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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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エルーダ迷宮征服中(予行演習)28

 翌朝、僕とヘモジとオクタヴィアは予定通り、地下四十三階に来ていた。

 既に火の魔石を目当てに五つのパーティーが活動していた。

「実験できそうな場所がないな……」

 獲物が適度に沸いて、周囲に人がいない場所がいいのだが、それではいい狩り場の条件と丸かぶりである。

「奥まで行くしかないな」

 今のところ自前の結界を張りながらの前進だが、困ってはいない。

 昨日あれ程アイデアを練ったのに、自分が『魔弾』使いであることを勘定に入れていなかったらしい。魔力が充満しているということは魔素も充満しているということに他ならない。となれば、熱すぎるこのエリアも『魔弾』使いには有利な環境とも言えたのだ。

 周囲の魔力を吸収しなくても僕は自然に魔素を取り込み、変換して結界の出力に充てられたのだ。

 昨日のうちに気付くべきだった。

 とは言え、実験は実験である。

 杖を取り出すと、昨日考えた術式を展開する。並列で魔力吸収、直列で冷却である。

「反応しない?」

 悪戦苦闘すること数分。

 術式発動を必死に杖に命令したが、丸っきり反応してくれなかった。

 オクタヴィアもヘモジも欠伸している。

「杖は魔導具と違うと思う」

 オクタヴィアが呟いた。

「あ」

 そうだった。杖は魔導具じゃなかったんだ。

 武器に勝手に殴れと言ったって殴ってくれるはずがない。自分で殴らなきゃ。

 何を勘違いしてるんだか。

 術式を発動するのは自分だった。

 最近なんとなく分かってきたせいで、杖を買いかぶっていた。

 本来その身に刻まなくてはならないような複雑な術式の展開を、容易く肩代わりしてくれる飛び切り便利な杖だと言っても、発動まで面倒はみてくれなかった。

「命名『氷障壁』! 発動ッ!」

 かっこいい。

 杖に反応があった!

 杖の三つのリングが回り始めた。すると広がった輪の内側から更に二枚の輪が出現して、サイコロの五の目のような陣形を作った。更に杖の軸を中心に大きな輪が現れ、回転し始めた。そして閃光を放つと、光は次第に弱まり、先端の球と軸の輪だけが光っていた。

「凄い……」

「ナーナ」

 まったく別の階層に立っているようだった。

「暑さを感じない」

 僕自身何かをしているという感覚が希薄だった。

「意識を切り離してみるからな。危ないから頭引っ込めておけよ」

 そう言って僕は杖を意識するのをやめた。

 戦闘になれば敵に気を移すことになる。

 結界は慣れもあって無意識でも発動していられるようになったが、杖だとどうなるか試しておかないと。意識を切った途端に解除されては面倒だ。

 ふたりがリュックのなかから頭だけ出して周囲を見回している。

「大丈夫?」

「ナーナ?」

「大丈夫のようだな。一度この状態で戦ってみるか。危なくなったら頼むな」

「ナーナ!」

「分かった」

 ヘモジは僕の肩に乗り移り、ミョルニルを取り出し、オクタヴィアは『使役の笛』を口にくわえた。

 ちょうどいい具合に遠くにファイアーマンが現れた。

 マミーだよな、どう見ても。ゾンビ特有のゆらゆらした歩き方で近づいてくる。

「お?」

 何かに引っ掛かったようだ。見えない壁にでもぶち当たったようだ。

 火柱が上がった!

「うわっ!」

「ぎゃ!」

「ナ!」

 僕たちはびっくりして上半身を反らせた。

 マミーは両手を広げ、空に向かって雄叫びを上げるような仕草をした。

 まるで油の染みた包帯を巻き付けていたかのように、突然、全身に引火して燃えだした!

「ああッ! 魔力が上がっていく」

 のたうつ蛇のようにファイアーマンの周囲を炎の螺旋がとぐろを巻き始めた。

 ちょっと、これって雑魚じゃないぞ!

 アンデットのマミーに毛が生えた程度の認識だったが、別物だ!

 炎属性が得意な魔法使いのマミーと言ったところだ。もっと言えばファイアーマンがファイアーマンだったと言うわけだ。本人に怒られるか?

 マミー特有の突進を結界で防いだ。

 よし! 障壁を新たに張っても、『氷障壁』は健在だ。

 ファイアーマンは叫ぶ舌もない癖に咆哮を上げて炎の渦を僕たちにぶつけてきた。

 容易くいなしながら考えた。

 どうやって攻撃するか?

