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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい

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夏休みは忙しい(初級迷宮騒動・エルフを手に入れろ!)22

「おい、そこのガキ共」

 僕とロメオ君は振り向いた。

「お前たちがどんな手練れかは知らぬが、精々気を付けることだ」

 脅しも板に付いている。この軍隊相手にどこまでやれるかお手並み拝見というわけだ。

 売り言葉に買い言葉。黙ってテントを出るのも癪に障る。隣りのチョビの罵詈雑言のせいかもしれない。

「申し遅れました。わたくし、エルネスト・ヴィオネッティーと申します。こちらは我が姉、レジーナ・ヴィオネッティーの一番弟子、ロメオ・ハルコットと申します。お見知りおきを」

 僕は地獄の業火を纏ったと言いたいところだが、肩にはヘモジとチョビがいたので止めておいた。

 側近は青ざめているが、好色男は分かっていない様子だった。

 僕はこちらの技量を推し量るヒントを二つ提示した。僕の名前と姉さんの名前だ。武闘大会優勝者の僕の名前は兎も角、『ヴァンデルフの魔女』の一番弟子の称号は青ざめるには充分な理由だ。そして何より、ヴィオネッティーの名だ。北部では安売りされているが、今回の件はスプレコーンだけではなく、貴族がもう一つ絡んでいることを教えておいたのだ。何かあれば賠償は二倍だ。

「あんな男に名乗らなくていいものを」

 サリーさんが言った。

「あの男は兎も角、部下には教えておいてもいいでしょ? 引き際を考える猶予ぐらいは与えてやらないと」

 口ではこう言ったが、猶予など与える気はない。前線から逆走してくるときは判断も及ばぬ速さで殲滅してくれる。

「顔が怖くなってるわよ」

 え?

「そうですか?」

「ナーナ」

 ヘモジにもおでこをペちっと叩かれた。


「さて、みんなは何階にいるのかな?」

 僕たちは野営地のど真ん中を真っ直ぐ迷宮の脱出ゲートに向けて歩いた。

「ナーナ」

「十四階だった?」

 ヘモジが呼び戻されたときはまだ全員十四階にいたらしい

「また半端なフロアーだな。上と下から挟み撃ちだよ」

「ナナナ!」

「下の階は塞いだ?」

「そうなると、十四階のゲートが一番近いわけだが、奴らに押さえられていると考えるべきだろうな」

「どのフロアーに出ても見張りはいますよ」

 ロメオ君が言った。

「じゃ十四階からで。アイシャさんや爺さんのことだから、フロアーの占拠は済んでるかも知れないしね」

「待ち伏せはどうする?」

「水流で押し流してやりますよ」

「じゃ、僕は雷で」

「やれやれ」


「止まれ! 現在この迷宮のゲートは我らが一時的に管理している」

 領主の部隊ではなく、余所の部隊が脱出ゲートを管轄するなんて前代未聞だ。というより、ここの部隊の兵隊をどうしたのか?

