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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
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夏休みは忙しい(パスカル君と夏休み)80

 僕はそこで洗いざらい説明した。硬い物にしか効かないとか、柔らかい物は固有振動が変化するから破壊は難しいとか。空気は振動を伝えにくいから、直接触れるのが理想的だとか。何もかも「らしい」を付けて話した。本人が分かってないのだから仕方がない。

 にも関わらず姉さんはすぐに理解して、手のひらに載せた割れた宝石の欠片を更に砕いて見せた。

 アイシャさんは難儀していたが、姉さんが二言三言アドバイスすると砕くことができるようになった。一度できたらもう自由自在。僕より軽快に割って見せた。続け様に二度、三度…… 四度、五度…… 割れても大きかった宝石の欠片が、オクタヴィアでも鷲掴みにできるサイズにまで小さくなった。

 割れた欠片を集めてヘモジと一緒に、断面を摺り合わせながら復元し始めた。右手で押さえて、左手で押さえる。ふたりはそれぞれ二箇所の合わせ目を押さえて動けなくなった。ヘモジは短い足を出すが届かない。オクタヴィアも必死に尻尾を振るがこちらもどうにもならず、今、尻尾の一本が攣ったと騒いでいる。

 誰か助けてくれないかと見回すが、他のみんなは一個の宝石を真剣に睨み付けていて気付かない。

 接着剤を出してやってもいいのだが、別の悲劇が待っていそうなので僕は代わりにそばにあったタオルを投げてやった。座りのよさそうなふかふかのタオルだ。その上に載せればコロリと転がることなく、取り敢えず元の形に収まるだろうと考えた。が、お互い足でタオルを引っかきまわして、復元するどころではなくなった。

 アイシャさんが僕の無駄な努力を鼻で笑った。

 そうこうしているうちに他のみんなもなんとなく理解して、破壊することができそうな気運になったとき「人の骨とかには影響ないのかしら?」とロザリアが呟いた。

 それで実験は中止になった。

 唐突に、強引に姉さんがやめさせた。検証するから、結果が出るまで忘れろと言った。僕にも人のいるところで絶対杖を使うなと釘を刺した。

 つまり折角の杖も当分、ソロ狩りでしか使えなくなったということである。

 範囲魔法で自分を巻き込んだという馬鹿な話は聞いたことはないが、隣りにいる仲間を巻き込んだというケースなら聞かないこともない。ここは言う通りにするのが、正解だろう。

 そうか、人体への影響か。全然気にしていなかったな。

 僕は杖を回収しながら考えた。

 そうか…… 骨か…… 骨だよな…… 骨も石みたいな物だもんな。

 骨?

「!」

 適任者がいるじゃないか! スケルトン先生。久しぶりに会いに行こうじゃないか。

 僕は手を叩いた。

 よし、この件は保留だ!


 魔法談義は続いた。食事を堪能する間も、終った後も、パスカル君たちは姉さんとアイシャさん相手に多くの質疑応答を繰り返していた。少々、深みに嵌まりかけている気がするが。

 全員に転移術式の講義を約束していた。使えないことを前提にしてだが。

 ポータルの研究を始めれば、最初に学ぶことだそうだが、その研究はパスカル君たちが十年後に学ぶような代物だった。

 僕も教えられて、有意義に使っている身なので、反対する理由はないのだが。

 楽しい夜は遅くまで続いた。


「明日帰って間に合うの? 始業式、明日なんだよね?」

 ロメオ君が言った。

 それは学院長が、姉さんの発明した自足式転移ゲートを持ち帰ったことで可能になったことであった。

 今頃、校長室に鎮座しているはずだ。

 明日、決められた時間にひとりだけ転移できる段取りになっていた。勿論ゲートには使用制限が掛けられていて、誰でも利用できるわけではない。今回は学院長の計らいで許して貰えるのだ。ひとりが先に飛び、残りの仲間の分の魔石を補充する。当然、先方では学院長が待っているので、朝の挨拶は欠かせない。

 姉さんの作った杖の成果が早く見たいからではないかと言うのがこちらの推測である。

 空が白み始める頃、ようやく僕たちは眠りに就いた。


 翌朝、全員叩き起こされ、朝食を無理矢理口に放り込まれると、アンジェラさんに身だしなみのチェックをされ、パスカル君たちはゲートに放り込まれた。

 まずパスカル君が飛び込んで、あとは順番にゲートのなかに消えていった。

「別れの余韻もあったもんじゃないわね」

 姉さんが言った。

 しょうがないよ。始業式の一時間前だというのにビアンカやフランチェスカまで寝てるんだから。

「しまった。報酬の話をしていなかった!」

 姉さんが今頃、思い出した。

「昨日の手持ち分もギルドに売り払うから、その分と一緒でいいんじゃないの? パスカル君たちには通信、送っておくからさ」


 夏休みは終った。いろいろありすぎて、忙しかった記憶しかない。

 パスカル君たちともっと遊べると思ったんだけどな。リオナたちは遊べたようだけど。

「学校に遅刻するのです!」

 リオナがいきなり飛び出していった。

「え? 今日学校?」

「すいません、行ってきます」

 エミリーも出ていった。

 リオナはあれだけ夜更かししても、定時に目が覚めて、朝の散歩に行ったみたいだからな。

 恐らく、授業中起きていられないだろうな。宿題が増えないことを願うよ。


 それにしても急にやることがなくなってしまった。ヘモジもオクタヴィアも潰れてるしな。

 そうだ、『楽園』に放り込んだ物を売り払わないといけない。

「じゃ、わたしも領主館に戻るから」

「いろいろありがとう。姉さん」

「弟子の面倒を見るのは師匠の務めだろ? それより」

「自重しろ。分かってるよ」

「分かってる奴があんな物騒な杖を作るか!」

 呆れ気味に出ていった。

 不可抗力だ。杖の方が勝手に変化したんじゃないか。責任があるとしたら変化する杖なんて物を作った姉さんの方だ。

 僕は急いで地下に潜って、昨日集めた宝石の加工を始めた。少しでもパスカル君たちの報酬を増やすために。

 リオナが帰ってくる頃には、本部の窓口に売り払うことができるだろう。

「そうだ、宝石を包む高級生地をリオナに……」

 棚に既に、切り分けた布きれが収められていた。

「いつの間に……」

 

「僕たちの装備もワンランク上がったことだし、迷宮探索、再開しようかね」



 パスカル君たちへの報酬。遠征で討伐した魔物たち。ドラゴン二匹。そしてクイーン部屋の報酬。

 締めて、一人頭、金貨九千五百枚。

 人数が多かったせいで残念ながら大台には乗らなかった。僕のいぬ間にリオナたちとエルーダで狩りをしていたから、その分も含めるともしかしたら届いたのかも知れない。


 ようやく夏休みが終りました。

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