 火属性攻撃は三割増しだが、敵の属性でもあり、ダメージは減衰する。かと言って弱点の属性である水や氷属性で攻撃してもこのフロアではそもそも三割減だ。

 と悩んでいたら、敵の魔力がしぼんでいった。

「なんだ?」

 敵がこちらの『氷障壁』の冷気に当てられて見る見る減衰していった。そして身に纏っていた炎が消えた。

 こいつ、燃えてるときだけ凶暴化する短期決戦型か?

 ヘモジがぐしゃりとやった。

「うげっ」

 頭が潰れた。

 アンデットだから魔石は出ないと思ったら、ちゃんと火の魔石(中)が出た。

「そうだった。マミーじゃなかったんだ」

 ファイアーマンという別の魔物である。

 どうやら燃え上がる前か、燃え尽きた後に仕留めるのが、こいつの楽な倒し方のようだ。

「『氷障壁』…… 切れなかったな」

 こりゃ優秀だ。魔力消費がほとんどない。

「氷どこにもない」

 オクタヴィアが僕の肩に顎を載せて言った。

 言われてみれば『氷障壁』と命名しながら周囲を凍らせてはいなかった。適温に保たれていただけだ。

「命名間違ったか。『氷障壁』改め、『耐火障壁』!」

「ナナーナ」

「効果も名前も地味だって」

 お前らなぁ……

 しばらく燃え盛る大パノラマを眺めながら歩いていると突然前に進めなくなった。

「はっ! 進入禁止エリアだッ!」

 僕は急いで後退った。

 火柱が大地の殻を破って空高く舞い上がった。

 第二波、第三波と連続して打ち寄せる火柱は巨大ヘモジを丸呑みできる程の高さにまで到達していた。

 進入禁止エリアがどんどん広がっていく。

 僕は全力で駆け出した。

 真っ赤に焼けた溶岩が頭上から降り注ぐ。

「うわぁああッ、危ない! 危ないって!」

『ステップ』に『千変万化』をかまして必死に逃げる。

 落ちてきた溶岩は地面に落ちると今度は飛び散り、拡散していく。

「熱い、熱いッ!」

 オクタヴィアが叫ぶ。

 熱くないって! 結界張ってんだぞ!

 ようやく安全なエリアを見つけた。

「危ないなぁ、もうッ! なんなんだよ、このエリアは!」

 思わず逆ギレした。

 空を飛ぼうにも見えない壁があって危険だし、エリアがこうも頻繁に変化すると迂闊に前にも進めない。

 と言ってる側から別のパーティーが何食わぬ顔で登っていく。

「大丈夫かー?」

 声を掛けられた。

「大丈夫でーす」と言って手を振った。

「ひとりで無理すんなよー」

「空を見ろ! 噴火前には兆候がある!」

「じゃーなー」

 一行は登山でもするような気安さで坂を登っていった。

「だってさ」

「ナーナ」

「兆候……」

 僕たち全員空を見上げた。

「真っ青……」

 快晴だった。

 兆候ってこれのことか?

 僕は駆け出した、雲が残っている方角に。


 離れて振り返るとドーンと火柱が上がった。

 ついでにレッドスライムも湧き出した。

「オクタヴィアがやる」

 ピーヒョロロロロ~。

 大量のスライムが押しくらまんじゅうを始めた。

 打撃も火属性の攻撃もお互いダメージが入っていなさそうだった。

 面倒臭い奴らだな。

 僕はレッドスライムを凍らせた。

 すると何もしていないのに凍った身体に亀裂が入って勝手に死んでいった。

 熱せられた身体が急激に冷やされたためだろうか?

 こりゃぼろいな。と思ったら落としたのは火の魔石(小)と屑石だった。

 数は手に入るが儲けにはならなさそうだった。

 戻ったらさっさとギルドに売り払おう。

「後戦っていないのは火蜥蜴だが……」

 火蜥蜴は冒険者たちのメインターゲットらしく、狩り尽くされて残っていなかった。

 一番くみしやすい敵なのだろう。

『案ずるより産むが易し』

 異世界のことわざである。

 思ったより楽勝だった。

 最後に杖を仕舞って、作ってきたミスリルの立方体を発動させる実験をした。

「お、うまく作動したぞ」

 でも周囲には霜が付き、魔力消費が杖に比べると遙かに大きかった。

 冷却効果が必要以上に強過ぎたのだ。魔力の吸収も追い付いていなかったから、持ち出しも多くなった。

 取り敢えず出力を下げて、後日再チャレンジである。

「よし、きょうの実験は終了だ」

「ナー」

「終わったー。面白かった」

 確かに面白かった。なんでだろ? 他のフロアーに比べてスリリングだったからだろうか?

 それにしても上に行ったパーティーはどういう付与をしてるのだろうか? お互い手の内は秘密だけれど、隣の芝生が気に掛かる。


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