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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
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夏休みは忙しい(パスカル君と夏休み)43

 こよりが発見された。

 驚くオクタヴィアにヘモジが笑った。ヘモジは気付いていたようである。この瞬間を待ち侘びていたようで、ここぞとばかりにオクタヴィアをからかっている。

「先生が、ヒント見つけたぞー!」

 ファイアーマンの声が建物中に響き渡った。

 閉塞感漂うなか、朗報が飛び込んできて、パスカル君たちは俄然やる気になった。が、石並べを任されていたふたりは戸惑った。石が足りなくなったのである。

 発見されたのは二十一番から三十番まで。ヒントを参考にすると属性ごとの石の数が合わないのである。周囲のはしゃぎようとは対照的にふたりの手は止まった。

 帳尻を合わせるにはヒントがまだ出ていない、既に並べ終っている前半の石を並べ替えなければならない。でも本人たちは前半に関して絶対の自信があるようだった。切り崩すべきか…… 崩さずにおくべきか、思案のしどころであった。

 自信が揺らいでいくのが見て取れた。

 ふたりがどんどん青ざめていく。

「ひどい兄弟子がいたものね」

 ナガレだった。池の番をするのに飽きてやってきたようだ。

「そうか?」

「あの先生、全部見つけそうね」

「仮にも魔法学院の教師だ。知名度は伊達じゃないってことだろ?」

 半数は魔法の塔からの出向、残りのほとんどは専門性を買われてほぼ世襲制。一般枠は想像以上に激戦区だ。真っ向勝負する奴は余程の変わり者か逸材だ。普通は魔法の塔経由で出向嘆願を出すために、まず魔法の塔、王宮魔法騎士団への入隊試験にアタックするものだ。

