夏休みは忙しい(パスカル君と夏休み)76
そして、最下層には五十体以上のアースジャイアントの群れがいた。
僕たちは迂回しながら最後の『スイッチ』を目指した。
最後の『スイッチ』を発動させると、絶壁の向こうから足場を渡ってリオナたちがやってきた。
「やったーっ! やったのです! エルリン最高なのです!」
「やりましたね」
「さすがです、エルネストさん! 強運過ぎますよ!」
「やったな。レジーナの悔しがる顔が目に浮かぶぞ。実に痛快じゃ」
分かっていない者との温度差は計り知れない。
「そうと分かれば、さっさと殲滅してくれよう!」
全員がやる気満々でアースジャイアントの包囲網を睨み返した。
おっと、チョビたちもでかくしてやらないと。
「やべー、あの三人、姿が見えなかった」
ファイアーマンが言った。僕とリオナ、アイシャさんのことだ。
なんだかファイアーマンの杖が既に変化し始めていた。核の部分が炎のように赤く染まり始めた。トレントの原木の効果もあってか、核を固定する爪の形状が炎を模したデザインに若干変わり始めていた。
分かっていたことだが、ほんとに炎に特化した杖になりそうだ。
僕は杖で接近戦を挑んだ。
接近前に氷漬けにした部位を打ち砕いていく方法を取った。
アイシャさんは鎌でも振るうように風をまとわせた杖を振り回して、シンプルに首を刈り取っていた。
アイシャさんはこの杖でも苦になっていない様子だった。
リオナは『霞の剣』と短剣の二刀流で、サクサク巨人を切り裂いていった。
「あ、なんか扱いやすくなってきた」
パスカル君が遠距離攻撃をしながら言った。確かに命中精度が上がってきていた。
「あれ?」
一瞬、敵を追尾した気がした。
「あー、もうなんでプレート装備なのよ!」
ビアンカは敵を撃ち抜くことは諦め、足止めに専念していた。でも一発一発の威力は確実に増してきていた。それに間隔も短くなってきていた。二発しか撃ち込めなかった相手に四発ぶち込んで倒していた。
ダンテ君はスキルだけでなく、視界も広かった。広範囲の敵を氷魔法で一網打尽にしていた。
クラッソ姉妹はその凍り付いた敵を土の玉と火の玉で撃破していった。どれも初級とは思えない破壊力を秘めていた。こちらも連射速度が上がってきていた。
みんなせっかちなのかな?
フランチェスカは戦況の歪みを落ち着いて矯正していった。押されている箇所に攻撃を集中させた。爆炎を続け様に数発撃ち込んで敵の一角を殲滅した。魔力が一気に減ったが、薬を飲んで回復だ。
近場に敵はいなくなったので、遠距離攻撃にシフトしていった。
ロメオ君の雷撃は相変わらず正確で威力も桁違いだった。地を這う電撃に当てられただけで近場のアースジャイアントが昇天していた。
ロザリアは明かりの管理と、聖なる結界で僕たちに付与を施していた。時折放つ光の矢は的確に敵を捉えて撃破していった。まるで要塞に陣取っているかのような安定感だった。
僕も近距離戦を終らせて遠距離戦に切り替えた。
相変わらず、命中精度には期待できなかった。遠くにいる敵に撃ち込んだ火の玉の軌道が揺れていた。
爆炎に敵が飲み込まれて昇天した。
ほんとに銃がないと遠距離攻撃は駄目だな。
「ええいッ! 杖を鍛えるためだ!」
もう数撃ちゃ当たるという発想に切り替えて、小さく圧縮した土の玉を目の前に大量に展開して、『無刃剣』の要領で高速射出していった。
ババババババッ!
