめて欲しい。
僕は結界を張りながら扉を押し開ける。
ギイイイイ……
重い。
錆びてる。それに扉の向こう側に砂が溜まっている。
隙間を空けた途端に突風が吹き込んできた。
「うわっ!」
顔を覆った。
風の塊が通り過ぎた。
日差しが眩しい。
「出口だ」
上へ向かう長い直線階段が光の溜まり場まで延びている。
「よし」
一旦放置する。
脱出ルートは確保した。
さて、一応大物狩りを想定して、装備を整える。
リオナとヘモジが鏃を取り出してポケットに忍ばせた。
魔法使いの面々は万能薬で魔力回復。予備の小瓶をポーチや服のポケットに追加し、大瓶が腰鞄に収まっていることを確かめる。
僕もリュックを下ろすと装備を剣に持ち替えて、背中にライフルを背負った。
オクタヴィアは荷物の見張り番だ。
全員頷いた。
ゆっくり扉を押し開ける。
こちらは拍子抜けする程すんなりと音もなく開いた。
「……」
敵はいるか?
僕は盾を構えながら『竜の目』を使ってくまなく探す。
他のみんなも索敵能力をフルにして探りを入れているが、何もヒットしない。
肩透かしを食らったようだ。
部屋にはお宝もなかった。まさに肩透かし。
でも部屋の中央に台座があって羊皮紙が一枚置かれてあった。
「なんだ?」
台座に罠があるかもと警戒したが、それもなかった。
取り上げてみてみるとそれは地図だった。
「地下の見取り図だ」
全員で覗き込んだ。
今まで通ってきた通路の詳細を記した地図だった。
「今更……」
どうやら僕たちが出口だと思っていた階段が、ルート的には入口だったというオチらしい。
「どこに続いてるんだ?」
どうやら僕たちが最初に落ちたあの大部屋には別の通路がもう一つ隠れていたようだ。
道はスタート地点の方に延びていた。
もう一つの出入口があった。
「これって、デザートゴーレムをやり過ごすための隠し通路?」
「みたいだね」
なんてこった。すべてが徒労に終わった。出入口からちゃんと入っていればとても価値のある地図だったのだろうが。
「向こう側の出入口から入っても地図は手に入ったのかな?」
地図を見る限りこの部屋と同じ構造の部屋はあるが、鍵が掛かっているんじゃないのか?
『鍵開け』スキルで普通に開けられる扉なのかな? 余り難易度が高いと意味ないからな。
空から見た感じ、入口があるなんて気付かなかった。
用は済んだので僕たちは隣りの階段から外に出た。
「ほへー」
リオナが奇声を上げる程見晴らしがよかった。
そこは古代神殿の遺跡のようだった。石畳に風化した柱が並んでいた。
僕たちは狭い盆地に囲まれた神殿を見下ろす建物の上にいた。
「日時計がある場所かな?」
周囲を見回しそれらしき物を探す。
柱が無数に並んでいる先に広場があった。その広場は円形で構成されていた。
僕たちは併設されている朽ちた階段を下りて広場を目指した。
思ったより距離がある。
振り返ると僕たちが出てきた出口は岩肌の傾斜の影に隠れてもう見えない。
日時計と言うからガチガチの石の文字盤を想像したが、そこにあったのは噴水だった。
噴水は止まっていたが砂漠のなかにあって水をとうとうと蓄えていた。
「冷たい」
みんな裸足になって池に脚を突っ込んだ。
棒をさせるような穴はないかみんなで調べた。
身長より大きな噴水の先端にオクタヴィアを送り込むべく、僕は背伸びをした。
「あったか?」
「ないなーい」
ここじゃないのか?
周囲を見渡す。
ん?
妙なことに気付いた。
乱立する柱の位置が微妙におかしい。
こういう物は普通シンメトリーを構成しているものだ。
なのにこの場所は微妙に位置がずれている。
僕は池を出て、柱が前後左右等しくなる位置を探した。
「あった! あったぞ」
床に文字盤を見つけた。中央に棒を差し込む場所も見つけた。
差し込む棒を早速探した。
が、どこにもそれらしき物はなかった。考えられるのは周囲の山のなかだ。
点在する茂みを探すことにした。
神殿の外にはストーンゴーレムが徘徊している。
「こんなところで時間を掛けることになろうとは」
近場から探索することに決めた。
僕とリオナでゴーレムの相手をしながら、残りの全員でそれらしきサイズの棒を探し出すことになった。
ゴーレムをひたすら十体程倒したところで「動いた!」と声が掛かった。
日時計の元に飛んで帰ると太陽が動いたようで柱という柱が影を延ばしていた。
目的の日時計の針も向きを変え、長い影を落としていた。が、先端が他の柱にぶつかっていた。
ヘモジとオクタヴィアは柱の周りを探し回っている。
針になった棒は決して真っ直ぐな棒ではなく、枝を切り落としただけの原木である。ねじれていて決して地面に垂直に立っているわけではない。
向きが違うんじゃないか?
差し込んだ方角が違うんだろうと思って、僕は棒をひねった。が、ビクともしなかった。
これで正しい位置なのか?
全員が柱の周囲を調べるも何も見つからなかった。
僕は溜め息をつきながら柱を見上げた。
入口はそう遠くない場所になるはずなのに、なんで見つからないんだ? 誤差を含めたってそう広い範囲にはならないはずだ。
ふと柱に絡まった蔦の葉一枚が気になった。枝が一本だけ太陽目指して伸びていた。
「ん?」
柱の伸びた影の先に細い矢印を見つけた。蔦の葉が光の加減で矢印に見えているのだ。まさか!
『影の先端を追え』
そうだ。マップ情報にあった文章には『影の先端を見ろ』ではなく『追え』となっていた。
僕は矢印の方角に走った。
矢印は別の朽ちた柱を差していた。
その柱の陰を追った。するとその朽ちた柱の先端が、石畳の化粧の段差の影に落ちた。
「どっちだ?」
みんなも、僕がしていることを見て察したようだ。全員が駆け寄ってくる。
右か左か? 段差は左右に延びていて、影が寄り添っていた。
「こっち行き止まり」
オクタヴィアが言った。
「こっちは続いてるわよ」
柱ではなく、岩にぶつかっていた。岩の上には倒木が横たわっていて、影が根元まで続いていた。根元は僕たちが出てきた建物の影に入っていた。影はそこで途切れていた。
一生懸命探したが、影は他には繋がっていなかった。
「嘘でしょ?」
建物の上から身を乗り出して経路を確認するが、間違いなくここに繋がっていた。
他の可能性は今のところ見つからない。
「この中?」
建物に入り階段を見下ろした。その時だった。
出てきたときは階段に真っ直ぐ差し込んできていた光が、今は影を作っていることに。
明らかに誘導していると感じた。
「また地下に戻るのか……」
僕たちは階段を下りて地下に戻った。相変わらず風が強い。




