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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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エルーダ迷宮征服中(お裾分け)44

「なるほどね」

 そう相槌を打ちながらヴァレンティーナ様はクラーケンの塩茹でをマリネにした料理を口に運んだ。

「美味しい! これは…… まるで別物ね」

 ヴァレンティーナ様は今になって改めて土産を持ってきた経緯を僕から聞いて、焼いた物と蒸した物とを味比べをしていた。

「おかしな食材ですよね。蒸しただけなのに」

「今度の肉祭りも面白いことになりそうね。それでイフリートの肉は?」

 あれ? 知ってた?

「リオナが自慢してたんだけど」

「ありますけど…… 味見も済んでませんよ」

「わたしも一度だけイフリートを倒した経験はあるんだけど、食べるという発想がなかったものだから。うちの料理人に美味しい食べ方を見つけさせるから少し分けて貰えないかしら?」

「珍しいですね。こだわりますか?」

「どうしてもまとめたい商談があってね。先方は美食家だと言うから。『五種盛り合わせステーキセット』はもう食べたみたいなのよね。クラーケンの肉だけでもいいんだけど、イフリートの肉とセットで出せればインパクトは大きいでしょ?」

「もしかするとクラーケンみたいに特定の調理をしたら飛躍的に美味しくなるとか、あるかも知れませんしね。どうせ祭りで完食してしまうでしょうから、それまでに美味しく食べられる方法が分かれば、こちらも有り難いです。量は余り有りませんが」

 ないと言っても牛二頭分ぐらいはあるのだが。

「助かるわ」

「お互い様です」

「それと冒険者ギルドの話なんだけど」

「はい」

「王様も見に来るそうよ」

 え? もう知ってるの? なんで?

「お忍びじゃなく?」

「公式に」

「またなんで?」

「サボりたいんでしょ」

「そんな理由で?」

「理由はどうあれ、王が来るとなれば大変よ。国の内外の名だたる方々も話の種に来訪なさるということだから」

「ええ…… まあ」

 話大きくなり過ぎてない?

「そこで提案なんだけど、わたしとうちの数名を連れてイフリート狩りに行かない?」

「え?」

「それって……」

「虫のいい話だけど肉目的で。その交換条件として全面的に警備に協力するということでどうかしら? リオナに聞いた話じゃ貴方を連れて行かないと手に入らないレアアイテムもあるそうだし」

「そっちがメインですか?」

「消えない炎なんて町のシンボルになっていいんじゃない?」

「ほんとの理由は?」

「飛空艇専用のドックをそろそろ本格的な物にしようと思ってね。この町を訪れる飛空艇ももうわたしたちの船だけではなくなってきているから。今は何かある度に商会のドックを間借りしてる状態でしょ? そろそろちゃんとした方がいいと思うのよ。それに工房からだと一々町の障壁を解除しなくちゃいけないから、結構不安がる人もいるのよ」

 クレームが出てるってことか?

「結界のない村では旋回竜辺りの小物でも子供をさらうと言うものね。だからドックを建設します。当然灯台も必要になってくるので一緒に造ります。灯台と消えない炎という組み合わせは魅力的だと思わない?」

「今使ってるドックは?」

「あなたの船は特別製だし、わたしの船も本来緊急脱出用だからあのままね。ただ、修理専用のドックはあなたの実家を手本にさせて貰って、障壁の外から侵入できるようにするわ。他にも飛行船の発着場も併設するつもりよ」

「お金足りてます?」

「おかげさまでポータル利用者だけでも当初の予定の数十倍よ。ギルドの収益も右肩上がりだしね」

「ロケーションはもう決まってるんですか?」

「北門は表玄関だから弄りたくないし、東側は高台が控えてるから地形的にも飛行ルート的にも無理ね。今使ってるわたしたちのドックで精一杯よ。造るとしたら西か南だけど、南半分はあなたの土地があるでしょ。観光名所の景観はこちらとしても維持したいのよ。そう考えると西ということになるわね。田園地帯だし『ビアンコ商会』も西にあることだし、いいんじゃないかしら?」

 ドナテッラ様が出勤してきたので挨拶だけして退出することにした。下手をしたら書類整理に巻き込まれてしまう。

 うちの連中も慣れない船旅で疲れているようだし、地下四十五階層の情報収集もまだなので、明日向かうことになった。

 僕が一緒ではアイテムが手に入らないのではないかと思ったが、話では一定距離を開ければ僕は別パーティーということになるらしく取得に問題はないのだそうだ。問題はそれだけ距離を置いて結界を張り続けられるかということらしい。姉さんは相変わらず湖岸工事で忙しくしているようだが、時間ができれば参加すると言っていた。トラブルがなければ間違いなく参加してくるだろう。僕は基本的に道案内と結界張りだけしてればいいと言うことなのでそうさせて貰う予定である。イフリートもヴァレンティーナ様の無双があればすぐに片付くことだろう。

 途中のカークス戦もいつもの面子なら容易いはずだ。魔法主体ではない剣主体のパーティーというのも久しぶりである。


 翌日、美女軍団を引き連れてエルーダ村にやって来た僕はマリアさんの引きつる顔を見た。

「ちょっと! 何して――」

「潜らせて貰うわよ。一応報告だけしておこうと思って」

「問題起こさないでよ」

「起こさないわよ」

「ちゃんと手加減してよ」

「うるさいぞ、マリア。不安なら一緒に行くか?」

「あんたが一番心配なのよ! 弟の前だからって張り切らないでよね」

 相変わらず仲がいい。

「弟君」

「はい?」

「頼むわね」

「僕に止められると思います?」

「ちゃんと護衛しなさいと言ってるのよ」

 僕たちは大いに目立ちながら事務所を後にした。

 いつもの面子、姉さんとヴァレンティーナ様、エンリエッタさんとサリーさんに加えて今回は、久しぶりのルチア・アバーテ嬢が参加する。サリーさんの右腕にして、槍使いの新人である。新人と言っても配属が二年目なだけで軍歴はサリーさん並みにある手練れである。第二師団からの移籍組である。

 それにしても役職のふたりが抜けちゃって町の守備隊大丈夫かな。ユニコーンズ・フォレストの団長のエンリエッタさんは優秀な後釜が大勢いるから抜けたところで問題ないだろうけど。


 地下四十三階に移動した途端に熱い空気に包まれた。

 実際どれくらい熱いのか体験したいというので、結界抜きでフロアに侵入した。

「やっぱり無理だわ」

 そう言って後ろに控えている僕の結界領域に戻ってきた。

 早々に玉のような汗を掻いていた。


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