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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
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夏休みは忙しい(初級迷宮騒動・エルフを手に入れろ!)21  

 イチゴをロメオ君から預かって、我が家に戻った。祠があるので、我が家で放し飼いにしても道中以外、ロメオ君の負担にはならないはずだ。

 早速チョビとイチゴはアンジェラさんたちに挨拶して回った。

 三人の反応は大体同じだった。まず驚き、僕に詰め寄り、呆れて果てて戻って行くのである。

『ナガレ様は?』

 イチゴちゃんが尋ねてきた。

「今日中には帰ってくるはずだよ。遅くなるかも知れないけど」

『残念です。今すぐこの感動をお届けしたいのに。あの、中庭で遊んでもいいですか?』

「好きにしていいよ」

 二匹は連れ添って廊下の先に消えた。

 みんなが帰ってくるとうるさくなること請け合いだったので、僕は自室でインターバルを取った。


 みんなは帰ってこなかった。

『何かあったのでしょうか?』

 ふたりが同じ顔をつきあわせている。

 チョビたちの変身を祝って豪華な料理のセッティングをしたのに。

 僕たちだけの食事が済んでもまだ帰ってこなかった。

「ヘモジを戻そうか……」

 でも何かあったのなら、ヘモジの盾は有効だ。子供たちを守るのに必要だ。

 僕の魔力が減っていないことから推察するに、今すぐ何かあるということはなさそうだ。

「ヘモジを呼び戻す!」

 僕は再召喚した。戻って来られないような状況なら、向こう側で拒否できるレベルの拘束力しか与えずに。

 だが、ヘモジは戻って来た。

 とりあえずほっとした。

「お帰りヘモジ。なんでみんな遅いんだ? 買い食いでもしてるのか?」

「ナナナナ、ナナナナナ! ナナナナ! ナー…… ナ?」

 僕の胸ぐらを掴んで慌てていたヘモジは、チョビたちに気が付いた。

 気付いて様子が変だとすぐ見抜いた。蟹の顔をじっと見つめた。

 タイムラグがしばらくあった後、ヘモジは目を丸くして、こちらを見た。

 みんな同じ顔をするんだよな、と妙に納得してしまった。

 だが、今はそれどころじゃなかった!

「大変て、何が大変なんだ?」

 ヘモジは懐から一枚の布きれを出した。アイシャさんから預かった物らしい。どこぞの貴族の家紋が描かれていた。

「ナーナ」

「これを着た連中に囲まれた?」

 ヘモジは身振り手振りで伝えてきた。

 どうやら付き添いのハイエルフを目当てにこの家紋の貴族が部隊を動かして拘束に掛かっているらしい。

 そして我が子供軍団と迷宮内で戦闘が勃発しているらしい。

 ヘモジを戻してよかったのか……

 爺さんもいるし、迷宮内でそうそう負けはしないだろうが、この旗が気に掛かる。

 一体、どこの誰だ?

