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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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エルーダ迷宮征服中(予行演習)31

 わざわざダメージを最小限にして回収した魔石も結局、火の魔石(中)にはならなかった。

 それでいて火の魔石(小)は山程取れた。売り払えばそれなりの額にはなるだろうが、ちょうどいい、ファーレーンの支援物資に充てるとしよう。煮炊きするにはちょうどいい大きさだ。


 転移して大地の裂け目を確認して、対岸の敵を確認した。

 対岸には火を吐く巨人カークスがいた。

 一瞬ゴーレムかと思ったが、ごつい焦げた金属の鎧を着込んでいただけだった。丸太の柄に岩を突き刺しただけの巨大なハンマーを携えていた。

「ナーナ」

 ヘモジが対抗心を剥き出しにした。

 あの表面が焼けているに違いない鎧を着込んで動じていないだけでもヘモジは凄みで負けていた。相手はそれに火を吐くし、見るからにおっかなそうな髭だし。

 それに比べてヘモジは「ナー」しか言わないし、面倒臭くなったら逃げてきてリュックのなかに収まりそうだ。

 まあ、でもヘモジの方がでかいし、ミョルニルも魔法の盾も持っている。カークスの装備が付与装備でもなきゃ、殴り合いでヘモジが負けることはないだろう。

 他にも見慣れた反応があった。

 それは野生とさしてレベルの違わない火竜である。

 カークスと共闘しているわけではなく、縄張りが被っている辺りでは戦闘が繰り広げられていた。隠れる所が少ないこの地形では、火竜は厄介だ。


 正直、ここまで来るだけでも体力の消耗は結構なものだった。できればこの辺りで小屋でも建てて小休止といきたいところだが、下見でそこまでする気はない。

 人目を盗んで、転移を繰り返して、魔物も寄って来られない場所にまず橋頭堡を構築する。本番ではそういう方針で行く決定をした。

 疲弊の原因の半分は火蟻である。

 まだどこかにクイーンがいそうだが、本番でも会いたいとは思わない。

「撤収しよう。もう昼だ」


 食堂に飛び込むとみんな水をがぶ飲みした。結界で暑さは凌いだはずなのだが、それでも喉が渇いた気がしていた。

 いつもの料理をいつものように取るとヘモジとオクタヴィアとリオナはうたた寝を始めた。

「やはり、きつかったようじゃの」

 確かに立ってるだけであそこは体力を消耗する。いくら結界を張っても、視覚から入ってくる地獄のような光景が精神的な重圧となって襲いかかってくる。

「本番はあの裂け目まで一気に行こう。戦闘を極力避けて」

「滞在も短くせんとな」

 寝ている三人に目をやる。

 レイスのフロアもそうだったが、無駄な戦闘より回避が重要な要素になってきた。

 それは要するに僕たちの余力がなくなり、実力と折り合いを付ける段階に来ているということだろう。環境の要因が大きくはあるが。

 

 兎に角、体力を温存しながらゴールを目指すことにした。ゴールにはイフリートも待っていることだし、気力が萎えていてはどんな事故が起きるか分からない。

 一気に飛んで、できれば最短ルートを橋も無視して攻略してしまいたい。

「下見に来たかいはあったわね」

 ナガレが言った。

 帰りはさっさと転移して戻った。


 リオナは風呂に入って復活した。

 オクタヴィアとヘモジは窓辺に転がり微風に吹かれている。

 攻略本番は通常通り、休みを挟んで明後日に設定した。

 それまでしばし休憩である。

 今回ばかりは中断も視野に入れている。

 火属性の後には他の属性も控えていることだし、急ぐことはない。むしろ『急いてはことをし損じる』だ。


 僕も自室のソファーに身を投げて、ぼーっと『エルーダ迷宮洞窟マップ』の情報を眺めていたら、あることに気が付いた。それは例の上層と下層を繋ぐ洞窟の位置関係だった。マップ情報がない場所でも、それらは記されていたのだ。

 そしてその洞窟の出入り口を繋ぐと、最短距離を繋ぐ一本の道になったのだ。

「ここから下に降りて、次で上る。そしてまた下に降りて、また上る……」

 見つけた! 攻略ルートだ!

 先人が残した貴重な攻略情報だった。

 確かにこれなら蟻にも出会わない。噴火にも遭わない。すべての洞窟にアクセスしなくても、この火蟻の住処を回避するルートだけでも下を通れば、裂け目まで楽にいけるかもしれない!

「あーあ」

 後悔先に立たず。転移して移動することに決めた今、無用な情報になってしまったが、知っていれば今日の苦労は軽減できたかも知れない。地下の様子も覗けただろうに。

 明日こっそり見てくるかな。

 夕食になったら、みんなに教えてやろう。

 誰か一緒に来るかも知れないし。


 全員に拒否られた。

「転移で行くんだからもう関係ないでしょ?」だそうだ。

「確かにそうだけど、地下がどうなってるか見たくないか?」

「見たいわけないでしょ。溶岩だらけなのよ。あんた馬鹿じゃないの」

 召喚獣にまで馬鹿にされた。

「ナーナ」

 何が『がんばって』だ。せめてお前は一緒に来いよ。

「ナナ」

「畑仕事が忙しい? どこに畑があるんだよ」

「ナナーナ」

 これから作る?

 まったくもう、薄情なんだから。いいよ、ひとりで行ってくるから。

「リオナが行くのです」

 ええとね…… リオナには休んでいて欲しいんですけど……

「わくわくするのです」


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