夏休みは忙しい(パスカル君と夏休み)42
「エルネスト、後は頼んだ」
なんだ? いきなり姉さんが合格した全員を僕に預けて、立ち去った。
「何するわけ?」
側にいたアイシャさんに尋ねた。
「習得したはいいんじゃが、町中のように実地とはここではいかんのでな。取り敢えず、今日一日飽きさせないうまいカリキュラムを組んでくれると助かる」
「ゴブリンの洞窟じゃ駄目なんですか?」
「今日は休日じゃぞ。気を張り詰めてどうする」
「いきなりそう言われても……」
そう言いつつ、頭は回転している。そうだな……
僕は全員を部屋に隔離して、少し時間を貰って仕掛けを施した。
「ではこれから『魔力探知』スキルを使ったゲームをします。普段の訓練でも使えるので覚えて帰って下さい。では紙とペンを渡すのでこれから言う通りにしてください」
全員を子供たちの部屋のあるフロアーのラウンジに集めて講釈を始めた。
ロザリアがフランチェスカに紙と鉛筆を全員に回すように指示した。
なぜか子供たちまで外から戻ってきて、一層上のラウンジの手摺りから吹き抜けを下に眺めていた。
「ここに七つの魔石があります。どれも大きさや属性がバラバラな石です。これをこれからみんなに査定して貰います。スキルを使って、魔力量の大きい順に番号を振って見てください。近くで見てもよし、触ってもよし。ただ発動はさせないように。制限時間は十分。相談はなしです」
用意、スタート。と言うことでパスカル君たちはゲームを始めた。各々、順番を右から順に書き込んでいく。利き酒でもやってるような感じだ。
実はこの遊びには仕掛けがしてある。一つは、魔力が空の石が仕込んであること、もう一つは同じレベルの石が一組紛れ込んでいることである。
「あと十秒、……九、八、七……」
半数は席に着き、結果を淡々と待っている。残りの半数は最後まで食い下がっていた。
「二、一…… 終了ーっ。では答え合わせします。まず魔力の一番多い石はこれ!」
僕は本来なら屑石扱いされる大きさの石を拾い上げた。
「魔力量、百。冒険者ギルドで補充用の魔石として銀貨十枚で売られているレベルの石です」
早くも数名が罰点を付けた。
僕は順次、正解を発表していった。さすがに同じレベルの石を二つ選んだときには数名からブーイングが起きた。魔力ゼロの石を発表したときには全員が黙り込んだ。
「あるか、ないかだけは分かろうよ」
それから検証する時間を与えた。全員が石の周りに集まって意見を述べ合った。
全問正解はダンテ君一人。惜しかったのは同じレベルの石を見抜けなかったフランチェスカとパスカル君だ。ふたりとも間違いは一つだったが、フランチェスカは同じレベルの石を、三位と四位として続きで選び、パスカル君は三位と五位として分けて回答した。わずかな精度の差でフランチェスカに軍配が上がった。
魔力量が多い石ほど、選びづらそうにしていたのはスキルの力加減に慣れていないせいだろうか? 取り敢えず全員半分は当たっていたので及第点にした。
落ち着いたところで僕は次のゲームを披露した。
「ここに五十個の石があります」
五掛ける五に間仕切りされた箱を二つ置いた。同じ大きさの五十個の魔石が半分ずつ収められている。
「この石で同じことをして貰います。今度は全員で行なって貰います。十個正解するごとに、昼食にピザを一枚焼きます。一枚では全員に回らないだろうから、皆、頑張るように。上にいる子供たちの分もぜひ頑張って貰いたい」
「それって…… 子供たちの分も含まれてるんですか?」
「僕たちの分も含まれています。四十個以上正解ならピザの枚数を倍にするので、ひとり二切れ以上ありつけることになります。正解はマス目の順位で決めるので、順番はあっていても置く場所がずれてしまうと全問不正解ということもありえるので注意するように。逆に偶然順位があうこともありえるので後で文句を言わないように。それから結構大きなヒントをこの建物のなかに5つ隠してあるので、探してみてください。勿論『魔力探知』で。ピザを焼く都合もあるのでなるべく早めにお願いします。時間制限は二時間です」
僕は箱の中身を、食材が入れてあった大きなざるのなかにザラザラと流し込んだ。
そして同じ大きさのざるで蓋をして、覚えたての風の魔法で渦を作って満遍なくかき混ぜた。
混ぜ終ると蓋を取りテーブルにそのままドンと置いた。
