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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
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夏休みは忙しい(パスカル君と夏休み)41

大変遅くなりました。m(_ _)m

 小一時間遊んで、子供たちとパスカル君たちは汗だくになっていた。

 パスカル君たちは筋肉痛で螺旋階段を上がるのも苦労する状態だった。女性陣は冷ややかにそれを手摺りから見下ろしていた。

 シャワーを浴びて子供たちはすぐに泥のように眠った。

 パスカル君たちは着替えると、二階のロビーで持ち帰った資料を元に姉さんとアイシャさんを囲んで反省会を始めた。遊ぶ前にやっておくべきだったと思う。男連中はみなまぶたが落ちそうだった。

 弟子と師匠の久方振りの会合なので、僕は席を外すことにした。

 今日はほとんど魔力を使っていなかったので少し消費しておこうと、僕は着替えだけ済ませると、先生がひとり読書しているラウンジの横を過ぎて、再び螺旋階段を下りた。

 ヘモジとオクタヴィアが付いてきた。

「遊び足りないのか?」

「ナーナ」

 猫も頷いた。

「しょうがないな」

 この面子で広い閉鎖空間に降り立つとジュエルゴーレムの倉庫を思い出してしまう。

 僕はふたりに構わず、魔力を放出して風を起こした。

 ウィスプの起こしたブリザードを参考にして、風の魔法の練習だ。風の魔法はアバウトであやふやで使いづらいので個人的には敬遠しがちな属性だが、鉄は熱いうちに打て、ウィスプのブリザードの感覚が残っているうちに真似てみる。


 魔法発動に関するメカニズムの解析の論文を苦労して解読したせいもあって、あることに気付いた。それはウィスプの魔法が見た目以上に省エネであることだった。

 ウィスプは膨大な魔力を使って広範囲を侵食しているように見えて、実は数メルテの範囲にしか影響を与えていないというものだった。

 僕は自分の周囲に渦を作った。

 最初は周囲の空気と隔絶しているが、少しずつ回転速度を上げていくと、すぐに周囲の空気を巻き取りながら渦は大きくなっていった。

 更に回転を与えるとより外周の空気を巻き込んでいく。

 はっ。凄いな。

 魔力は距離に比例して消費が増える。そのことを考えると、近場にだけ影響を与えるこの方法は無駄がない。一見、過剰な魔力投資に思えるが、一度動き出した渦は簡単には止まらない。同じ魔力を投入しても、劣化が少ない分、現象に与える影響は大きくなる。少なくとも遠くの空気を直接動かすより遙かに消費の少ないやり方だ。更に温度差を使って気流の流れをサポートしているとも書かれていた。アイスウィスプは空気を吐き出すが、通常のウィスプは吸い込むらしい。


 ヘモジたちは難しい講釈を余所に、風に身を任せて遊び始めた。身体が浮きそうな強風に身をさらして、日頃では有り得ない長距離ジャンプをしてみたり、前に飛んだのに押し戻されてみたりした。

「ナー」

「にゃー」

 空中で一回転、曲芸まで始めた。

「落ちたら痛いぞ」

 ふたりがはしゃぐほどこちらの気苦労が増えていく。そして確実にふたりは外周に追いやられていく。

 ちょっと本気を出すかな。

「逃げろよ」

 僕が風の渦に冷気をまとわせると、ヘモジは咄嗟に渦のなかから退避した。が、オクタヴィアは渦に巻かれた。

 ヘモジは咄嗟のところでオクタヴィアをダイビングキャッチすると後方に飛んだ。間一髪助かったようだ。冷気を帯びた渦が通り過ぎた。

 僕はウィスプのブリザードを体現させることに成功した。規模は遙かに小さいが。魔力消費も少ない。

「ドラゴン起きた!」

 オクタヴィアがヘモジをボディープレスしたまま叫んだ。

 やばっ。

 僕は魔法を止めて、息を潜ませた。魔力消費は少なくなかったようだ。

「ドラゴンが警戒してる」

 オクタヴィアが助けてくれたヘモジを足蹴にして、抜け出すと耳を澄ませた。

 忘れてた。ドラゴンは魔法に敏感だったんだ。

 魔法障壁のないこの場はただの洞窟と同じだ。大きな魔力を使えば外部に漏れるに決まっている。

 仕方ないので練習を切り上げて、こっそりその場を後にした。

 そして窓のある部屋に行き、窓から下を覗いた。

「なんも見えない」

「ナーナ」

 そりゃそうだよな。夜なんだし。馬鹿なことをした。

「寝たみたい」

 オクタヴィアが闇に耳を傾けながら言った。

 どうやらドラゴンも警戒を解いたようだ。

「大人しく寝るか」

 その場で解散したが、結局、僕の部屋まで付いてきて、勝手に寝床をこしらえるとふたりはさっさと眠りに就いた。

 まぶたが重くなってきた。安心したら僕も眠くなってきた。

 僕も寝床に転がるとそのまま眠りに就いた。



 翌朝、僕は寝坊した。

 既に目隠し鬼ごっこが始まっていた。今回はオクタヴィアがターゲット役になっているようだった。僕は遅い朝食を食べながら欠伸した。

 ピノたちはどこ行ったんだ? 一緒に参加してるのか?

 探りを入れたらロメオ君たちと外のトーチカにいた。

 このままだとパスカル君たちより、子供たちの探知スキルの方が向上するんじゃないのか?


 明日からのルートの下調べか。昨日までとは真逆の方向を向いていた。

 階段を数人が上がってきた。

 クリアーした者が現れたようだ。

 上がってきたのは既にスキル持ちのダンテ君とパスカル君だった。ふたり笑顔で螺旋階段を上がってきた。その後ろにはフランチェスカと先生がいた。

「うおおっ!」

 パスカル君が周りの景色を堪能していた。

 そしてこちらを見つけたようだ。

「やりましたよ。エルネストさん。一位通過ですよ」

 嬉しそうに駆けてくる。

「おめでとう、こちら側の世界にようこそ」

「まだ一回戦でしょ。二回戦は負けないからね」

 フランチェスカが言った。

 そういや三回戦やったような気がする。戻ってこない連中はまだ見えていないのか。

「先生は付き添いですか?」

「ええ、どんな教え方をするのか、興味があったもので。随分奇抜な方法をなさるので驚きました」

「奇抜でしたか? ただの鬼ごっこでは?」

「普通は鬼ごっこはしませんから」

 そうなんだ。

 ジュースと水を飲み干して、全員再びゲームに戻っていった。

 エリアが広すぎて大変だろうと思うけど。みんな取得できるといいな。


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