 生憎、我が家には魔物図鑑はあっても、貴族名鑑はない。

 だからある所に行くしかない。

「ヴァレンティーナ様のところに行ってきます! もしかしたらそのまま迷宮に向かうかも知れないので戸締まりよろしくお願いします」

 僕はアンジェラさんに頼んだ。

「行くぞ、ヘモジ!」

「ナーナ!」

『わたしも行く!』

 チョビが叫んだ。

『わたしも戻って、ロメオ様にお伝えしてきます!』

 イチゴちゃんもやる気モードになっていた。自ら解放を選んで消えた。


 ロメオ君が来たところで僕たちは転移ゲートを潜った。

 館のゲート出口で、見張りに槍を突き付けられたが、「緊急だ」と言って領主を呼んで貰った。

 幸いまだ就寝してはおらず、すぐに執務室に通された。

 そこには姉も待ち構えていた。

「何があった?」

 直球である。戦慣れしているだけあって、時間対応の重要性は身に染みているのだろう。

「これを」

 僕は家紋の入った布きれを机に置いた。

「どこの家紋かしら?」

 ヴァレンティーナ様の問いに、執事のハンニバルが一礼して、手に取った。

「マネッティ家の家紋かと」

「マネッティ? 聞かぬ名だ」

 姉さんとヴァレンティーナ様は顔を見合わせた。

「色豚マネッティでございます。失礼」

 ハンニバルが、ハンカチーフで口を塞いだ。

「ああッ、あの好色いかれ貴族!」

 ヴァレンティーナ様が椅子から立ち上がった。

 姉さんも嫌な顔をした。

 どうやらこの美人ふたりとも因縁があるようだった。

「うちのエルフが、今、子供たちとリュボックの迷宮に行っていて、この紋章の部隊に襲われていると――」

「ナナ、ナナナナ、ナーナ」

 ヘモジも領主様に一生懸命訴えた。どうやらヘモジは子供たちが心配でならないらしい。

 確かにアイシャさんひとりならどうにでもできそうだが、使えるのがリオナとナガレと爺さんだけでは……

「……」

 なんだか、大丈夫な気がしてきた。


 姉さんたちの話では事件を起こしたであろう人物は相当のどら息子らしい。父親はそれなりの人物だったらしいのだが、現役を引退してからというもの、嫡男が幅を利かせているようだ。

「まさか、エルフを拘束するために部隊を投入するとは…… しかも目撃者の多い迷宮で。放蕩も極まったか」

「リオナは一緒か?」

 僕とヘモジは頷いた。

「潰してこい」

 姉さんが言った。

「容赦しなくていい。殲滅してこい、完膚なきまでにな! お前は許嫁とスプレコーンの子供たちを救いに行くだけだ。遠慮はいらん!」

「事後処理はこちらでするから、気にせず好きにしてらっしゃい」

 ヴァレンティーナ様のお墨付きも貰った。

 なんだよ、いつもと違うな……

「行ってきます……」

「お前、あの迷宮は潜れるのか?」

 そうだ、潜れないんだった。

「サリーを呼べ。彼女ならあの迷宮を走破しているはずだ」

 ハンニバルが部屋を出て行った。

 しばらくするとサリーさんがやって来て、ヴァレンティーナ様から状況を確認すると、館のゲートで一気にリュボックに向かった。

 僕ひとりなら無理をすれば『楽園』経由で目的地に行けそうだが、今は無理だ。それより……

 僕はボードに乗って、限界高度まで上昇すると更に転移を繰り返して上空に登り詰めた。下界を見下ろすと目的地が遠くに見えた。

 転移を繰り返して、目的地の手前まで一気に飛んだ。我ながら凄いな。転移距離が伸びている。魔力消費もだいぶ減っている。恐らくスキルが伸びているのだろう。

 目的地の手前に降りると、僕はゲートを開けた。そしてヘモジを呼び戻した。それがゲートを開けたという合図だ。

 ロメオ君とサリーさんがポータル経由でゲートを潜り抜けてきた。チョビとイチゴは再召喚だ。

「驚いたな。まだ十分も経っていないのに。前より凄くなってない?」

「なってる。ここまで来て瓶二つだよ」

 万能薬の空瓶を地面に投げ捨てた。

「それで、あれが?」

「呆れたものね。エルフ一人に冗談抜きで軍隊を投入するなんて」

「本気でやり合ったら、あれでも全然足りませんけどね」

 かつて魔法学院の生徒たちの野営地になっていた森の広場に一軍が陣取っていた。

「さて、宣戦布告してくるか」

 僕たちは正面切って乗り込んだ。


「止まれ! ここはマネッティ家の陣である!」

「責任者に合わせろ。我らはスプレコーンの使者である」

 使者と聞いては、さすがに追い返すわけには行かなかったのだろう。僕たちは一際大きな天幕に通された。

「これは、これは守備隊長と言うからどのような方かと思っていたら」

 サリーさんの身体を舐め回すように見つめた。

 相手に聞こえないことをいいことにチョビがやれ「豚野郎!」だとか「害獣は殲滅あるのみ!」とか叫んでいた。ロメオ君とイチゴは黙って状況を見つめていた。

 召喚獣も飼い主に似るのかな? でも、チョビは僕と似てないよな。ヘモジも。

「あなた方が追っているエルフはこの者の家人です。一緒にいる者たちは我がスプレコーンの民です。今すぐおかしなことは止めて頂きたい」

「はて、なんのことやら」

 いかにも女好きそうな男が、打って変わって厄介者を見る目で、サリーさんを睨み付けた。

「我らはこの地で演習をしているだけですよ。まさか、エルフを追い回すなどと。恐らく魔物と間違えたのでしょう。演習部隊には注意させておきましょう」

「警告はしましたよ」

 サリーさんに続いて、僕たちは身を翻した。

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