「では、スタート」
傍観していた子供たちまで騒ぎ始めた。
「頑張れ兄ちゃんたち!」
「頑張れーっ!」
「負けるなー」
「しっかり気張りやーっ」
「協力するのです」
「いいけど、スキルがないと全部は見つからないと思うぞ」
建物中に子供たちが飛び散った。パスカル君たちより真剣に、そして、熱く、隅々まで探し始めた。一つ残らず手当たり次第に部屋を当たり、テーブルの下やクローゼットの奥を調べて回る気である。
僕は早速ピザを焼く準備を始めた。生地や具材はアンジェラさんが持ち込んでいたので、使わせて貰うことにした。アンジェラさんは朝食の用意まで済ませて、昨日のうちに帰宅した。子供たちに学校の宿題という爆弾を置いて。
ヒントは五箇所。それぞれに微量な魔力を放つ石を貼り付けたメモを置いて回った。
二つは容易く見つかるだろう。
一つは最下層の訓練場の、階段から一番遠い壁の隅。もう一つは最上階、ドックに出る手前の扉に貼り付けてある。さらにこれ以上先には隠していないので『ここから先にヒントはない』と警告文も加えておいた。
三つ目は池のなかに瓶詰めにした物が埋まっている。ここはまさにスキルを使わないと、チョビとイチゴが邪魔しているので、発見できないだろう。
四つ目はオクタヴィアの首飾りだ。こよりにして忍ばせてある。アイシャさんに頼んだので本人もたぶん気付いていないはずだ。
そして最後は魔石がジャラジャラ入っているざるの裏である。魔力はざるのなかの魔石のせいで掻き消されているから、最後の最後まで気付かないかもしれない。
最初の最下層の石は行動力のピノが見つけてきた。
ヒントに書かれていたのは四十一番から五十番までの番号と赤、青、緑、黄、白という五色の色指定がランダムに並んだものだった。
最難関、最後の十個分の石の属性公開である。
子供たちもパスカル君たちも理解した。ヒントは石の属性を表したもので、全部集めれば五十個の石の属性分布がすべて分かるということだと。
二つ目もすぐに見つかった。今度は三十一番から四十番までだ。発見したのはファイアーマンとパスカル君だ。『ここから先にはヒントはない』と警告したにもかかわらず、ファイアーマンは扉を突破して、ハッチの外まで探し始めた。
不安になったパスカル君は真相を確かめるべく、わざわざ僕の所に来て、「ないですよね?」と聞いてくる有様だった。
「さあ」
僕は笑って済ませた。
リオナは「エルリンは嘘付かないのです」と、パスカル君を追い返した。
「……」
「何してる?」
「知ってるですか? 税務官は家人の視線を見て、脱税したお金の隠し場所を探し当てるのです」
僕はわざと倉庫の方を見た。
「もう言い逃れはできないのです!」と叫んで倉庫に飛んでいった。
「ついでにパタータ持ってきてくれ」
リオナが耳を垂らして木箱の隙間から顔を出した。
「幾つですか?」
「取り敢えず二つあればいいかな」
リオナは探すのを諦めて、ピザ作りに参加した。
「二つ見つかったから、二枚なのです」
「魔石並べなきゃ、属性が分かっただけじゃ駄目だろ」
「先は長いのです」
可愛らしい溜め息を付いた。
テーブルの上では一番成績がよかったフランチェスカとダンテ君が石の仕分けを大まかに始めていた。
僕はそれを見て、ざるの裏のヒントが案外早く見つかるかもしれないと感じた。
だが、なかなか三つ目は発見されなかった。
一時間が過ぎると絶望感が広がり始めたが、石並べは順調だった。若い番号から半分程並べ終っていた。今はヒントを参考に逆から石を並べ始めているが、これが意外に難しい。ただでさえ微量な違いなだけに、半分は勘に頼る状況だ。それでも正解率を上げるために彼らは必死だった。
「あの」
先生が厨房を覗きに来た。
「わたしも参加していいでしょうか? その、子供たちが絶賛するピザと言う物を食してみたいと思いまして。何種類かあるのでございましょう?」
料理の手伝いではなく、ゲームに?
「石並べ以外なら参加してくださって構いませんよ」
「担任として少しはらしいところを見せませんとね」
先生は単独、上層から廊下を散策し始めた。最上階を一回り見た先生は下の階に下りた。目を留めたのは猫であった。オクタヴィアはヘモジと一緒にヒントの隠し場所を探していた。
「ねこちゃん、ちょっと」
オクタヴィアが先生に捕まった。
「みーつけた」




