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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
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閑話 チコ・アンド・ガールズ

「リオナお姉ちゃん!」

リオナお姉ちゃんを先頭に、ナガレお姉ちゃんとロザリアお姉ちゃんとビアンカお姉ちゃんたちが村の敷地のなかで一列に行進していた。

「こんにちは、何をしてるんですか?」

 チッタお姉ちゃんが尋ねた。

「ロザリアが買ったばかりのブローチ、どこかに落としたです。今探してるところなのです」

 チコとお姉ちゃんは耳じゃなく、鼻をすませた。

 ロザリアお姉ちゃんの匂いを探した。

 チッタお姉ちゃんが北門の方を見た。

 チコもそっちに鼻を向けたら、ロザリアお姉ちゃんの匂いを見つけた。

「北門の方じゃないですか?」

 お姉ちゃんが言った。

「やっぱりポータルなのです!」

 リオナお姉ちゃんが走り出したので、チコも走った。

「聖都で落としたんじゃ?」

 フランチェスカお姉ちゃんがビアンカお姉ちゃんに言った。

「そんな、確かに鞄に入れたはずなのに……」

 ロザリアお姉ちゃんが言った。

「他に匂わないのです。取り敢えず行って確認するのです」

 リオナお姉ちゃんが全員分のお金を払った。

「わたしたちも行ってもいいんですか?」

「戦力は多い方がいいのです」

 チコはピンときた。チコ・ソルジャーの出番だと。

 チコたちはポータルに入った。

 行き先は聖都えんとりあ。

「あった。ここだ!」

 行く前にお姉ちゃんから迷子になったときのために、帰りのポータル代を貰った。

 初めてのポータル。『じが』が目覚めるまでは使っちゃ駄目だって若様が言ってた。

『じが』て、なーに? チコ平気? 

「行き先が見えたら大丈夫だ」と言われた。

『えんとりあ』を選ぶ。するとぎゅいーんとなって、平らな場所に出た。

 チコが辿り着いたのは大きな桟橋の上だった。周りが全部水だった。

「川?」

 お水流れてないけど…… 凄くきれいな場所だった。

「これが湖よ」

 後から来たチッタお姉ちゃんが教えてくれた。

「知ってる! 池の大きい奴!」

 これが湖…… どこまでも水の匂いがする。

「匂うのです!」

 リオナお姉ちゃんが匂いを嗅ぎ付けた。

 チコも見つけた!

「みんな、こっち!」

 リオナお姉ちゃんとチッタお姉ちゃんが先頭になって走った。

「移動してるのです!」

 匂いの元が遠ざかる!

「馬車なのです!」

 どんどん匂いが離れていく。

 チコたちは町の門までやってきた。

「わたしが!」

 ロザリアお姉ちゃんが通行税というのを払えと言う兵隊に話し掛けた。すると兵隊はピンとなった。

「急いで馬車をご用意いたします!」と言って走って行った。

 ロザリアお姉ちゃんはこの町のお姫様だって、チッタお姉ちゃんが教えてくれた。

 チコは「ほえーっ」てなった。

「間に合わないから、先に行くのです」と言ってリオナお姉ちゃんが駆け出した。

 チッタお姉ちゃんは先に行くリオナお姉ちゃんを追い掛ける役になった。

 チコはチコ・ソルジャーになった。

 リオナお姉ちゃんと一緒に駆け出した。

 匂いは門の外、街道の道なりに漂ってきた。

 一緒に臭ってくるくさい臭いも捕まえた。

 この臭いなら、あの山の向こうからだって分かる!