今まで感じたことのない爽快感だ。
撃ちまくるって楽しいな。
その割りに全然敵に当たっていなかった。手前の柱が折れた。
結局最後の一体はパスカル君が仕留めた。
「何遊んでるんですか?」
「いや、楽しくなっちゃって」
弟弟子に怒られた。
あっという間に最下層の大洞窟から敵がいなくなってしまった。
僕たちは木材加工場に向かい、迷路のような材木置き場を抜けた。
いつもの棚に香木が並んでいた。
リオナとオクタヴィアが匂いを嗅いで、お持ち帰りの候補を選んでいく。
僕はそれをどこぞに転送する振りをしながら『楽園』に放り込んでいった。
そして最深部の両開きの大扉の前にやって来た。
僕たちは通常装備に切り替えた。本気装備である。
「敵は三体いる! 中央のレベル五十のクイーンと左右にレベル四十の護衛二体である。中央のクイーンは僕とアイシャさんが担当する。左の魔法結界の敵はリオナとヘモジとナガレに任せる。こいつがまずランスを投げてくるので注意だ。右の物理結界の護衛はロメオ君とロザリア、パスカル君たちに任せる。ただし、物理結界の護衛は魔法防御に特化した盾も所持しているので注意するように。なかは狭いので、全員で突っ込むことができない。こいつを倒すのは最後で構わない。他の二体の前に立たせなければいい」
「レベル五十か…… 怖いね」
パスカル君が言った。
「最後の一体になるまで俺たちはここから牽制してればいいんだろ? できるさ」
「その盾をあんたがしっかり扱えれば問題ないわ」
ビアンカがファイアーマンをからかう。
「ドラゴンに比べたら、たいしたことないわよ」
フランチェスカは自分に言い聞かせた。
「窮屈なのは向こうも一緒だ。装備が反則級だけど、こっちの装備も似たようなものだ。問題ない」
「確かに……」
「手の内は分かってるんだ。それだけでも前回より遙かに優位だ」
僕は『最深部の鍵』を扉の鍵穴に突き刺した。
大きく深呼吸してロメオ君とパスカル君に、目配せをする。
「三、二、一!」
僕は鍵をカチッと開けた。
「そーれッ!」
ロメオ君とパスカル君が大扉を一気に引き開けた。
ギイイイイイッと大きな音を奏でた。
ランスがいきなり飛んできた!
パスカル君は扉の陰に咄嗟に身を隠した。
ランスの矛先が分厚い大扉をぶち抜いた。が、僕の結界が貫通するのを防いだ。
既に予測済み。ファイアーマンとヘモジも盾を展開している。扉を越えてこちら側に攻撃が命中することはない。
「攻撃始めッ!」
パスカル君の代わりにフランチェスカが号令を掛けた。
右奥の物理結界の護衛に魔法の雨が降り注いだ。
牽制してくれているうちにクイーンを処理しないと。姉さんたちが瞬殺するせいで未だに何をしでかしてくるのか分からない敵だった。この戦闘の最大の不確定要素だ。
いきなりアイシャさんの一撃が棍棒を持つクイーンの手を吹き飛ばした。
魔法は通るようだ。
まだ玉座に釘付けになったままのクイーン目掛けて、僕も魔弾を放った。
クイーンの頭が吹き飛んだ。
ティアラを傷付けないように絞り気味で放ったが、問題なく打ち抜けた。
中央のデカ物を倒したことで、両脇の護衛への接近が可能になった。
「主人を真っ先に殺される護衛ってなんなんだろうね?」
ロメオ君が笑った。心配はどこへやら、パスカル君たちの方は余裕が出てきたようだった。
ナガレの一撃と共にヘモジとリオナが魔法結界を張った護衛に突っ込んだ。
「あ!」
ナガレの一撃で敵は麻痺を食らったようだった。ダメージは一切入らなかったが一瞬動きが止まった。
「ナーァアアア!」
ヘモジの豪快な横殴りが、護衛の脚甲を叩き潰した。護衛は豪快に仰向けに倒れ込んだ。
「ぐうッ――」
唸る途中で声が途切れた。
喉元にリオナの剣が突き刺さっていた。
敵は身じろいだ。とどめを刺すには刃渡りが短かったようだ。
だが、リオナはそのまま銃弾を叩き込んだ。護衛は動かなくなった。




