エルーダ迷宮征服中(予行演習)32
翌日は朝から雨だった。恐らくエルーダも雨だから、振り子列車で行って裏山を歩くのはやめて、直接転移して村に乗り込んだ。
「降ってるのです」
空を見上げるが濡れてはいない。
「今日は一日こんな感じかな」
結界が雨を弾いている。
リオナは結界から手を出して、わざと雨に濡らす。
あっという間にびしょびしょになって目的を達したが、その手をどうするか考えあぐねた。
「迷宮に入ればすぐ乾くのです」
そう言って僕の服で手を拭った。
「あ、こら! 自分の服で拭け!」
迷宮に入ると予言通り、あっという間に服が乾いた。
序盤の敵はほぼ狩り尽くされていたので、僕たちは昨日進んだルートを追い掛けた。
「最初の洞窟は右の方だな。あの辺りにあるはずだ」
「あっちは昨日噴火したのです。バッドエンドなのです」
左の方を指差した。
「エンドじゃないから」
「マミーなのです!」
指の向きはそのままに叫んだ。
「あれはファイアーマンだから!」
丘の上から駆けてくる。
「狙撃するです」
リオナは銃口を敵に向けた。
「大気が揺らめいて狙いづらいのです」
「がんばれー」
棒読みで応援する。
リオナにも今や『ソニックショット』や『チャージショット』がある。
無理することはない。距離もあるし、まだ燃えてないし、一撃で沈めろと言っているわけではないのだから気楽にやればいい。多分、当たれば沈む。
「三、二、一……」
命中だ。
燃える前に頭が吹っ飛んだ。
「やったのです」
「他の冒険者はこいつだけはスルーするんだな」
「燃えたまま抱きつかれるのが怖いのです」
確かに他の火蜥蜴も火蟻は直接攻撃がメインではないから結界であしらいやすいということもあるが、一番の理由はファイアーマンの探知レベルが低いことだ。向こうからやって来るならよし、でも迎えに行ってまではね、というやつである。
入口があった。方角の確認だけはしないと。
「分かったのです」
「え?」
「次の出口を見つけたのです」
「もう?」
「ここは限られた臭いしかしないのです。それに出口には他の冒険者が詰めてるので分かりやすいのです」
相変わらず凄い探知スキルだ。
「下の方が敵は少ないらしいから、気を抜かないように行こう」
ヘモジを先に歩かせたいな。見ただけじゃ足元の状況が探りにくい。
いないものはしょうがないので足元から優先的に冷やしていこう。
「この辺りはまだ序の口か」
吹き出すような溶岩はない。かさぶたの隙間から赤い炎が見え隠れするだけだ。
歩ける範囲は思った以上に広い。パーティーが横に展開してもなんとかなる幅だが、これだと数で来られたら抜かれかねない。ふたりじゃ囲まれるな。
今のところ敵はいなさそうだが。向こう側にいる冒険者が狩り尽くしたのか?
「何もないのです」
「溶岩洞窟だからな……」
あった。こんなところに。
「壺?」
大きなものではないが、柱の陰に置かれていた。周囲を警戒する。
いなさそうだな。
罠の類いもなさそうだ。
壺はさして大きくない。陶器製で抱えられる程度のサイズだ。
蓋を開けた途端にトラップに襲われたりしないか?
念のため外から破壊する。
パリンと音を立てて砕けた。
「お金なのです」
金貨が入っていた。三枚だけだが。後宝石の原石が一つ。
「毒虫でも入ってると思ったです」
「別の敵がこっちを見つけたみたいだけどな」
遠くから見慣れた蜥蜴がやってくる。向こうの射程になるかならないかというところでリオナがまた仕留めた。単発で来る敵は余り怖くないな。
他に来る敵はいないみたいだ。
「こんなに広いのに敵はこれだけか?」
僕たちは他の冒険者が狩りをしている横を、戦闘中だったのでお互い声を掛けることなく手だけ振って通り過ぎた。
ふたりだけで洞窟内を移動してきた僕たちに少し驚いたようだ。
洞窟の出口に出る手前に洞穴が複数あった。
穴の手前には冒険者が石を積んで迷子にならない工夫をしていた。
「右に二体、左に三体いるのです」
リオナが手を振ってくれたお返しに、笑顔で言葉を返した。
「左は三匹が一緒なのです」
僕たちは地上に出た。
「おー、見晴らしのいい所に出たな」
念のために空を見上げる。雲間が見える方を見ると昨日噴火した場所が見えた。
「あの辺りの地形は変わってないな?」
洞窟の位置と方角で、現在位置を特定する。
なるほど、漠然としていたルートが昨日以上に分かりやすくなっている。昨日はルートから右に少し逸れていたようだ。
地図を確認しながら、次の洞窟の位置を探した。昨日冒険者と会った洞窟だ。
なるほど外の敵はなかに比べると多かった。
すぐに火蜥蜴が団体で襲ってきた。
四匹まとめてリオナが接近前に仕留めた。
「順風満帆。順風満帆!」
昨日より随分気が楽だ。先に待っているものが予測できるだけでも心に余裕ができる。
リオナもキョロキョロと周囲の景色を堪能する余裕が見て取れた。
「おー」
遠くで噴火している溶岩を見て、尻尾を振っている。
身体が慣れたのか、杖の方が更に微調整を加えたのかは分からないが、昨日より環境に適合している。
次の洞窟に到着すると、同じ場所に先日の冒険者たちがいた。ちょうど休憩タイムのようだった。
僕たちも混ざってお茶にすることにした。
あちらのパーティーにも魔法使いがいるので水筒の中身には困っていなさそうだった。
リオナが氷の入った水筒をゴクゴクと喉に流し込んだ。
そしてベーコン入りのパンを取り出してかぶりついた。
豪快な食べっぷりに大人たちは笑った。
これからなかに入ると聞かされた冒険者たちは僕たちを心配したが、僕が張り巡らせている結界の影響を既に肌で感じていたので深く突っ込んでは来なかった。
むしろどうやってるんだと向こうの魔法使いに聞かれたぐらいだった。
「ええとですね」
魔力吸収を並列に作動させながら、冷却の出力を調節してバランスを取っているんですよとだけ答えた。
僕が術式そのものを新規に組み立てたことに心底驚いていた。
上級冒険者の魔法使いなら術式の知識はそれなりにあるだろうが、同時に六つの魔法を展開していると聞けば言葉を失うのも当然だ。
そんな僕の杖にも興味を持ったが、どこにも術式が施されていないことに首を傾げていた。何せ杖自身が術式を構築してくれるのだから、無駄な書き込みは却って邪魔である。それは他のみんなの杖にも言えることだった。
「どうやって手に入れた?」と聞かれたので、弟であることは伏せたまま姉の名を出したら、あっさり納得されてしまった。




