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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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エルーダ迷宮征服中(レイス討伐編・インターバル)6

 ゲートを潜ると、星空が輝いていた。

 全員が見上げたまま固まった。

「星がきれいだ……」

 ロメオ君が言った。

「変な感じがするのです」

「時差呆けよ。昼と夜が目まぐるしく変わりすぎたのよ。ポータルで移動しても国内ではここまで酷くはならないわよ」

 ロザリアが欠伸した。

「二度とごめんじゃな」

「ああ、そうだ! 報酬ッ!」

 しまった。あれだけ苦労したのに……

 一軒目で手に入れた分だけだ。肝心の呪いのネックレスも老婆の所に置いてきてしまったし……

 あー、久しぶりだ、こんな不作な日は。

 エルーダ迷宮、攻略再開初日。散々なスタートになってしまった。

 せめてマップ情報を適正価格で買って貰わないとな。でも、クエスト情報も絡んでるんだよな。困った。なんて報告しよう。

「いいんじゃない? 儲からないクエストだし」

 ロメオ君が言った。

 僕とロメオ君はみんなを先に帰すと、情報を売るためギルド事務所を訪れた。


「ほんと、無茶するわね。あんたたちは……」

 その日、たまたま遅番だったマリアさんが溜め息をついた。交替して早々、問題を持ち込んできた僕たちふたりを呆れた顔で相談コーナーに迎え入れた。

「よくもまあ、次から次へと」

「不可抗力です」

「レイスの巣で散歩するなんて普通じゃないわよ!」

「逃げ帰ること前提だったんで、どこでも一緒かなと」

「その発想からしておかしいのよ。普通は最短距離を行くでしょ?」

「取り敢えずレイスがどんな敵か確認しようと思って。たまたま入ってすぐの場所がマップの角の未開エリアだったってだけで」

「それで?」

 一通り提出した書類に目を通すと、詳細を求められた。

 ロメオ君が『エルーダ迷宮洞窟マップ・後巻』に直接記録したものをテーブルに広げた。

「これが今回調べたエリアです」

「未開エリア全部じゃないの!」

「狙ったわけじゃないんですけどね」

 それから僕たちは小一時間話をした。記憶が鮮明なうちにしたのは、説明する側にとってもよい結果をもたらした。クエストの内容は、一見筋が通っているようで、どう考えても矛盾だらけだったからだ。

「要するに、パーティーの誰かが呪いを受けて、解呪するために山に登って、呪いを解いて、ゲートに飛び込んで、老婆と長話をしないと行けない場所なのね?」

 マリアさんが思いきり端折って言った。

「『フライングボード』で山越えすれば行けるかも」

「出口から入れば、呪術師の家の前までは行けるんじゃないかな?」

「でも、何もないんでしょ?」

「ええ、まあ……」

「確認作業、やってくれる人いるかしら?」

「いないんじゃないですか? 自分から呪われたり、報酬もないのに山越えなんて」

 マリアさんは頭を抱えた。

「転写能力のある職員が今いないから、悪いけど、明日改めて、その記録を持ってきてくれるかしら? せめて、なるべく正確な情報を先方に提示しましょう」

「あ、はい」

 確認作業の引き受け手に窮するだろうということで、マリアさんは一計を案じた。

 こちらも確認して貰えなければ、お金は一生手に入らないのだし、多少の面倒も止むを得ないと了解した。

 報告書類に添付したアバウトな地図ではなく、ロメオ君が細かく書き込んだマップ情報の写しを、確認作業をするパーティーに持たせるのだ。

 僕たちは席を立った。


 家に戻ると、リオナたちの声が聞こえた。

「犯人はお婆さんなのです!」

「そうかしら? イルダの方が怪しいわよ」

 まだ犯人当てをしているようだった。

「ナガレはどう思うですか?」

「領主じゃないの? 怪しそうな顔してたし」

「ナーナ」

「『犯人は別にいる? メイドが怪しい?』 あんなのあの老婆のでまかせに決まってるじゃないの、馬鹿ね」

「ナー……」

 ヘモジがナガレに一蹴された。

「ただいま」

「お帰りなさいなのです」


「両親の死因は刃物による出血なのです! そこは譲れないのです。断じてレイスのものではないのです!」

「老婆が嘘を言っていると言うの?」

「三日目にレイスを見たとか、メイドの遺体を見たとか言っても、当てにならないのです。両親を殺したのは老婆なのです!」

 さすがリオナ、根底から覆すか?

「じゃあ、残り二体のレイスは誰なのよ?」

「事件が起きたのはつい最近と言うわけではないのです。オクタヴィアみたいな間抜けが他にもいたのです! 例の男たちかもしれないです。ロザリアはどうしてイルダですか?」

「あのね、根本的な問題よ。イルダはどうして死んでないの? 呪いを解かれてベッドに寝ていたのなら当然、レイスに殺されていたはずよね? なんで彼女だけ生きてるのよ? おかしいでしょ?」

「だからイルダがレイスになったと言いたいのですか? だったら両親を殺したのは誰ですか?」

「それは、アレッタを追い掛けてきた男たちよ! 他にいないもの」

「じゃあ、黒幕は領主なのですか?」

「黒幕は知らないわよ! でも実行犯はそうなんじゃないの?」

「それでどうなったですか?」

「両親が殺されたとき既にイルダはレイスになっていたのよ。そこへ男たちがやって来て両親を殺害、でもイルダに返り討ちにあって殺されたんだわ。アレッタもそのとき巻き込まれてしまったのね。老婆は後になってそのことを知って、イルダの呪いを解いたのよ。イルダがレイスだったときの記憶をなくしていることを幸いに、老婆は幼なじみを殺してしまったイルダのために、嘘をつく決心をしたんだわ。それで男たちの遺体を片付けて、メイドの話をでっち上げたのよ」

「老婆がいい人になってるのです!」

「あの呪術師は両親がレイスになったって言ってるのよ。もしそうなら男たちがレイスになったってことにするでしょ。両親がレイスって、そっちの方が残酷じゃないの?」

 ナガレの意見にロザリアは黙り込んだ。

「やっぱり犯人は領主よ。だって、ネックレスに呪いを掛けたのがそもそも領主なんだから。目的がなきゃ、そんなことしないわよ」

「そう言ったのは老婆じゃろ? そこだけ信用してもいいのかの?」

 アイシャさんが、面白そうに引っかき回した。

「じゃあ、なんで領主が犯人なのよ!」

「ナガレが言ったんじゃないの!」

「まったく騒がしいわね」

 アンジェラさんが食堂から現れた。

「ほら、食事だよ! 手を洗っておいで!」

 アインジェラさんがリオナたちの尻を叩いた。

「で、そなたの意見はどうなんじゃ?」

 アイシャさんが言った。

 足元にいるオクタヴィアが僕を見上げた。

「ナーナ。ナーナ」

 ヘモジがやって来た。『絶対犯人はメイドだ』と言い張った。

「なんでよ?」

 ナガレが尋ねた。

「『犯人じゃなさそうなのが一番犯人だから』だって」

 オクタヴィアの通訳に、アイシャさんとアンジェラさんが笑った。

「確かに、最高の根拠じゃな」

「ナーナ」

 ヘモジは自信満々だった。

「それで?」

 全員が、僕に注目した。

 僕は黙ってテーブルに着いた。

 そして口を開いた。

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