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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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エルーダ迷宮征服中(星月夜に流れ星)52

「カーラ!」

 奥方が叫んだ。

 館から我が家に移ったカーラ嬢はロザリアやナガレたちと双六を楽しんでいた。

「お母様!」

「姉さん、怪我は?」

 ミロ少年も唖然としていた。

「詳しい説明はわたしから致します。奥様。わたくしこの地を収めます――」

 ヴァレンティーナ様が食堂から出てきた。

 突然の王女様登場に目を丸くした。

「あの…… これは一体?」


 話は付いた。

 例の出征命令書の件が詐欺である可能性があることや、カーラ嬢がアサシンに襲われたことを説明し、問題解決まで、万が一に備えてこちらに退避して貰う旨を伝えた。

 王女様と宰相殿の命令とあれば断ろうにも断われないのだが。

「治療の件は……」

「それは嘘ではありません。これから館の診療所に案内します。診察を受けて問題なければ、今夜にも手術を行ないましょう。そうすれば週末、お姉様と一緒にお祭り見物できますよ」

 うちにいてもすることがないので我が家のゲートを通って、一行は館の主治医のアンジェリカ先生がいる医務室に向かった。

「それでどうだった?」

 アイシャさんが聞いてきた。

「特に何も。深入りしないで戻ってきた」

「結界がたくさんあった」

 オクタヴィアが言った。

「消音結界か?」

「ナーナ」

 こちら側の密偵か、それとも敵側か……


 診察はすぐに終わり、カーラ嬢とミロ少年が戻ってきた。

 お母上はいろいろ聞くことがあるので館に留め置かれたらしい。ふたりには支払いの相談ということになっているようだった。

 夕食の準備が整い、久方振りに全員がテーブルに着いた。

 三人の来客はまずエルフの姿に驚き、続いて教皇の孫に驚いた。

「そういやお前らは驚かれなかったな」

「人望」

「ナーナ」

 猫と小人が言った。

 チョビとイチゴは既に池で獲った魚を食べて、岩のように眠っていた。

 来賓の三人は手術が控えていたので余り料理が喉を通らない様子だった。

 当然と言えば、当然だ。こちらの配慮が足らなかった。

 手術が無事終わったら、改めて盛大にやることにしよう。

 護衛の人たちは場所がないので道場の方で休んで貰うことにした。

 どうやらあちらは前祝いに酒盛りを始めたようだ。喧噪が聞こえてくる。アローフィッシュを酒の肴にでもしているのだろう。


 その夜、領主館にてミロ少年の手術が行なわれた。

 カーラ嬢と母親が夜通し立ち会った。

 翌朝、眠そうにしているふたりの傍らで、麻酔でぐっすり眠らされたおかげで、はつらつとしているミロ少年を見て思わず笑ってしまった。

 ミロ少年は杖を突いてはいたが、しっかり自分の足で立っていた。

 朝食を済ませると、早速自分の足で歩いて回りたいというので、リオナを護衛に付けて敷地を散策して貰うことにした。

 母親と姉は寝たりない分、少し休むと言って客間に下がった。

 ミロ少年は大いに楽しんだようだ。

 我が家の敷地内は娯楽に溢れていたようで心置きなく楽しめたようだ。

 特に釣りを楽しんできたようで、捕った魚を誇らしげに魚籠に入れて戻ってきた。

 昼食の食材は決まりだ。庭で塩焼きにして頂くことにした。

 岩だと思っていたチョビとイチゴが動き出して護衛共々、驚いていた。

 話し掛けられてなお驚き、護衛がひとり池に落っこちた。

 ミロ少年は大いに笑った。

「あの子があんなに……」

 母親は心の底から笑っている息子を見て、感涙した。

 幸せな家族団らんを横目に僕は裏口に現れた来客に会いに回廊を渡った。

 そこにいたのはチコだった。

「侵入者、全員拘束。領主様の使いが来ます」

 それだけ言うと森のなかに消えた。

「何やってんだ? チコの奴?」

「ご苦労様なのです! チコ・ソルジャー」

 リオナが森のなかに敬礼した。

 僕の冷ややかな視線を浴びてリオナがモゾモゾした。

「ちゃんと大人たちも見張ってるのです!」

「聞いてないから」

 リオナがほっぺを膨らませた。

 チコの言葉通り、館からの使いがすぐにやって来た。メイドさんであった。

「おいで下さいとのことでございます」

 それだけ言うために歩いてきたのか? ゲートがあるんだから使えばいいのに。

 メイドさんはその足でガラスの棟に入っていった。なんだ、ついでか。

 即売所で売られている珍しい食材を探しに来たようだ。

 僕とリオナは母屋に戻るとゲートで領主館に飛んだ。

「敵が判明したぞ」

 出迎えたのは姉さんだった。

「町に入ってきた連中も粗方片づけた」

「兄さん!」

 エルマン兄さんがいた。そばにはパトリツィアさんもいる。

「別荘で休暇を楽しんでたら駆り出されちまった。北の件ではご苦労だったな。ジョンに会ったんだってな」

「ええ、まあ」

「これからアジトを襲撃するんだが、お前も行くか?」

「ちょっと! 何言ってるのよ!」

 上司のパトリツィアさんが引き止めた。

「大丈夫だ。こいつは『サーペント・デローロ』の襲撃にも参加してる」

「嘘でしょ?」

「ほんとだ。な?」

「機密じゃなかった?」

「なくなった組織のことなんかどうでもいいんだよ。それより行くよな?」

 怪しい……

「薬が欲しいのよ」

 姉さんが、兄さんが怪しい態度をとる理由を説明をした。

「なんだ、そんなことか」

「以前貰った分がなくなっちまったんだよ。補充しようにも馬鹿高くてよ」

 そりゃ、そうだろ。

「でも大瓶で一瓶あったでしょ? あれを使い切るなんて、よっぽどだよ」

「元気薬変わりにしてただけだろ、どうせ。馬鹿みたいに駆け回って使い果たしただけだ」

「ええ? そんな理由で……」

 うちにも胃腸薬代わりにしてるのがいるけどさ…… それなら普通に元気薬飲んでた方がいいんじゃ…… 中毒になる可能性だってあるし。

「兎に角、行くぞ」

 あ、誤魔化した。

「リオナも行くのです」

「子供が行く所じゃ――」

 リオナが消えた。そして兄さんの後ろを取った。

「こりゃ、驚きだ」

 僕以外、ヴァレンティーナ様も驚いている。努力の成果だ。

「兎に角、行くぞ。日暮れまでに片を付ける!」


 急ぎ装備を整え、館に戻ると置いて行かれたことを知った。

「やっぱり駄目だって」

 ヴァレンティーナ様がリオナをなだめた。リオナを置いていくために僕も置いて行かれたようだ。

「悪いわね。準備させたのに」

「いいえ、別に」

 僕も正直リオナに物騒なことに首を突っ込んで欲しくなかったから、これでよかったと納得した。

 ヴァレンティーナ様はお詫びにと言って、事件のあらましを教えてくれることになった。

 僕たちは装備を外して、椅子に腰掛けた。


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