 ラウラ・ロッシーニ先生がただ不遇な教師ではないことは学長が絡んでいることからも間違いないだろう。

「仕込んで置いてよかったってところね」

「あっさりクリアーされたら、苦労の甲斐がないだろ?」

「ナガレは知ってるですか?」

「ヒント隠すの手伝ったんだから当然でしょ?」

「リオナは仲間はずれなのです」

「寝てたじゃないの」

 リオナがほっぺたを膨らませた。どっちが主人か分からんな。

「あの先生、どうするかしら?」

「生徒の楽しみを独り占めにはしないだろ。ヒントぐらい出すかも知れないけど」

 時間は刻々と過ぎていった。

 そして先生は今、池の前にいた。

 見つけたな。

 チョビとイチゴは先生と一言二言会話すると、池から出てこちらにやってきた。

『お昼だって言われました』

『見張ってなくてよかった?』

 チョビとイチゴが言った。

 ナガレと顔を見合わせ、苦笑いした。

「何が食べたい?」

 ナガレがチョビたちの相手をするために厨房を出た。

 ファイアーマンたちが「先生、どうかしたのか?」と池の周りに集まってきた。

「先生、この辺が気になるのよねぇ」

 とぼけるのは下手みたいだな。

 だが、この陽動にファイアーマンたちは燃えた。

 チョビたちがいない今、『魔力探知』で池のなかを見れば一目瞭然である。

 ファイアーマンは反応に気付くと、砂のなかに手を突っ込んでまさぐった。

 そしてヒントの入った瓶を見つけた。

「うおおおおッ! 見つけたぞーッ!」

 瓶を天高く掲げた。

 遂に四つ目だ。でも二つが先生の成果だというのは兄貴分として情けないぞ。

 間髪入れずに、フランチェスカの声が轟いた。

 このタイミングで来たか? 五つ目、発見。コンプリートだ。

 話し声を聞く限り、どこかに石を落としたんじゃないかと探し回っていて偶然発見したようだ。

「全部ばれたのです」

 さあ、問題はここからだ。

 ラウンジでは僕の底意地の悪さが、中傷の的になっていた。

「こんなざるの底に隠すなんて」

 捜索班は皆、溜め息をついた。

「でも、兄ちゃんらしいよな」

「うん、若様らしい」

 子供たちは納得している……

「なんだかんだ言って、一番楽しんでるよ」

「でも、ここで終らないのが兄ちゃんだよ」

 ピノ、分かってるじゃないか。

 ピノの言葉通り、石を並べていたふたりには問題が増えただけだった。そしてそれはもはやふたりだけの問題ではなくなっていた。

 ヒントを参考にするとどうしても、水の魔石と火の魔石が足りなくなり、土の魔石と風の魔石が多くなるのだ。ヒントを手本にすると必ずそうなる仕組みになっているのである。

「さあ、残り数分だ」

 もはやゼロから並べ替えることは不可能だ。

 ダンテ君たちは自分の直感を信じて並べ始めた。足りないピースは後回しにしてなんとか帳尻を合わせようとした。

 そしてタイムアップ。置き時計がチンと鳴った。


「兄ちゃん、これ間違ってるんじゃないのか?」

 ピノが早速抗議してきた。

「数が合わないんですけど」

 ビアンカも不服申し立てをしてきた。

「どういうことだよ? ほら、見ろよ!」

 ファイアーマンも不満爆発である。

 僕は全員を無視して正解を数え始めた。

「正解は三十三個。ピザは三枚だな」

 不正解は、ピースが足りなくて空いた水と火の石の枠に、土と風の石を強引に放り込んでしまったせいで、後半順位が芋づる式にずれたことによる九つと、最後の四十一番から五十番までのうち、四十二番と四十七番を除いた八個である。

 パスカル君たちと子供たちは呆然と結果を見つめていた。最後の十個のうち八個不正解という事実に最大の疑惑が集中していた。ヒント通りに並べたのにこれはどういうことかと。

「数が合わないと分かったとき、ヒントを無視する手もあったんじゃないのか? なんで自分を信じて並べなかったんだ? ヒントを疑わなかったんだ?」

 僕にもこの結果は不本意であった。

「ヒントはあくまでヒントだろ?」

「でも!」

「新作は次回までお預けだな」

「うー」

 子供たちはがっくり項垂れた。

「でも、ヒントが間違ってるなんて論外です!」

 ビアンカが抗議した。

「間違ってなんかいないだろ? 『ここから先にはヒントはない』とちゃんと書いてあっただろう? 四十一番から五十番まではヒントがないんだ。自分で考えろってことさ」

 全員絶句した。

「はい、ピザ三枚ね」


 どんちゃん騒ぎの予定だったのに通夜のように静かになった。

 僕は溜め息をつきながらピザの準備を始めた。

「こりゃ、明日からの士気に影響するな」

 姉さんが現れた。

「姉さん、どうしよう?」

「だからやり過ぎるなといつも言ってるだろ」

「四十個は堅いと思ったんだけどな」


 姉さんが、未だ興奮冷めやらぬラウンジに顔を出した。

「余りの不甲斐なさにピザ職人が落ち込んでいたぞ。このままでいいのか?」

 全員がそれを聞いて尚更しょげ返った。

「兄ちゃん……」

「エルネストさん……」

「エルリンはできると信じてたです」

「だから補習だ。そいつをちゃんと完成させて持ってこい。四十個以上正解だったら、チャラにしてやる」


 しばらくして、パスカル君たちが箱を持ってきた。

 ピノたちも遠巻きに見つめている。

「すいませんでした。再考願います」

 みんなが謝ってきた。

「現実と予測の間に齟齬があるなら、そこには必ず見落としがある。見定めるしかないんだ。でもそのためにはまず自分を信じること。判断を下す自分自身を信頼する必要がある」

「ごめん、やり過ぎた」と言えないところが兄弟子としてつらいところだ。

 結果なんかなかったことにして大盤振る舞いしてやりたい衝動に駆られるのだが、それをやってしまったらここ数時間のすべてが無駄になる。

 僕は数え直した。どうか四十個以上正解でありますように。

「三十八…… 三十九……」

 やった! 四十個。

 四十三…… 四十四…… 四十五……

 これって、もしかして!

 四十九…… 五十……

「…… 全問正解…… 」

 僕は身震いした。目頭が熱くなった。

「やった! やったーっ!」

 僕はごまかすために、派手に喜んだ。

「全問正解だ。全問正解だよ! みんな! やればできるじゃないか。よし! よし!」

 僕は拳を固く握りしめた。

「よーし! 全員、ピザ食い放題だーッ!」

「やったーっ!」

 子供たちが雪崩れ込んできた。


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