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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
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夏休みは忙しい(来訪準備とトレントの原木)25

 翌朝、パスカル君たちの来訪を明日に控えて、宿泊所の予約を確認しにいった。

 ギルドハウス横の宿泊施設はギルド関係の商人たちでごった返していた。

 受付に向かい、明日の部屋割りを尋ねた。最上階の四人部屋のスイートに男女一部屋ずつ、一月連泊で取っているはずだった。が、初日から十日間程、予約がキャンセルされていた。

「ちょっと、これは?」

「お姉様がキャンセルなさいました。別荘に泊まるからとおっしゃっていましたが」

 ええっ? いきなり別荘? 聞いてないよ!


「言ってないからな」

 姉さんは領主館の書庫ですまして朝の紅茶を飲んでいた。

「急すぎるでしょ?」

「天候が不順なのでな。演習をさっさと済ませて、それぞれの力量に合ったカリキュラムを組んでやろうかと思ってな。それと最終日にプレゼントが用意してあるから、材料を早めに調達しておきたいという事情もあったんだ」

「材料って?」

「トレントの原木だ。全員に杖を作ってやろうと思ってな」

「てことは、今回の演習コースにトレントが出るわけ?」

 名前だけは聞いたことがあるけど、あの辺りにいるのか? 反応が全然なかったけど……

「そういうことになるな。学生に一級品を持たせるのも他の生徒の手前どうかと思ったのでな。レアもの狙いでいくことにした」

「それって、却って目立つんじゃ」

「どの道、我らが付与するのだから、普通の物などできやしないだろ?」

 まあ、普通で済ませる気はなかったけどさ。

「それで、トレントの原木の特性は?」

「使い込むごとに使う者の嗜好に合うように木の方が変化してくれることだな。実際どうかは知らないが、売り文句はそんなところだ」

「知らないで、採らせるの?」

「いいだろ、演習のついでなんだから」

「姉さんが実験したいだけなんじゃないの?」

「魔力過多ならセーブするように、安定性を欠くなら精度重視に。噂を聞く限り便利な素材らしいぞ」

「でもこれからの魔法使いが、杖に頼り切っちゃ駄目なんじゃないかな?」

「……」

「何?」

「しまった。先週の魔法の塔の会合のせいだ。じじい共が噂してたから、つい土産にちょうどいいかと……」

「お土産別の物に換える?」

「いや、無理を通したから、違約金が高く付く。このまま行く」

「ファイアーマンなんか、補正効果だらけになったりして」

 僕は笑ったが、姉さんは笑わなかった。それより、杖製作関連の本や魔法関連資材の資料を書棚から選び抜いていた。

「姉さん?」

 姉さんはもう用はないとばかりに僕を手で追い払った。駄目だ、なんかスイッチが入ったみたいだ。

 僕は黙って扉を締めて部屋を出た。

 突き当たりの執務室が気になったが、この時間はやばい。書類整理の時間だ。

「撤収だ」

 足音を立てないようにそっとその場を去った。

「ドナテッラ様万歳!」

 螺旋階段を降りながら心のなかで叫んだ。


 僕も姉に負けじと帰宅するとトレントの木のことを調べた。すると杖よりも弓の材料としての評価が高いことが分かった。

「でも魔石で魔力を補充できないんじゃな。子供たちの修行には『必中』は必至だし、やはりドロップ品を狙うか……」

 でもエルーダにトレントはいないし、レベル的にリュボックにもいないだろう。

 困ったときのエルフ頼み。

「弓なんだから魔力は鏃に仕込めばよかろうに? 何をとぼけておる?」

 そうだった。魔法の矢で散々、好き放題しておいて、ど忘れとは。

「でも『必中の矢』みたいに使い回せないんですよね」

「あれは射手の魔力をその都度、吸収するタイプじゃ。正直素人には作れん。お前の姉なら作れるじゃろうが、妾だったらそんな高価な矢は使う気にはなれんな。なくすのも癪じゃが、拾った奴がほくそ笑むのはもっと癪じゃ」

「ですよね。うちにも三十本ありますけど、一本たりともなくす気になりませんからね」

「じゃが、使いきりの矢ならそなたでも作れるじゃろ? それでいいんじゃないかの?」

「ならトレントの弓を子供たちにプレゼントするのはありですね」

 アイシャさんの目の色が変わった。

「トレントだと! トレントを狩りに行くのか?」

「姉さんが用意してたパスカル君たちの観光ルート。前から言ってたでしょ? あれ、トレント狩りの演習付きらしいんですよ。というか、観光じゃなくて演習コースだとついさっき判明しました」

「相変わらずじゃな、姉上も」

「トレントの原木で杖を作る気でいるけど、トレントって大きいんですよね。だったら余った原木で弓でもと思って」

「無理じゃな。杖にするにしろ、弓にしろ、一級品として使える部位は決まっておるんじゃ。トレントの太い枝は腕代わりに振り回す二本だけじゃからな。一体で二本しか採れん。安物狙いなら話は別じゃが、だったらトレントである必要はないじゃろ」

「幹からは取れないんですか?」

「しなりが悪い。弓にはむかん。精々薪にするのが関の山じゃ」

「なんだか勿体ない話ですね」

「だから珍重されるのじゃ。とりあえず妾も参加するぞ」

「若干一名が喜びます」

「自分の分が抜けておるぞ」

 アイシャさんは僕を見つめて笑った。

「そうでした。頼りにしてます」

「トレントの扱いなら任せておけ。そうじゃ、若干一名に火の魔法の使用を禁止せねばな」

 そう言って笑った。


 粗方姉さんが自身で準備を済ませていたので、タイトな日程になってもこちらが慌てる必要はなかった。食料も物資も既に別荘に運び込まれている。

 後は個人的な物だけだが、約十日間の逗留となるといろいろ持ち込みたくなる物である。

 オクタヴィアはクッキー缶の中身を容器一杯になるまで焼いてもらっていた。忙しいのに律儀に肉球印を付けている。結構な重さだが…… 多分僕のリュックで運ぶんだろうな。

 ヘモジは市場に飛んで自分の目で選んだ野菜を買い込んできて保管庫に放り込んだ。それをチョビに担がせようと交渉している。

 ロメオ君は重そうな本を背負子に背負ってきた。ゴーレムに関する文献らしかった。演習には持ち込まず、別荘に置いていくと言うので、僕の腹のなかに納めた。

 ロザリアもアイシャさんは特段何かを持ち込む様子はない。いつものリュックのみだ。

 今回特別参加の子供たちは、演習には参加せず、別荘で一泊するだけだったが、大量の肉を勝手に保管庫から持ち出そうとして、アンジェラさんに怒られていた。

 リオナも同じことを考えていたが、目の前で怒られている子供たちを見て自重した。

 何かあっても、振り子列車で我が家まで一時間だ。

 期間中、毎日、物資の搬入と搬出があるから、足りないものは取り寄せればいいだろう。


 転移部屋の先の駅のホームには明日運び出す予定の品が積み上げられていた。

 後はパスカル君たちの荷物だけだ。

 待てよ、僕たちと子供たち、それにパスカル君たちとでは車両が足りないのではないか?

 車両を確認すると、一両編成が三両編成になっていた。ご丁寧に『臨時便』の文字が貼られていた。


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