表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
731/1072

エルーダ迷宮追撃中2

「なるほど、こういうことか……」

 脱出部屋から外を覗くとそこはまるで雲のなかだった。しかも風が吹き荒れていて周囲が何も見えない。

 オクタヴィアは早々に僕のリュックに収まった。

 ヘモジは気にせず袖口に隠れて外を覗いている。

 僕は剣を杖に持ち替えた。

 そして結界を展開した。

 僕たちの周りは安全地帯になり、暴風は僕たちを避けていった。

 だが白い気流が結界の外で視界を塞ぐ。

「これじゃ、目視は無理だよ」

「風鳴りで音も分からないのです」

「臭いも無理」

 ロメオ君とリオナとオクタヴィアが揃って言った。

「頼りは魔力探知ぐらいかの」

「敵はどうなんでしょう? こちらを捕捉できるんでしょうか?」

 ロザリアも聖結界を張った。

「それより、灯台の明かりは?」

 ナガレが周囲を見渡した。

 僕も周囲を『竜の目』で探知する。

「このフロアも魔力が充満してる」

「この風、ほんとに邪魔なのです」

「どれ」

 アイシャさんが試しに放射状に衝撃波を放った。

 一瞬、視界が晴れたが、すぐに景色を覆い隠した。見えたのは何もない岩場だ。決して平らではない。一寸先に虚空が広がっていた気がする。

「灯台の明かりも見えなきゃ、進みようがないわね」

 ナガレが匙を投げた。

 部屋から出るのも憚られた。

 ここを攻略したパーティーはどうやって進んだのだろう?

 ロメオ君が土魔法で前方に壁を作った。すると風が壁にぶち当たって分かれて地面が覗いた。

 やはり草も生えない荒れ地に石ころだけが点在する場所だった。

「こんなことしながら進んでたら日が暮れちゃうよね」

 結界を最大限に展開してもその先が見えない状況は変わらない。足元が見えなくて崖から転落するようなことがないだけだ。

「ドラゴンフライじゃ」

 前方にドラゴンフライの反応があった。

 羽ばたいていないところを見ると、どこかにしがみつき必死に風に耐えているようだった。羽音がしなければ『沈黙』は発動しない。

「どうなるかな?」

 ロメオ君が魔法で、リオナが銃で、ナガレがブリューナクで仕掛けるようだ。

 この風じゃ当たる物も当たらない。

 視界もなければ臭いも音も当てにできない状況下では何が有効かも分からない。

 いろいろ試すしかない。

 最初に手を出したのはナガレだった。

 霧の嵐に稲光が走ったが、あらぬ方角に稲妻は流れた。

 ドラゴンフライはこれで狙われていることに気付いた。

 だが、羽ばたこうにも風が邪魔して、翅を広げることもままならない。

 条件は対等のようだ。

 続いてリオナが銃弾を放ったが、『必中』の付与の付いた青柄の方だけが命中した。

 翅に穴が空いた。

 ロメオ君が何かした。何かしたらドラゴンフライが粉みじんになった。

「ああッ!」

 死骸が四散して風に巻かれてどこかに消えた。

「ひどい!」

「ナーナ」

 オクタヴィアとヘモジが不満を述べた。

「まいったね、こりゃ」

「いい方法だと思ったんだけどな」

 ロメオ君も困り顔だ。

「いい手ではあるが、加減が難しかろう」

 アイシャさんは褒めた。

 どうやら周囲の気流を風の魔法で操る手段をとったらしいが、暴れる気流を制御するのはロメオ君でも難しかったようだ。

 一体倒しても周囲の状況は変わらなかった。

 結界の外は視界ゼロ、灯台の明かりは相変わらず見えない。

 気流が大きく乱れた。

 霧のなかからでかい何かが現われる。

「来るぞ! フェンリルだ!」

 でかい! 今まで見たフェンリルのなかでも最大級だ。

 気流がまた揺らいだ。

 二つ、三つッ!

 ロメオ君とアイシャさん、ロザリアが風の魔法で三体のフェンリルを切り刻んだ。

 だがドラゴンフライのようにはいかず健在だった。

 僕は『一撃必殺』を掛けた『魔弾』で一体の眉間を貫いた。

 ヘモジがもう一体を横殴りにした。

 残りの一体が迫ってくる!

 リオナが銃弾を近距離から何発も撃ち込んだ。

 片目を撃ち抜いたところで逃げられた。

 霧のなかに消えた。

 別の方角の気流が乱れた。

「来る!」

『魔弾』を装填した。

 だが現われたのは遙かに巨大な鳥だった。

 障壁に激突した。

 首が若干捻れたがビクともしなかった。

「ロック鳥……」

 でかい……

 ワイバーンを横からかっさらった野生のあいつのようだった。

 的を絞る余裕もなく、ただただ闇雲に撃ち込んだ。

 僕の一撃は肩口を貫いた。

 片翼がへし折れ、風に弄ばれる。

 悲鳴を上げるくちばし。

 そこへ隻眼になったフェンリルが戻ってきた。

 折れた翼に牙を立てた!

「おいおい……」

 動くものはすべて敵か?

 リオナが銃弾を、ヘモジが転がした一体に撃ち込んだ。

 死んでいなかったようだ。

 だが今度こそ地に伏して動かなくなった。

 隻眼のフェンリルは仲間が殺されて、ようやく戦うべき相手を思い出したかのようにリオナを睨んだ。

 だが次の瞬間、首がゴロンと転がった。

 アイシャさんが『無刃剣』で切り落とした。

 その隙にびっこを引きながら逃げようとするロック鳥。

 如何せん図体がでかすぎる。

 ナガレが電撃を近距離から撃ち込み、ヘモジが頭を砕いた。

 風で獲物が飛んでいかないように結界のなかに亡骸を囲った。

 さすがにロック鳥のすべては覆えなかったのでロメオ君が土魔法で暴風壁を築いた。

 風の魔石(大)が二つと、特大が一つ手に入った。

 案の定ロック鳥は特大を出した。

 これだけで今日の稼ぎとしては充分だが、目的は攻略である。

 風が徐々に収まってきた。

 何かが来た!

 頭上に影が見えた。

「ワイバーンだ!」

 それも五体!

 僕は雷を落とした。するとロメオ君とナガレの攻撃と被った。

 五体のワイバーンが悉く撃墜された。

 墜落時に絶命したものが三体、息があるのが二体。立ち上がろうと翼を杖のように支えにしてもがいている。

 とどめはリオナとアイシャさんが刺した。

 いくらレベルが上がってもドラゴンにはなれないようだ。

 風の魔石(大)がまた手に入った。

 霧が晴れた。

 雲間から差した光が大地を照らした。

 どこまでも続く山岳地帯。

 風化して歪にねじ曲がった岩が、浸食で抉られた流線形の山肌に鎮座する珍しい光景が広がっていた。

「観光なら最高なんだけどなぁ」

 灯台は相変わらず見えない。

 警戒しながら僕たちは前進した。

 最初の峠を越えたところで遠くに光が見えた。

「見つけた」

 灯台の光だ。

 だが、気が遠くなるほど遠い。

 するとまた霧が立ち込め始めた。

 風が吹き出して、あっという間に暴風に囲まれた。

 そしてまた敵が現われた。

 今度はドラゴンフライが三体。岩陰に隠れ、風を避けながら迫ってくる。

『沈黙』に掛かったら大変なので、近付かれる前に撃った。

 翅さえ落としてしまえば怖くない。

 が、食われた。

 フェンリルが横合いから現われて、かっさらって嵐のなかに消えた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