エルーダ迷宮征服中(星月夜に流れ星)53
首謀者の名はレオナルド・ザナージ。カーラ嬢の叔父に当たる人物らしい。先代の領主、カーラ嬢の祖父の代に素行の悪さから勘当された人物だ。
ミロ少年が次期領主に選ばれた頃からいろいろ画策を始めた人物らしく、今回の件も恐らくこの人物が首謀者だろうということだった。
あくまで奥方の印象でしかなかったが、ヴァレンティーナ様が言うにはほぼ確定だろうということだった。
カーラ嬢を狙ったことは継承権を考慮に入れなければ説明できないことであるし、他に怪しい分家筋がいないことからも容疑は濃厚であった。
カーラ嬢を亡き者にした後、ミロ少年が継承にふさわしくないと主張すれば自分にお鉢が回ってくるとでも考えたのだろう。
「王はそこまで馬鹿ではない」とヴァレンティーナ様はお冠だった。
少し探りを入れてやれば一生投獄するだけのボロがすぐ出てくるだろうとのことだったが、ここでまったく別の問題と直面することになる。
叔父レオナルドが手を借りた相手が相当やばい連中だったと言うことである。
犯罪組織『コルッテリ・ネラ・ノッテ』
最近急速に勢力を拡大させてきた砂漠発祥の犯罪組織である。
例のベヒモス事件のせいで住処を奪われた連中が亡国の傭兵団を中心に集まってできたごろつき集団である。
西方遠征で警備が手薄になった主に西部方面の領地で悪事を働くようになっていたらしい。
これは南部を守っているヴィオネッティーの不手際とも言えた。兄さんにお鉢が回ってきたのはある意味温情である。
南部からやって来たとなれば窓口はスプレコーンかヴィオネッティーかアルガスしかない。そして西方に近いのは明らかにヴィオネッティーだった。
中央政府はまだ気付いていない。
ヴァレンティーナ様も宰相もまだ知らせていないと言った。
見て見ぬ振りをしてくれていると言うことだ。早々に解決すれば不問に付すということだ。
アンドレア兄さんや親父に話すべきだろうか?
エルマン兄さんと姉さんが片付けてくれれば何も問題ないのだが。ヴァレンティーナ様曰く、この組織はそこら辺の盗賊団の比ではないらしい。
練度も高く、亡国の王族が絡んでいるのではないかと、まことしやかに噂される程だった。
そしてヴァレンティーナ様は僕をじっと見つめた。
僕がどう動くのか、探りを入れている目だ。
ここまで聞いてしまったら動かないわけにはいかないだろう。
実家のために総力を持って駆逐しなければならないが、今の僕はスプレコーンの住人だ。
姉さんは魔法の塔の庇護がある。エルマン兄さんも職務の一環だ。
でも僕は…… 動けない。
ふたりがうまくやってくれることを願うしかない。
だがその夜、解決の報はおろか、なんの知らせも戻ってこなかった。
僕は翌朝、いたたまれずにロメオ君ちに向かい、アンドレア兄さんに知らせを送った。
僕を飛び越えて、領主館に兄さんが訪れたのは手紙を送って一時間も経っていない頃だった。
「そんなことになっていたのですか……」
ロザリアが朝食を食べながら言った。
「連絡を寄越さないというのはあやつらしくないの」
アイシャさんが姉さんの現状を危惧した。
「何かあったと見るべきじゃの」
「そうなんだけどね」
情報封鎖されてちゃ、居場所も分からない。
アンドレア兄さんがどういう結論を出すのか……
「来たのです!」
僕たちは兄さんを出迎えに玄関を飛び出した。
「兄さん!」
「暇そうだな」
「姉さんたちを助けるんだろ!」
「当然じゃないか。ヴィオネッティーに喧嘩を売ったらどうなるか教えてやるさ。その前に」
兄さんは居間の椅子に座り込むと飲み物を催促した。
「ちょうど連絡が来てね」
僕たちは身を乗り出した。
兄さんは気を持たせるようにジュースを飲み干した。
「人質がいたらしくてね。戦闘前に救出しようとしたらしいんだが、罠にはまったらしくてね。包囲されてしまったらしい」
「罠? 姉さんが?」
「わざとだろうね。放っておいても敵の包囲を突破して出てくるだろうが、少々気になることがあってね」
「王族が絡んでるかもってやつ?」
「そうだ」
「ユニークスキルか……」
「王族ともなると、それなりに強力なスキルがあるはずだからな。足元を掬われかねない。レジーナも警戒はしているだろうが、敵の本隊は一万を超えるらしい」
「ええ?」
百人ぐらいって話じゃ? 一万って……
「全員が戦闘員というわけではないだろうが、これだけの数、どこから入り込んだのか、早急に突き止めなければ、親父の首も危ない。まあ、そっちは親父たちに任せればいいとして。レジーナたちの体力があるうちにこちらも行動を起こさないとな」
「行くの?」
「当然だ。そこでだ。こちらにザナージの領主代行がいるだろ?」
僕は頷いた。
「越境許可を貰いたいんだが」
駄目でも越える気だろうけど。
『災害認定』されてる兄さん自身の話もあるが、他領に部隊を進攻させるとなるとクリアーしておかなければならない厄介ごとが幾つかある。
侵入経路の探索は自領だから全軍を以て対処できるが、問答無用の近衛と違って、他領で部隊を動かすのは王の許可がなくてはできない。
そうなると動かせるのはヴィオネッティーの暗部だけだ。エルマン兄さんの部隊に手柄を押しつけるにしても、後で問題になることは避けなければならない。
ちょうど朝食の席に下りてきた奥方に事情を説明したら、あっさり許可が貰えた。
元はと言えば自分たちが不甲斐ないせいだと、却って恐縮させてしまった。
「思う存分やって下さって結構だ」とお墨付きまで貰ってしまった。
兄さんは「お前が恩を売っておいてくれて助かった」と笑った。
僕のせいでこうなったのか、遅かれ早かれこうなったのか、僕は苦笑いを返すしかなかった。
「で、お前はどうする?」
「居場所さえ教えてくれたら――」
「空から行くのです」
「駄目だ! 連れて行かないぞ!」
「リオナも家族なのです! ヴィオネッティーなのです!」
「俺たちも行く!」
ピノたちが玄関から飛び込んできた。
「お前ら…… 駄目に決まってるだろ! 戦争だぞ!」
「分かってるよ」
「船からは降ろさんぞ」
「アイシャさん!」
「まさか、我らまで置いて行くとは言わんじゃろうの?」
「でも!」
「空から援護するだけだから!」
ピオトが言った。
「僕たち家族だろ! 若様!」
テトが叫んだ。
「こんなときに頼って貰えないのは寂しいよ。友達として」
ロメオ君が顔を出した。
「全員参加で決まりね。さ、急いで準備しましょう」
ナガレが先導して、地下に下りていった。
『私たちも参加しますよ! ご主人!』
チョビが鋏を持ち上げて戦闘の意思を示した。
「ナーナ」
ヘモジも腰のミョルニルを叩いて戦闘の意思を示した。
「みんな仲間。レジーナ家族、助け出す!」
オクタヴィアも背伸びをして戦闘準備だ。
「行っといで。カーラさんたちの世話はこっちでするから」
「行ってください。若様」
アンジェラさんとエミリーにも背中を押された。
「兄さんは? ポータルで帰る?」
「ポータルで行くよ。こちらも準備があるからな」
それから簡単な打ち合わせをすると、僕たちは積めるだけの武装を装備して、敵の待つ西方辺境カナンの地に向かった。




