エルーダ迷宮征服中(予行演習)29
やっと揃っての食事になった。
夕飯は珍しく鳥の丸焼きだった。一瞬母さんが来てるのかと思ったが、そうではないらしい。
腹に詰め物をして、螺旋状の縫い針で裂け目が縫ってあった。それがこんがり焼き上がって皿の上に飾られていた。
「お礼に子供たちに貰ったです」
どうやらファーレーンに支援に行って、お礼に一羽貰ってきたらしい。
アンジェラさんが金属の針を回しながら抜いていく。
「これだってご馳走だろうに」
トビアたちの顔を思い出した。
「何を送ったんだ?」
「取り敢えず、毛布と火の魔石、建築資材とシルバーアイランドから使ってない小舟を二隻。後食料と着替えと…… 退屈凌ぎにボールを使った遊びを少し。後釣り糸と釣り竿。ドワーフも来ていてフライパンや鍋を置いてった」
「出先機関は機能してたか?」
「領地を出る手続きをしている人が結構いたのです。列ができてたのです」
ラーダ辺りに知り合いがいる連中はそっちで出直すのだろう。
「教会も動くわよ。今までのことがあるからすんなりとはいかないけど、支援のプロみたいなものだから、安心していいわ」
ロザリアが言った。本人は聖都でまた新しい服を買ってきたようだ。
「問題は空中分解しないかじゃな。大分綱渡りのようじゃが」
アイシャさんが芋を頬張った。
少しやつれたな……
「せめて陸続きだったら交易もし易かったでしょうに」
「いや、滅びた国に幻想を抱いているのは人族だけじゃ。獣人たちにいい思い出はあるまい。また民族大移動の始まりじゃ」
「どうなるですか?」
「どうにもならん。結果がどうであれ、彼らが立ち直るまでの間、見守ってやるだけじゃ」
「それでアイシャさんの方はどうなんです?」
「ん、ようやく終った。後は製本と販売をどこに依頼するかじゃな。昔の知り合いももう生きてはいまいて。取り敢えず伝手を探ってみるさ」
「で、そなたらは何してたんだ?」
僕は次のフロアの話を語った。新しい術式のメモをアイシャさんに確認して貰って、オーバーブーストした石を見て貰った。
「エルリン印を作らないといけないのです! 緊急動議なのです!」
また新しい言葉覚えたみたいだな。
それからは皆、紙とペンを持ってお絵かきが始まった。
採用されたのは結界を表す螺旋状の渦巻きのなか、マントをなびかせ、腰に剣を携えた横向きの剣士姿だった。
考案したのはリオナだった。螺旋の一番上のラインに『エルリン』と古代エルフ語の文字が入っている。そこはロザリアのアイデアでアイシャさんの直筆である。
宝石にはこの名前の部分だけをクローズアップしたものを入れることになった。
アンジェラさんが「エルリン印をレストランでも使おうかね」と言って笑った。
「スタンプ作るです」
「芋版、芋版」
オクタヴィアもノリノリでリオナの後を追った。
『ヘルメス』の刻印のような細工ができるのは今のところ姉さんだけなので、はやることはない。
それより明日、現場の下見に全員参加することになった。
いっそそのまま攻略した方が早いんじゃないだろうか?
でも「まずはお試しから」らしい。
僕は地下に潜ると例の立方体の魔道具の改造を始めた。
出力を下げて、出と入りのバランスを調整するのである。『細工』スキルを上げるためにすべて手彫りで行なう。魔法で削っていくのではあるが。
『細工』のレベルが上がっているのか、二度目だからか、完成したら一回り小さくなっていた。
『細工』の不便なところは量産が利かないことだ。まったく面倒この上ない。
翌日、ロメオ君も交えて、地下四十三階層の下見となった。
休みの間、ロメオ君は店番とゴーレムの核の解析に掛かり切りだったらしい。解析とは施されている術式をすべて抜き出す作業だが、プロテクトのでき如何によっては断念せざるを得ない可能性も出てくる。以前話したが、百年、二百年、簡単に掛かってしまう可能性があるのだ。
だが同時に『なぜ動くのか』だけでも解析できれば新たにゼロから構築することも可能なのである。
姉さんが手伝ったからといって先人にできなかったことが急にできるようになるとは思わないが、こういったものはひらめきが肝要だ。ある日突然、道が開けたりするのである。魔法使いにとって、ゴーレム作りは最大の博打の一つだろう。
ゲートを出た途端、もわっとした熱気が襲ってきた。僕たちは昨日体験済みだが、リオナたちは嫌がった。
「暑い!」
「なるほどの。付与装備を着てこれか」
表に出ると真っ赤に焼けた溶岩と冷めて真っ黒になった大地が目に入った。
余り近づき過ぎると自然発火するので遠巻きに見るだけにしておいた方がいいだろう。
オクタヴィアとヘモジは早々に自分の足で歩くのをやめている。
「酷い場所ね!」
ナガレが文句を言ったが、それで涼しくなるわけではない。
既に他の冒険者が狩りを始めていた。
あくまで下見なので戦闘は二の次である。
ヘモジとオクタヴィアは空を見上げて首をあっちに捻ったり、こっちに捻ったりしている。
雲の切れ間はまだ見えない。
僕は杖を取りだし、昨日と同じことをした。
一気に快適な環境が訪れた。
「おーっ!」
感嘆の声が上がった。
「快適なのです」
「これを杖がやってるの?」
火蜥蜴発見!
昨日対戦しなかった奴だ。フェイク狩りの途中に寄る洞窟の連中より一回りも二回りも大きい。なんか尖った鶏冠がたくさん生えている。
さてレベル六十台の火蜥蜴というのはどれ程強いのか?
俊敏な動きで近付くといきなり燃える粘液を吐き出した。
相変わらずである。が、一瞬でその身体が真っ二つになった。
アイシャさんが風の刃で両断した。
「なんじゃ。余り固くはなってはおらんな」
ドラゴンを相手にしている身となれば、結界一つ、固い殻一つない蜥蜴は敵ではなかったようだ。
なるほどこのお手頃感が狩りのメインターゲットになる所以か。
粘液がまだ溶岩のように燃えている。あれだろうな。一度肌に触れたが最後、払ってもぬぐえない骨まで灰にしかねない地味だが凶悪な一撃。
付与と結界であれを防ぎきらないと、ここには立っていられないか。
二匹目を探したがいなかった。あれ程集団で動いていた奴らが成長すると単独行動が当たり前になるのか?
「若様! 空、空!」
オクタヴィアがささやいた。
「ナーナ」
「全員退避!」
進入不可エリアの話はもうしてある。合図と共に全員僕の後に続いた。
豪快に火柱が上がった。
結界で防ぎながら、雲空を見上げて安全な足場を探す。
みんな目を見開いて驚いている。
雲を見ながらルートを割り出す。
峰の左側を取り敢えず進めるだけ進んで、後は雲行きを見てだな。
僕たちは坂を先に進んだ。
「あれ! 安全地帯じゃない?」
ロメオ君が指差した。
確かに指差した辺りだけ地面が黒くなっていない。
あそこだけ温度が低いんだ。先に到着していた二つのパーティーが陣取っていた。
「洞窟か?」
狩りをしてる彼らの後ろに奥に進めそうな洞穴が空いていた。
邪魔して悪いが、話を聞かせて貰いに向かった。
「ああ、この穴か。これは地下に続いてるが、上を行った方が安全だ。下は上より暑いし、足場も安定しない。敵が多くても外を進んだ方が安全だ」
中に何がいるのかと聞けば、火蜥蜴らしい。
僕たちは上を行くことにした。