「つまりリュボックの領主の許可を得ていると言うことか? ならばリュボックの領主にも抗議申し上げねばならんな」

「末端の我々には知らされていない。時限的にではあるが、こうしているのだからそうなのだろう」

 ごもっともなお答えで。

 なるほど時限的ね。今夜、エルフを捕まえるまでか。そうなるとタイムリミットは他の冒険者たちがやってくる夜明け前までだな。

「我らは冒険者だ。好きにさせて貰うぞ」

「駄目だ! 今はすべてのフロアーで我が軍の演習中である!」

 数人の兵士が集まり、僕たちを引き止めようとする。

「では、言葉を換えよう。我らはその演習の参加者だ」

 豪快に落雷を落としてやった。姉さんの言う魔法で鼓舞するという奴だ。

 陣を張っていた兵士たちも今の一撃を見るだろう。

 精々、恐れおののくことだ。今のうちに逃げ出す算段でもしておくがいい。元々領主の戯言だ。命を賭けてまで付き合う必要はない。

「手加減無用と言われたのではなかったか?」

「朝になって死体が転がっていたら問題でしょ?」

「自分の足で帰って貰った方がいいですよ。こちらに刃を向けなければですけど」

「敵は少ない方がいい」


 サリーさんがゲートを繋ぐと僕はすぐ『隠遁』してゲートを潜った。勿論、防御もしてだ。

だが、その心配はなかった。

 現場には倒された兵士が拘束されて転がっていた。

 どうやら息はまだあるようだ。

「爺さんの仕業だな」

「その通りじゃ、早かったの、明日の朝だと思うとったぞ」

 いきなり後ろから声がした。

 ゼンキチ爺さんが転移部屋の備え付けの椅子の隅に座っていた。

「みんなは無事ですか?」

 殿のサリーさんが出てきた。

「皆、息災じゃ。ピクニック気分で、はしゃいでおるわ。剛胆な子供たちじゃ」

「ドラゴン狩りで肝が据わったかな?」

 よく見ると十三階に上がる階段も封印が施されていた。

 ハイエルフの封印では人がどんなに頑張ったところで解除はできまい。膨大な魔力を使って相殺するしかないが、そんなことができるのは僕の知る限りアシャン老ぐらいなものだ。


「早かったな」

 アイシャさんが出迎えた。

「エルリンなのです」

「別に来なくてもいいのに」

「早かったじゃん」

「ヘモジちゃん、ちゃんと伝言できたみたいね」

「ナーナ」

 暢気なものである。野営用の小屋を作って、みんなそこで寝ていたようだった。オクタヴィアがふらついて現れて、大きな欠伸をした。

「で、どういうことなんだ?」

 アイシャさんが、こちらに問いかけてきた。

 然もありなん。本人に追われる理由がないのだから、分かるまい。

 僕たちはアイシャさんたちに敵の正体と目的を話して聞かせた。

 アイシャさんと爺さんは呆れた。子供たちも耳を澄ませていたが、目下、最大の関心事は別にあった。

 蟹である。

 ナガレの通訳の元、自己紹介がなされ、和気藹々としていた。緊張感ゼロである。

「では容赦せずともよいと?」

「まあ、そういうことですね。一応、警告はしてきたんで」

「ゲートから出られそうか?」

「外にも大軍がいますからね。直接、外に出るのは賛成しかねます。いきなり総攻撃を食らいそうですからね」

「では、どうする?」

 全員が僕の方を見た。

「そうですね。とりあえず地下一階に出ましょうか? 転移部屋に大群は入れませんからね。そこから押し返しながら、一階を走破して表に出ましょう。奴らはこちらの戦力を甘く見てますからね。すぐに出てくるとは思ってませんよ」

「じゃ、さっさと終らせて帰るとするかの。親御さんも心配して待っておるじゃろうし」

「リオナも少し本気出すのです」

 爺さんは剣を抜いた。リオナも抜いた。そして先陣を切った。

 僕は結界を展開して後に続いた。


 ゲートを潜ると、既に敵兵が二人くたばっていて、別の二人とリオナたちは交戦中だった。

 騒ぎを聞きつけた連中が出入り口からやって来る。

 僕は結界で侵入をブロックした。

 その間にアイシャさん、サリーさんが出現して加勢する。ふたりは協力して地下一階側の出入口を封印しに掛かった。

 一階への上り階段にはロメオ君が火を掛けた。

『燻して差し上げます』

 イチゴがロメオ君の肩の上で鋏を振りかざしている。

「その封印て、空気の流れはどうなの?」

 僕は疑問を投げかけた。でないと、封印で片側を塞いだ以上、この場の空気がなくなる可能性がある。そのときは風の魔法で空気の流れを生み出してやらなければいけない。

 答えを聞くこともなく、爺さんとリオナの後を追った。結界を展開しながらの前進である。

「撃てーッ!」

 一階フロアーの出口に差し掛かると一斉に弓矢が放たれた。ふたりの隠遁を見破った奴がいる。要警戒だ。すり抜けられて、後続に手を出されては困る。

 僕は探知スキルを広範囲に展開した。

「エルフに当てるなッ!」

「馬鹿が。そのエルフが一番厄介なんじゃろうが」

 爺さんが消え、リオナも消えた。

 僕は結界を張りながら、ふたりが向かっていない方角の敵を『装備破壊』を乗せた雷撃で仕留めていった。

 たまたま、手練れを一人巻き込んだ。

 相手は見破られたことに呆然としていたが、接近する僕たちに気が付くと脱出用の結晶を使って消えた。

 一階フロアーはすぐに静まり返った。


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