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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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エルーダ迷宮征服中(星月夜に流れ星)54

 カナン地方は西方遠征が始まるまで未開の地との緩衝地帯だった場所だ。その広大な山間部が防波堤の役目を果たしていた。

 ザナージはその長い防衛線の一部を形成する地だったが、前線が山向こうまで移動したせいで、拡充したエリアの警備がままならなくなってしまった典型である。

 その手薄になってしまった空白地帯を『コルッテリ・ネラ・ノッテ』が支配地域に収めようと幾つもの領地を跨いで暗躍していたのである。

 元々山越えしてくる魔物は数年に一度、迷子が空からやってくる程度で滅多にないらしく、暢気な地域ではあったが故に起きた今回の事態であった。南からこれほど多くの輩が越境してくるとは想像だにしていなかったせいもある。

 観光ガイドブックによると緩衝地帯は広大な穀倉地帯になっているらしかった。王国の小麦生産の実に四割をここで賄っていると言うからその広さは驚きに値する。風車と一体化した見張りの櫓が等間隔に並ぶ珍しい景色が拝めるのもこの地方ならではの特色だった。


 僕たちの船は『神の腰掛け』から高速気流に揉まれて一気にヴィオネッティー領を通過し、西方に辿り着いていた。

 運河の東側はすっかり人の支配する地域になっていた。駐留部隊の拠点に常駐する飛空艇が見えた。

 僕たちの船は船首を北に向けた。

 運河の西を通ることで他領を跨ぐ危険を回避しながら、ザナージ領に陣取る『コルッテリ・ネラ・ノッテ』の拠点を目指した。

 最近は火竜も大人しく、南部には出てこなくなったと兄さんが言っていた。

 巣潰しが効いたのだろう。

「すげー、どこまでも真っ直ぐだ」

 南北に一直線に流れる運河を見て、子供たちも興奮冷めやらぬ様子だった。一年前とはまるで違う景色が広がっていた。

「分かりやすくなったものじゃな」

 運河を挟んで東西でまったく違う世界が広がっていた。

 川の東は開拓が進み、平地が開けていた。石造りの堅固な城壁もぼちぼちできあがりつつあった。西は相変わらず深い密林と湿地に覆われ、物騒な命の輝きに満ち溢れていた。

 やがて、運河は蛇行する大きな河川に合流して姿を消し、見るからに混沌とした世界が目の前に現れた。

「聖騎士団の受け持ちのエリアがこの先ですね」

 ロザリアが言った。

 そこまで行ってしまうと行き過ぎなので、進路を変えつつ高度を上げていく。

 舵を東に切ると、尖った尾根が並ぶカナンの地に潜入する。

 なるほど、深い山間と森が広がっていた。ここに入り込まれたら発見はさぞ難しかろうと思えた。

「発見しました!」

 チッタとチコが声を上げた。

 山を二つ程越えたポイントを地図の上で指差した。

 ザナージの最西端の集落から山を一つ跨いだ山間の奥地にあった。ザナージにおける西方遠征の討伐ルートから随分と離れた場所にあった。

 僕たちは遠くの山陰に隠れながら現場の状況掌握に勤しんだ。

 どうやら敵陣は幾つもの拠点に分かれていて、四つの侵入ルートに砦がそれぞれ築かれているようだった。その四つの砦に囲まれた盆地に本拠地があり、そこにほとんどの人口が集中しているようだった。

 安普請だが、地の利は圧倒的に向こう側にあった。

 地上部隊だけだったら攻めあぐねていたことだろう。相応の犠牲を強いられてもおかしくはなかった。

 だがしかし、規格外な魔力で劣勢を撥ね除けた者がいる。言わずと知れた我が姉である。

 防衛ラインの一角が既に陥落していた。最西端の集落から続く山道に一番近い砦が一つ、煤けた瓦礫に変わり果てていた。

 建物は燃え尽きて、焦げた柱が石積みの土台の上に転がっていた。

 明らかに姉さんの一撃の爪痕だった。

 姉さんたちは侵入ルートをさらに進んだ先の尾根の上にいた。

 土魔法で橋頭堡を築き、取り囲まれながらも持久戦を展開していた。

「兄さん、まだか……」

 アンドレア兄さんの一撃が戦闘開始の合図である。が、まだ始まる気配がなかった。

「エルネスト」

 アイシャさんが僕を呼んだ。

「あれを見ろ」

 アイシャさんが指差したのは、本拠地の周囲を固める高い塔に置かれた巨大な魔石だった。

「魔石? …… いや、あの大きさは違う! 転移結晶だ!」

「もしやと思うたがやはりそうじゃったか!」

 合点がいった。一万人の民族大移動がどの様に行なわれたか。

「混合魔法か、或いは王家の生き残りの技か」

 転移結晶を使っての民族大移動だ。

 姉さんたちは人質救出だけでなく、あれを潰すために無理に前に出たんだ。高い塔は六つ。六芒星を描いていたらしいが、内二つが姉さんたちの手によって落とされていた。

 目映い閃光がきらめいた!

 一瞬で僕たちから一番遠くにあった砦が蒸発した。

 閃光は岩肌を大きく抉って消えた。

「兄さんだ!」

 手加減はしてるのだろうが、相変わらず容赦がない。

 でもたった今、ヴィオネッティーになんら落ち度がないことが分かったんだけどね。

 今更やめられないか……

「戦闘を開始する!」

 船の高度を上げさせた。

 尾根を越えると、進路を一番近い砦に向けさせた。

 兄さんに負けじと、空の上から大岩を放った。

 やや目標が逸れて、砦の片側を粉砕するに留まった。

 地上から一斉に矢が放たれた。

 魔法の矢も含まれていたが、一つとして命中しなかった。結界に擦りもしなかった。

 アイシャさんが手本を見せるかのように、二発目の大岩を砦の中心に落下させた。

 大岩が激突すると、質量に耐えかね土台の一部が土煙を上げて谷間に落ちていった。

 砦に詰めていた連中が倒壊する建物から一斉に逃げ出した。

 が、悉く銃の餌食になっていった。

 隠遁で身を隠して逃げおおせようとしても、こちらの狙撃手の探知スキルの方が上だった。

「バリスタ!」

 ピノが叫んだ。

 魔物対策に用意した物だろうが、尾根に置かれたそれはこちらに鏃を向けていた。

「任せて!」

 ピノが新型の鏃を備え付けの筒を使って発射した。

 新型の鏃は投下されると一気に加速して目標目掛けて飛んでいった。

 巨大なバリスタが巨大な爆風に巻き込まれて吹き飛んだ。足元の土砂が崩れて下にあった兵士たちの詰め所が潰された。

 姉さんたちも同調して動き始めた。

 隊を二つに分けて、一方をその場に留めながら、もう一方が周囲の殲滅を開始した。

 閃光の二発目が残った砦を蒸発させた。

 敵陣はパニック状態に陥った。

 一番手薄になっていたこちら側の斜面にチョビとイチゴを最大サイズで出現させた。

 一番手薄なルートだと確信して脱出を試みていた敵の隊列は呆然と立ち尽くした。

 巨大な鋏が山肌を削ぎ落とした。

 兄さんの乗った飛空艇がようやくその姿を現わした。

 ヴィオネッティーの家紋を掲げた二隻の船がちょうど敵陣を挟む形になった。

 周囲は圧倒的な魔力によって蹂躙された。僕やアイシャさん、ロメオ君にナガレ、それに姉さんが山を削り逃走ルートを消していった。

 そして抵抗が下火になると戦況は掃討戦に移行していった。


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