 チコ・ソルジャーは走った。

 走って、走って、走って、リオナお姉ちゃんに介抱された。

 万能薬を貰った。

「復活!」

 ヘモジちゃんがいつもやるポージングをまねてみた。

「こうなのです」

 リオナお姉ちゃんが見本を見せてくれた。

「こう?」

「指はピンと伸ばすのです。こうなのです!」

 しゃきーん、て音がした。

「こんなことしている場合じゃないのです」

 リオナお姉ちゃんは反省すると追跡を再開した。

 すると馬車が来た。幌付きの大きな荷馬車だった。

「旅行にでも行くですか?」

 リオナお姉ちゃんが突っ込んだ。

「しょうがないでしょ、すぐ借りられたのがこれだけだったんだから! さっさと乗って。それとも自分の足で走るの?」

 ロザリアお姉ちゃんは結構きつい。

「チコ、行くわよ」

 御者台にいたナガレお姉ちゃんが、掬い上げてくれた。

 チコは幌のなかに入った。


 しばらく行くと、匂いの元が止まった。

「あそこには村があったわね」

 ロザリアお姉ちゃんが言った。

「なぜ、ブローチがあんな所に……」

「偵察に行くのです」

 馬車をナガレお姉ちゃんに任せて、リオナお姉ちゃんが飛び降りた。

「チコも行く」

 匂いの元はすぐに分かった。


「これどうしたんだい?」

「拾ったんだ」

「嘘おっしゃい!」

「ぶつかったら落としたんだ」

「それを盗むって言うんだよ! なんてことしたんだい」

「どうだっていいだろ! これを金にすれば薬が買えるんだ! 薬さえあれば」

「その宝石を売り払う? 今頃、手配書が回ってるよ。こんな高価な物、買える連中と言ったら貴族しかいないじゃないか! 母ちゃんもお前もあの世行きだよ」

「何言ってんだよ。質屋のムッチーノなら買い取ってくれるって」

「馬鹿言ってんじゃないよ! そいつを取り上げれられた挙げ句、『番屋に突き出されたくなきゃ金を用意しろ』と脅されるに決まってるじゃないか!」

「じゃあ、どうしろって言うんだよ! このままじゃ、母ちゃん……」

「これを盗んだ相手に返しておいで、落とし物だと言えば許してくれるだろうさ」

「もういないよ、あいつら町の奴らじゃないよ。ひとりは獣人だったし」

「神様にも謝っておいで」

 リオナお姉ちゃんが、足を止めた。

「どうしたの?」

「戻るのです」

「戻るの?」

「ロザリアは店の外に出たとき子供とぶつかったのです。そのとき盗まれたです」

「捕まえないの?」

「向こうからやって来るのなら、待っていてあげるのです」


 チコたちは馬車と合流すると、貧しい親子の会話をロザリアお姉ちゃんに話して聞かせた。

 ロザリアお姉ちゃんは村に行くのをやめて、町に引き返した。


 待っている間、チコたちは自分たちのお買い物をした。若様から一杯お給料を貰ったから、お洋服とか、リボンとか、新しい靴とか、たくさん買えた。

 あの泥棒の子のことを考えたら、少し嬉しくなくなった。

「あの……」

 ロザリアお姉ちゃんに誰かが声を掛けてきた。

 振り返るとそこにはあの臭い泥棒少年がいた。

 買い物に夢中になっていて忘れてた。

「こ、これ…… 落としました」

 顔中泥んこで、真っ黒だった。ロザリアお姉ちゃんのブローチも手垢で汚れていた。

 でも、ロザリアお姉ちゃんはにこりと笑った。

「ありがとう。拾ってくれたのね」

 泥棒少年はお姉ちゃんの笑顔に赤くなった。

「そ、それじゃ」

 立ち去ろうとしたときだった。

「待つのです」

 リオナお姉ちゃんが引き止めた。

 少年はビクリとなった。

「これはお礼なのです。お母さんに持っていってあげるのです。どんな病気も治る薬なのです」

 そう言って万能薬の小瓶を手渡した。

「神様はたまに気まぐれなのです」

 リオナお姉ちゃんはこないだ、ピノにお肉取られて、神も仏もないって言ってた。

 チコたちは陰から泥棒少年を見送った。

「改心してくれるといいわね」

「帰るのです」

 ロザリアお姉ちゃんがブローチをまじまじと見つめた。

「神のご加護がありますように」

 チコははっとなった。ロザリアお姉ちゃんがすごくきれいに見えた。



「んもう、どうなってんのよ!」

 数日後、ロザリアお姉ちゃんが怒って帰ってきた。

「どうしたの?」

「聖都に行ってきたのです。そしたら人気者になってたです」

「もう人が集まってきちゃって、凄かったわ」

「人だかりで買い物もできなかったわね」

「すごかったですね。『聖女様』『聖女様』て、ロザリアさん、凄い人気だった」

 ビアンカお姉ちゃんたちもどこか興奮していた。

「当分、聖都には行けないわね」

 泥棒少年が教会で懺悔したらしい。

 自分が盗みを働いたこと、ロザリアお姉ちゃんが善意に報いて奇跡の薬を与えたこと。その薬を一口飲んだら、長い間煩っていたお母さんの病気が奇跡的に回復したこと。残った分で村中の人たちの病も治ったこと。

 その話で聖都は大盛り上がり。そこに遊びに行ったものだからもみくちゃにされたらしい。

「薬あげたのリオナなのに…… 薬だって、ただの万能薬なのです。奇跡の薬じゃないのです」

 リオナお姉ちゃんの心は狭かった。

 チコ・ソルジャーも戦うことばかりが正義ではないと気付いたのでした。


 おしまい。


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